なぜシンガポールに世界中からスタートアップ企業が集まるのか?
世界中の起業家や投資家が注目するシンガポール。
JETRO Singaporeレポートによると、2021〜2022年に東南アジアで誕生した新興ユニコーン企業のなかで、シンガポール拠点のユニコーン企業は13社以上誕生したとも報じられており、この数字からもシンガポールが世界中のスタートアップを引き寄せる拠点となっていることがうかがえます。
ではなぜ、シンガポールはここまでスタートアップの集積地として台頭しているのか。
本記事では、
- スタートアップ企業を魅了するシンガポールの制度や環境
- スタートアップがまず目指す資金調達の成功パターン
こういった点について深堀りしていきます。
様々な文献を参考にし、周囲のシンガポール起業家や投資家にインタビューしながら生の情報をまとめました。シンガポール進出を検討するスタートアップ企業の方はぜひ参考にしてください。
【理由1】熟練人材の確保がしやすく、規制緩和が進んでいて、資金調達しやすいから
シンガポールにスタートアップ企業が集まる理由は、シンガポールには若くて優秀なSTEM人材や有能なテック業界関係者・経営人材が国外から集まっており、テクノロジーのインフラが世界的にみても整っているからです。
たとえば資金調達の面では、シンガポールにはアジア全体に影響力を持つベンチャーキャピタル(以下、VC)やエンジェル投資家が集まっているので、資金調達の機会も豊富。
特にシンガポールのスタートアップ業界には、Golden Gate VenturesやSequoia Capitalなどの有名なVCをはじめ、約1,180のVCが存在しており、シンガポール政府も「スマートネーション戦略」を推進するためにスタートアップ企業に対して積極的に支援をしているので、手厚い環境が整っていると言えます。
また、政府は優秀な人材を採用する支援や大学や研究機関などとの連携をスムーズに行えるような環境を整備するサポートも行っています。
スイスの名門ビジネススクール IMD(International Institute for Management Development) が発表する「IMD World Competitiveness Ranking 2024(IMD世界競争力ランキング 2024)」では、シンガポールは2020年以来の1位を獲得し、特に「Skilled labor(熟練労働者の確保)」と「Technological Infulustracture(テクノロジーインフラ)」の部門で1位になりました。
資金調達、人材確保、テクノロジーインフラ。
この3つがいいバランスで手に入る環境があることから、シンガポールには世界中のスタートアップ企業が集まってきていると言われています。
また東南アジアのみならず、世界的にみても人材や金融資本が集まる重要なハブとなっており、KPMGの2021年のレポートによるとテクノロジーイノベーションのハブ地域としてシンガポールは2025年までの4年間の推移予想の中で1位という結果が出ています。
【理由2】法人設立・ビザ取得をすれば、資金調達がしやすいから
日本を含む海外のスタートアップもシンガポール政府からの資金援助を受けることができます。
そのためには、まずシンガポールに法人を設立し、シンガポールのスタートアップ支援プログラムを活用するのが一般的です。
とはいえ、シンガポールで法人設立をするなんて難しいんじゃないの?と思う方も多いと思います。
実際は「簡単」とは言えないものの、手順としてはシンプルで、特にシンガポールの場合はJETROや政府のサポートもわかりやすくて親切なので、どれだけ熱量や起業準備ができているかにもよるでしょう。
たとえば、JETRO Singaporeによると、従業員10名以下の法人をシンガポールで立ち上げる場合は、4ヶ月程度で設立することができるとのことです。
シンガポールでの最低資本金は特に無く、S$1(日本円で※約110円)からでも法人登記はできますが、会社設立後に「就労ビザ」の取得をする場合、一般的にはS$10万以上の資本金が必要といわれています。
法人設立に関しての詳しい情報収集には、シンガポールの通商産業省に属する政府機関であるEDBやJETRO SingaporeのWebサイトの資料が参考になります。
シンガポールに法人設立する時に最低限必要なもの
以下ではシンガポール法人を設立する際に必要な最低限の2つ、法人登録申請にかかる費用とビザについて概要をご紹介します。
設立にかかる登録申請費用は「S5」が一般的
シンガポールで法人を設立する場合、現地法人としての会社名の申請が必要となります。
申請に必要な費用は、会計企業規制庁(ACRA)へ会社名の申請費用、会社名一つにつきS$15、設立申請費用としてS$300、合計でS$315になるのが一般的です。
申請作業を外注した場合は、もちろん別途その費用がかかるので注意しましょう。
専門職や管理職、経営者向け就労ビザは「Employment Pass(EP)」
日本人がシンガポールで就労する際、原則として就労ビザの取得が必須となります。専門職や管理職、経営者向け就労ビザは「Employment Pass(EP)」となる場合が多いです。
