IoTの海外進出ならシンガポール市場参入を検討しよう|産業別事例集
世界一の「スマートシティ」と言われるシンガポール。
Institute for Management Development が Singapore University for Technology and Design (SUTD)といっしょに手がける「Smart City Index 2021」では、堂々のトップに挙げられました。
「スマートシティ」に欠かせない重要な分野が「IoT」です。シンガポール市場にはIoT機器を手掛ける世界中の大手企業が市場に参入したり、積極的にシンガポール政府が関与してオープンデータソースを民間企業に開放したりしています。
実際、IoTの市場規模はアメリカが圧倒的1位を誇っていますが、2017〜2022年のシンガポール市場の年間平均成長率は「20%」と、アメリカの成長率や世界の水準より高い水準で拡大しています。
一方で日本の年間平均成長率は「11.8%」と世界的に遅れをとっているので、日本市場でIoT機器を販売している日本企業には、追い風に乗っているシンガポール市場への進出を検討する価値があると言えます。
このブログでは、シンガポールのIoT市場の現状と実際に導入されているIoT機器の事例をご紹介します。日系企業のシンガポール市場参入を考える際の参考になればうれしいです。
シンガポールのIoT市場の実情と進出すべき理由
世界のIoT市場は2022年の「61兆5128億円」から、2029年には「317兆420億円」へと成長すると予測されています。
特にアメリカのIoT市場の収益は、年間成長率(CAGR 2023-2027)が8.75%で、2023年の市場規模は「6,648億9819万円」を記録。
「Singapore Internet of Things (IoT) Market Report, Size,Industry Analysis, Share & Forecast 2027」によると、シンガポールのIoT市場も近年拡大しており、2017年から2022年にかけて年平均成長率20%で「1,414億円」になると推定されます。
世界のIoT市場規模の年平均成長率が「16.7%」なので、シンガポールの成長率は世界の市場の3%を超える水準となっています。
一方で、日本も2019~2023年の年間平均成長率は「11.8%」。市場の拡大は続くと予想されていますが、世界全体での年間平均成長率は「16.9%」なので、日本の市場成長は遅れているようです。
スマートシティ先進国として知られるシンガポールは、イノベーション創出や人材育成のための環境が整っているため、いままさにスマートシティ関連事業を手がける大手企業が続々と集まってきており、IoT化にとにかく積極的です。
デジタル化を推進する背景には、都市への人口集中、天然資源の不足や少子高齢化等の社会課題があります。
それらの課題に対する危機感から、シンガポール政府が主導してデジタル技術を活用したまちづくり「Smart Nation」を実行しており、5つの観点から都市のデジタル化を評価する「IMD-SUTD SmartCityIndex」において、2019年から3年連続で首位を獲得しました。(ちなみに、東京は118都市中84位)
以下では、IoT機器を手掛ける日系企業が政府の強力な後押しを受けながら著しく成長しているシンガポール市場に進出すべき理由について、詳しくご紹介します。
世界的に遅れをとっている日本市場ではなく、海外の市場に参入することを検討するきっかけになったら嬉しいです。
(1)政府が取得したデータを開放し開発に活かせる
シンガポールの政府科技局である Government Technology Agency の「The Sensors and Internet of Things (SIOT)」部門が、IoTインフラを整備するために活動しています。
具体的には、国内のデータ収集ネットワークの拡大や、企業や調査機関と公的機関を仲介し、技術の開発・運用支援を行っています。
また、シンガポール政府のIoTシステムに用いるクラウド「DECADA Cloud」を製作し、IoTデバイスの管理や、収集されたデータの貯蔵・分析を行っており、政府主導でイノベーションを生み出すための環境整備が行われています。
シンガポールでは70の公的機関により集められたデータは「Data.gov.sg」を通じてオープンデータとして公開されており、民間利用が可能となっています。
実際に、Data.gov.sgのデータを活用して、これまでに、駐車場の空き状況を知らせるアプリや不動産仲介のアプリなど、100以上のアプリが作成されました。
民間企業は新しいスマートソリューションを開発する際、アイデアとなるこれらの情報にいつでも自由にアクセスすることができます。
