外食主流のシンガポール市場で日本食宅食サービスを流行らせるには?
日本で共働き世帯や高齢者、単身世帯などのニーズに応えている「宅食サービス」。
シンガポールで宅食サービスを展開するのは厳しいと聞きます。ホーカーセンターという屋台や、住み込みのヘルパーさんがいたり、すでにケータリング事業を手がけるローカル企業がサービス提供しているので、競合が多く飽和状態というのが現状です。
しかし本当にそうでしょうか?実は「日本食に特化」した宅食サービスは現時点でゼロ。そして年々ニッチな分野の宅食サービスが増えています。「高タンパク、低糖質」の健康志向の方向けや、産後の産褥食など。特殊なニーズを狙うなら、市場進出の可能性はゼロではないと現地に住む私たちは感じています。
そこで今回は、シンガポール市場の「宅食サービス」の最新動向について、ご紹介してみたいと思います。
飽和状態の海外市場進出を検討されている方の参考にもなったら嬉しいです。
シンガポール市場での正面突破が厳しい理由
シンガポールのライフスタイルは外食・テイクアウトが当たり前だから
シンガポールでは、食事といえば外食かテイクアウトが基本です。多民族国家ならではの屋台文化「ホーカーセンター」が日常に根づいており、自宅で調理する家庭はごく少数派です。

家庭での食事も多くの場合は住み込みのヘルパーが調理を担当しています。自分で料理をする人は少なく、手間を省くためにケータリング・テイクアウト・UberEatsを頼むという選択肢はあっても「宅食サービスを利用する」という発想自体があまり浸透していません。
文化的にもシンガポールには昔から「Tingkat(ティンカット)」と呼ばれる宅食文化がありました。これは日本でいう「出前」に近いような形で、マレー語で「層」や「段」を意味する「Tingkat」という多段式の弁当箱に、家庭料理を詰めて配達するスタイルのものです。今ではあまり見かけませんが、かつては一般的でした。
【出典】foodline, 5 Tingkat Deliveries to the West of Singapore!(Tingkat)
ケータリング会社がローカル料理の宅配サービスを実施しているから
シンガポールでは、ケータリング会社による宅食サービスがすでに乱立しています。メニューはローカル料理が中心で「おかず3品+スープ+主食」のセットが基本。1食約800〜1,600円(S$7〜15)という手頃な価格で提供されています。
多くのサービスが、塩分控えめ・油控えめ・MSG不使用をうたっており、ハラール認証を取得している会社も多く見られます。こうした配慮は、多民族・多宗教社会のニーズにきちんと応えた結果です。
見た目やクオリティに関しては正直「美味しそう」と感じにくいものもありますが、日常食としての使い勝手の良さと価格のバランスで選ばれているのが実情です。
参考までに、現在シンガポールで代表的な宅食サービスを展開している企業をいくつか挙げておきます:
- YoloFoods
- Neo Garden Catering:Neo’s Tingkat
- Kim Paradise Pte Ltd:Kim Paradise Tingkat
- Best Catering:Best Catering Tingkat
【出典】YoloFoods Webサイト
このような既存のローカル宅食がすでに市場を押さえているので、類似のサービスで勝負するのは難しいというのが現実です。
宅食サービスでシンガポール市場に参入するには、すでに競合として存在するこのようなサービスの存在を踏まえた上で、異なる切り口でのアプローチが求められます。
そこで弊社が考えたのが「よりニッチなニーズを狙った特殊な需要に答える宅食サービス」への可能性。以下の章でより詳しくご紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
特殊な需要に答える宅食サービスには可能性あり
シンガポールでは、ホーカーや一般のデリバリーで事足りる中、宅食サービスはすでにローカル企業が多数参入しており、差別化の難易度は高いです。ただし、特殊なニーズに応えることができる宅食サービスには可能性があると感じています。
たとえば、高タンパク・低糖質の食事を求める健康志向層。2023年の全国人口健康調査では、週150分以上の運動を行う人が78.5%に達し、パンデミック後のジム会員数は約60%増加。トレーニング需要の拡大とともに、食事への関心も高まっています。政府も生活習慣病対策に力を入れており、栄養を管理しやすい食事へのニーズは顕在化しています。
もうひとつは、産後ケアに特化した「産褥食」です。シンガポールでは年間約3〜4万人の出産があり、産後1か月の栄養管理を重視する文化があります。「Confinement Food(産褥食)」は日本ではあまり馴染みがないかもしれませんがシンガポールでは一般的で、私立の医療施設もケータリングとしてサービス提供しているほどです。
既存の産褥食は漢方や薬膳風が中心ですが、日本式の産後ケア食は「ヘルシーで安心」というイメージを持つ人が多い可能性が高いので、支持を得やすい可能性があります。
こうした層はニッチではありますが必要性が明確で、他の手段では代替しにくいため、マッチすれば中長期的な利用が期待できる市場です。もちろん市場規模の見極めや調査は絶対に必要ですが、汎用的な宅食サービスでは届かないところに応えることができるのであれば、シンガポール市場で挑戦する価値があると言えます。
