【海外広告】私がシンガポールに来て気付いたデザインの決定的な違い
日本で評判の良いデザインなのに、なぜか海外では反応が薄い。
そんな違和感を抱いたことはないでしょうか。
実際に私のもとにも、日本で制作したクリエイティブをシンガポールでも使っているのだが、いまいち手応えがないというご相談が少なくありません。
私は日本の大手広告代理店で約4年半、クリエイティブ本部で消費財・食品・化粧品など多様な業界の広告・プロモーションを手がけてきました。
その後シンガポールに拠点を移し、現在はVivid Creationsにてクリエイティブディレクターとして、日本企業の海外向け広告制作やパッケージデザイン開発、自治体の海外プロモーション案件などに携わっています。
日本でも、そして海外でも実務をしてきたからこそ強く感じるのは、「良いデザイン」の定義そのものが、国をまたぐと変わるという事実です。
それはセンスの問題ではありません。社会構造、文化、購買行動、広告との距離感などの前提となる環境が、日本と海外では大きく異なるのです。
本ブログでは、私自身がシンガポールで仕事をする中で実感した「日本と海外における広告デザインの3つの違い」を、具体例とともに整理してみたいと思います。
日本よりもリアルな表現が伝わりやすい
シンガポールでは日本でよく見るイラストやグラフィック表現の広告よりも、写真を用いたよりリアルな表現が刺さりやすいと感じています。その理由はシンガポールが多民族国家だからではないかと私は考えています。
シンガポールは中華系、マレー系、インド系、欧米系など、バックグラウンドがまったく異なる人たちが同じ社会に暮らしています。
そのため日本のように「この表現を見たら、だいたい同じ意味で受け取る」という共通の感覚や文脈が存在しにくいので、誰から見ても認識できるような情報伝達が必要不可欠になります。
例えば日本では自然に伝わる「かわいいキャラクター」「デフォルメ表現」「情緒的なビジュアル」などは、受け取り手の多くが共通して持つ文化があるから成立している表現でもあります。
【出典】左上:ISHIHARA ERI、左下:CREATOR’S VALUE, 希美 Nozomi、右:Japaneses Poster: Marunouchi Cherry Blossom Festival. Yoshihiro Yagi / Ai Ishimatsu / Eri Ohno. 2012
このような写真以外の表現だと、シンガポールでは「誰の話?」「どういう状況?」と疑問を生んでしまうなど、受け取り方が曖昧になりやすく、広告の意図そのものがズレて伝わるリスクがあります。
その点、写真やリアルな表現は「何の商品か」「どんな人が使っているか」「どんなシーンか」などを一瞬で共有することができます。
そのためシンガポールではプロモデルでなくても、生活者のリアルな写真、ストックフォト、自然光の写真が広告で多く使われています。
端的にいうとシンガポールでは「(日本的な美的感覚で)おしゃれな表現かどうか」よりも、誤解なく伝わるかどうかが優先されていると感じます。
その結果として、リアルな写真表現が選ばれているのだと思います。

街中で埋もれない色調になっている
広告の表現方法のほかにも、広告に使う「色使いの強さ」も日本と異なる点があります。
日本は住んでいるとわからないかもしれませんが、実はシンガポールと比べて非常に広告が多い社会で、生活の中に情報が溢れています。
例えば電車の吊り革広告。シーズンごとに変わったり、電子モニターでも広告が流れていたりと、日本の電車に乗るだけで情報が所狭しと埋め込まれているような印象を受けます。
ですが、だからと言って日本にいて「広告ばかり」と感じないのは、広告自体に「強く主張しすぎる表現」が施されないようにする傾向があるからだと考えられます。
日本では「場に調和しないような強い表現」が感じられる広告は、広告が設置される場所によってはむしろ敬遠される可能性もあるので、控えめで押し付け感がない自然なトーンが好まれる傾向が見られます。
実際に私自身、日本の広告代理店に勤めていた頃は「強く主張しすぎる表現」を意図的にあえて取り入れることはあっても、ほとんどのケースで調和のある自然な雰囲気があることを意識していました。
その結果、色使いはトーンを抑え、周囲の景色や生活の流れを邪魔しない方向へと洗練されてきたのだと思います。
【出典】Pinterest
一方で、シンガポールの広告では、色のコントラストが強く、遠くからでも一瞬で内容が把握できるようなデザインが多く見られます。
これは単に派手さを求めているというよりも、効率を重視する生活者の気質や、広告が置かれている環境が大きく影響していると感じています。
例えばシンガポールでは、日常の中で人々が広告にじっくり目を留める時間はあまりありません。スマートフォンを中心としたデジタル接触が主流で、SNSやデジタル広告は高速で流れていきます。
また街中に設置されているOOHも、移動中に一瞬目に入ることが前提となっており、立ち止まって読ませる想定ではありません。そのため、広告には相手に「考えさせないこと」や「瞬時に分かること」が強く求められています。
【出典】mothership, S’pore turns 59, Grab offers free delivery, 1-for-1 & up to 40% discount offers, 202408
【出典】Singtel Linkedin
その結果、装飾のためではなく、瞬間的に広告が伝えたいことを認識させるために、色のコントラストをはっきりさせたブランドカラーを前面に出す「強めな色調のデザイン」が多いのだと感じています。
シンガポールの街自体が非常に煌びやかで、ネオンや大型LED、カラフルな建物や広告が常に視界に入る環境でもあるので、日本で主流になっている自然な色調の控えめな表現では、簡単に背景に溶け込んでしまうリスクもあります。
【出典】上:TRAVELZOO,Singapore: The City of the Future That You Can Visit Right Now, Mar 13, 2017/下:TRIPPING!, 夜も思いっきり満喫!シンガポールナイトライフの楽しみ方, 2018.12.10
日本的な「場に馴染む自然な色調のデザイン」は、シンガポールでは必ずしも機能しない場面が多いのです。
私自身、日本では少し強すぎると感じる配色や文字サイズが、シンガポールではむしろ自然で、情報として非常に分かりやすいと感じる場面が何度もありました。
目立つための演出ではなく、限られた時間の中で確実に伝えるための手段として、シンガポールで打ち出す広告の色調を工夫する必要があります。