また、デベロッパーのためのWebサイトも公開されており、新技術を開発する際のデータ利用を奨励しています。
(2)政府協力を得た実証実験がしやすい
シンガポールでは、シンガポール国外の企業を積極的に誘致し、実証実験を行えるようにサポートしています。
たとえば、アメリカの自動運転のスタートアップ「nuTonomy(現在はAptivが買収)」が自動運転タクシーの公道でのテスト走行を世界で初めて行ったのがシンガポールでした。
また、後ほどご紹介する製造業に特化した「Jurong Innovation District」のモデル工場では、IoT、AI、ロボティクスなどのデジタル技術をどう組み合わせるか実験することができるようになっています。
政府の協力を得ながら、民間企業が海外市場で新技術を試すことができるのは、大変魅力的なポイントの一つです。
(3)すでに日系企業が進出している事例がある
シンガポール国内の新たな大型スマートシティ「Tengah Town(テンガータウン)」の開発が、2016年よりシンガポール政府主導で進められています。
シンガポール西部にある700ヘクタールの敷地に、約4万世帯・10万人以上が暮らせる予定の公営住宅やショッピングモールが建設される予定です。
スマート技術の活用と「フォレストタウン」とも呼ばれる自然との共生が大きな特徴で、ダイキン工業株式会社が本プロジェクトに参加し、シンガポール電力と共に冷房システムを確立に向けて協働しています。
【出典】My Tengah Webサイト
太陽光発電を用いて冷却した水を各家庭に送ることで、施設の使用電力の40%を占める空調システムが効率化される仕組みになっています。
これにより年間自動車4500台分のCO2排出量が削減される見込みです。
このようにすでに日本企業が参入している事例もあるので、前例がないと動きにくいという日系企業の場合には朗報ではないでしょうか。
業界別:シンガポール市場におけるIoT導入事例
以下では、業界別にトレンドや市場の特徴、IoT機器の導入事例をご紹介します。
該当する産業以外の文脈でも企業間連携などで市場参入の幅が広がる可能性があります。
ぜひ全体像を把握する視点でご参考にしていただければ幸いです。
【1】製造業
製造業界ではIndustry 4.0(第4次産業革命)が起こり、AIや5G、工場の自動化が進んでいることから市場が拡大しています。
シンガポールの製造業は450,000人の雇用を創出しており、GDPの21%を占めています。
2021年には「Manufacturing 2030」を打ち出し「2030年までに製造業を50%拡大し、GDPの2割を維持する」という方針を定めました。
■完全に自動化された倉庫から世界中に商品発送するドイツ企業
Pepperl+Fuchs(P+F)はドイツの多国籍企業で、工業用センサーを始めとする製造プロセスの自動化のための商品を販売しています。
2016年にIoTを導入した「グローバルディストリビューションセンター」と呼ばれる17,700平方メートルの完全に自動化された倉庫をシンガポールのJurongに開設しました。
現在は設立した倉庫から15,000以上の商品を世界中に発送しており、倉庫の効率は400%向上。従来より速い商品発送が可能となりました。
また、工場にはAGV(無人搬送車)が導入され、生産に必要な素材から完成された製品までの輸送が自動化されています。
【出典】Pepperl+Fuchs, Pepperl+Fuchs opens Global Distribution Center in Singapore, 2016-10-14
■製造業に特化した特別区「Jurong Innovation District」で韓国企業が拠点設立
製造業でロボティクスや5G、AI、IoT等の新しい技術の実用に向けたテストを行う場所として「Jurong Innovation District」が創出され、新しい技術を工場に取り入れたい企業と、技術を提供する企業を繋げる取り組みが始まっています。
Jurong Innovation Districtでは新製品を考えている企業が、市場での競争力を高めるためのサポートが充実しており、Singapore Institute of Manufacturing Technology (SIMTech) Innovation Factory には500人以上の専門家がおり、設計や技術に関するアドバイス、試作のための設備やソフトウエアを提供しています。
韓国企業である Hyundai Motor Group は2019年、この Jurong Innovation District に「Hyundai Motor Group Innovation Centre in Singapore(HMGICS)」を設立しました。
