シンガポールで支持されるフィンテック企業5社から成功の要因を探る!

フィンテックのイメージ
Share on

世界的にみても成長が著しいと注目されているシンガポールのフィンテック

シンガポールはとにかく動きが早い!政府も国を挙げてフィンテック分野を後押ししているので、規制緩和も柔軟に応じるし、実証実験もしやすいんです。

だからこそ世界のスタートアップは軒並み東京を通り越してまずシンガポールに来るといえます。体感としては、日本はもはや2~3年くらい遅れている印象です。

このブログでは、外国企業でもチャレンジしやすい環境、また最近のトレンドとしてグリーンフィンテックが急速に発展しているこの国で成功しているフィンテック企業のマーケティング事例を紹介します。

長年シンガポール現地にいる私が肌感でも「このフィンテック企業は盛り上がってるな」と思う企業をピックアップし、その成長の裏側についてお話します。今後シンガポールへの進出を考えているフィンテック企業はぜひ参考にしてください。

 

 

【1】Grab(B to C・シンガポール企業)

Grabは2012年にシンガポールでサービスを開始しました。当初は配車サービスプラットフォームでしたが、その後、フードデリバリー、デジタル決済、金融サービスへとサービスを拡大しています。

今では全シンガポール人がGrabを持っていると言えるほどのアプリに成長しました。

特に同社のモバイルウォレットおよび決済プラットフォームであるGrabPayは月間3,500万人以上のアクティブユーザーを保持。シンガポールだけでなく東南アジア全体に浸透し、東南アジアを周遊するにはGrabアプリがないと無理とも言われるほどです。

実はUberも一度シンガポールに参入しましたが、Grab人気がすごすぎてあのUberでさえシンガポールから撤退しました。

このGrabの成長ぶりの裏にあるのは、シンガポール政府のアシストです。シンガポール企業ということもあり、政府とがっつり手を組んで国中に浸透させていったという背景があります。

だとすると日系企業にとっては難しいのでは?と思われるかもしれませんが、シンガポール政府は国内企業に限らずフィンテックのスタートアップ誘致に積極的で、かなりサポートしてくれます。

 

いまだにブランド認知拡大に積極的

スタート当時は、ユーザーを増やすためにPayPayのようにキャッシュバックキャンペーンを行ったり無料のカードを配ったりしていました。

そして生活インフラの一部と言えるほど成長した現在でも、いまだに積極的なブランドの認知拡大を狙ったマーケティングを行っています。

具体的にはInstagramやYouTubeなどのプラットフォームを活用したデジタルマーケティングはもちろん、屋外広告や、車両やバス停に目を引く広告を掲載しています。交通広告・屋外広告は「OOH(Out of Home)」とも呼ばれますが、シンガポールと日本ではだいぶ事情が異なっており、シンガポールでは年々広告が掲載できるビルボードや看板などが増加傾向にあり、OOHの広告費用が増えています。

以下の記事ではシンガポールの交通広告・屋外広告事情について詳しくまとめているので、気になる方はぜひ参考にしてください。

シンガポールの交通広告・屋外広告事情|現地メディアプランナーが解説

シンガポールの交通広告・屋外広告事情

また、Grabのマーケティング活動でもうひとつのユニークな特徴は、店舗内でのブランディングです。パートナー店舗にGrabPayのオプションを示すステッカーを掲示し、消費者に支払い機能について直接的に思い出してもらうようにしています。

これだけシンガポール人の必須アプリという存在であっても、忘れ去られないようにブランドをアピールし続けることが必要だと感じます。

Grabの広告

【出典】Grab Webサイト, Earn Extra Income with Grab Ads

 

シンガポール人のアスリートをアンバサダー起用

Grabは初のシンガポール人ブランドアンバサダーとして国民的アスリートスター・バドミントンチャンピオンのロー・キアン・ユー氏を任命しています。

国土が小さいシンガポール国内で広く人気を博しているロー氏の親しみやすい人柄とスポーツマンシップを、Grabのブランドイメージに活かし、 ロー氏を起用したキャンペーンを通じて、より身近で信頼できるブランドイメージを訴求しています。

シンガポールの国民的アスリートスター・バドミントンチャンピオンのロー・キアン・ユー氏を起用した広告

【出典】Grab Webサイト, Grab Singapore Announces Top Local Shuttler Loh Kean Yew as First-Ever Brand Ambassador, September 29, 2022

 

