日本と大きく異なる”より効率的な”シンガポールの医療システムとは
世界規模で未曾有の事態を引き起こしている、COVID-19(通称:新型コロナウイルス)。
最前線で闘う医療従事者の皆さまに対する感謝と敬意を表す取り組みが、世界中で行われていてます。
弊社では『IHCC』を中心にヘルスケア事業に取り組んでいることから、関わらせていただいている事業者・コミュニティの方々を通じて、この度のパンデミックの脅威を痛感しています。
また、ヘルスケア産業に関わる立場から、この度の出来事を機に「国境を越えて学び合い、支え合うためにできることがあるのではないか」という想いが一層強くなったことは、もはや言うまでもありません。
今回は新型コロナウイルス感染症からは少し離れますが、「シンガポールと日本の医療システムの違い」についてポイントをご紹介させていただきます。
微々たるものですが、本記事のような内容から、国家間で異なる医療システムへの理解が広がり、医療・ヘルスケア分野での交流・知見の共有が加速し、ひとびとの健康と幸福を支える確たる基盤となることを、心から願っています。
紹介するのは、弊社でインターンシップをしてくれている原です。

「Public hospitals(公立病院)」と 「Private hospitals(私立病院)」の違い
シンガポールで病気の診察を行う機関は、規模によっても特徴は変わるのですが、大きく分けて2つの部類に分けられます。
1.Public hospitals(公立病院)
2.Private hospitals(私立病院)
経営主体が「非営利企業」か「営利企業」か
「Public hospitals」は、元々は国の資本で設立されました。
1980年頃から徐々に民営化に移行し、現在は主に「SingHealth」「National University Health System」「National Healthcare Group」の3つの医療グループによって経営されています。
これらは非営利の株式会社で、株式は全て財務省(Ministry of Finance)が保有しています。
それに対して「Private Hospitals」は、不動産グループなども経営に参入しており、院内にカフェテリアやショッピングモールなども併設している場合もあるなど、かなり特徴的です。
ちなみに日本では、原則として営利組織による病院経営は認められていません。
病院によって診察料金が変わる
皆さんはこれまで、病院を選ぶときに『(かかる)費用』を気にしたことがありますか?
恐らくその様な経験は無いかと思います。
なぜなら、日本の医療システムは「診療報酬制度」を採用しているため、病気に対する治療内容が予め決められており、治療内容によって料金が定められているからです。
従って、どこの病院に行っても、同じ治療内容であれば料金は変わらない仕組みとなっています。
一方で、シンガポールの医療システムは「自由診療」を採用しています。
「自由診療」では、病院側が独自に値段を設定することができるため、同じ治療内容だったとしても、病院によって料金が異なります。

日本とシンガポールの初診制度の大きな違い
「Polyclinic」と「Private Clinic」
日本では風邪を引いた時や熱がある時はまず「かかりつけ医」と呼ばれる自宅や勤務先近くの医師から診察を受けますよね。
シンガポールの初診制度も日本と同じです。基本的にシンガポールには「Polyclinic」と呼ばれる公立診療所と「Private Clinic」と呼ばれる私立診療所があります。
「Polyclinic」は、上記の医療グループによって経営がされており、シンガポールに現在20の診療所がありま す。
それに対して「Private Clinic」は、個人事業主によって経営がされており、シンガポール国内に非常に多くの診療所が存在します。「Polyclinic」のほうが規模が大きく、日本の「かかりつけ医」に相当するのは「Private Clinic」です。
しかしシンガポールは自由診療を採用しているので、「Private Clinic」よりも「Polyclinic」の方が費用が安いので、初診で「Polyclinic」の診察を受ける人も多くいます。
「General Practitioner(一般総合医)」というお医者さん
シンガポールの初診制度には、日本と大きく異なる点があります。
それは「General Practitioner(一般総合医)」というものの存在です。
例えば、日本だと「鼻炎なら耳鼻科」「肌荒れなら皮膚科」と、症状によって患者が初診で行く病院を決めていますよね。
シンガポールでは、軽い症状であればまず「Polyclinic」や「Private Clinic」に行きます。そして「General Practitioner」による初診が行われ、軽度の症状であれば「General Practitioner」による治療のみで完了します。
また大規模医療機関でより精密な検査や専門性の高い治療を受ける時は、初診の病院で紹介状を発行します。
このシステムは日本にも馴染みがあると思いますが「Polyclinic」で初診を受けた場合は紹介状の発行と同時に予約まで行ってくれます。
【 出典 】
https://sg.theasianparent.com/polyclinics-in-singapore

