海外進出を決める前にグループインタビューは必ずやってほしい
日本で人気の商品をそのまま海外市場に展開するのは危険です。
日本で通用した商品がそのまま海外市場で受け入れられるとは限りません。
海外進出前に現地市場でのフォーカスグループインタビューを最低限実施することは、必須条件だと私は思います。
海外市場は生活習慣や宗教、購買行動が根本的に違います。思った以上に。
例えばシンガポールで実施した際には、日本では売れ筋だった食品が「シンガポールでは味が濃すぎる」と不評だったり、デザイン家電が「生活習慣に合わない」という意見が挙がった事例があります。
実際に有益な情報が得られるフォーカスグループインタビューを海外で実施するには、現地のバイヤーや小売店からの声を集めるだけでは絶対にダメで、消費者・エンドユーザーからの生々しい声が必須で、手配や実施の仕方にもコツがあります。
そこでこのブログでは、シンガポール市場でグループインタビューを実施した事例を3つご紹介し、グループインタビューを通じて得た結果を具体的にどう施策に活かせるのかを詳しくご紹介します。ぜひ参考にしてください。
海外進出の第一歩は「とにかく現地のリアルな声を聞く」こと
日本から海外に展開したい企業にとって「海外進出の第一歩」として、現地でのフォーカスグループインタビューは特に有効な手法になりえます。
海外市場は生活習慣や宗教、購買行動が根本的に日本とは違うので、フォーカスグループインタビュー(以下、グループインタビュー)を通じて商品を購入するエンドユーザーの背景や嗜好性・生活スタイルなどの「現地のリアルな声」を把握し、得た情報を展開する商品に反映することができるからです。
特にグループインタビューは参加者同士の自然な会話の中から情報を引き出せるので、個別でのインタビューでは決して聞けないような潜在的な価値観や不満などが明らかにしやすい傾向があります。
実際、ここ2年ほど大手メーカーを中心に、シンガポールや東南アジア市場向けの新商品の開発に関する調査案件が弊社では急増中。グループインタビューへの関心やその価値を実感していただく機会が増えました。
日本でうまく行ったターゲット設定や訴求方法をそのまま海外市場で実施しても、現地の生活スタイルやニーズに合わなければもちろん通用しません。
海外進出の第一歩は「とにかく現地のリアルな声を聞く」ことと心得て、最も効率よくリアルな声が聞けるフォーカスグループインタビューの実施をご検討いただきたいです。
海外ではフォーカスグループインタビューが最も有効
グループインタビューは日本国内でも広く使われている調査手法ですが、特に海外市場で実施することには大きな意義があります。
それは海外市場でグループインタビューを実施すると、インターネットの検索では絶対に把握できないような声や実態を把握でき、最終的にターゲットとなるセグメントの解像度が高めやすくなるから。
例えば実際に「シンガポール在住の富裕層向けに販売予定の商品に関する調査」について準備していた時に、以下のようなやりとりがクライアント様とありました。
例:「富裕層」というターゲットの解像度が低いケース
調査は当初「シンガポールの富裕層向けに販売したい商品A(服飾品)には商機があるか?」を調査するという目的が掲げられていました。
ですが、ひと口に「富裕層」と言っても、実はこれだけの幅(以下の図)があるので、どの層の富裕層にとってこの商品Aが魅力的なのか、吟味する必要がある状況でした。
【出典】上質なインバウンド観光サービス創出に向けた観光戦略検討委員会, 令和3年6月上質なインバウンド観光サービス創出に向けた観光戦略検討委員会「上質なインバウンド観光サービス創出に向けて報告書」 を元に弊社で作成
一方で、商品Aの特徴や価格を考慮すると、シンガポールの「Billionaire(ビリオネア)」と言われる超富裕層にとっては明らかに価格が安すぎたり、手に届きやすすぎることが障害になっていることがすでに判明。このままの価格帯では「Billionaire(ビリオネア)」層はターゲットにならない可能性が考えられました。
もちろん、このような現地の情報はインターネットで把握できるようなものではありません。
実際、私自身もシンガポールに15年以上住んでいますが、住んでいるからといってシンガポールの富裕層事情に詳しいというわけではありません。住んでいても富裕層の実態は見えないことが多いのです。
そこで富裕層向けのビジネスをする経営者やプロフェッショナルとの意見交換や繋がりを大切にし、彼らとの情報交換から現地のリアルな声や最新の動向をキャッチアップできるように、常に積極的に意識しています。