Singapore Fintech Festivalでも新しい試みを発表

東南アジアのデジタル資産決済インフラ・プロバイダーであるStraitsXと協働し、シンガポールで開催される世界最大級のフィンテックカンファレンス「Singapore Fintech Festival 2022」の期間中に、商業用デジタルバウチャーの形で目的限定マネー(PBM)を試験運用しました。

業界に特化したイベントで最新のテクノロジーを披露することとなり、注目を集めました。

StraitsXとGrabの取り組みに関する記事

【出典】StraitsX Blog, StraitsX and Grab pilot use of Purpose Bound Money during Singapore Fintech Festival 2022, October 31, 2022

その後、2024年11月に世界30以上の決済パートナーを通じて16億人以上の消費者を結びつけ、シームレスなクロスボーダー決済を可能にしているAlipay+を運営するAnt Internationalも加わり、ブロックチェーン・ベースの新しいクロスボーダー決済システムを立ち上げました。

これにより、観光客はAlipay+のネットワークを通じて、Alipayやカカオペイなどの決済アプリを使い、シンガポールのGrabPay加盟店で支払いを行うことができるようになるとのこと。

多民族国家で国外への往来が頻繁に発生しやすいシンガポールにとって、かなりの朗報に聞こえます。

GrabとStraitsXとAnt Internationalの取り組み

【出典】Fintech News Singapore, StraitsX Enables Stablecoin-Based Payments for Tourists at GrabPay Merchants, November 5, 2024

 

マクドナルドやSHEINなど大手ブランドとの提携

GrabPayがマクドナルドで採用され、店舗、ドライブスルー、McDelivery、マクドナルドアプリのモバイルオーダーで利用すると、GrabRewardsポイントやその他の特典を獲得できるサービスを開始。

大手オンラインアパレルブランドSHEINとも提携し、大手企業との連携でより一層利用者のインフラとしての地位を確立しています。

マクドナルドとの提携

GrabRewardsポイントのサービス画面

【出典】Grab Webサイト

【2】Blackline (B2B・ シンガポール企業)

Grabと同じくシンガポールを拠点とするシンガポール企業のBlackLine。財務・会計(F&A)の主要プロセスを自動化、集中化、合理化するクラウドソリューションを提供しています。

世界中で4,300社以上の顧客を持ち、Googleやコカ・コーラ、Netflixといった大手企業もそのサービスを利用しています。特に大企業や中規模企業の間で人気があると言われており、決算業務や企業間会計プロセスの自動化に重点を置いています。

従来は複雑だったこれらの業務を直観的に操作できて簡単に処理できるように工夫されており、企業の財務効率の改善とエラーの削減をサポートしています。

財務業務に関わる情報を統合・編成・可視化する「BlackLine Studio360 Platform」と、記録からレポート作成、請求書から現金化までのプロセスを一元化・標準化・自動化できる「BlackLine Applications」があります。

Blacklineサービス概要

【出典】Blackline Webサイト

LinkedIn広告を効果的に活用

BlackLineのマーケティング活動を見ていると、財務の専門家や企業をターゲットとしていることは明確で、特にビジネスパーソンが利用するSNSであるLinkedIn」での広告を効果的に活用しています。

LinkedIn」は日本でも最近利用者が増えていますが、世界中に7億5600万人の会員数を誇る、ビジネスのネットワーキングではダントツのNo.1のSNSです。

シンガポールではよくBlackLikeの広告が流れてくるのですが、キャッチコピーがかなり具体的で特定のターゲットにアプローチしているのがわかります。例えば、以下の広告のキャッチコピーでは、「従来の請求書から現金化までのプロセスの制約にうんざりしていませんか?(Tired of the limits of your traditional invoice-to-cash process?)」と、財務に関わる人々の悩みを具体的に言語化しています。

 

自社でセミナーを開催

BlackLineはシンガポールのMarina Bay Sandsにあるエキスポ&コンベンションセンターでセミナーイベント「The Bottom Line」を頻繁に開催しています。

一般的な財務上の課題に対する専門家のアドバイスやソリューションが得られる場となっており、「財務関連のトランスフォーメーション」を推進することがテーマ。

会計プロセスの自動化や最適化に関心を持つプロフェッショナルに向けて実施されています。企業の財務部門や会計部門のリーダーや担当者、CFO(最高財務責任者)、デジタル化やプロセス改善に関わる方々が主な参加者です。