シンガポールのビザ一覧は以下の通りなので、事前にご自身の推進したい事業の内容と照らし合わせて必要なビザを把握し、手続きをしましょう。
【政府から資金調達】スマートネーション戦略との整合性がある分野がおすすめ
シンガポール政府は「Smart Nation(スマートネーション)」構想を推進していて、デジタル化やスマート技術に関連するプロジェクトを支援しています。
そのため、デジタル身分証明やキャッシュレス決済、スマートモビリティなど、スマートネーション戦略との整合性のある分野は、政府からの支援対象になりやすいようです。
JETRO SingaporeのWebサイトに、スマートネーション戦略の中で実施されているプロジェクトについてまとめられていました。ぜひ参考にしてみてください。
【出典】日本貿易振興機構(JETRO), 勢い増すアジアのスタートアップ・エコシステム最前線 創造環境が完備、東南アジアのイノベーション最前線(シンガポール), 2024年3月27日
シンガポール政府はスマートネーション戦略を推進するために、資金面のみならず、スタートアップ企業に対して、優秀な人材を採用する支援や大学や研究機関などとの連携をスムーズに行える様な環境を整備するサポートも行っています。
主なスタートアップ企業への支援スキームについてもJETRO SingaporeのWebサイトに掲載されていたので、ぜひ参考にしてください。
【出典】日本貿易振興機構(JETRO), 勢い増すアジアのスタートアップ・エコシステム最前線 創造環境が完備、東南アジアのイノベーション最前線(シンガポール), 2024年3月27日
また、2024年10月には約510億円の追加資金を投入し、投資上限を1,200万シンガポールドルに引き上げ、ディープテック系スタートアップの成長を支援するというシンガポールのハイテク・スタートアップ支援強化策が発表されました。
今後ますます支援領域が広がる可能性があるので、ディープテック関連のスタートアップの設立を検討されている方はぜひシンガポールの今後の動向を確認してもらえたらと思います。
【VCから資金調達】出資を受けやすいケースは5パターン
シンガポールのスタートアップ業界には、Golden Gate VenturesやSequoia Capitalなどの有名なVCをはじめ、約1,180のVCが存在しており、シンガポール市場で急成長しているスタートアップをはじめ約17,400社に積極的に投資がされています。
JETRO SingaporeのWebサイトにはこのような投資ステージとセクター別のマッピングが紹介されていました。
【出典】日本貿易振興機構(JETRO), 東南アジアVCインサイト シンガポールVC約60社の分析(概要版), 2023年10月
シンガポールのVCであるVertexグループの方に独自にインタビューを実施したところ、「VCはリスクを取る代わりに、高いリターンを期待しているため、以下のようなスタートアップ企業に資金援助する傾向にある」とのこと。
- アーリーステージのスタートアップ企業
- シンガポールのVC資金の約70%がアーリーステージの企業に投入されている。
- FinTech&AI
- シンガポールのVC取引の40%はフィンテックおよび人工知能分野に集中している。
- ディープテック
- ヘルステック、ロボティクス、サステナビリティといった分野にもますます関心を寄せている。特にディープテック分野では、取引件数が36%増加している。
- スケーラビリティ
- シンガポールには多国籍企業の東南アジアの拠点が集結していることもあり、VCは、多国籍企業と連携しやすいスタートアップ、特に研究開発や技術革新を行う企業に投資する傾向がある。
- 強力な創業チーム
- 経験豊富で広いネットワークを持つ創業者が率いるスタートアップは、VCからの資金調達を得やすい傾向がある。
ディープテック系スタートアップの成長を支援するというシンガポールのハイテク・スタートアップ支援強化策が発表されたこともあるので、今後より一層ディープテック分野は注目が集まりそうです。
最新の情報や動向は現地のプレイヤーに直接会って情報収集する機会が最も有効なので、次の章ではシンガポールでスタートアップ企業を目指す方々向けのイベントについてご紹介します。
ネットワーキングイベントやピッチイベントで可能性を探ろう
政府の手厚い支援やVCの出資環境があるとは言え、シンガポール市場は、日本同様、もしくはそれ以上に競争が激しい環境です。競合も多く、日本企業が進出しても差別化が求められます。
デスクリサーチのみでシンガポールでの法人設立を検討するのではなく、まずはきちんと市場について把握した上で、中長期的にシンガポールへの進出戦略を検討して見極めないと、成功する確率は極めて低いでしょう。
特にシンガポールでのビジネスでは、意外と対面のイベントやネットワーキングの場が非常に重要な役割を果たしているので、スタートアップ企業にとってはこのようなイベントを通じて現地の投資家やパートナーとつながる絶好のチャンスが得られる可能性も多々あります。
