富裕層マーケティングなら老舗雑誌タトラーに学べ!編集長独占インタビュー
シンガポールの富裕層市場が急速に拡大する中、日系企業にとって大きなビジネスチャンスが広がっています。
この魅力的な市場で成功を収めるには、富裕層の真のニーズや価値観を深く理解し、適切なアプローチを見出すことが不可欠です。
そこで今回、世界的にも有名なシンガポールの富裕層向け老舗メディア『Tatler Singapore(タトラー シンガポール)』の編集長Aun Koh氏に独占インタビューを実施しました。Koh氏は、シンガポールの富裕層が何を求めているのか、日本企業はどのようにアプローチすべきか、市場で成功を収めるための秘訣について詳しく語ってくれました。
本記事では、Koh氏の洞察と具体的な事例を交えながら、日本企業がシンガポール市場で成功を収めるための戦略を探ります。
富裕層マーケティングの最前線に迫る、海外事業に携わる方必読の内容なので、シンガポールの富裕層市場を攻略したい方はぜひ参考にしてください。
シンガポール富裕層に愛されるメディア『Tatler』とは
シンガポールの富裕層をターゲットにしたメディアとして知られる『Tatler』は、1977年に刊行されて以来、アジアを代表する富裕層向けメディアとして地位を確立しています。
雑誌だけでなく、デジタルプラットフォームやイベントも手掛け、美容、ファッション、アート、レストラン、インテリアといった多彩なテーマのコンテンツを提供しています。
(1)雑誌:富裕層に向けた深いリサーチと高級感
雑誌は『Tatler』の月2万部発行している中核的な事業。「Tatlerを持っているとかっこいい!」というようなイメージがあり、それがいまだに紙の雑誌が人気の理由の一つかもしれません。紙の材質も高級感があって他の雑誌とは一線を画しています。
読者の多くが「Ultra High Net Worth(通称:UHNW、保有資産額が約46億円)」もしくは「High Net Worth(通称:HNW、保有資産額が約1.5億円)」。
シンガポール国内にある高級ホテルや会員制クラブが『Tatler』を定期購読しています。
高級ホテルや会員制クラブのラウンジは、普段人と会う機会が多い富裕層にとって「待ち合わせ前の隙間時間に過ごす場所」でもあるので『Tatler』の雑誌はその場で手に入る情報源として手にとってもらう機会が多いのです。
【参考】シンガポールのKinokuniyaで販売されているTalter
(2)オンラインメディア:若年層まで取り込む幅広いコンテンツ
『Tatler』のWebメディアの読者には、UHNWやHNWに加え「Young Aspirants」と呼ばれるラグジュアリーに憧れる若者層も含まれており、シンガポールだけで月間110万人もの読者を誇ります。
特に20代後半から30代後半の若年層が多く、この層に向けた内容は、雑誌よりも広く浅く刺さるように工夫されています。
特に人気なのは食の記事。シンガポール人の「食」に対する関心は老若男女・世代問わず娯楽の一部としてとても高いので『Tatler』のWebメディアでも人気のカテゴリとなっています。
たとえば、東京で食べられる和牛カツサンドやピッツェリアに関する記事は、富裕層だけでなく、一般層の間でも多くのシェアや保存がされ、コンテンツが広く浸透しました。
【出典】Tatler Webメディア, Where to find the best wagyu katsu sando in Tokyo, Japan, Aug 14, 2023
また、ラグジュアリーインテリアを特集する『Tatler Homes』は、富裕層の住環境をテーマに扱っており、インテリアトレンドを牽引する情報源として知られています。
(3)イベント:富裕層のネットワークを活かしたマーケティング
『Tatler』のもう一つの大きな柱は、年間120回以上行われるイベントです。
特に「Tatler House」という会場に呼ばれることはステータスになっていて、そこで高級時計のイベントやラグジュアリーブランドの化粧品などのイベントが行われています。
これらのイベントの90%は、クライアント主導の新商品発表会や、富裕層を対象とした口コミ効果を狙ったイベントです。
残りの10%は、Tatler自身が企画する啓蒙的なイベントで、例えば公共政策に関する書籍の出版イベントや、社会的インパクトを与えるテーマを取り上げたものも実施しているので、単なる商業イベントだけでなく、社会的に意義のある取り組みも富裕層にアピールできています。
シンガポール富裕層のマーケティングに欠かせない3つ鍵

ここからは『Tatler Singapore』の編集長Aun Koh氏へのインタビューによってわかった、シンガポールの富裕層マーケティングに欠かせない3つの重要なポイントについてご紹介します。
- パーソナライズ化が可能なデータベース
- 顧客の価値観とライフスタイルにあうストーリーテリング
- 横の繋がりやコミュニティ単位での訴求
ぜひ参考にしてください。
<語り手:Aun Koh氏>
Tatler Singaporeの編集長として、ブランデッドコンテンツ、印刷、デジタル、クリエイティブの各チームを含む全てのコンテンツ部門を統括。シンガポール及びアジア地域において最も重要かつ影響力のあるストーリーを提供することに尽力。イベントや商業部門と協力し、新たなプロジェクトの実現に向けて邁進中。
