トレンドが生まれる起点は?シンガポールで流行する事例分析でわかるポイント
「日本では当たり前に売れていたのに、なぜシンガポールでは伸びないのか?」
シンガポール市場への進出から2年ほど経ち、本社への報告書を前にこのように感じられている担当者の方は少なくないはずです。
日本で磨き上げた施策をやってみたら、反応が鈍い。
SNSで一瞬話題になっても、行列はすぐに消える。
一方で、隣の店には連日人が並んでいる。
その差は、いったいどこにあるのでしょうか?
確かにシンガポールは、トレンドが生まれやすい市場です。しかし企業にとって本当に重要なのは、一時的なブームで終わらせないことであり、人々の生活の中にブランドを定着させることです。
では、どのようなブランドが成功し、どのようなブランドが消えていくのか。本記事では、シンガポール市場で「定着するブランド」と「消えるブランド」を分ける視点をお伝えします。
日本流が通用しない理由とこれからの戦略を再構築するためのヒントを、現地で観察してきた事例とともに紐解いていくのでぜひ参考にしてください。
なぜシンガポールではトレンドの移り変わりが速いのか
SNSを見ていると「オーストラリアの人気ヨーグルトアイスYochiが初出店!」という投稿でタイムラインが溢れていました。
気になってショッピングモールに行ってみると、驚きの光景が。なんと、ヨーグルトアイスを買うための行列がモールの中に収まりきらず、外まで続いていたのです。
【出典】EATBOOK, Yo-Chi to open second store in Singapore, 2026年4月2日
なぜシンガポールでは、このような現象が頻繁に起こるのでしょうか。背景には、シンガポール特有の市場構造があります。
① 市場規模が小さい
シンガポールの国土は、東京23区と同程度のサイズです。市場規模がコンパクトなため、新しいブランドや店舗が登場すると、短期間で多くの人に認知されやすい特徴があります。
一方、日本は市場が大きいため、たとえ人気ブランドが誕生しても、特定のエリアやコミュニティに留まり、全国的な話題になるまでには時間がかかることも少なくありません。
② デジタル化が非常に進んでいる
シンガポールのインターネット利用率は約96%(日本は約86%)。若年層だけでなく、中高年層も日常的にSNSを活用しています。
そのため、新しいブランドやトレンドの情報はSNSを通じて一気に広がり、短期間で多くの人が同じ情報に触れることになります。
③ 輸入依存型・多文化市場
シンガポールは多民族国家であり、食品や商品の多くを輸入に依存しています。そのため、世界で話題のブランドへの関心が常に高く、新規上陸ブランドに対しても抵抗がなく、むしろ積極的に受け入れられる市場です。
また、デジタル化の影響もあり、食文化だけでなく、エンタメやカルチャーコンテンツなども海外のトレンドがすぐに取り入れられます。

このように、市場規模の小ささ・SNS普及率の高さ・海外文化を受け入れやすい環境が組み合わさることで、シンガポールではトレンドの立ち上がりと衰退のサイクルが非常に速い市場が形成されています。
ですが、企業にとって理想なのは、単なる一時的なブームで終わるのではなく、人々の生活の中にブランドが定着することです。
では、どのようなブランドが定着し、どのようなブランドが消えていくのでしょうか?
ここからは、成功例と失敗例をもとに、その違いを分析していきます。
定着するブランドと消えるブランド【事例分析】
成功例:YAKINIKU LIKE(焼肉チェーン)
2020年に上陸し、現在は繁華街から住宅街まで幅広く13店舗を展開するYAKINIKU LIKEは、「ひとり焼肉(solo-dining BBQ)」という明確なコンセプトで開店時から注目を集めました。
開店後には類似コンセプトの店舗がシンガポールに続々と登場するほどの話題性を生み出しています。
バズが落ち着いた今でも人気を保ち続けている理由は、シンガポールの食文化に合ったコンセプトでリピーターを獲得していることに加えて、「1kg beef mountain」のような斬新なキャンペーンでメディアへの露出を継続し、認知を拡大し続けていることにあります。
また「Solo-dining BBQ」と翻訳された「ひとり焼肉」という文化はシンガポールにはまだなく、外食頻度の高い現地の食文化とも親和性が高かった。
実際にシンガポールで有名な美食チャンネル「I eat, I shoot, I post」のYoutubeではYAKINIKU LIKEが特集され、「Solo-dining BBQ」がカプセルホテルや一人カラオケといった「おひとり様文化」と並んで、日本ならではのコンセプトだと紹介されてます。
加えて、看板に表示された「Tasty Quick Value」というわかりやすい特徴が支持されている様子や、シンガポールではサービスチャージが課せられるためメニューに表示される金額よりも請求額が多くなることがあるのですが、YAKINIKU LIKEでは「書かれている金額が請求金額と同じである」ことも支持されています。
このように、YAKINIKU LIKEには一時的なブームにとどまらず、シンガポールで生活する人々の日常の選択肢として自然に溶け込んでいくポイントがたくさんあり、長期定着の大きな要因になっていると考えられます。
失敗例:Say Chiizu(チーズトースト)
