シンガポール政府発表の高齢化アクションプラン2023を日本語で解説

シンガポールの高齢者・店番中の様子
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シンガポールの保健省(Ministry of Health)は、2023年1月に2023 Action Plan for Successful Ageing(2023年度 高齢化を成功裏に迎えるためのアクションプラン)」を発表しました。

この計画は、2015年に発表された内容の改訂版で、高齢者が健康に過ごせる社会作りの実現に向けた方針や目標がまとまっているのですが、実はシンガポールのシニア市場への進出を検討する企業にとって「必見の書」となっています。

なぜなら、シンガポールでは政府のアクションプランに基づいて国からの助成や支援が積極的に展開されるため、実際にビシネスが動く傾向が多く、アクションプランで謳われている内容はビジネスチャンスとなる可能性が非常に高いからです。

実際に「シニアの雇用創出」を目標として掲げた2015年のアクションプランに追随するように、55~64歳の高齢者が働く割合は、2010年の59%から、2022年には70%と大きく増加。65歳以上の割合は17%から約2倍の31%にまで伸びています。

このほかにも、2015年のアクションプランで目標とされていた内容に対し、すでに数多くの取り組みが実施されているため、2023年に発表された内容に対しても、近い将来具体的に動き出す見込みです。

今回はそのようなシンガポール市場の動向を左右し、ビジネスチャンスを垣間見ることができる2023年のアクションプランを、事例や現地生活者目線でお届けできる情報とあわせてご紹介いたします。

シンガポールのシニア市場への展開を検討している日系企業の皆様の参考になれば嬉しいです。

市民参画型でまとめられたアクションプランのポイントは3つの「C」

シンガポールでは2015年に策定されたアクションプランを機に、全ての年代の人々が暮らしやすい国になるよう、以下のような取り組みが実施されてきました。

  • 働く機会や学ぶ機会を提供
  • 若い世代との交流の場を設置
  • 移動しやすい環境づくり

2015年にシンガポール政府により策定されたアクションプランの実績

【出典】Singapore Ministry of Health, Living Life to the Fullest | 2023 ACTION PLAN FOR SUCCESSFUL AGEING

2023年に発表された『2023アクションプラン』は、シンガポール政府が2019年から40回以上の議論を重ね、合計5,000人以上の国民を巻き込んで作られたものです。

そのため、シンガポールの人々が自分自身の「エイジングジャーニー(高齢化していく人生)」をリードできる社会づくりを担うコミュニティのイニシアチブに焦点を当て、以下の3つの「C」を軸としてまとめられています。

  1. 高齢者のケア(Care)
  2. 高齢者による社会貢献(Contribution)
  3. 世代間や高齢者同士のつながり(Connectedness)

2023年に発表された『2023アクションプラン』における3つのポイント「Care」「Contribution」「Connectedness」

【出典】Singapore Ministry of Health, Living Life to the Fullest | 2023 ACTION PLAN FOR SUCCESSFUL AGEING

これら3つの「C」軸に、余生を最大限に楽しむことができる社会づくりを支援していくというのがシンガポール政府の方針と考えられ、関連する事業への助成や政府の支援が今後ますます増えると予想されます。

以下では、それぞれのセクションに対してより具体的に『2023アクションプラン』で述べられている内容を、日系企業のシンガポールシニア市場進出をご支援させていただいている弊社独自の視点で厳選し、すでに取り組みが始まっている事例とともにご紹介していきます。

自社のサービスや商品などに関連性の分野があると思われる方は、ぜひシンガポールのシニア市場進出に向けた参考になれば嬉しいです。

【1】世代間や高齢者同士のつながり(Connectedness)

『2023アクションプラン』では、高齢者がデジタルでも物理的にも、社会や愛する人とつながりながら、地域で元気に年を重ねていけるよう支援する取り組みを以下のように掲げています。

高齢者にやさしい公園・庭園

国立公園局(National Parks Board)は、2027年までに島中の公園に25の治療的庭園の設置を目指し、また高齢者の心身の健康を促進する治療的園芸プログラムの促進を継続する予定。

高齢者が安心して移動できる環境整備

運輸省(MOT)と陸運庁(LTA)は、高齢者にやさしい交通手段を強化し、2025年までに50箇所のシルバーゾーンを導入し、医療機関など高齢者がよく訪れる場所の近辺にある歩行者用高架橋100件をリフト付きに改修する予定です。また、横断歩道には今までより長い時間の青信号(Green Man+)を設置し、高齢者が安全かつ安心して近隣を移動できるようになる予定です。(【参考】陸運庁(LTA), Seniors First: 7 things that make Silver Zones road safety havens, 24 Jun 2022

