海外富裕層の訪日観光誘客なら「トラベルデザイナー」の攻略が最優先
海外の富裕層を呼び込みたいなら、最初に攻略すべき相手は「富裕層」本人だけではありません。
重要なのは、その裏で旅行を設計しているトラベルデザイナー(ラグジュアリー旅行会社)の存在です。
富裕層の旅行は、OTAでも団体ツアーでもなく、専属の旅行プランナーが設計しています。ホテルや旅館が直接富裕層に営業することは容易ではありませんが、トラベルデザイナーを通すことで富裕層顧客へ提案することができます。
近年、中国・香港市場の政治的な不安定さが続く中、東南アジア市場への注目は急速に高まっています。特にシンガポールからの訪日旅行者数は2025年度に72万6,200名と過去最大を記録し、一人当たりの平均旅行支出はアジア諸国で第1位となる31万7,977円となりました。
また世界有数の富裕層国家なので、シンガポールの富裕層はすでに日本を何度も訪れているリピーター層が多く、彼らは地方の高級宿泊施設や静かな滞在体験を求めているという特徴があります。
本記事では、ラグジュアリー施設がシンガポールの富裕層を旅行会社経由で誘客する具体的な方法を解説します。
弊社はこれまで10年以上、訪日インバウンドプロモーションや旅行会社への営業活動を実施し、ここ数年は高付加価値旅行のプロモーション案件が多く、1泊100万円以上のラグジュアリー施設の営業にも携わってきました。
その実務経験をもとに、いますぐ実務に活かせる内容をなるべく具体的にご紹介したので、ぜひ参考にしてください。
トラベルデザイナーとは何者か?
「トラベルデザイナー」とは、富裕層専門の旅行コンシェルジュのことです。シンガポールの富裕層の間ではかなり普及している職業で、年収数千万〜億単位の顧客を担当し、1回の旅行で100万円以上の旅程を設計します。
顧客となる富裕層の旅行者は「旅のプロ」であるトラベルデザイナーを信頼しています。つまり滞在するホテルを選ぶのは富裕層本人ではなく、実際にはトラベルデザイナーが最初に選び、提案していることが多々あるのです。
例えば、1週間の日本旅行で100万円以上を使う顧客がいた場合、宿泊施設や移動方法は本人ではなくトラベルデザイナーが提案します。
それなのに日本の高付加価値旅行の売り込みをする資料は、はっきり言ってトラベルデザイナーを十二分に口説ける資料として用意されていることはほとんどありません。また、トラベルデザイナーに対するコミュニケーションも一方的で短期的なケースが多く見受けられます。
せっかく素晴らしい施設や魅力がある地域だとしても、このように営業資料と営業活動が準備不足で機会損失していることも少なくありません。これは本当にもったいないと感じています。
本記事では弊社の知見を活かし、日本のラグジュアリー施設がシンガポールの富裕層をトラベルデザイナー(旅行会社)を通じて誘客するために必要な「営業資料の作り方」と「現地旅行会社への営業方法」を徹底的に解説します。
実際に海外市場で高付加価値旅行を売り込む際に、本当に現場で機能することをご紹介するので、地方の高級リゾート・ホテル・旅館の営業ご担当者様はぜひお役立てください。
【1】売れる営業資料を作る
海外の富裕層を日本に呼び込みたいと考えたとき「海外旅行会社への営業」を進めることがほとんどですが、ここでよく見落とされるのが営業資料の作り方です。
- 客室写真を中心にした資料
- 施設スペックの説明
- 簡単なアクセス情報
このような情報が並んだ資料をよく目にします。これらは施設紹介としては問題ありませんが、実はトラベルデザイナーにとってはこれらの情報だけでは富裕層顧客への提案材料としてまったく持って不十分。
なぜなら、トラベルデザイナーの仕事は「施設を紹介すること」ではなく、顧客の旅を設計することなので、単なる施設情報以上の理解を必要としているからです。
トラベルデザイナーが必要としているのは、
- その場所でどんな体験ができるのか
- どんな顧客に向いているのか