コピーライティングは分かりやすく端的に
シンガポールの広告を見ていて強く感じる日本との相違は、コピーや訴求内容が明確さにもあります。
価格表記がはっきりしていることに加えて「何を伝えたいのか?」と、「見た人に何をしてほしいのか?」が非常に明確な広告がシンガポールには非常に多いのです。
多くの広告では、読む人に考え込む余地をあまり与えません。どんな商品なのか、どんなメリットがあるのか、今すぐ何をすればいいのかが、瞬間に理解できるように設計されています。
いわゆるCall to Actionがはっきりしており、行動を促す言葉が自然に組み込まれています。
コピー表現においても、抽象的な言い回しはあまり好まれない印象があります。雰囲気や情緒で想像させるよりも、読んだ瞬間に「これは何の広告か」「自分に関係があるのか」が分かることが重視されます。
特にデジタル広告やSNSでは、内容が少しでも分かりにくいとそのままスキップされてしまうことも少なくありません。
日本の広告でよく見られる感情に訴えかけるコピーや余韻を残す表現は、とても美しく、ブランドの世界観を丁寧に伝える力があります。
ただ同じ表現をシンガポールでそのまま使った場合、何の広告なのか、何を伝えたいのかが分かりづらいと判断され、反応がほとんど得られないこともあります。
私自身、制作物を見返していて「日本では評価されそうだが、こちらでは弱いかもしれない」と感じた経験が何度もありました。
その違いは、コピーの良し悪しというよりも、広告に求められる役割の違いなのだと思います。
シンガポールでは、広告は感情を揺さぶるものというより、短時間で判断材料を提供し、行動につなげるためのツールとして捉えられているような内容が多い傾向が見受けられます。だからこそ、価格や条件、期間、次に取るべき行動を隠さず、ストレートに伝える表現が選ばれます。
一方で日本では時に、ストレートなコピーを書くと時に「コピーライターがサボっているんじゃないの?」と言われることがあります。
海外、特にシンガポールのように「一瞬で理解できること」が求められている市場においてわかりやすいコピーは、クリエイティブの手を抜いているのではなく、市場の特徴に合わせた工夫なのだと、現地での実務を通して学びました。

さいごに
日本とシンガポールの広告を見比べると、リアル表現、色使い、コピー設計など、さまざまな点で違いが見えてきます。
日本の広告は情緒や空気感を大切にし、受け手の想像や共感を引き出す設計が多いのに対し、シンガポールの広告は短時間で情報を理解させ、行動につなげることを重視した表現が多く見られます。
ただし、今回取り上げた事例はあくまで一例です。シンガポールにも情緒的なコピーや淡い色使い、グラフィック表現を用いた広告はもちろん存在します。
それでも現地で仕事をする中で感じるのは、広告に求められる役割や情報の伝え方が、日本とは少し異なるということです。
海外市場に向けたクリエイティブを考える際には、日本で評価されている表現をそのまま持ち込むのではなく、その国の生活者がどのように情報を受け取り、判断しているのかを理解することが重要だと感じています。
この記事が日本のクリエイティブを海外で展開する際の参考になれば嬉しく思います。