シニア世代を祝い、世代間の絆を深める取り組み

スポーツ、生涯学習、ボランティア活動を通じて、シニアがアクティブなライフスタイルを送れるようにするための多機関連携による取り組みとして「ナショナル・セレブレーション・オブ・シニア」が、2022年10月に初めて開催され、毎年恒例となる予定です。

Sport Singaporeでは、世代間の絆を育むことを目的とした修正スポーツ活動やプログラムを通じて、シニアと若者が交流する機会を提供する「Active Silver Hub」も開始する予定です。

シニア世代のデジタルスキルの習得支援

新型コロナウイルスの影響で顕著となった高齢者に基本的なデジタルリテラシーとスキルを身に付けてもらう取り組みを、これまでから継続して強化する予定です。

すでに実績や成果が出ている内容について、以下からより具体的にご紹介します。

日本で実施されている世代間交流の取り組みにシンガポール市場が注目

シンガポールでは、介護施設を利用するよりも自宅で介護する文化が根強いため、自宅に引きこもってしまう高齢者の引きこもりが多く、社会的な課題となっています。

また、国の文化として効率化が得意だが、人と人とのコミュニケーションや精神性に関わる知見が少ないことから、シンガポールのシニア市場ではシニア世代とのコミュニケーションや場づくりなどが課題として捉えられています。

弊社では2022年秋に、日本で親孝行サービス「もっとメイト」を展開する株式会社MIHARUと、日本の高齢化社会の現状把握をし、未来に向かって新たな価値を定義することを目的としたカンファレンスイベントAge Well Japan 2022を開催しました。

「Age Well Japan 2022」の様子

弊社からは、高齢化社会先進国である日本は、これから高齢化社会を迎える世界各国に対して先進国としてリーダーシップを取れる位置にあり、海外市場において可能性があるというメッセージを込めて、国内で活躍するシニア市場の事業者や団体と、日本の知見に興味がある海外の関係者との意見交流の場をご提供しました。

事後、続々とコラボ実績が誕生し始めており、たとえば2023年3月、シンガポール社会科学大学のNunchi Marine Age Well Programmeの下、学生プロジェクトとしてクラフトを通じて恵まれない人々を支援する非営利の社会事業を実施している「Social Gifting」が、日本で高齢者向けの場づくりを展開する「BABA Lab」と提携し、高齢者が有意義な工芸品を作り、健康的なライフスタイルを促進し人生を豊かにする交流プログラムを実施しました。

シンガポールのSocial Giftingと日本のBABA Labが提携して実施された交流プログラム

【出典】Social Gifting, JAPAN X SINGAPORE – AGEING WELL WITH INNOVATIVE JAPANESE TECH, Mar 02, 2023

親孝行サービス「もっとメイト」を展開する株式会社MIHARUも登壇して実施されたセミナーやワークショップには、シンガポール社会科学大学の学部生27名、シンガポールの高齢者15名、日本の高齢者5名が参加し、交流しました。

7日間の滞在中、タン・キアット・ハウ上級国務大臣とのパネルディスカッションなども実施され、日本の高齢者向けサービスに対するシンガポールの関係者からの注目度の高さを改めて痛感しました。

株式会社MIHARUの登壇中の様子

【出典】Social Gifting YouTube, JAPAN X SINGAPORE – AGEING WELL WITH INNOVATIVE JAPANESE TECH

特に、昨年の「Age Well Japan 2022」でキーワードとなった、いつまでも健康に歳を重ねることができる「Activeシニア」という概念に注目が集まっており、医療サービスよりもむしろ「Activeシニア」に関するサービスがシンガポールでは注目されています。

「Age Well Japan」に関しては以下のブログにより詳細にまとめていますので、気になる方はぜひご覧ください。

超高齢化社会先進国の日本が世界をリードする|「Age Well Japan 2022」を終えて

「Age Well Japan 2022」登壇中の様子

シニア世代のデジタルスキル習得に関する積極的な取り組みを実施

新型コロナウイルスの蔓延は、高齢者に基本的なデジタルリテラシーとスキルを身に付けてもらうことの重要性を浮き彫りにした社会現象でもありました。

シンガポール政府では「Seniors Go Digital」というプログラムを実施し、合計21万人以上の高齢者に対して、スマートフォンを使って政府のサービスを利用したり、デジタルでのコミュニケーションや取引を行ったり、大切な人やコミュニティとつながっていられるように支援する取り組みを実施してきました。

