日本の伝統工芸品の海外販路開拓には購入に至るまでのステップを意識しよう

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近年、自治体や関連団体の公募や補助金事業などで「伝統工芸品の海外販路開拓」に関する事業をよく見かけるようになりました。

今後日本国内の人口が減り、国内の市場自体が縮小の一途であることを考えると、現在やらなくてはならない必須事項の1つだとも感じますが、比較的価格も高く日常生活の中ではあまり馴染みのない伝統工芸品の魅力について海外市場で認知を広げ、購入まで辿り着くのは簡単なことではありません。

日本の伝統工芸品の海外販路開拓のためには「きっかけ作りから実際に取り扱ってもらうまでの流れ」の設計が重要で、その構図はインバウンドで提言されている「訪日ファネル」と非常に似ていると考えられます。

訪日ファネルの図

【出典】日本政府観光局,  世界22市場での定量調査でみる、訪日旅行への意識・傾向・市場規模(JNTO独自調査結果概要)(前編),  2023年2月21日

本ブログでは「訪日ファネル」の流れを参考に、日本の伝統工芸品の海外販路開拓の理想的な流れとそれぞれのステップでどんな活動が適切なのかをご紹介いたします。

海外市場への日本の工芸品進出に関して、今後取り組む予定の方にとって参考になれば嬉しいです。

ステップ①:無認知から認知、興味関心

海外商談会は有効な手段だが、事前準備が肝心

伝統工芸品海外進出のきっかけとして、よく行われているのが海外市場を訪問して行う「商談会」です。

職人や取り扱う日本国内の売り手さんが1日の中で各コマ20分前後で複数の現地バイヤーと商談を行い、残りの数日の滞在日は市場視察として現地の関連施設を見学するスタイルです。

実際、シンガポールでもこのようなスタイルで日本の伝統工芸品の商談会の開催が行われることがあります。

海外での商談会は日本の商談会以上にエネルギーをかける必要があります。

たとえば、事前に準備すべきこととしてパッと思い浮かぶだけでも以下が挙げられます。

  • 当日手に取って見せたい商品の梱包・発送
  • 税関の手続き
  • プレゼンテーションの作成や印刷
  • 英語版のパンフレットの準備
  • フライトや宿の手配
  • 日本不在中の業務の引き継ぎなどの渡航支度
  • (動画や現地との中継をする場合)機材の準備

実際は準備を始めていくと、これ以外に細かい準備がもっと発生するケースがほとんどなので、限られた商談の時間をより充実したものにするために、事前準備はきちんと考える必要があります。

海外商談会でよくある失敗と対策

商談会でよく見かける失敗例として、動画や中継を見せる時間が長すぎて相手との交渉やヒアリングに十分な時間が確保できなくなるというケースがあります。

動画や中継を見せ終わる頃に時間制限が来てしまい、お互いニコニコしながら「ありがとう」と言って別れて、その後メールで動画やパンフレットを送るのであれば、わざわざ現地に足を運ぶ必要性や意義は一切ありません。

商談会の最大の利点は、現地のバイヤーと直接会って話せることにあります。

事前に準備するツールだけでは十分に伝えきれないような伝統工芸品自体の紹介はもちろん、実際に商談会で紹介をする担当者の思いや熱意を、直接自分の言葉で伝えることが重要です。

事前に準備するツールだけでは十分に伝えきれないような伝統工芸品自体の紹介はもちろん、実際に商談会で紹介をする担当者の思いや熱意を、直接自分の言葉で伝えることが重要です。

なぜなら相手の海外市場のバイヤーは日頃から数多くの商品を目利きし、自社で取り扱うべき商品なのかどうかを見極めているので、バイヤーの心に訴えかける要素の有無が取引につながるかどうかを左右するからです。

無認知から認知、さらには興味関心ステージへステップアップさせるために、確かに海外商談会は有効な手段の一つですが、事前にどれほど対面するバイヤーに対して準備ができるかが、非常に重要なポイントになります。

商談会で対面する現地のバイヤーは具体的には以下の図ようなタイプに分けられます。

相手のタイプを具体的に想定した上で、事前にその相手とどんな取引を進めたいかを検討しておくと、商談会で何を伝えるべきか考えやすくなるので、ぜひ参考にしてみてください。

ステップ②:興味関心から比較検討

確かに海外のバイヤーとの商談会は認知拡大や興味喚起につながる手法の一つではありますが、言葉だけでは伝えられない魅力がたくさんあるのも日本の工芸品の特徴のひとつです。

そのため、伝統工芸品が作られている土地を訪れ地場の文化に触れ、制作現場を見学し、その場で作り手である職人さんに作業を見せてもらいながら話を聞くことは、さらに興味関心を高め、例え同じ種類の工芸品であっても他との違いをはっきりと伝えることに大いに役立ちます。

日本の生産現場に海外バイヤーを誘致するというのはかなり大規模な取り組みのように見えますが、訪日観光の業界では海外の旅行代理店のスタッフを日本の訪日誘致をしたい現場に誘致して実際の観光コンテンツを体験してもらう「ファムトリップ」という手法があります。

旅行会社に旅行商品として取り扱ってもらうべく、実際に現地に足を運んでもらい視察をしてもらう招請旅行のことです。

旅行商品を造成・販売する担当者にしても、話を聞いたり調べた経験があるだけの場合と、実際に足を運んだ経験がある場合とでは、自分のお客様に提案する際の自信のレベルが全く違うので、訪日観光を誘致したい自治体の間で取り組まれています。