- どんな旅のストーリーが作れるのか
という情報です。ただ施設の設備情報だけが書かれている資料では、顧客が満足する保証がないので「顧客にどんな旅を提案できるのか」が見えてくるような情報を求めています。
また、トラベルデザイナーは日頃からヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など世界中のデスティネーションを比較しながら顧客に提案しているので、日本の観光地や宿泊施設は、その中の数ある候補の一つに過ぎません。
情報不足の資料だと、結果としてトラベルデザイナーは提案しやすい他の地域を選ぶ可能性が高くなるので、資料が渡せても検討の土台にも上がらない状況になってしまいます。これは地域や施設の魅力があるかないかの問題ではなく、提案する資料に載せている情報の問題です。
こうした残念な機会損失は絶対に防げるように、以下ではより詳しくトラベルデザイナーに売り込める資料の作り方をご紹介するので、ぜひ参考にして作ってみてください。
シンガポールのラグジュアリー旅行会社と話していると、営業資料を見るときに重視されているポイントは大きく3つあります。

1. 顧客に提案できるテーマがあるか
シンガポールの富裕層市場では、特に人気が高い旅行テーマがあり、代表的なテーマは「ウェルネス」「ガストロノミー(食体験)」「文化体験」などです。
都市生活の忙しさから離れて心身を整える旅や、その土地ならではの食文化を体験する旅は、シンガポールの富裕層に強く支持されています。日本の地方には、
- 自然に囲まれた温泉地
- 季節の食材を使った料理
- 地域文化と結びついた体験
など、これらのテーマと相性の良いコンテンツが数多くあるはずなので、営業資料ではこうしたテーマを明確に提示するようにしましょう。さらに、
- ミシュラン掲載
- 国際メディア掲載
- 有名シェフ監修
といった実績があれば、トラベルデザイナーが富裕層顧客に施設の信頼性を伝えやすくなるので、必ず書くようにしましょう。
例えば大分県の「ENOWA Yufuin」は2023年に開業し、2024年に日本版ミシュランキーを受賞しているホテルです。
由布院の自然とウェルネス、地元食材とガストロノミー、空間デザインとプライベートという観点で、地域とのストーリー設計が一貫しており、シンガポールの旅行者からも選ばれるホテルとして認知が広がっています。
【出典元】じゃらん ENOWA YUFUIN
2. その場所ならではのストーリーがあるか
シンガポールでの富裕層向けの旅行商材の販売・営業活動では、単なる観光地や宿泊施設ではなく、その土地ならではの物語の有無が重要視されています。例えば
- 創業の背景
- 地域コミュニティとの関係
- ブランドコンセプト
- 文化や伝統とのつながり
こうした要素があることで、他の観光地との違いが際立ち、差別化がしやすくなります。
高付加価値旅行をする方々が求めているものは、すでに多くの人に知られている「有名な場所」ではなく、その土地でしか体験できない時間と空間です。トラベルデザイナーがその背景を理解できるほど、顧客に提案するときの説得力も高まります。
3. 顧客に提案できる旅の形が見えるか
トラベルデザイナーは必ずしも日本の地方に詳しいわけではありません。そのため、営業資料にモデルコースがあると提案のハードルが大きく下がります。例えば
- 2泊3日の滞在モデル
- 周辺観光との組み合わせ
- 季節ごとの体験
などを提示することで、顧客に旅のイメージを説明しやすくなります。
ただし、モデルコースは季節によっても違うはずですし、子連れ家族で行くのか・年配の夫婦で行くのかといったペルソナによっても変わるはずです。想定できるペルソナやシーズン別の提案があると、営業資料としての実用性は大きく高まるので、事前に検討して具体的に提示できるようにしましょう。