2023年のアクションプランでは、シンガポール大手通信会社Singtelが取り組む以下の内容が紹介されています。

  • 高齢者が基本的なデジタル・スキルを身につけ、オンラインで安全に過ごせるように、ボランティアスタッフにより毎週実施されるマンツーマンのセッションの取り組みが、これまでに7,000人以上の高齢者へ利用されたこと
  • Singtelが提供するSIMカードサービス「GOMO」プランの利用者が、国内に13か所ある「NTUC Health AACs」を利用する高齢者にデータを寄付できる仕組みを整え、今後より多くの社会サービス機関で1万人の高齢者に届ける予定をしていること
  • シニアが主体的にデジタルスキルを学べる自社で制作した教本シリーズを提供し始めたこと

実際に、2017年からの2021年の4年間で、75歳以上でスマートフォンを利用する高齢者の割合は28%から48%に増加。インターネットを利用する75歳以上のシニアの割合は、4年間で15%から人口の半分以上の52%まで増加しています。

75歳以上でインターネット・スマートフォンを利用する高齢者の割合(実績)

【出典】Singapore Ministry of Health, Living Life to the Fullest | 2023 ACTION PLAN FOR SUCCESSFUL AGEING

シンガポール政府はこのプログラムをさらに推し進めるべく、高齢者のためのモバイルアクセス制度を設け「政府補助金付きプラン」の提供を実施しています。

このプランは、インターネットの接続環境の確保に経済的支援が必要とされる約1万2,000人の低所得の高齢者を対象に、毎月最低5GBのデータ通信と20ドルからの基本スマートフォンを提供するというものです。

シニアのデジタル利用率の向上やシニア向けデジタルサービスに関して、今後も一層需要が高まる見込みとなっているので、関連するサービスをお持ちの日系企業にはチャンスだとも考えられます。

【2】高齢者による社会貢献(Contribution)

2023年のアクションプランを策定する過程で、シニア世代はより柔軟な雇用形態の継続やボランティア活動などを求めており、生涯にわたって社会との接点を希望している方が多いことが明らかになりました。

そのためシンガポール政府は『2023アクションプラン』で、シニア世代がその知識や経験を活かして活躍できるよう、以下のような取り組みを推進することを発表しています。

生産的な雇用の継続

  • 労働省は、60歳以上のシンガポール人を雇用する雇用主に対して、月収4,000ドルまでの賃金相殺を行うシニア雇用クレジットを2023年から2025年まで延長する予定です。
  • パートタイム再雇用助成金も、2023年から2025年まで受給資格を変更して延長し、雇用主がシニア労働者に対してパートタイム再雇用やその他の柔軟な勤務形態、体系的なキャリアプランを提供するインセンティブを与える。

 定年退職したシニアのボランティア活動への支援

  • 2027年までに750社の企業がシニアのボランティア活動を推進することを目指しています。
  • より強化されたシルバーボランティア基金が2023年に展開予定で、ボランティア研修や育成、ボランティアへの感謝活動の深化、世代を超えたボランティア活動の機会の醸成に重点を置いた取り組みが行われます。

年齢を重ねながらの学び

  • ナショナル・シルバー・アカデミー(NSA)高齢者のヘルスリテラシーを考慮した学習「ジェロゴジー・ガイドライン」などのシニアの学習体験を向上させることを目的とした1,000以上のコースを提供しており、今後5年間で7万人以上のシニア学習者の創出を目指しています。

シニアの雇用が顕著に見られるシンガポール市場の現状

2015年のアクションプランをもとに、シンガポールではあらゆる年代の人々が暮らしやすい国になるように、働く機会や学ぶ機会を提供し、若い世代との交流の場を設け、移動しやすい環境整備を行うなど、様々な取り組みが実施されてきました。

特に、働く高齢者の率は2010年から2022年にかけて大きく増加しており、65歳以上のシニアの雇用は2010年の17%から、2022年には約2倍となる31%にまで達しています。

65歳以上のシニアの雇用割合が約2倍に増加(実績)

【出典】Singapore Ministry of Health, Living Life to the Fullest | 2023 ACTION PLAN FOR SUCCESSFUL AGEING

実際にシンガポールで生活をしているとホーカーセンターなどで働く高齢者の姿を見ることが頻繁にあり、日本よりも元気で生涯現役で現場で活躍する高齢者が日常的に見られるような気がします。

シンガポールで働くシニア世代の様子

【出典】Reuters, Ageing Singapore – City-state helps firms retain workers past retirement age, JANUARY 18, 2019

【3】高齢者のケア(Care Thrust)

「Care Thrust(高齢者のケア)」のイニシアティブは、予防医療、アクティブエイジングプログラム、ケアサービスなどを通じて、高齢者が自分自身で心身の健康を管理できるようにすることを目的として、以下のような取り組みを推進することが発表されています。

