シンガポールの介護施設/老人ホームってどんなもの?IT導入に積極的

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日本は世界的に見ても「少子高齢化」の課題先進国ですが、高齢化問題は世界中で急速に進んでいるため、世界規模で介護サービスへの需要が高まってきています。

シンガポール政府も急速に進む高齢化社会への包括的な対応策として、20231月末に「2023年度・高齢化を成功裏に迎えるためのアクションプラン」を発表し、高齢者を対象にしたコミュニティー施設「アクティブ・エイジング・センター(AIC)」を2025年までに220カ所設立するなど、高齢化社会に対応する様々な目標を掲げています。

高齢化先進国の日本国内ですでに展開されている介護サービスや商品が、海外の市場に進出できる可能性は十分にあります。

実際に弊社でも介護関係の日系企業のシンガポール進出をご支援させていただいており、シンガポールの介護施設数社との商談を設定させていただいています。

なかには実際に取引が開始し、現在現地の高齢者・食文化に合わせた介護食の商品開発や、輸送の実証実験などを進められている日本企業もあります。

介護業界従事者の方は、諸外国の現地の事情をきちんと把握したうえで、現地の介護施設や高齢者向け病院向けに海外進出を検討してみてはいかがでしょうか?

このブログでは、シンガポールの介護施設の現状と日系企業が進出できる可能性について詳しくお伝えします。ぜひ参考にしてみてください。

シンガポールの介護施設数は増加中

シンガポール政府は2015年以降、高齢者の医療ニーズに応えるために、3,600床のデイケア施設、2,600床の在宅介護施設、3,700床の介護施設を新たに設置しています。2023年までに、さらに多くの高齢者介護施設の建設と、高齢者介護サービスを開始する予定です。

これほどまでに力を入れて、介護サービスや拠点を拡充しているのは、シンガポールでは総人口を占める高齢者の割合が急速に増加しているからです。

シンガポールでは、65歳以上の比率は2021年に17.6%を記録しました。2011年の10.4%から上昇し、2030年には23.8%に増加すると予想されています。

高齢化先進国の日本は、2005年に早くも20%を超え、2021年に29.1%を記録しました。シンガポールの10年後の状況をまさに先取りしているのが日本だとも言えます。

このことから、いま現在日本国内で展開されている介護サービスや商品に対して、今後シンガポール市場で需要が生まれる可能性があります。

介護業界関係者の方は、この記事でご紹介するシンガポールの実情を参考に、海外市場への展開を検討してみてはいかがでしょうか?

生産労働人口が減り、65歳以上の高齢者の割合が増えることを示す図。2030年の高齢者人口比は2011年の2倍以上になると予想されている。

【出典】Ministry of Manpower and Ministry of Home Affairs, Population in Brief 2021 (p.6), September 2021

シンガポールの介護施設ってどんなもの?

シンガポールでは在宅介護が主流

シンガポールの介護施設には、基本的に以下の条件に当てはまれば申込ができますが、介護施設に入る高齢者は少数派で、老後は自身の子どもと暮らすことが多いという特徴があります。

  • 病気のため、身体的または精神的な障害がある。
  • 半身不随、車椅子使用、寝たきりなどの事情により、トイレや歩行などの日常生活に介護が必要な方。
  • 家族や家政婦による在宅での介護が困難であり、デイケア、在宅医療、訪問看護など、他の介護方法も試したことがある方。

【参考】AIC.sg, Nursing Home | Agency for Integrated Care

シンガポールで在宅介護が多い理由は、老いた親の面倒は国でなく、最終的に子どもが見る」という儒教に基づいた親孝行を徳目とする考え方があるからだと言われています。

実際に1995年には、60歳以上の自活できない両親の扶養をその子どもに義務づける「両親扶養法」が制定されています。

このため、日本とは大きく違って介護施設を利用するひとは少数派で、在宅介護が主流になっています

高齢者向けのサービスは条件や内容によって様々

シンガポールの介護施設は主に「ナーシングホーム」と言われ、長期滞在型の居住施設のことを指します。

日常生活のほとんどの場面で助けを必要とし、日常的な(医療的処置を含む)介護を必要とする入居者を支援する施設のことで、日本では「特別養護老人ホーム」と呼ばれています。

特別なケアやサポートを必要とする入居者のために、認知症や精神科の施設を備えた特別なナーシングホームも存在します。

次の章で具体的な施設をご紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。

シンガポールの介護施設はこんなかんじ

ナーシングホームに入所する資格がない方でも、以下のような選択肢を検討することができます。

シニアグループホーム(SGH)

公団住宅(HDB)の賃貸住宅に入居できる低所得の高齢者で、家族のサポートがほとんどない方が対象になります。

シニア・アクティビティ・センター(SAC)や、SACクラスター・サポートなどのコミュニティを基盤とするサービスに支えられており、高齢者が共同入居者とともに自立した生活を送ることができる支援施設です。