この施設では、人工知能(AI)・IoT・ロボティクスなど、最新の「インダストリー4.0」スマートテクノロジーが活用される予定となっています。
HMGICS内の物流・組立ラインは高度に自動化され、安全で効率的な作業環境が確立されます。
また、変化の激しい市場環境に効率的に対応するため、多機種を生産する汎用性の高いシステムをテストすることができます。
ヘルスケア
新型コロナウイルスの流行により、シンガポールでは他国と同様に病床のひっ迫や人手不足が発生しました。
医療の効率化が求められたことで、医療現場のデジタル化やIoTの導入が加速し、公立病院が積極的に民間企業やスタートアップと連携し、新たな技術の実用化に取り組んでいます。
■富士通のIoTパッケージ「ユビキタスウェア」
2017年にシンガポールのヘルスケア会社「ConnectedLife」が、高齢者の睡眠時の安全を守るための機器に富士通のIoTパッケージ「ユビキタスウェア」を導入しました。
富士通の音声センサーを用い、呼吸やいびき、睡眠時の物音を記録します。
収集されたデータは「ConnectedLife」のクラウドプラットフォームへ送られ、分析されます。通常時の音を学習することで、異常事態の際に通知することができます。
会話は録音しないため、高齢者のプライバシーを保護しながら安全を守ることができます。
【出典】富士通株式会社, 【プレスリリース】お客様現場のデジタル化を加速、「ユビキタスウェア」の新製品10種を提供開始, 2016年1月20日
■遠隔でモニターが可能な人工呼吸器を導入した「ABM Respiratory Care」
以前は呼吸器の確認を行うために、頻繁に患者の元を訪れる必要がありました。
業務量への負担に加え、コロナウイルス患者に接近することによる健康リスクの上昇が課題でした。
遠隔でモニターが可能な人工呼吸器がシンガポール内の病院に導入されました。
この商品の導入により、離れた場所から呼吸状態の確認や機器の調節を行うことを可能にします。
結果、呼吸器の管理をする人手不足解消に貢献しました。
【出典】 ABM Respiratory Care Webサイト(左)Alpha Ventilator(右)A FUNDING OF US$10 MILLION FOR ABM RESPIRATORY CARE, July 13, 2020
■新型コロナ患者を遠隔監視する「Biovitals Sentinel」
新型コロナ患者を遠隔監視するため、シンガポールの保健省は「Biovitals Sentinel」というプラットフォームを導入しました。
「Biofourmis」というシンガポールのスタートアップ企業により開発されました。
患者が腕にバイオセンサーを身につけることで、体温や血中酸素濃度、心拍数をはじめとする20以上の身体情報を測定・収集することができます。
それに加え、患者は6言語に対応しているアプリを通じて症状を報告します。
患者の体調が悪化したら、医療関係者へ通知が届く仕組みです。
新型コロナウイルス以外にも、自宅療養する患者に幅広く利用することができます。
【出典】Healthcare IT News, MOH deploys Biofourmis’ remote monitoring platform for COVID-19 patients in Singapore, July 30, 2020
農業
シンガポールでは 低い食料自給率と土地不足が問題となっています。
政府主導で2030年までに食料自給率を30%にまで増加させる「30 by 30」というキャンペーンを行っています。
その一環として、シンガポールフードエージェンシー(SFA)は2025年まで農家が最新技術を導入し、設備をアップグレードできるように、約60億円(6,000万SGD)の資金援助を行っています。
また、都市型農業を奨励するために、シンガポールの公共住宅「HDB」の駐車場を改修した農場を3年間リースする取り組みなどを実施しています。
■IoTや機械学習を活用した都市型農業を行う「Aby Farm」
Aby Farm は環境と資源の保護を目的に、IoTや機械学習を活用した都市型農業を行っています。
シンガポールのちょうど中心からやや北側に位置するAng Mo Kio にある農場は、およそ300平方メートルの公営住宅の駐車場を改修してつくられました。
全自動化されたグリーンハウスでは、IoTの外部センサーを用いて、気温や湿度、照度、水分、二酸化炭素等の情報を収集します。
ハウス内の環境が常に調整されるため、農家は実際に農場にいることなく作物の管理を行うことができます。