これからBlackLineを導入しようとする企業、既に利用している企業のどちらも参加することができ、最新の事例やソリューションを学ぶ機会にもなっています。

BlackLine独自のイベント情報

【出典】BLACKLINE Webサイト

【3】Tiger Brokers(B2C・中国)

2014年に北京で設立された大手オンライン証券会社で、主に個人投資家が世界中の市場で取引を行うためのプラットフォームを提供している企業。

シンガポール市場ではB2Cの事業に重点を置いており、ユーザーに株式、オプション、REITなど幅広い金融商品へのアクセスを提供しています。

代表的なサービスは「Tiger Trade」というトレーディングプラットフォームで、これを通じてユーザーはアメリカ、香港、中国、オーストラリアなどの複数の市場で株式、オプション、ETF、先物取引を行うことができます。

初心者にも使いやすいUIで、リアルタイムの株価、詳細なチャート、ニュース、財務分析ツールなどを提供しています。手数料の低さや、幅広い市場へのアクセスが可能になっていることから、若年層の個人投資家から人気を集めています。

 

Above-the-Line(ATL)広告を活用したマーケティング戦略

従来の広告とデジタル広告の両方を含むマルチチャネルのマーケティング戦略を採用しており、バスのラッピング広告、バス停、地下鉄(MRT)の駅構内の広告、目立つ建物などでの広告など、露出が目立つメディアへの広告出稿を積極的に実施している印象が強くあります。

また、シンガポールの金融界でよく知られているラジオ番組「MoneyFM 89.3との提携を通じて、ラジオを通じた情報発信も行なっています。

教育コンテンツやブランドメッセージ

YouTubeやInstagramなどのデジタルマーケティングプラットフォームで積極的な訴求を行なっており、2021年には「Fortune Times Awards」でアジアで最も革新的な企業に選出されました。

特徴的なのは、教育コンテンツやブランドメッセージを通じてユーザーを引き付けるショート動画と長編動画の広告を組み合わせて展開していること。ショート動画には、シンガポールの若いビジネスパーソンのライフスタイルをイメージした内容のものや、アプリの使いやすさを訴求したものが特に有名になりました。


【出典】Tiger Brokers Singapore Youtube, Why We Invest?(長編動画の事例)

大型イベントのスポンサーで認知度とブランド力を高める

Tiger Brokersは知名度を高めるために注目度の高いイベントへの投資を実施しており、2020年に開催された世界最大級のフィンテックカンファレンス「Singapore Fintech Festival(SFF)」にはシルバースポンサーとして参加しました。

ブース出展はしていなかったのですが、このような業界の主要イベントにスポンサーとして参加することで、業界内での信頼性と認知度を高めようとしていることが垣間見れます。

 

トラの保護活動を通じてCSR活動も

自社の行動が社会や環境に与える影響を考慮し、ポジティブなブランドイメージを確立することを目的としたCSRの取り組みにも積極的であることもTiger Brokersの特徴です。

シンガポールでは、WWF(世界自然保護基金)シンガポールと提携し、会社の名前にちなんで世界的なトラの保護活動に重点的に取り組んでいます。

Tiger Brokersのトラの保護活動

【出典】Tiger Brokers, Tiger Brokers Partners with WWF-SINGAPORE, 2022-02-28

【4】Prive Technologies(B2B・香港)

2010年に香港で設立されたB2Bの資産運用マネジメントに関するソリューションを提供するフィンテック企業で、2016年にシンガポールに支社を開設しました。

リテールやプライベートバンク、資産運用会社、その他の投資関連企業を含む金融機関に対して、資産や投資業務を管理し、規模拡大を支援するように設計されています。

現在では香港とシンガポール以外の6か国への進出を果たし、アジアで最も急成長しているフィンテック企業のひとつとなっています。

Prive Technologiesのサービスイメージ

【出典】Prive Technologies Webサイト

 

自社ブログでトレンド発信し、オピニオンリーダーとしてのプレゼンスを高める

フィンテックの現状に関する有益な情報や、教育的なコンテンツを提供するブログを自社のウェブサイト内で更新しており、SEO戦略(検索エンジン最適化)を積極的に実施しています。

ブログでは、AI、サイバーセキュリティ、金融サービスにおける進化する規制など、トレンドの話題や関心の高いトピックに焦点が当てられており、業界内で一目置かれるメディアに成長。オピニオンリーダーとしての地位を確立しています。