シェルタードホーム

家族のサポートをほとんど受けられない低所得の高齢者が対象の施設です。長期滞在が必要な場合は、社会・家族開発省(MSF)の認可を受けたシェルタードホームに滞在することができます。

高齢者が社会的に孤立しないよう、日常生活の中で有意義な活動に取り組めるプログラムが実施されています。

 

このほかに、以下のようなサービスも用意されています。

  • Befriending Servicesお年寄りの手助けをしたり、悩みを聞いたりすることで、精神的、心理的なケアをするボランティアサービス。
  • Counseling Services:カウンセリングサービス。
  • Senior Activity Centres:シンガポール国内にある公団住宅(HDB)の1階にあるオープンスペースで開催されているコミュニティ。カラオケ、アート&クラフト、エクササイズセッションなどのアクティビティが実施され、高齢者同士が交流し、社会的なサポートを得ることができる共同スペース。

シンガポールの介護施設はこんなかんじ

以下ではより具体的にシンガポールにある介護施設をご紹介します。参考にしてみてください。

シンガポールのプライベート・ナーシング・ホーム

【出典】Allium Care Suites Website

Allium Care Suites(Allium Healthcare)

ラグジュアリータイプのナーシングホーム。

【出典】Charis Manor Nursing Home Website

Charis Manor Nursing Home

中〜高級、ブティック型の新世代ナーシングホーム。

セラピーガーデンがあり、認知症の方への配慮しています。
入居者の食事は日替わりメニューから選べ、シンガポールのローカルフードが数多く提供されます。(チキンライス、魚の玉ねぎとカレーリーフ炒め、バクバクテーなど)
栄養士から居住者へのアドバイスもあります。

【出典】NTUC Health Website

NTUC Health

NTUCはシンガポール内で最も大きな労働組合です。
NTUC Healthのナーシングホームは、認知症やその他の24時間体制でケアが必要な状態の居住者を中心に対応しています。

  • 費用:月額 SGD$700〜4,000(約6万〜36万)*補助金により変動
  • 住所:4箇所ある
    • 35 Chai Chee Street, Singapore 468984
    • 25 Geylang East Central, Singapore 389708
    • 50 Jurong West Street 93, Singapore 648967
    • 6B Jurong West Street 52, Singapore 649298
  • Website:https://ntuchealth.sg/

シンガポールのボランタリー・ウェルフェア・ホーム

【出典】Apex Harmony Lodge Website

Apex Harmony Lodge

認知症の方に特化した施設です。

  • 入院の基準
    • 認知症の診断を受けている方
    • 肺の感染症にかかっていない方
    • 歩行可能な方、または車いすで移動可能な方
  • 費用:月額SGD$3,1501〜3,400(約28〜30万円)
  • 住所:10 Pasir Ris Walk, Singapore 518240
  • Website:http://www.apexharmony.org.sg

【出典】Assisi Hospice Website

Assisi Hospice

緩和ケアに特化したカトリックの慈善団体です。

入院、在宅、デイケアの各サービスを通じて、完治の可能性の低い病気を持つ大人と子供に、思いやりのある、個別に対応した、質の高い緩和ケアを提供しています。

シンガポールの介護施設はIT化がすごい

シンガポールの介護業界は、日本よりもITを積極的に活用している印象を受けます。

介護のITソリューション導入はますます増えていくと予想されるので、以下では現在取り組みが始まっているサービスについてご紹介します。

食事の配給を自動化

The Salvation Army’s Peacehaven Nursing Homeでは以前、380名の入居者に対して食事を配給するのに、80分も時間を費やしていたそうです。

そこで、タブレットを使って操作する無人配送車「Automated Guided Vehicles(AGV)」​をトライアルで1年間導入。

結果的に給与換算のみで、月間約SGD$12,000(約108万円)を節約できたと、シンガポール国内の最大手メディアのTHE STRAITS TIMESが報じました。

勤務するスタッフは、AGVを導入したおかげで入居者との時間が増え、よりパーソナルなケアを提供できるようになったと話しているそうです。

AGVは2台で合計22万ドル(約1,980万円)と高額ですが、シンガポールの統合医療局(AIC)が運営するHealthcare Productivity FundとCommunity Silver Trustから多額の資金援助を受けています。

介護施設スタッフの業務軽減につながるテクノロジーを提供している日本の会社にとって、本事例が海外市場展開を検討する参考になれば嬉しいです。

【出典】THE STRAITS TIMES, Peacehaven Nursing Home automates distribution of meals, saves time and money, 2019年4月17日

スタッフのケアサービス改善のシステム

シンガポールでデジタルヘルスケアを提供するWhiteCoatは、オンデマンド在宅介護サービスプラットフォームであるHomageと提携し、在宅介護を補完する遠隔医療プログラムの試験運用を開始しました。

このプログラムは、高齢者によく見られる慢性疾患や高血圧、糖尿病などの症状の管理を改善するもので、自宅にいながら医師の診察を受けることができるサービスが提供されます。

