その多言語対応、本当に伝わる?直訳じゃ通じない理由と注意すべき3つのポイント|事例紹介
「翻訳すれば伝わる」と、多言語対応を誤解していませんか?
最近、海外進出やインバウンド対応で「多言語対応」が不可欠になる中、ChatGPTなどのAI翻訳を使ってそのまま発信している企業も多く見られます。
確かにマニュアルやFAQならAIで十分。しかし、広告コピーやパッケージのメッセージなど、実際に人の行動を動かす表現となるとそうはいきません。
なぜなら文化や価値観の背景が異なる相手に、日本語のニュアンスをそのまま直訳しても届かないことが多いからです。だからこそ必要なのが「トランスクリエーション」と言われる翻訳の手法です。
これは単なる翻訳ではなく、伝えたい意図を現地の文化や感覚に合わせて再構築するもの。特にシンガポールのように多言語・多民族社会に日本のものを紹介する際は、ただの英訳では反応が促せない場面が多々あります。
「本当に伝わる多言語対応」を目指すなら、以下の3つが必須です。
- 現地文化・価値観を理解した表現を徹底すること
- 現地で通じる日本語由来の英語をリサーチすること
- 最終チェックは現地のプロに依頼すること
この記事では、シンガポールで実際に使われている広告・パッケージを例に、どんな工夫が必要なのかを解説します。多言語対応をこれから実施しようとされている方は、ぜひ参考にしてみてください。
【1】文化理解の浅さが販促効果を左右する
シンガポールは英語・中国語・マレー語・タミル語の4言語を公用語とする多民族国家です。
弊社はシンガポールに創業して15年以上、日系企業のシンガポール史上進出をサポートしてきたのですが、その大半がこの多民族国家で「伝わるコミュニケーション」を常に考え模索してきたと言っていいくらい、この記事でご紹介する「トランスクリエーション」は日常的な業務として長年取り組んできました。
その長年の経験で「多言語対応」をする上で最も重要だと感じているのは、現地文化・価値観を理解した表現を徹底するということ。
シンガポールでは一般的なビジネスや教育の場では英語が使われていますが、生活者の購買行動を左右するには、民族や宗教ごとに異なる文化的な背景を理解した上で「心に響く言語」が求められます。なので「とりあえず英語で翻訳すればいい」という発想だけでは、伝わるものも伝わらないことがほとんどなのです。
たとえば、シンガポールで販売されているハウス食品の「Kari ala Jepang(日本式カレー)」のパッケージは、英語に加えマレー語でも表記されています。さらにパッケージにはハラル認証のマークも記載されています。

これはイスラム教徒の多いマレー系消費者に向けて、文化・宗教面での信頼を得るために施された工夫。ですが、現地市場の文化的背景や顧客の価値観を理解していなければ、このような取り組みは実施できるわけがありません。
このような細やかな配慮がなければ、そもそも手に取ってもらうことさえ難しい。様々な文化背景を持つ日本以外の国の方々に本気で理解してもらえるコミュニケーションを取るには、単に「翻訳する」だけでは実現できない工夫が必要なのです。
もうひとつご紹介したい事例は、少し古いのですがマクドナルド・シンガポールが2016年展開していた、人気メニューをシンガポールらしい地元の味にアレンジして提供したキャンペーン。
シンガポール独自の言語文化である「シングリッシュ」や「福建語(中華系方言)」が活用されていました。
キャンペーンの標語になっている「SHIOK!」は「とても良い」、「良い」、「魅力的な」という意味のシングリッシュで、「Confirm SHIOK」は「とても良いものと確約する」というような意味合いになります。
キャンペーン中に使用されているパッケージにも、シンガポールならではの特徴的な言葉が並んでいたのですが、ここに多言語対応に関連して非常に重要な点があるのでご紹介します。
まずはこちらのバナナパイのパッケージに書かれている言葉です。
【出典】mitsueki ♥ | Singapore Lifestyle Blogger – Food, Fashion, Travel & Random News, Food Review | McDonald’s Salted Egg Yolk Chicken Burger, Twist & Shake Fries & Gula Melaka McFlurry!, June 30, 2016
”Don’t say ‘Bo Jio’”
これは「誘ってくれなかったじゃん」という福建語のスラングです。
SNSなどでも浸透していた表現なので、現地の若者層に強く刺さったのではないかと感じます。
一方で、以下のパッケージに書かれている言葉は、あまり良い例だと思えませんでした。