年間240トンの作物を収穫することが期待されています。
【出典】abyFarm Webサイト
交通インフラ
Land transport authority(陸上交通庁)は、シンガポール国内160キロメートルを超える高速道路やトンネルにセンサーとカメラを設置し、データの収集を行っています。
このデータにより、リアルタイムで道路の混雑状況や目的地までの時間を算出できるようになり、交通の運行効率と安全性を向上しました。
全ての交通データは「i-Transport」というプラットフォームに収集されており、「ITS operations control centre(OCC)」に送信され、交通事故を監視・対応しています。
交通情報は「MYTransport.SG」のアプリや、Twitterアカウント「@LTATrafficNews on Twitter」を通じて発信しています。
2011年に実用化した「My transport SG」というウェブポータルでは、公共交通機関や道路、タクシー、サイクリングに関する情報まで提供しています。
■世界初の運転手無し・完全自動走行の地下鉄「MRT」
急激な人口の増加(1990年代の3.5 millionから5.4millionにまで増加)に伴う交通量の増加や、土地の不足に対応するために公共交通機関の整備と拡大が必要不可欠でした。
世界で初めて運転手無しで走行される完全自動化された地下鉄の運行を開始。
現在20キロメートル、16駅で導入されており、今後も拡大予定です。
また、リアルタイム情報を活用し、駅とバス停にて電車・バスの到着時刻を知らせる電子掲示板が導入されています。

商業施設・小売業
小売業界では、IoTはサプライチェーンの効率化、店舗・在庫管理、セールスキャンペーン、セルフチェックアウト等の様々な場面で使われています。
オンラインショッピングの普及に伴い、ショッピングモールや小売店での売り上げの減少が課題となっているものの、IoT機器を導入(テクノロジーを利用)し、地域の商業施設・小売りと地域の生活者をつなげることで消費が増加することが期待されています。
■IoTを駆使したサービスを提供するショッピングモール「Funan Mall」
不動産会社「CapitaLand」はアジアで70以上、シンガポールで20の商業施設を運営しています。
施設内では、撮影した映像を用いて来訪者の行動や各店舗での滞在時間を分析することで小売店のオペレーションを最適化しています。
その中でも2019年にリニューアルオープンした「Funan Mall」では、様々なIoT技術が使われています。
例えばフードコートではFacebookのメッセンジャーか自動精算機から注文することができ、支払いは仮想通貨を含めたあらゆるキャッシュレス決済に対応しています。
また、ショッピングモール内におよそ40台設置されている電子掲示板では、現在人気の商品や販売店までの最短の経路を調べることができます。
【出典】CapitaLand Webサイト, News Release – CapitaLand unveils reimagined Funan to the public, 28 June 2019
さらにセンサーを用いて利用者の性別や年齢を判断し、個人に合わせた商品の紹介を行なっています。
住宅・不動産業
■建設現場の3Dレプリカ製作機器や高層部の監視にIoT機器が活躍
シンガポールの不動産会社Guoco Landとテクノロジー企業が協働し、不動産業界でのデジタル化を推進しています。
「Airsquire」はAIと360度カメラで撮影した写真を用いて建設現場の3Dレプリカを製作します。
プロジェクトマネージャーは現地に行かずに進捗状況を把握することができます。
また、その他の関係者にもURLで共有することができ、コロナ禍では建設現場での感染リスクを抑えることに貢献しました。
「SpaceAgeLabs」が開発したIoTセンサーは、建築物の高層部などの管理しにくい場所を監視するために導入されています。
AIや機械学習で通常時の電力や水の利用を分析し、異常を検知した場合に警告をします。
さいごに(まとめ)
IoTはスマートシティに欠かせない分野なので、シンガポール市場にはIoT機器を手掛ける世界中の大手企業が市場に参入しています。
もう一度おさらいしておくと、シンガポール市場に進出すべき理由は以下の3つです。
また産業別の事例は以下の通りです。
シンガポール政府も積極的に関与し、オープンデータソースを民間企業に開放しているので、IoT機器の海外進出を目指している日本企業は世界一のスマートシティーであるシンガポール市場への進出を検討してみてはいかがでしょうか?
この記事が日系企業の海外進出を検討する際の参考になれば嬉しいです。