実際、先日シンガポールでお会いしたディープテック系の法人設立を検討している方は、滞在中にありったけ参加できるだけたくさんのピッチイベントに参加して、人脈作りや可能性を模索するために情報収集しているとおっしゃっていました。
シンガポールではスタートアップ企業向けのネットワーキングイベントも多数開催されています。
代表的なネットワーキングイベントをご紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
| イベント名 | 開催頻度 | テーマ | 目的 |
| Singapore Week of Innovation & Technology (SWITCH) | 年に1度(10月) | テクノロジーやイノベーション関連のスタートアップ | グローバルリーダー、起業家、クリエイター、アクセラレーター、投資家と出会うこと |
| SLINGSHOT | 年に1度(11月) | グローバルスタートアップのピッチコンテスト | <span”>投資家に向けたピッチの実施 |
| Tech in Asia Conference | 年に1度(10月) | Startups, funding, media | Meet VCs, media, and potential partners |
| Singapore FinTech Festival | 年に1度(11月) | FinTech, innovation | Largest FinTech event in Asia |
| InnovFest x Elevating Founders | 年に1度(6月) | Tech startups, innovation | Meet corporate partners and investors |
| Echelon Asia Summit | 年に1度(7月) | Startups, tech | Connect with tech media and partners |
| Startup Weekend Singapore | 年に複数回 | Ideation, networking | Meet co-founders, partners, and investors |
| Block71 Networking Events | 毎月 | Deep tech, early-stage startups | Meet local investors and ecosystem players |
| Antler Singapore Demo Day | 年に1度 | アーリーステージのスタートアップ | Pitch to investors and partners |
| AngelCentral Meetups | 四半期に1度 | エンジェル投資家 | Meet angel investors and early-stage VCs |
| LinkedIn Local Singapore | 毎月 | Professional networking | Build business relationships |
また、以下のオンラインサービスは、シンガポールのスタートアップ業界の方々がよく活用しているものです。
ピッチイベントなどに参加する前にこれらのサービスを使える準備を整えておくと、より一層シンガポールでのネットワーキングがしやすくなるはずなので、ぜひ参考にしてください。
| サービス名 | 目的 | 使い方 |
| ネットワーキングで使うSNS | 通常のSNSと同様 | |
| AngelList | VCやリクルートで使うツール | 企業情報を登録し、資金調達を申し込む |
| Meetup.com | 現地のスタートアップとのミートアップができるツール | イベントなどへの参加申し込み |
| Tech in Asia | メディア | 情報収集 |
| e27 Community | コミュニティープラットフォーム | 情報収集 |
おまけ:英語でのコミュニケーションが必須
シンガポールの公用語は英語、中国語、マレー語、タミル語ですが、ネットワーキングイベントの場を含め、英語で会話をするのが一般的です。
現地で有益な情報を得るためには、英語でのコミュニケーション手段を確保するのが必須となることは事前に覚悟しておきましょう。
最低限、英語で自分の会社に関するエレベーターピッチ(30秒程度で自分自身や自社についてプレゼンする手法)ができないと、自分で自分がやりたい事業も説明できない経営者なのかと思われてしまうので要注意。
英語力に自信がない場合は事前に準備しましょう。

さいごに
シンガポールでのスタートアップ企業設立と事業展開は、とてもチャレンジングではあると同時に世界レベルのチャンスや人材に出会える可能性がたくさんあります。
我こそは!という日系企業のスタートアップがシンガポールに誕生するきっかけに本記事が少しでもなったらうれしいです。
弊社はシンガポールに15年以上拠点を置くマーケティング会社として、日本企業がスムーズに現地市場に適応し、成功するためのサポートを提供しています。
シンガポールでの法人設立とは別に、事業の展開や市場進出に関するご相談があればぜひお気軽にご連絡ください。