タイの屋台発祥のブランド「Say Chiizu」は2018年に上陸し、SNS映えする伸びるチーズトーストで一世を風靡しました。
テイクアウト専門の売店スタイルで繁華街を中心に人気を掴み、4店舗まで拡大。チーズが伸びる様子を撮影したユーザーがSNSに多く写真投稿をし、ブランドの認知拡大を後押ししました。
【出典】burpple, More Reviews at Say Chiizu (313@Somerset)
しかし「映え」そのものが人気の源だったため、「伸びるチーズ」の新鮮味が失われたタイミングで客足は徐々に減り、翌年には撤退することになりました。
この失速は、単に「インスタ映えに頼りすぎたから」と片付けられるものではありません。本質的な問題は、その先に進めなかったことにあります。
チーズが伸びるビジュアルは確かに強力で、SNS上で拡散され、行列を生み、短期間で認知を獲得するには十分すぎる武器だったとも言えます。ただし、それはあくまで「入口」に過ぎません。
シンガポールの飲食市場において、ブランドが生き残るために必要なのは話題性ではなく習慣化です。YAKINIKU LIKEのように、現地の人々の生活の中に入り込み、日々の生活の選択肢の一つに入るという状態を作れなければ、どれだけ話題になっても長く続きません。
「Say Chiizu」は最後まで「チーズが伸びるトーストのブランド」という枠から抜け出せず、商品そのものは認知されたものの、それを食べる理由やシーンを定義できなかったことが撤退につながったと感じます。
【出典】EATBOOK, Say Chiizu Review: BKK’s Stretchy Cheese Toast Finally Arrives In Singapore, 16th January 2018
もしこのブランドに再現性のある成長戦略があったとすれば、それは商品ではなく体験を設計することだと考えられます。
たとえば「3時のおやつ」というポジションを狙うなら、単にトーストを売るのではなく「ちょっと一息つくための温かい軽食」としての体験そのものを設計することができたかもしれません。
また、YAKINIKU LIKEのキャンペーンの事例のように、ドリンクとのセット化やトッピングのバリエーション、期間限定フレーバーなどの施策を通じて、来店の動機を繰り返し生み出す仕組みを作ることなども重要だったはずです。
シンガポールで「選ばれ続ける」ために必要な視点
海外ブランドにとって、既存のブランド力は間違いなく大きな武器になります。上陸時の話題性や信頼感を一気に高め、短期間で認知を獲得するうえでは非常に有効です。しかし、そのブランド力はあくまで「入口」に過ぎません。
特にトレンドの移り変わりが激しいシンガポール市場では、長期的に定着するかどうかを分けるのは、そのブランドがどのように現地の生活者に愛用されるかにかかっています。
現地にいる「誰が・どんなタイミングで・どんな気分のときに選ぶのか」という生活の中での役割を検討して提供する必要がるのです。
例えば、今回ご紹介したYAKINIKU LIKEは「ひとり焼肉」という明確な利用シーンを提示することで、外食頻度の高いシンガポールにおいて日常の選択肢として自然に溶け込みました。
一方のSay Chiizuは、強いビジュアルと話題性を持ちながらも、その先の利用シーンを定義できず、生活に入り込む前に一過性のトレンドとして消費されてしまいました。
トレンドの立ち上がりが早い分、消費者の関心が移るスピードも速いシンガポール市場において重要なのは「どれだけ知られるか」ではなく、「どれだけ生活に溶け込み、選ばれ続けるか」です。だからこそブランドは、単なる話題の対象になりバズることではなく、日常の中で繰り返し選ばれる生活習慣の一部として入り込む必要があります。
ブランド力が「人を集める力」だとすれば、こうしたコンセプトの設計力は「生活に寄り添い、選ばれ続ける力」だとも言えます。この2つを切り分けて設計できるかどうかが、シンガポールという市場で生き残れるかを大きく左右します。

さいごに(市場を理解することが第一歩)
「なぜ伸びないのか」という問いに、明確な答えを出せずにいる方も多いのではないでしょうか。
実施している施策が悪いのか…
販売する商品が市場に合っていないのか…
タイミングの問題なのか…
情報が限られた中で判断を迫られる状況は、決して楽なものではありません。
ですが、現場に対して「何かが違う」と感じていること自体が、すでに正しい問いを立てられていて、前進する一歩を歩めている証拠だと自信を持ってもらえたらと、日本企業のシンガポール進出をご支援してきた立場から感じます。
大切なのは日本で通用した戦略や考え方をそのまま踏襲して海外市場で成功することではありません。市場の構造を理解したうえで、現地の生活者に「どう使われるか」を起点にコンセプトを再設計するという、この記事で一貫してお伝えしてきた視点を軸にするだけで、施策の手応えは大きく変わります。
弊社では、シンガポール現地での深い知見と実務経験をもとに、ブランドの市場定着に向けたマーケティング戦略の立案から実行まで一貫してサポートしています。
「何から手をつければいいか分からない」という段階からでも構いませんので、ご相談をご希望の方はぜひ以下のフォームよりご連絡ください。皆さんの挑戦を、現地から全力でサポートさせていただきます。
本記事が海外市場で長く愛される進出を実現したい日本企業のご担当者様にとって、参考になればと心から願っています。