すでにあるニッチな宅食サービス事例
ホーカーセンターやデリバリーで手配できない食事を提供するサービスをご紹介します。
糖尿病向けサービス「Rejuven by RichFood」
シンガポールでは糖尿病が国としても問題となっており、シンガポールでは、30歳以上の成人の約11.3%が糖尿病を患っていると推定されています。
これは他の多くの国と比較しても高い割合で、シンガポール政府も積極的に国民への予防と早期発見に重点を呼びかけています。
「Rejuven by RichFood」は、糖尿病や術後などの回復食として糖質を調整した料理や、漢方を使ったスープを提供しています。価格帯はランチとディナー7日間で4万2,000円〜5万7,000円($392〜$532)。
健康・ダイエット向けサービス(高タンパク質・低糖質)「Ketomei」
シンガポールでは健康的な食生活と運動の重要性を啓発するためのキャンペーンが展開されており、食品ラベルに「ヘルシーシンボル(Healthier Choice Symbol)」を導入し、消費者が健康的な選択をしやすくしています。
また健康志向が高まり、運動する人が増えました。高タンパク質にこだわった食事をする人も増えました。
「Ketomei」は、100%ケト対応食材と調理法、糖質ゼロ、炭水化物を極限まで減らした食事。添加物、保存料一切なし。バターチキンやプラントベースのミートボールパスタといったメニューがあり、週替わりで違ったメニューが提供されている。価格帯はサブスクリプションで契約した場合、1週間6食なら1食あたり約1,700円(SG$16)、6週間36食分なら約1,400円(SG$13.50)。
【出典】Ketomei Webサイト
高齢者向けサービス「FattyDaddyFattyMummy」
高齢になると、身体の機能が低下し、食べ物を噛む力や飲み込む力が弱くなってきます。そのため、やわらかく煮込む、細かく刻む、とろみをつけるなどして、噛みやすく、飲み込みやすい工夫が考えられたメニューへのニーズが高いのが特徴です。
また高齢者の食事は、栄養が偏りやすくなるため、栄養のバランスに気を付ける必要があります。特に無添加、塩分・油分控えめで、咀嚼しやすいように柔らかい食材や調理法で作られたものである必要があります。
「Select Catering Tingkat」は、高齢者向けのサービスを提供しているというサービスではないのですが、昔ながらのTingkatで提供していて、シンガポールで20年以上の経験を持つブランド。ケータリングを中心とした家庭料理を提供しているのが特徴です。
MSG無添加、塩分・油分控えめの健康的な食事を提供していて、新鮮な食材を使用し、毎日調理して配達しています。価格帯はメニューやオプションによって変わりますが、2人分4皿・ご飯なしで約1万2,500円($114.45)。
産褥食サービス「Tian Wei Signature」
シンガポールは、中華系、マレー系、インド系などの多民族が共存する国であり、各文化の伝統的な産褥食が根付いています。それぞれの文化が異なる食事方法や食材を取り入れていますが、目的は共通して「母体の回復」「母乳の質向上」「冷えの改善」にあります。
中華系コミュニティでは、伝統中国医学(TCM)の影響を受け、体を温める食材や漢方が多く使用されます。マレー系やインド系でも、それぞれの伝統医学に基づいた食材やスパイスが使われます。
「Tian Wei Signature」は、母乳の供給をサポートする母乳育児に適したメニューを提供しているサービス。メニューには伝統的に親しまれてきている産褥食のメニューと、地中海料理と和食のスパイスを取り入れたフィージョンメニューのプランもあります。
いずれにしても産後の栄養ニーズをサポートするバランスの良い食事を提供し、体に必要なハーブや食材をふんだんに取り入れて心も体も整えることができるような内容になっています。価格帯はランチとディナー7日間のコースで5万6,500円(SG$518)。
さいごに(市場調査から始めよう)
日本食メニューを考えた場合、一般の宅食サービスに介入するのはハードルが高過ぎると感じます。
シンガポール市場での宅食サービスの展開には、糖尿病、高齢者、筋トレマニアなどの低糖質や高タンパク質など、ニッチなターゲットに特化した「特別なサービス」であればチャンスがある可能性を感じます。
一方で、糖尿病や高齢者向けのメニューとなると、慣れ親しんだローカル料理の方が好まれそうなので日本食メニューをわざわざ頼む人がどれくらいいるのかは正直疑問です。
健康的な体で、さらに健康のために高タンパク質にこだわった筋トレ向けの宅食サービスは、普段から日本食を好んで食べる人であれば「高タンパク・低糖質な美味しい日本食メニューが食べれる宅食サービス」には可能性はあると考えられます。
ですが、いずれにしても徹底的にターゲットを理解し、適切なマーケティングを検討する調査を絶対的に実施することが必須です。弊社ではこのようなシンガポール市場での調査を伴走させていただくことが可能なので、ぜひお気軽にご相談ください。
本記事がシンガポール市場への進出を検討されている方のご参考になることを心から願ってます。






