シンガポールで化粧品の海外展開がうまくいかない理由とは?|ディストリビューターの本音から見えてきたこと
日本の商品はすごくいい。
でも、一緒にやっていくのは難しいんだよね。
シンガポールのあるディストリビューターが、日本の化粧品ブランドについて話してくれた内容です。
気になって他のディストリビューターにも同じ話を振ってみると、驚くほど似た答えが返ってきました。商品力の問題ではない。もっと別のところに、日本ブランドが見落としているズレがあるのだと思います。
そこでこの記事では、現地のディストリビューターたちから直接聞いた本音を、できるだけそのままお伝えします。
シンガポールに商品を卸しているのに売上が伸びない。
そんな状況の背景には、想像とは違う理由がある可能性が高いです。ぜひこの記事でご紹介するディストリビューターの本音を参考にしてください。
シンガポールの美容市場で起きていること
シンガポールの美容市場は、ここ数年で劇的な変化を遂げています。
私がシンガポールに来た頃と比べると、街中で目に入る化粧品の顔ぶれは明らかに様変わりしました。以前は日本・フランス・アメリカのブランドが中心だった場所に、今はK-Beauty(韓国)やC-Beauty(中国)のブランドが席巻しています。
その象徴的な場所のひとつが、シティエリアにあるショッピングモール「Raffles City」内のドラッグストア「Welcia(ウエルシア)」です。
【参考】Raffles CityのWelcia店舗。当初は日本の商品が中心のラインナップだったが、現在は店頭の目立つ位置にも韓国コスメが配置されている。/筆者撮影
Welciaは日本で創業したドラックストア(ウェルシア薬局)で、2017年からシンガポール進出をしています。以前は並んでいるのも日本の商品がほとんどでしたが、現在は店頭の最も目立つプロモーションスペースを含め、韓国コスメが大きな面積を占めるようになっています。
Welcia Singaporeのウェブサイトでも「JK Beauty」と、日本(J)と韓国(K)の両方を打ち出しており、時代の変化が伺えます。
韓国食品医薬品安全処(MFDS)によると、韓国の化粧品輸出額は2024年に過去最高の102億ドルを記録し、前年比20%超の成長を遂げました。こうした統計データを見ずとも、日本でも街を歩けばその勢いの差を肌で感じられるかと思いますが、シンガポールでは圧倒的な勢いを感じます。
もちろん、日本製への信頼や好感度が失われたわけではありません。ただ、「今買う理由があるか」「SNSで話題になっているか」という点において、K-BeautyやC-Beautyの存在感に押されているのが現状です。
以前と同じ成功体験に頼り、手法をアップデートできずにいると、じわじわとポジションを奪われていくというような危機的な状況が、店頭という最も身近な場所で現実のものとなっています。
日本市場での常識が裏目に出ている
シンガポール進出にあたり、現地ディストリビューターに商品を卸し、販売やマーケティングを現地側に一任する日本ブランドは少なくありません。日本国内では問屋や小売への卸が主流であり、販売促進は小売側が主導するモデルが定着しているため、海外でも同様の進め方を選択するのはある意味で自然な流れかもしれません。
また、海外マーケティングを設計・実行できる人材や予算が社内にない、あるいは「現地でのマーケティング費用」という予算項目自体が存在しないというケースも多いはずです。
しかし、こうした現地のディストリビューター任せな態度は、勢いが増すK Beauty・C Beautyと比べるとディストリビューターにとってコストがかかる条件だと見られ、商談が成立したとしても積極的に商品を販売してもらえないリスクがあります。
実際、先週開催されたアジア最大級の展示会「Beauty Asia Singapore 2026」の会場では、韓国企業のブースの費用の掛け方は、パッと見てもわかるほど他の国の企業のブースと比べて圧倒的な差を感じました。
積極的に自社でPR活動を行っている商品で、かつ、SNSで人気があるものだったら、ディストリビューターとしては一任されて「あとはよろしく」と言われる商品よりも扱いたくなるのは当然のことです。
【参考】「Beauty Asia Singapore 2026」の会場で見た韓国ブース
また「良い商品を作れば、自ずとその価値は伝わる」という感覚の方もいらっしゃいます。これは日本市場で実際に機能してきた経験則かと思います。
しかし、シンガポール市場においては、商品の品質が良いことと、シンガポールの熾烈な市場で売れることは、全く別の問題です。
日本で長年通用してきた常識が、シンガポールでは通用しない。
気がついた時には市場環境が完全に変わっていた。
そんな苦境に立たされているブランドが後を絶ちません。そしてその認識のズレは、ディストリビューター側の受け止め方にも如実に表れ始めています。
現地で話を聞く中で、日本ブランドと組むことへの率直な声を耳にする機会が増えてきました。

本音①:日本の化粧品は好き。でも、今のやり方では一緒にやっていけない
ディストリビューターと対話していて、いつも感じることがあります。それは、彼らが日本の化粧品に対して、今も非常に前向きな評価を持っているということです。日本のブランドは「品質が高い」「信頼できる」といった声は、今も根強く聞こえてきます。
ではなぜ、「一緒にやっていくのが難しい」という結論に至るのでしょうか。