【出典】PrisChew Dot Com, McDonald’s New Singapore-themed food items: Are they worth the hype?, 01/07/2016
”Zhng-ed”
「アップグレード」を意味する福建語なのですが、一般的にシンガポールで使われている言葉ではないので、中華系以外の方は理解できない可能性があります。
実際、シンガポール育ちの私自身が読んでも「辛いって意味かな?」と思ったほどで、検索しないと分からない言葉でした。
上記の例のように、シングリッシュやローカル言語を取り入れること自体は効果的ですが、使い方を間違えると逆効果になる可能性があるということは非常に重要なポイントです。
特に現地の人々は言葉のニュアンスの違いに敏感です。中途半端な知識で表現を取り入れると、的外れな表現になったり、上滑りした失礼な言葉だと受け取られるリスクがあります。
こうした文化的に必要な配慮はAI翻訳では検知できません。表現が現地でどう受け止められるかを正確に判断するには、やはり現地の感覚に通じた人間の視点が不可欠です。
弊社で翻訳業務を担当させていただく際には、ただ翻訳するのではなく、その言葉が「現地の誰に、どんな文脈で届くのか」を常に考えて、コンテクストを含んだ「トランスクリエーション」を実施しています。多言語対応をお考えの方はぜひ重要なポイントなので参考にしてください。
【2】和製英語はNG!現地で通じる表現をリサーチする
日本で当たり前に使われている言葉が、海外ではまったく意味を持たないことがあります。これはいわゆる「和製英語」による誤解です。
シーチキン、パーカー、ホットケーキ…
こうした日本では誰もが理解できる言葉でも、英語圏では通じないケースがほとんど。こうした言葉をそのまま英語にして海外向けのコピーに使用すると、現地の生活者には意味が伝わらず、せっかくの販促機会を逃してしまう恐れがあります。
一方で、「OMAKASE(お任せ)」「KINTSUGI(金継ぎ)」「ZEN(禅)」といった、日本特有の文化や価値観を体現する言葉は、英語圏でも「日本らしさの象徴」としてそのまま受け入れられる例もあります。
特に日本食に対する関心が高いシンガポールでは、「YAKITORI(焼き鳥)」「TERIYAKI(照り焼き)」「TEMPURA(天ぷら)」「UDON(うどん)」などは、当たり前のように認知されています。
そうした中でも特に最近象徴的だなと感じた例が「SANDO(サンド)」という呼び名です。本来英語なら「sandwich」と表記されるべきですが、あえて「SANDO」と呼ぶお店がたくさんあるのです。
その理由は「日本式のサンドイッチ」であることを一言で伝えるため。大手グルメメディアでも「TAMAGO SANDO」「EBI SANDO」などの名称が広く使われており、写真のようにGoogleの検索結果を見ても、いくつもの記事で「SANDO」の表記を目にします。
「Japanese egg sandwich」で検索した事例
日本発の言葉でも、現地の人々にとって「意味が通じる言葉」は存在します。ただし、今回の「SANDO」の例のように、このような言葉を見極めるには、やはり現地の言語感覚や文脈を把握しておく必要があります。
英語表記で統一する場合でも、英語にはアメリカ式とイギリス式では異なる表現がたくさんあるので注意が必要です。実際にシンガポールでは、歴史的にもイギリスの植民地であったことにも由来していて、主にイギリス英語が使われています。米国英語とはスペルや表現が異なることも多くあります。
AI翻訳ツールを使う際には「どの国の英語に合わせるのか」を明確にしないと、ブランドの印象にブレが出る可能性があるので注意が必要です。
いずれにしても1つ目のポイントと同様に、現地に響く表現は単なる言葉の翻訳ではなかなか難しいのです。現地で流通している表現をリサーチし、言葉の背景にある文化と文脈を捉えることが本当の意味で多言語対応を実施する際には必要不可欠です。
【3】現地のプロによる最終チェックをする
海外市場に向けたコンテンツ制作では、翻訳の正確性だけでなく、現地の文化や言語感覚に適合しているかを確認することが重要です。
特に英語圏では、簡潔で明確なメッセージが好まれる傾向があり、日本語特有の抽象的な表現や情緒的な言い回しは、誤解を招く可能性があります。以下の事例は、その重要性を示しています。
英語での表現が不適切な失敗例(日本)
2016年、脱毛サロン「ミュゼプラチナム」が日本で展開したキャンペーン「ENJOY the GIRL」は、日本国内では「前向きな女性像」を打ち出す意図がありました。
\お知らせ/
10月から新広告シリーズがスタート!