充実した健康増進プログラム

「Live Well, Age Well」は、Health Promotion Board(健康増進委員会)とPeople’s Association(人民協会)が実施する以下の6つの領域にわたる一連のアクティブエイジングプログラムで、今後5年間で55万人以上の参加者を目指しています。

    • 【Live Active】推奨される身体活動レベルを満たすために、筋力、バランス、柔軟性に重点を置いてシニア世代をサポートすること
    • 【Live Assured】定期的な健康診断とフォローアップを受けることをシニア世代に奨励すること
    • 【Live Nourished】高齢者に健康的でバランスのとれた食生活を奨励し、タンパク質やカルシウムなどの重要な栄養素の推奨摂取量を満たすよう促すこと
    • 【Live Enriched】身体的、精神的、機能的な健康を改善し維持するための知識とスキルをシニア世代が身につけること
    • 【Live Prepared】シニアが自立し、定年後も充実した生活を送るために必要な知識とスキルを身につけること
    • 【Live Happy】シニア世代に精神的・社会的に健康であることの重要性を伝え、社会とのつながりを保つために積極的な参加を呼びかけること

 認知症支援

保健省(MOH)と関連するパートナーは、認知症の人とその介護者へのケアとサポートを強化するために、以下の5本柱に沿った包括的なアプローチを実施していきます。

    • 予防と啓発
    •  認知症の早期発見と診断
    •  認知症の人が地域で元気に暮らすためのエンパワメントと介護者のサポート
    •  革新的ケアモデルの開発

研修と教育による能力開発

プレ・プランニングと終末期への備え

    • シンガポールの人々の多くは、病院よりも自宅で亡くなることを望んでいるため、保健省は医療機関や地域のケア提供者と協力して、病院からの退院プロセスを円滑にし、緩和ケアの能力と規模を拡大するとともに、自宅での介護者へのサポートを充実させ、2027年までに病院での死亡の割合を61%から51%に減少させることを目標としています。

『2023アクションプラン』の抜粋

【出典】Singapore Ministry of Health, Living Life to the Fullest | 2023 ACTION PLAN FOR SUCCESSFUL AGEING

「認知症」に関連する取り組みを重視するシンガポール市場

シンガポール政府保健省によると、シンガポールは2030年までに152,000人の認知症患者が発生する可能性があり、60歳以上の10人に1人が認知症を患うことになると推定されています。

2023年に公開された『2023アクションプラン』を見ると、シンガポール政府がいかに認知症の対策を重視しているかが窺い知れます。

たとえば、2023年に公開された『2023アクションプラン』には「認知症(Dementia)」という言葉が48回も登場しており、全体のキーとなるサマリーでは「公園の整備」「交通環境の整備」「ボランティア活動と生涯学習」などのコミュニティやまちづくりに関連する大規模なテーマと併記されて「認知症マネジメント」が書かれています。

『2023アクションプラン』のサマリー

【出典】Singapore Ministry of Health, Living Life to the Fullest | 2023 ACTION PLAN FOR SUCCESSFUL AGEING

示されているKPIもかなり明確で、認知症リスクのある高齢者を積極的に発見し、評価を受けるように関連機関に紹介するコミュニティ・アウトリーチ・チーム(CREST)を、2025年3月までに61人から73人に増員し、チーム数を現在の3倍の6チームに増やす予定とのこと。

また、すでに23箇所あるポリクリニックと呼ばれる診療所のうち、16箇所に「メモリークリニック」と呼ばれる認知症に関連した部署が設立され、地域での認知症診断とケアマネジメントを利用しやすくなるように対策を強化しています。

そのほか、認知症に関する研究に力を入れており、新たなイノベーションを促進し、認知症を遅らせたり管理するための優れた成果を示している解決策を拡大するために、資金投入されることも決められています。

認知症に関連するサービスやソリューションに関連する日系企業の知見は、シンガポール市場の注目を集める可能性があると考えられます。

さいごに

2023年1月に発表された「2023 Action Plan for Successful Ageing(2023年度 高齢化を成功裏に迎えるためのアクションプラン)」の内容、いかがでしたでしょうか?

シンガポールでは、シンガポールでは政府のアクションプランに基づいて国からの助成や支援が積極的に展開されるため、日本政府が発表する各種白書などとは意味合いが少し異なっています。

『2023アクションプラン』の内容に紐づくサービスや商品をお持ちの日系企業は、実際にシンガポール市場でビシネスが動く傾向があり、シンガポール政府の助成や支援を受けられる可能性も高いので、ぜひ今後の海外市場展開に向けた参考としてご検討ください。