例えば伊勢志摩は、日本の精神性・自然・食文化が融合したエリアであり、ラグジュアリー旅行との相性が非常に高い地域です。このような地域では、体験を個別に紹介するのではなく、テーマを持った滞在モデルとしてまとめることで、トラベルデザイナーが提案しやすくなります。
ラグジュアリートラベラー向けの滞在モデルの一例を以下にまとめたので、参考にしてみてください。
① 伊勢神宮 × プライベート参拝体験
伊勢神宮の歴史や神道の思想について、専門ガイドの解説を受けながら参拝する体験を組み込みます。
一般的な観光ではなく、背景にある精神文化まで理解できるように設計することで、日本人の価値観や精神性に触れる旅というストーリーを作ることができます。
富裕層旅行では、このように文化的背景まで含めて説明できる体験が強く評価されます。
② 海女文化 × 真珠のプレミアム体験
伊勢志摩ならではの海女文化や真珠養殖をテーマにした体験を組み込みます。例えば
- 現役の海女による素潜り漁の見学や交流
- 真珠養殖の現場訪問
- 真珠が育まれる海の環境や歴史の解説
などを組み合わせることで、単なる観光ではなく、海と共に生きてきた地域の文化を体験する旅として提案することができます。
ラグジュアリートラベルでは、このように地域の歴史や暮らしと結びついた体験が高く評価されます。
③ 地域食材 × ガストロノミー体験
伊勢海老、鮑、松阪牛などの地元食材を活かした食体験も、滞在の大きな価値になります。単に高級な食事を提供するだけでなく、
- 料理人による食材や調理のストーリー説明
- 地元の生産者との関係性の紹介
- ペアリングや食文化の解説
などを含めることで、その土地の価値を食で体験する旅として提案することができます。
宿泊施設・地域食材・体験が一貫したテーマでつながると、トラベルデザイナーは顧客に対してストーリーを持って提案できるようになります。

重要:トラベルデザイナー向け営業資料の基本構成
実際に営業資料を作る際は、次のような構成にすると提案しやすくなります。
| 項目 | 内容 |
| アクセス情報 | シンガポールからの移動方法、最寄空港からの所要時間、送迎サービスの有無、ユニークな移動手段など(及びそれらの価格) |
| ストーリー・ブランディング | ブランド背景、地域との関係、文化的価値 |
| 信頼の証拠 | 受賞歴、メディア掲載、著名人宿泊実績 |
| ラグジュアリートラベラー向け魅力やコンテンツの紹介 | 食・宿泊・体験の3つを軸に、プライベート体験の有無や内容を提案(及びそれらの価格一案) |
| 滞在提案 | 2泊以上のモデルコース、周辺体験、オプショナルツアーの有無と内容など(及びそれらの価格) |
| コミッション情報 | 旅行会社の収益構造(特にホテル・旅館の場合) |
トラベルデザイナーは単なる海外の販売代理店ではなく、顧客の旅を設計するパートナーです。そのパートナーが提案しやすい情報を提供することが、海外富裕層を呼び込む第一歩になります。
【2】トラベルデザイナーとネットワーキングする
新規でアプローチする際には、ネットワーキングイベントに参加したり、個別で連絡をすることが一般的です。日本からシンガポールや海外に営業をする際には、ネットで調べたり、業界関係者から紹介していただいて、連絡することから始まるでしょう。
例えば「Virtuoso」という世界中の富裕層向け旅行を扱うラグジュアリー・トラベルネットワーク(会員制組織)が存在します。シンガポールには、2025年時点で5社の旅行会社が「Virtuoso」の会員になっており、ウェブサイトから確認できます。
【出典】virtuoso Webサイト
他には、JNTOも出展している「ILTM Asia」というラグジュアリートラベル業界向けの商談型イベントがあります。毎年6〜7月ごろに開催される世界的な催事です。「ILTM Asia」では以下のような取り組みが行えます。
- ラグジュアリー旅行に特化したBtoBトラベル商談イベント