【1】パーソナライズ化が可能なデータベース
富裕層向けマーケティングを成功させるためには、顧客データを構築し、それを有効に活用することが重要です。
Tatlerは、コミュニティ内の富裕層の購買行動や嗜好性に関する詳細なデータを集積し、それらを元にパーソナライズされたコンテンツや広告、イベントの案内を提供しています。
精度の高いデータベースを構築するために、専門の顧客データベースチームが存在しており、Tatlerで開催されるイベント会場や、日常的なコミュニケーションを通じて得た顧客の関心事を、すべてデータベースに記録しています。
具体的な事例として、あるお医者様がTatlerのイベントに参加してくださったのですが、その場で高級時計のコレクターであることがわかった場合は、データベースに新たな情報として反映されます。そしてその後に「高級時計ブランド」のイベントが開催される際、その方にパーソナライズされた招待状が送られます。こうした細かいデータ管理が、顧客との深い関係を築く基盤となっているんです。
実際、Tatlerのデータベースを活用した招待リストは非常に精度が高いのです。通常イベント招待状を送っても、多くの招待者からは断られることが多いかと思いますが、Tatlerの場合、そのデータを基に絞り込んだリストに招待状を送ると、高確率で参加者が集まります。
これは、顧客の嗜好にあったパーソナライズ化された内容の招待が行われているからこそできることです。イベント内容と顧客の興味が一致しているため、招待された側も参加する意義を感じやすく、結果的にイベントの成功率が高まります。
なので、Tatlerでは顧客との日常的なコミュニケーションを重視しており、富裕層が求める情報や関心事を把握することに努めています
例えばイベントスタッフや社員が顧客と話した際、気づいたことや新たな情報はすぐにデータベースに記録されます。あらゆる顧客情報をマーケティングや次回のイベントの企画に活用し、招待リストの精度向上や顧客満足度の向上に努めているのです。
ポイント:施策として何をやるかより、実施後の顧客との関係性を考えよう
Aun氏のインタビューから分かるように、富裕層マーケティングは一般顧客以上に顧客の詳細な嗜好や関心事をデータとして蓄積し、それを元にパーソナライズド化された提案を以下に実施できるかが成功のカギだと言えます。
なので、極端なことを言うと施策として何をやるかより、実施後の顧客との関係性を事前に考えて実装できることの方が重要だとさえ感じられます。
また、定期的に富裕層の興味・関心を直接聞く機会を設け、その声をデータとして活用することは競争力を高めるために不可欠となることもAun氏のお話からよくわかります。
リアルタイムで更新性のあるデータをもとに、顧客に合った提案を行うことで、ミスマッチの少ない効果的なマーケティングが実現できるように、データベースの構築と活用の仕方を事前に検討して、具体的な施策に臨みましょう。
【2】顧客の価値観とライフスタイルにあうストーリーテリング

富裕層向けのマーケティングで成功するには、単に高級品を売るだけでは不十分です。
特にシンガポールの富裕層は、世界中のラグジュアリートレンドに敏感であり、消費に対して成熟した価値観を持っています。単なるステータスシンボルではなく、その背後にあるストーリーや品質、そしてブランドへの信頼感が求められているのです。
なのでそのような情報提供を行うには、顧客となる彼らのライフスタイルや価値観に共鳴するように商品やサービスを提案することが成功の鍵となります。
たとえば、シンガポールの富裕層に人気の高い「木村硝子」は、明治43年に創業した老舗ガラスメーカー。熟練の職人技を守りつつ、常に革新を追求しています。
彼らはこのような「伝統 x モダン」という在り方を好むシンガポールの富裕層に対して、きちんと自社のブランドストーリーや思いを届けられているので、心を掴んでいると感じています。
【出典】木村硝子のWebサイト
彼らは、商品そのものの品質だけでなく、その背後にある歴史や職人の技術、ブランドがどのように発展してきたのかというストーリーにも価値を見出しています。
シンガポールの富裕層はただ「高級」だからといって商品を選ぶわけではありません。彼らは一流の教育を受け、海外経験が豊富なため、世界中のラグジュアリーな商品やサービスを知り尽くしています。
彼らにとって重要なのは、自分の価値観に合った商品かどうかです。例えば、個別にカスタマイズされたサービスや体験を提供するブランドは特に好まれます。パーソナライズされた体験こそが、彼らにとっての「本物のラグジュアリー」と言えるでしょう。
さらに、シンガポールの富裕層は、気に入ったブランドを自ら育てるという意識を持つことも多く、ブランドコレクターになるケースも少なくありません。これは、彼らが商品やサービスに対して深い共感を抱き、その成長や発展を見守りたいという思いがあるからです。
なので、この様な特徴を踏まえるとなおのこと、ブランド(日本企業)側が彼らの興味や価値観に寄り添い、洗練されたストーリーテリングを通じて魅力を伝えることが重要だと感じています。
【参考】インタビューをしたAun氏は個人的に大の日本好き。2歳の息子さんと日本旅行をした際のこのお写真をとても気に入ってるそうで、日本の優れたストーリーがある商品やブランドに強い関心を示していました。