SEO戦略の結果、フィンテックのイノベーションやソリューションに関する情報を探している潜在顧客が、Prive Technologiesをより簡単に発見できるようになっています。

またWebサイトを訪れた読者には、教育用の資料の中で最新の製品やサービスに関する最新情報を提供しているため、サービスの情報に触れられるようになっています。

Prive Technologiesのブログ

【出典】Prive Technologies Webサイト

 

魅力的なコンテンツで業界メディアへの積極的露出

世界中のビジネスコミュニティで信頼されているメディア「Finextra」などの著名なニュースメディアでも取り上げられており、積極的にメディア露出を図っています。

こうしたPR活動によって、業界内でのブランド認知度と信頼性が強化でき、潜在的な顧客にリーチできる可能性も広がります。

潜在的な顧客がこれらの評判の高い情報源からPrive Technologiesのことを知れたら「フィンテックにおける信頼できるパートナー」として認識する可能性が高まり、顧客の育成と獲得につながります。

 

LinkedInの運用強化と有料広告の活用

B2Bマーケティングに不可欠なプラットフォームである「LinkedIn」では強力な存在感を示しています。

フォロワー数は5,000人超ですが、業界の専門家、意思決定者、およびインフルエンサーのオーディエンスを多く抱えており、こうしたユーザーのニーズに合う情報提供を積極的に「LinkedIn」内で実施しています。たとえば業界のオピニオンリーダーによる記事や、製品アップデート、会社のマイルストーン、業界ニュースなど。

これにより、フォロワーの関心を引き続けるだけでなく、フォロワーが投稿に反応することでリーチが拡大し、「LinkedIn」のネットワーク効果を通じて認知度がさらに広がります。

Prive TechnologiesのLInkedIn

【出典】Prive Technologies LinkedIn

【5】Stripe(B2B・アメリカ)

2016年にシンガポール市場に参入したグローバルなフィンテック企業で、オンライン決済の受付けを支援する幅広い決済処理ソリューションを提供しています。

日本でも利用者が多い印象がありますが、スタートアップ企業、eコマースプラットフォーム、サブスクリプションサービス、その他のB2B SaaS企業など、あらゆる規模の企業を対象としているため、オンラインで事業を展開する企業から個人で店舗ビジネスを行う人まで、幅広く利用されています。

口コミから最大手グローバル企業へ

従来のB2Cマーケティング戦略とは異なり、B2B企業であるStripeのアプローチは口コミマーケティングに注力しており、この戦術は驚くほど効果的でした。

特に競合他社では解決できない問題を「Stripeなら解決できる」という口コミが広まていたので、信頼できるサービスとしての認知を広げていました。

実際に私自身の生活のなかで利用するeコマースプラットフォームでの決済は、ほぼ全てStripeを使っているので、口コミ拡散の様子を見ていても納得でした。

 

主催イベントで業界をリード

Stripe Tour Singapore」という自主イベントを開催しています。業界のリーダーたちが集まり、決済とフィンテックの最新トレンドについて議論するイベントで、この場を通じてStripeは自社の専門知識を披露し、ネットワーキングのプラットフォームを提供しています。

参加者からの評判を高め、新たなパートナーシップを構築する目的でも実施されています。

 

各国の大手企業とのパートナーシップ

主催するイベント「Stripe Tour Singapore」で、Stripeのサービスを利用してグローバル展開を図る企業のLG Electronicsや、大手モバイル通信事業者のM1 Limited、東南アジアの配車アプリのTADAといった大手ブランドとの提携が発表されました。

こうした戦略的提携は、Stripeの存在感を増大させ、さまざまな業界における適応力を際立たせることになるので、今後もますますシンガポール市場で注目を集めるのではないかと感じます。

Stripeのシンガポール市場でのパートナー戦略

【出典】Foundation, How Stripe Grew $63B in 12 Years Using The Power of Content & Design Excellence, April 3rd, 2024

さいごに

以上、シンガポールで目立っているフィンテック企業に関する現地市場へのマーケティング活動についてご紹介させていただきました!

日系企業で現在開発している技術やサービスも、これらのシンガポール市場のプレイヤーの取り組みを参考に、彼らと上手く協業したり、ニッチな市場やニーズを狙えばそのまま本格的なビジネスとして展開できるチャンスもあります。

「シンガポールで何かやってみたいけど、なにからすればいいかわからない」と感じられた方は、ぜひ以下のフォームかメールで弊社までお気軽にご相談ください。