- 世界中の高級ホテル、DMC、観光局、クルーズ会社などが出展
- 招待制のバイヤー(旅行会社・トラベルデザイナー)と事前マッチングして商談
ラグジュアリー系に特化している点で、会期中に多くのトラベルデザイナーとネットワークができるので、おすすめのイベントの1つです。
トラベルデザイナーとのネットワークは、地道に時間をかけながら人間関係を作っていくことがとても大事です。また各トラベルデザイナーごとに興味や知識レベル、顧客層も異なります。1人1人のトラベルデザイナーをよく理解して、適切なコミュニケーションを継続することが成功の鍵となります。
販売したいコンテンツが「ラグジュアリー層に刺さるのか?」を見極めることも非常となります。トラベルデザイナーとのディスカッションを通じて見極めることができるはずなので、活発な意見交換ができる関係性を構築できるととても心強いパートナーになってくれます。
【3】DMCと連携体制を組む
シンガポールの旅行会社の多くは、日本のDMCに手配を委託しています。DMCと関係を作ることで、
- DMCから旅行会社への提案
- DMCがツアーの中に組み込む
- DMC手配による継続送客
など、さらなる送客につながることがあります。
日本の事業者様や自治体様のお話しを聞いていると、DMCとの連携を十分にされていないケースもよく聞きます。ラグジュアリー層向けに販売していくのであれば、トラベルデザイナーへアプローチと合わせてDMCと連携体制を組むことは有効的な手段です。
実際に、シンガポールの旅行会社から
「XXXエリアのDMCを紹介してほしい」
という問い合わせがよくあります。過去にトラベルデザイナーにDMCを紹介して実際のツアーにつながったケースが数多くあるので、この点はとても大事だと考えています。
そのほかにもDMCは地域でとても大事な役割を担っています。例えば、富裕層の旅行者だと、一般的には同じホテルに少なくとも数泊をするような長期滞在を好む方が多い傾向があります。その際、滞在するホテルを起点とした「2〜3泊の観光体験」が求められますが、宿泊施設単体でこのような長期滞在向けのツアーを提供することは難しいでしょう。
このような場合にDMCと連携できると、オプショナルツアーの販売につながります。具体的にはDMCに専属のガイドとドライバーの手配を頼むことで、宿泊者は満足度の高い近隣観光を楽しむことができます。
付加価値の高い滞在を提供できる機会が増えるので、DMCとの連携体制は組むようにしましょう。

まとめ
海外の富裕層を日本に呼び込みたいと考えたとき、シンガポールでは旅行の内容を提案するトラベルデザイナーが滞在先や観光先の選定に大きく関わっています。
彼らにとって重要なのは、単なる施設に関する情報ではなく「顧客にどんな旅を提案できるのか」といった情報なので、この視点で
- 営業資料の内容
- 観光コンテンツの提供方法(DMCとの連携)
- 旅行会社へのアプローチと継続フォロー
を少し整えるだけでも、トラベルデザイナーが顧客に売り込みやすい環境が提供できます。ターゲットとする富裕層誘客への可能性が大きく高まるので、ぜひご検討ください。
弊社はシンガポールで100社以上の旅行会社とネットワークを持っており、自治体やホテルの観光レップとして日々シンガポールで活動しています。
旅行会社やトラベルデザイナーについて担当者レベルでよく知っており、頻繁に業界の動きについて活発に議論しているので、トラベルデザイナーのターゲット層とコンテンツがあっているかどうか、またどのような提案方法が刺さりやすいのか、ご相談いただければフィードバックさせていただくことが可能です。
- シンガポールの富裕層を呼び込みたい
- トラベルデザイナー向けの営業を強化したい
- 営業資料やアプローチ方法を見直したい
このような具体的なご相談がある方は、ぜひ以下のフォームからご連絡ください。
この記事が日本の高付加価値旅行を推進する方々にとって参考になれば嬉しいです。

【出典】