日本に住んでいていながら「シンガポールの富裕層」の実態を知っていることはかなり困難。だからこそ現地のことをよく知っている人に聞いたり、グループインタビューを実施して直接生の声を仕入れることに価値があるのです。
今回の商品Aについては、そもそもの「富裕層向けの商品」というターゲティングの決め手となった理由がかなりざっくりとしていて、解像度が低い状況でした。例えば
●財閥にインタビューしたい
財閥にどうしても聞かなければいけない理由までなく、単純に「富裕層=財閥」というイメージからあがったひと言でした。
シンガポールの財閥はビリオネアクラスがほとんどなので、商品Aのターゲットには調査をせずとも明らかに違うということが予想できたので、財閥へのインタビューは可能ではあるものの投資する費用対効果が低い調査になってしまう恐れがありました。
●ビジネスクラスに常時乗っている人に調査したい
ビジネスクラスは所得よりも職種や会社の役職、勤務先が外資企業か現地起業家かといったように違いが様々あります。
また多くの方はフライト中に各々、時間の使い方を決めているケースがほとんどなので、調査をしようとアンケートをとっても適当な回答が集まる可能性もあります。
ビジネスクラスに乗っている」というざっくりとしたセグメントではなく、いっそ所得よりも職種や会社の役職などでセグメントする方がより調査の質が上がるはずです。
●「年収が2000万以上の人」に調査したい
世帯年収か個人年収かによって大きく異なるので、まだ吟味が必要な段階です。
特にシンガポールでは共働きが当たり前の国なので、個人年収よりも世帯年収で考えた方が良い場合もあります。
このような日本の基準で考えた「ざっくりとした解像度の低い情報」をベースに考えても、精度の高い調査やマーケティングの実施、販売促進施策で成果を出すことは非常に困難です。
商品Aの調査に関しては、クライアント様がよりターゲットを明確にできるように「富裕層」に関するリアルな現地の声を知っていただく機会が重要だと考え、人口の大きいHNWとVHNWに対するグループインタビューをご提案し、実施することになりました。
グループインタビューの目的も、当初の調査目的だった「シンガポールの富裕層向けに販売したい商品Aには商機があるか?」ではなく、そもそもまず「商品Aを購入したいと思う富裕層のセグメントがどこにあるのか?」を調査する目的に変更しました。

海外市場でグループインタビューを検討する場合は、日本国内で考えた前提をそのまま持ち込むのは絶対にやめ、現地の市場や動向を熟知した専門家に相談してからグループインタビューを実施されることをお勧めします。
また、いかにしてターゲットの解像度が高められるような情報を得られるかがポイントなので、現地市場のリアルな声や実情を把握できるように、調査の目的から設問、調査対象の選出などを事前によく検討して臨みましょう。
海外フォーカスグループインタビュー|事例紹介
ここからはシンガポールで実施されたグループインタビューを通じて、検索などではわかりえなかった情報を発掘し、海外展開に活かした事例をご紹介させていただきます。
海外市場でのグループインタビューを実施して得られた結果やそれらの情報をどう施策に活かしたのか、なるべく具体的にご紹介していきます。取り組まれる際の参考にしていただけたら嬉しいです。
事例1:日本で人気の味付けが現地人の口に合わない
実施内容
某大手食品メーカーが手がける日本で人気の「柚子味スナック」に対するグループインタビューの事例です。
対象者は4名 × 3グループの合計12名に対して実施しました。それぞれのグループは
- 健康を気にしているか否か
- 共働き子育て世代
- 日本に親しみがあるか
といった属性に応じて、4名ずつのグループに分け、参加者には3種類のミールキットを試食していただき、全22問の質問に基づいたディスカッションを行っていただきました。
事前に参加属性をヒアリングし、属性ごとにグループ化して調査を実施したので、グループインタビューの前から手配や準備を実施していました。
手配・準備内容
- インタビューワーのリクルーティング
- グループインタビューの会場手配
- 試食サンプリングの実施とアンケート実施
- アンケート結果の分析
- 属性別のグループ化
- 対象者への連絡と取りまとめ
- インタビューの企画・設問設計
- インタビュー当日のファシリテーション
- 結果の分析・レポート
グループインタビューの結果
柚子胡椒など、日本では甘くても塩っ気があっても一定の人気がある「柚子味」。ですがシンガポール市場では、柚子は「甘いお菓子」に使われる場合は人気がある一方で、「塩っ気のあるスナック」としてはほとんど人気がないことがわかりました。