【3】横の繋がりやコミュニティ単位での訴求
富裕層マーケティングでは、信頼できる情報交換ができるコミュニティ作りが非常に重要です。
なぜなら、富裕層は富裕層同士で情報を共有し合うことが多く、信頼できる情報源として同じレベルの人たちからの口コミを大切にしているからです。
これが、会員制クラブや限定的なイベントに高い価値を見出す理由にもなっており、こうした場では参加者同士が自然に情報交換を行い、信頼関係を深める社交の場になっています。
Tatlerが主催するイベントは、まさにこの情報交換の場としての役割を強く意識しています。参加者が一流のラグジュアリーブランドや新製品について互いに意見を交換し、体験を共有することで、イベントの効果はさらに広がります。
実際に、1つの商品のPRイベントが行われた後、参加者がその商品について口コミを広め、Tatlerの富裕層コミュニティ内での影響力が相乗効果を生み出すことがあります。これは単なるイベントを超えて、長期的なブランド価値の向上に繋がります。
ルイ・ヴィトンとTatlerの「Queen Bee」キャンペーン事例
コミュニティの力を活かした具体的な事例として、ルイ・ヴィトンとTatlerがコラボレーションして行った「Queen Bee」キャンペーンがあります。
このキャンペーンでは、シンガポールの富裕層市場をターゲットに、インフルエンサーのレイラ・ピ(Layla Pi)氏とその友人たちを主役に据えた特別なショッピング体験が提供されました。
レイラ・ピ氏に近しい友人関係を通じて、彼女のコミュニティに対してラグジュアリーでプレミアムなブランドイメージを強く打ち出すことができたのです。
【出典】Tatler Webメディア, What went down at Tatler’s Louis Vuitton ‘Queen Bee Shopping’ afternoon with Layla Pi and friends, Jun 28, 2024

このようなキャンペーンは、単なる広告やPR活動とは異なり、ターゲットとなる富裕層に直接的かつパーソナルな体験を提供することで、ブランドの信頼性を高め、より深い関係性を築くことができます。
また、こうした体験は、富裕層の間で自然に口コミとして広がり、ブランドの認知度と好感度をさらに押し上げる効果を持っています。
富裕層マーケティングにおいては、商品の品質や価格だけでなく、顧客同士が信頼できる情報を交換し合えるコミュニティ作りが非常に重要です。
「Queen Bee」キャンペーンのように、限定的な特別体験を通じて、富裕層の間で自然な口コミを広めることができれば、ブランドの価値はさらに高まります。
富裕層向けのマーケティング施策を展開する際には、この「コミュニティの力」を活かした戦略を積極的に取り入れることが成功への鍵だと感じます。
さいごに
シンガポールの富裕層市場は、日本企業にとって魅力的なターゲットです。
本記事では『Tatler Singapore』編集長Aun Koh氏のインタビューを基に、シンガポールの富裕層市場で成功するために必要な以下の3つの重要ポイントをご紹介しました。
(1)パーソナライズ化可能なデータベースの構築
Tatlerが富裕層から絶対的な支持と認知を得ている理由は、綿密な顧客データベース管理にあります。
富裕層の嗜好や関心事を詳しくデータ化し、それを基にパーソナライズされたイベント招待やコミュニケーションを行うことで、高い効果を生み出しています。
これからシンガポールの富裕層市場に進出したい場合は、同様に顧客データの収集と活用方法を事前に検討しておきましょう。
(2)顧客の価値観とライフスタイルにあうストーリーテリング
シンガポールの富裕層は単なる高級品ではなく、ブランドの背景にあるストーリーや価値観を重視しています。
例えば「木村硝子」で紹介された伝統とモダンを融合させた独自のブランドコンセプトは、顧客のニーズに共鳴している良い事例でした。
商品やサービスを提供する際は、富裕層の価値観を踏まえた上で丁寧にブランドや商品のストーリーを伝えられるように事前に準備しましょう。
(3)コミュニティ単位での訴求
富裕層は同じコミュニティーに属する人々からの情報を信頼する傾向があります。
Tatlerがルイ・ヴィトンとのコラボレーションで行った「Queen Bee」キャンペーンのように、富裕層同士が情報交換できる場を設けることで、自然な口コミが生まれ、ブランドや商品の訴求を図ることができます。
コミュニティ単位に向けて考えられる施策がないか、検討しましょう。
自社の製品やブランドが持つ魅力を活かしつつ、現地の文化やターゲットとなるシンガポール富裕層の価値観や実情に寄り添ったマーケティング戦略を展開することが、シンガポール富裕層市場での成功への道となります。
同時に、こうした取り組みは一朝一夕には結果が出ないため、長期的な視点でのアプローチも不可欠です。
本記事でご紹介したポイントを押さえつつ、Tatlerのようなメディアや影響力のある富裕層を活用することで、シンガポールの富裕層市場での成功確率を高めることができます。
シンガポールの富裕層マーケティングについて、現地市場に根ざしてサポートができるTatlerや弊社へご質問やご相談がある方はぜひお気軽に以下のフォームよりご連絡ください。
日系企業の海外富裕層向けビジネスの更なる発展と成功を心から願っています。