伝統工芸品の良さは、生産地の風土や職人の思いなど目に見えない要素にありますが、現場にいるからこそわかったり、現地にいて肌でしか体感できない情報を届けることが肝になります。

たとえば、岐阜県関市の「刃物屋三秀関刃物ミュージアム」の日本刀鍛冶見学体験では、ガラス越しでも熱が伝わり、火花が飛び散る様子は臨場感があり迫力満点で、国内外の観光客にもとても人気です。

実際私自身も訪問したことがあるのですが、日本刀鍛冶を見学しながら、社長さんがなぜこのミュージアムを作ったのかというお話をして下さりとても感銘を受けました。

自分のすぐ側で火花が散り熱や音が伝わってくる中でお話を聞いたからこそ、感動が何倍にもなったのだと思います。

このような現場に行かないとわからない伝統工芸品の魅力を伝える招致活動を行うことも、海外販路開拓においては有効な一手となり得るので、ぜひ参考にしてみてください。

【出典】著者による撮影

ステップ③:予約購入(バイヤーでの取り扱い決定)

どんな工芸品にも、その品が生まれた背景があり、本来の使われ方があります。

酒器や茶器など、海外市場でも浸透していて、使い方が想像できるものなら購入する際の障壁にはなりませんが、使い方が想像できない工芸品の場合は丁寧な説明がないと、購入まで至ることができません。

実際に商談会の場などで「きれいなんだけど、どうやって使うか分からない」と言われて機会損失しているケースを多々見てきました。

工芸品が生まれた目的といった「本来の使い方」を説明するだけでなく、以下のような点を訴求できると、バイヤーの興味関心を得やすくなります。

  • 職人はどう使ってもらいたいと思っているのか?
  • 生産地では、実際の生活の中でどう使われているのか?

口頭で説明するだけでなく、実際に目にしたり体験できる機会を提供きれば、なおのこと説得力が増すのでおすすめです。

また商品説明の説得力が増すだけではなく、現地のバイヤーが体験を通して商品を理解することで、実際にバイヤーがお客様に販売するときに、自分の体験として自信を持ってオススメしてくれる可能性も高まります。

このほかに以下のような事例を目にすることがあったので、参考にしてみてください。

【事例1】ご当地独自の蕎麦の食べ方に即した蕎麦ザル

以前、海外の旅行会社を現地に招聘するファムトリップで、長野県にある戸隠という蕎麦の名所をご案内したときのことです。

日本蕎麦に欠かせないザルを生産している長野県の原山竹細工店を訪問し、しっかりと水をきる伝統の技術についてお話を伺うことがありました。

実際にザルの生産拠点を訪れ、その詳細を理解した後にザルを使ってお蕎麦をいただいたのですが、その時の感動は現地でしか味わえない体験でした。

長野県長野市でいただいたお蕎麦

【参考】長野県長野市でいただいたお蕎麦。美味しさを一際噛み締めるお食事体験になりました!

【事例2】華やかな絵柄の磁器に合う料理の盛り付け方講座

北陸地方にある窯元では「器が料理をもっと華やかにすることを伝えたい」という思いから、器を主役にした「(その)器に合う料理の盛り付け方講座」などのユニークなイベントを開催しておられます。

体験型の観光コンテンツとしてだけではなく、色鮮やかな絵付が特徴の伝統的な磁器の特徴を伝え、器に対する購買意欲も増成できる内容になっています。

実際にシンガポールにある高級和食店では、日本の伝統工芸品の磁器など食器がよく使われています。

そのため「盛り付け講座」のような体験型のイベントをシンガポールのバイヤーやディストリビューター向けに開催すれば、器に対する理解や関心を卸業者に対して高めることができ、シンガポールでの販売にあたって強力なパートナーとなってくれる可能性が高められます。

海外市場進出においてはバイヤーやディストリビューターに関心を持ってもらうことがまずはファーストステップなので、彼らに向けた体験型イベントを展開することは非常に有力な一手になり得ると考えられます。

【事例3】現地の食材や料理を元に「本来の用途ではない」使い方を提案

伝統工芸品である漆器の職人さんの工房を訪問した際に、酒器として展示していた漆器を見て、欧米人観光客が「エスプレッソを飲むのにちょうどいいね!」と言って購入したことがあったそうです。

この職人さんは「漆器をもっと生活の中で使って身近に感じて後世に残したい」との思いから様々な活動をしておられ、この話をとても嬉しそうにお話ししてくださいました。

他にも、今年の春に開催された日本酒イベント「Sake Matsuri」で工芸品の展示販売していた方は、本来お酒のおつまみにするスルメなどを炙るための工芸品の上で、スルメではなく、現地でよく食べられているビーフジャーキーを乗せてプレゼンテーションしたことで現地の人の注目を集めていました。

本来の使い方以外に、購買していただく理由になるような使い方を提案できるとより商品の魅力が伝わる事例でした。

現地の生活に合わせた利用シーンを、日本の工芸品を販売する際の強力なパートなとなり得る現地のバイヤーやディストリビューターに対して提案できれば、積極的に自信を持って商品を勧めてもらえる可能性が高まるので、参考にしていただけたら嬉しいです。

Sake Matsuri Singapore 2023 Spring Edition の様子

【参考】「Sake Matsuri Singapore 2023」の様子

さいごに

長い歴史がある日本の伝統工芸品は、日本が世界に誇ることができるものの1つです。

本記事でご紹介した日本の伝統工芸品の海外進出に関する内容が、シンガポール市場はもちろん、世界中の人に日本の伝統工芸品を手に取ってもらえる環境になり、今後も次世代に永く伝えていくための一助になればと嬉しく思います。