営業時間は毎日午前8時から午後12時までと長く、夜遅くや祝日でも対応可能なので、患者は自宅にいながら医師や医療従事者などのプロフェッショナルに医療相談ができます。

WhiteCoatはモバイルアプリを通じて、Homageの顧客に対する遠隔診察、病院の紹介状の発行、薬の処方、調剤、配送などの医療サービスを手頃な価格で提供する予定です。また、WhiteCoatはGrabと提携し、遠隔診察後、最短90分以内にお薬をお届けできるようになりました。

シンガポールの高齢化と慢性疾患の増加により、このように誰もが利用しやすい医療に対する需要は今後も増加すると考えられています。遠隔医療等のサービスを展開する日系企業の皆様に、ぜひ参考にしていただけたら嬉しいです。

【出典】Homage, WhiteCoat and Homage Launch Pilot Telehealth Programme to Provide Chronic Disease Management to Elderly Patients, 30 SEPTEMBER 2019

転倒防止管理

2018年5月、シンガポール – シンガポール最大の民間老人ホーム運営会社であるOrange Valley Nursing Homesは、シンガポールの通信会社StarHubや総合工学企業ST Engineeringなどの企業と提携し、スタッフの生産性や臨床ケアサービスの提供を改善するための高齢者ケアテクノロジーとして「転倒防止管理ソリューション」の試用を開始しました。

これは、動きを検知するインターネット技術を利用して、入居者がベッドから降りようとすると、介護スタッフにモバイルアプリで即座にベッド退出通知を送信するものです。

同様のICT技術開発をされている日系企業は、シンガポールでパートナーを見つけて開発することも視野に入れることができるかもしれません。

日本の市場にとどまらず、ぜひ世界展開を見据えてご検討いただけたらと思います。

【出典】THE STRAITS TIMES, Orange Valley working with partners to trial aged-care technology at its nursing homes, 2018年5月2日

シンガポール企業と日本企業の連携【介護業界の動向】

急速に高まる東南アジアでの介護サービス需要を見据えて、日本とシンガポールの企業が業務提携をする事例が、ここ数年で出てきました。

ここでは参考までに以下の2つの事例をご紹介します。

シンガポール企業Homageが、日本企業インフォコムから資金調達

2020年9月、シンガポールとマレーシアでオンデマンド介護サービスを提供するスタートアップ企業Homageが、ヘルスケアテクノロジーとサービスソリューションの提供を行う日本企業インフォコムと業務提携しました。

これにより両社は日本や東南アジア地域での事業拡大に向けて協力していく予定とのことです。

インフォコムは、ヘルスケアテクノロジーやサービスを提供する大手企業で、運営するケアマネジメントと人材派遣のプラットフォームでは13,000以上の施設をカバーし、健康・高齢者介護分野でのネットワークを有しています。

臨床サービスや医薬品情報システム、病院向けの放射線・医療用画像ソリューション、デジタルヘルスケアソリューションなども提供しています。

オンデマンド介護サービスを提供するHomageとの業務提携によって、今後どれほどアジア市場に進出されるのか大変楽しみです。

日本の介護付き老人ホーム5つを、シンガポール大手企業が買収

2020年2月、新聞発行・不動産投資を事業とする国内大手のシンガポール・プレス・ホールディングス(SPH)が、日本国内の高齢者向け資産5件を総額52億6000万円(約6580万SGドル)で買収するというニュースがありました。

高齢化社会が進む市場で、高齢者介護・ヘルスケア資産に投資し、事業基盤を拡大するというグループの戦略に則った買収とのことで、3物件は北海道、1物件は奈良県、5物件は東京都に所在しています。

また、今回の買収は、SPHが2019年10月に、日本の不動産資産運用会社ブリッジ・シー・キャピタルと提携し、日本国内の高齢者住宅、老人ホーム、医療オフィスビルなどの高齢者ケア・ヘルスケア資産への投資に特化したファンドを設立する一環として行われるとのことです。

SPHが海外の高齢者介護施設を購入するのは初めてです。

SPHのアンソニー・タン副最高経営責任者(CEO)は、シンガポールや日本など、高齢化が急速に進む国々では、高齢者介護産業が今後も成長すると考えています。ブリッジ・シー・キャピタルの実績とネットワークを活用し、日本での今後の成長機会を探っていきたいと話しました。

今後の日本国内の介護市場におけるSPHの展開に注目したいと思います。

さいごに(まとめ)

シンガポールで進む急速な高齢化に伴い、介護サービスの需要はさらに高まりを見せると考えられます。

少子高齢化の課題先進国である日本のサービスや商品が、シンガポール市場や他の海外市場でも求められている可能性は大いにあります。

現地の事情を把握しながら、介護施設や高齢者向け病院への販路開拓を考えてみてはいかがでしょうか?

本記事が介護関係者の皆様にとって、参考になっていたらと願っています。