「Acute hospital(短期治療型病院)」と 「Community hospital(長期治療型病院)」の違い
大枠の分類をご説明したところで、次に大規模医療機関の医療システムについてお話ししたいと思います。
ここからは具体例があった方がわかりやすいので、ある人(仮にAさん)が病気にかかった設定でご説明させて頂きます。
まず、Aさんは酷い頭痛を感じたので、初診を受けるために「Polyclinic」に向かいました。
しかし、「Polyclinics」のドクターから、「より詳しい検査が必要だ」と言われてしまいました。
そこでドクターから、大規模医療機関を紹介してもらいます。
大規模医療機関には、「Acute hospital(急性期病院)」と「Community hospital(⻑期療養型病院)」の2種類があります。
「Polyclinic」や「Private Clinic」から紹介されるのは、主に「Acute hospital(急性期病院)」という短期的な治療を行う医療施設なので、今回の例では、Aさんは「Acute hospital(急性期病院)」の紹介を受けたとします。
「Acute hospital(急性期病院)」には、様々な医療設備や「Departments (専門部門)」と呼ばれる、日本でいう「小児科」や「産婦人科」等が備わっており、より高度で専門性が高い治療を受けることができます。
頭痛に悩むAさんは、まず「Polyclinic」で紹介していただいた指定の「Department(専門部門)」に行き、CT等で脳内の状態を検査します。
結果、残念なことに脳動脈瘤あることが分かったとします。
その後は同じ「Acute hospital(急性期病院)」内にある「Neurosurgery(脳神経外科)」という「Department(専門部門)」で治療がなされます。

「Acute hospital(急性期病院)」で脳動脈瘤の手術が行われたのちには、術後はリハビリテ―ションが必要ということになります。
このような段階になると、若年層の方は主に自宅療養となりますが、高齢の方を中心に「Acute hospital(急性期病院)」ではなく「Community hospital(⻑期療養型病院)」という病院施設に移動するケースがあります。
このように、日本だと多くの総合病院で治療が行われた後も同じ病院施設内に入院しますが、シンガポールは違います。
検査や手術などの短期的な治療は「Acute hospital(急性期病院)」で行われ、すぐにリハビリテーションも実施されます。
治療が終わり、容態が安定した患者は、若い方はそのまま自宅へ退院し、高齢者でリハビリテ―ションや経過観察などの中⻑期的な治療が必要な方は 「Community hospital(⻑期療養型病院)」に移動するのです。
このシステムでしたら病院ベットの稼働率が上がり、適切な人に適切が治療が効率的に提供できて、とてもスマートですね!
ちなみに、「Acute hospital(急性期病院)」にも「Public hospitals(公立病院)」と「Private hospitals(私立病院)」の2種類があり、「Public hospitals(公立病院)」の方が費用が安くなります。
「Public hospitals(公立病院)」は非常に待ち時間が長く、予約を取っていないと通常は治療ができません。予約も3日後しか取れない等、サービス面で不便な部分を感じることがあります。
ですが、最近はアプリを用いて予約をとったり、複数の診療科の会計や処方ををひとまとめで済ませるような工夫もされています。
【 出典 】
https://www.moh.gov.sg/docs/librariesprovider5/resources-statistics/educational-resources/handbook-on-ch-care-for-patients_210617.pdf
https://www.sgh.com.sg/patient-care/specialties-services/specialties-and-services-singapore-general-hospital
https://diamond.jp/articles/-/174484
https://www.sgh.com.sg/patient-care/conditions-treatments/cerebral-aneurysm
シンガポールが直面する課題は、長期治療が必要な高齢者を支援する受け皿の拡大
以上、現状のシンガポールの医療システムの概略、いかがでしたでしょうか?
せっかくですので、最後に現在シンガポールのヘルスケア領域で起きていることについてもご紹介させていただきます。
今シンガポールでは「Community hospital(⻑期療養型病院)」を中心に、シニア層関連ヘルスケア事業の需要が非常に伸びています。
以下、弊社が主催する医療従事者コミュニティのイベント『IHCC』でもご紹介していますが、シンガポールは急速に高齢化が進んでおり、2050年には国民の40%が高齢者が占めると言われています。
この状況に対応すべく、シンガポール政府は「Community hospital(⻑期療養型病院)」の数を増やすという方針を発表しました。
その具体策の一つとして、シンガポール最大のヘルスケアグループであるSingHealthが、2020年の秋頃に「Outram Community Hospital(OCH)」という新たな施設を設立します。
新型コロナウイルス感染症の影響で、開業が先送りになる可能性があるとのことですが、今後の動向が気になりますね!
『IHCC』のFacebookページでは、シンガポールをはじめ、日本やフィンランドで取り組まれるヘルスケアに関する情報を、毎週複数回、英語で発信しています。
ご興味ある方はぜひFacebookページをご確認ください。
https://www.facebook.com/IHCC.sg

以上、日本と大きく異なるシンガポールの医療システムについてご紹介させていただきました。
このブログを通して、シンガポールの医療事情や国ごとに異なる点について、理解を深めていただけますと幸いです。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
協力: Nippon Medical Care 佐藤健一 医師
https://www.nipponmedicalcare.com.sg/