ディストリビューターは常に複数のブランドを扱っています。そのため、すべてのブランドに均等な熱量でリソースを割けるわけではありません。営業に費やす時間、店頭の棚スペース、SNSでの発信機会など、限られたリソースをどのブランドに投資するかを日々シビアに見極めています。
その中で優先されるのは、ブランド側も主体的に投資を行っているK-BeautyやC-Beautyです。彼らはインフルエンサー(KOL)との継続的な連携やイベント施策、SNS露出などを通じ、自ら能動的に認知を構築しに行っています。
一方で、「卸した後は現地にお任せします」というスタンスのブランドに対し、ディストリビューター側が一方的に熱量を持って動くのは、ビジネス構造として限界があるのが本音のようです。
マーケティング予算を共に負担し、一緒にブランドを育てる意思があるパートナーと動いたほうが、確実な結果につながる
これは日本ブランドへの不満というより、現在の市場環境に即した極めて合理的な声だと言えます。シンガポール市場で成功するには、マーケティング予算をディストリビューターと共に負担し、主体的にシンガポール市場でブランドを育てる体制や意思が求められています。
本音②:「本社に確認します」が続くブランドとは動けない
マーケティング予算と並んで、頻繁に課題として挙がるのが「意思決定のスピード」です。
シンガポールの市場は動きが非常に速く、セールのタイミング、トレンドの移り変わり、インフルエンサーの旬などは、あっという間に変化します。この一瞬の好機を逃さない機動力こそが、成否を分ける鍵となります。
現地のディストリビューターが勝機を見据えて提案をしても、「日本の本社に確認してから」という返答が繰り返されるブランドとは、次第にパートナーシップが疎遠になっていくという話をよく耳にします。
機会損失を招くだけでなく、「このブランドと一緒に動くのは負荷が高い」というネガティブな印象を与えてしまうのです。実際に私自身、これまで数多くのクライアント様のシンガポール進出をご支援してきて、意思決定の遅さで機会を逃す場面を見てきました。
これは企業の規模の問題ではなく、現地の担当者にどこまで「裁量権」があるか、という体制の問題です。ディストリビューターとの信頼関係は、契約締結時ではなく、その後の日々のスピード感あるやり取りの中でこそ育まれるものです。
意思決定のスピードを上げられる体制づくりも、シンガポール市場で成功する鍵の一つだと考えられます。
本音③:まず自分たちで売れる状態を作ってきてほしい
「ディストリビューターを探しているのですが、どうすればいいですか?」という相談をよくいただきます。
その際、私が最初にお尋ねするのは「誰に、どこで、いくらで売りたいですか?」という点です。ここが曖昧なままパートナー探しを始めると、ディストリビューター側の条件に振り回され、戦略の軸がブレやすくなります。ターゲットとする販路(チャネル)を先に絞り込むことで、そこに強みを持つ最適なパートナーは自ずと見えてきます。
そしてもう一つ、商談に臨む前に、少しでも「売れる手がかり」を自ら作っておくことを強くおすすめします。
「現地のKOLが既に自発的に紹介してくれている」
「自社SNSで話題になっている」
「小規模でも現地での販売実績がある」
このような実績の種を持っているブランドこそ、ディストリビューターにとって「投資する価値のある相手」として映ります。
「まず種をまいてから来てほしい」という声をよく聞きますが、これは突き放しているのではなく、そのほうがお互いにとってうまくいくという経験から来ているのだと思います。

さいごに(海外展開前に見直したいポイント)
最後にお伝えしたいのは、シンガポール市場において日本ブランドへの信頼や好感度がなくなったわけではない、ということです。むしろ今でも「日本製だから試してみたい」と感じている消費者は確実に存在します。
だからこそ、商品そのものには十分な魅力があるのに、売り方や体制のミスマッチで機会を逃してしまっている現状を見ると、非常にもったいないと感じます。現地で何が求められているのかを整理し、ディストリビューターとの役割分担を見直すだけでも、展開のスピードと結果は大きく変わります。
本記事でご紹介した以下のポイントをぜひ参考にしていただき、海外市場に進出する前にご検討ください。
| 見直したいポイント | 具体的な一歩 |
|---|---|
| マーケティング費用をすべて任せている | 予算・素材・KOL情報をブランド側でも用意する |
| 現地での発信がない | 自社SNS運用、KOLとの継続的な協業を始める |
| 意思決定が遅い | 現地担当者に一定の裁量を持たせる体制を整える |
| 販路(チャネル)が曖昧 | 販路を絞ってからディストリビューターを選ぶ |
実際、私たちによく寄せられるのは次のようなご相談です。
具体的にマーケティング予算はどのくらい必要なのか?
今のシンガポールではどんな施策が最も効果的なのか?
これらの答えはブランドの規模やターゲット、販路によって千差万別です。だからこそまずは現状を冷静に整理し、自社に合った現実的な一歩を考えることが重要です。
私たちもシンガポール現地で多くのブランド支援に携わる中で、それぞれの状況に応じた最適な進め方を模索しています。もし具体的なお悩みをお持ちでしたら、情報交換ベースでも構いませんのでお気軽に以下のフォームからご相談ください。
本記事が日本が誇る素晴らしい化粧品ブランドの皆様にとって、新たな挑戦へのヒントとなれば幸いです