エライザさんのゴキゲンの秘密は…?
電車内のドア横や中吊り等
ミュゼの広告をチェックしてみて下さいね♪【ワキV完了コースとお好きな1カ所が脱毛できて780円】
詳細は公式HP⇒https://t.co/Xr5E2jfBhC pic.twitter.com/WZQ0k3usEm— ミュゼプラチナム【公式】 (@MUSEE_PLATINUM) October 17, 2016
【出典】ミュゼプラチナム公式 Xアカウント
しかし、この英語のコピーをそのままシンガポールのような英語圏で展開する場合、「(広告掲載されている、その)女の子を楽しむ」といった性的なニュアンスに解釈される可能性があり、意図とは異なる受け止め方をされるリスクがあります。
このように日本で展開する広告に英語を使う際においても、英語として意味が通じてしまうからこそ英語圏からみて文脈のズレが際立つケースがあります。
旧正月特有の言葉や文化背景を上手に利用したキャンペーン(シンガポール)
一方、シンガポールの配車・デリバリーサービス「Grab」が旧正月向けに制作したキャンペーン動画「HUATEVER」は、文化的背景とユーモアを見事に利用した素晴らしい事例でした。2025年5月時点で428万回以上再生されています。
この動画の一番すごいところは、シンガポールの旧正月らしい文化的なことをネタに中華系の方言や英語を織りこんで「シングリッシュらしい話し方」を全面に出しているところです。
動画を見れば発音や言語の違いなどがよくわかるのですが、表現にもシングリッシュらしいフレーズがありました。例えば
“We steady okay”
「準備万端・大丈夫」という意味で、厳密には”for sure”や”okay”というのが本来の正しい表現です。文法的にはおかしいのですが、シングリッシュらしいテンポとカジュアルな親近感が表されています。
また、この動画では旧正月特有の「あるあるネタ」もたくさん盛り込まれていて、英語・中国語字幕の両方があるのでシンガポールに住むあらゆる多国籍なターゲットへの配慮も行き届いています。
例えば、旧正月にあらゆるところからやってくる親戚に対するプレッシャー。シンガポールの家庭では旧正月になると親戚が一斉に訪ねてくるのが恒例で、「何人来るかわからない」「準備が大変」というプレッシャーは多くの家庭で共通です。
動画では四方八方からやってくる親戚を「侵略者」扱いしているパロディがとても共感性があって面白く感じました。
【参考】親戚を侵略者扱いしているシーン
また、キャンペーンタイトル「HUATEVER」は、旧正月に使われる「Huat(繁栄)」と「Whatever」をかけ合わせたシングリッシュならではの言葉遊びで、文化的文脈とユーモアを両立したネーミングとして現地で話題になっていました。
このような現地の言語・文化を踏まえたコピーは、現地市場に根差したプロの視点を取り入れずに作ることは不可能に限りなく近いと感じます。
広告のコピーを作るような難易度が高い取り組みでなかったとしても、多言語対応にともなう誤解のリスクを減らし、より強い共感を得る表現を考えるために、現地に精通したプロと協働したり、最低でも最終チェックを依頼するようにしましょう。
最後に(AI翻訳では難しい「伝わる言葉」を)
海外進出やインバウンド対応が進む今、多言語化はすでに不可欠です。生成AIの翻訳機能を活用すれば、誰でも手軽に対応できるようになったと思う方もいるかもしれません。
確かに、マニュアルやFAQなどの、実務的なコンテンツの翻訳にはAIの活用も効果的です。
ですが、広告やコピーといった「人の感情に働きかける表現」が求められる場合では、相手の文化や価値観に合わなければ、本当に届けたかったメッセージを届けられる言語化になっているか、AIツールを使った「単なる翻訳」では判断が難しく、不十分となるケースが大変多いです。
的確に伝えるには単なる直訳ではなく「誰にどう伝えるか」を再構築する「トランスクリエーション」が必要です。そしてそれは現地の感覚を理解し、実際に使われている言葉で語れる人間の手でしかできません。
これから多言語対応を実施予定の方は、ぜひ発信する言葉が「ただの翻訳」ではなく「他言語で伝わる表現」になっているか、ぜひ確認してみてください。
弊社では、現地で「本当に伝わる表現」への多言語対応を支援しています。具体的にご相談したい内容がある場合はぜひ以下のお問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
本記事が多言語対応を考えられているすべての方にとって、参考になれば幸いです。


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