この調査結果を踏まえて、当初考えていた「塩気がある柚子味」のフレーバー自体をリニューアルすることが決定。デザインやパッケージもリデザインすることになりました。

事例2:想定したターゲットにまったくニーズがなかった
実施内容
某家電メーカーが開発した「共働き家庭向けの時短調理家電」に対するグループインタビューの事例です。
対象者は6名×3グループの合計18名で、プロトタイプされている製品を実際に見ながら、ディスカッションをしていたいただきました。
商品を購入する対象者のセグメントを明らかにしたかったので、商品を実際に手に取ってもらいながらライフステージが異なる複数の層の反応が見れるように対象者を選定。20代〜40代のシンガポール在住者で、共働き子育て世代、独身者、高齢者の3グループに分けて実施しました。
手配・準備内容
- インタビューワーのリクルーティング
- グループインタビューの会場手配
- インタビューの企画・設問設計
- インタビューのファシリテーション
- 結果の分析・レポート
グループインタビューの結果
多くの人が 「家事はメイドに任せている」「屋台でテイクアウトした料理を家で加熱して食べる」と話し、 そもそも自分で料理する機会が少ないので「共働き家庭向けの時短調理家電」自体にニーズがありませんでした。
このこと自体は「シンガポール人は家で自炊をせずに、モールやホーカーセンターで買った惣菜を家で食べることが多い」という食文化があるので想定済みでしたが、「外で買ってきた惣菜(揚げ物)を美味しくする機能」にはニーズがあることがグループインタビューを通じて明らかになりました。
また、電子レンジに対してネガティブな印象を持つ人が多く、その代わりにエアフライヤーが人気という意見も聞こえました。
グループインタビューの結果を踏まえ、この商品を「時短調理ができる家電」として訴求してもそもそも自宅で調理をする人が少ないためニーズに刺さらないので、控えることが決定。
またプロトタイピング中の商品だったため「揚げ物をからっと蘇らせる機能」を強化したモデルに改良し、ターゲットも「共働き家庭向け」に限定せず、高単価でも購入できる「高所得の独身プロフェッショナル」も視野に入れて再改良することとなりました。

事例3:訴求しようと検討していたポイントがズレていた
実施内容
某コスメブランドの美白効果の高いスキンケア商品についてのグループインタビューの事例です。
5名×2グループの合計10名の既存優良顧客をご招待し、商品の使用感がわかる利用者視点で、商品そのものと商品広告に関するフィードバックを得るためのグループインタビューを実施しました。
手配・準備内容
- クライアント様による既存優良顧客に連絡・取りまとめ
- インタビューアーのリクルーティング
- グループインタビューの会場手配
- 試食サンプリングの運営
- インタビューの企画・設問設計
- インタビューのファシリテーション
- 結果の分析・レポート
グループインタビューの結果
すでにシンガポールで流通している商品の調査だったので、既存顧客に対して「なぜこの商品を愛用しているのか」や購買動機などを、商品そのものと商品広告以外の情報も引き出すことができました。
調査の結果、商品については「日本で重視されるような美白よりもツヤ感がある方がいい」「湿気に負けないサラサラ感が重要」という意見が多く寄せられました。
結果を踏まえて商品広告のコピーを「Bright(白く)」から「Glow(輝く)」へ変更。商品はより市場のニーズに合うと予想される、ツヤ感が出るのにベタつかない「しっとりタイプ」を採用することになりました。

さいごに(現地市場に詳しい人に相談しよう)
海外グループインタビューは日本企業の海外進出にとって非常に重要な調査のひとつだということが、本記事を通じてご理解いただけたら嬉しいです。
また、海外でのグループインタビューを自前で手配しようとすればできることは確かに可能です。ですが、現地の市場の動向や特徴を知っている専門家の力を借りた方が、自前でやるよりも格段に効率の良い的を得た調査ができる可能性が上がるので、可能であれば進出検討中の市場のことをよく知る方にご相談してみてください。
弊社ではシンガポールだけでなく、東南アジア地域でのグループインタビューの実施をご支援している実績があります。具体的にご相談やお悩みがある場合は以下のお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。
この記事が海外でグループインタビューを実施しようとされている日本企業の皆様にとって、参考になれば嬉しいです。
