フードテック先進事例からわかった世界がシンガポールに注目する理由
世界的に急速に進化するフードテック業界。日本からも企業事例をたくさん聞きますが、やはり中でも私が住んでいるシンガポールでフードテックが盛り上がっている感覚があります。
その理由はシンプル。
東京23区くらいの面積しかないことで有名なシンガポールですが、農業用の土地はわずか1%しかなく、食料の約90%を輸入に依存 (*1)しているため、国を上げて食料自給率の向上政策を積極的に進めているからです。
培養肉、植物性食品、水産物養殖技術など革新的な商品やサービスが次々と登場していて活気があり、設立からわずか2年で1,400万ドル(約160億)の資金調達に成功したスタートアップ (*2)もあります。
そのため、世界の国々の中でもあえてシンガポールを選んで進出する企業が絶えません。
本記事では、シンガポールのフードテック先進事例をご紹介します。日本にはないサービスだったり、どんな戦略を持って資金調達したのかだったりできるだけ詳しく調べたのでぜひ参考にしてください。
*1… https://www.ourfoodfuture.gov.sg/faqs/
*2… https://startuprise.org/agritech-startups-in-singapore/
フードテック企業事例|世界からシンガポールに集まっている
世界的に盛り上がっているフードテックですが、シンガポールでもよくフードテック企業進出のニュースを聞きます。
なぜかな?と思い調べてみたら、やはり国を上げたリーダーシップがすごかったです。
- 国土が狭いシンガポール。なかでも農業用の土地はわずか1%しかないので、食料の約90%を輸入に依存している
- この依存体質に危機感を持つシンガポール政府は、2030年までに食料自給率を30%に引き上げる目標「30 by 30」という方針を発表
- 新しい生産技術を導入するための補助金や助成金が用意されていて、「30 by 30」では数千万ドル(日本円で数十億円)規模の予算が割り当てられたと報じられている
- 実際にシンガポールのフードテック(アグリテック)は急成長しており、2022年8月時点の成長率は18%
- 垂直農法市場(高さのある建築物の階層や傾斜面を活用した農業)は、2024年から2030年まで毎年20.4%の成長率が見込まれている
今回は、実際にシンガポールに進出して資金調達に成功した注目のフードテック事例をご紹介していきます。
【事例1】設立からたった2年で約160億円調達した農業データシステム Rize
【出典】Rize WEbサイト
Rizeは、2023年にシンガポールに設立された、水田の温暖化ガス削減や、脱炭素化に焦点を当てたアグリテック・スタートアップ。
稲作における大きな課題の一つは、湛水田からのメタン排出や収穫後の稲わら燃焼による温室効果ガス排出といわれているのですが、Rizeは農業データを収集し、測定・報告・検証(Measuring-Reporting-Valification)するシステムを開発しています。
稲作による温室効果ガスの排出を削減し、農家の経済的安定、また持続可能な農業の実現をサポートする事業を実施しており、初期ターゲット市場はインドネシアとベトナムで、その後アジア地域全体に拡大する予定だそうです。
シンガポールを拠点として選んだ理由は明言されていませんが、アジア市場へのアクセスが容易であり、多くの投資会社や企業が集まる地域拠点としての役割も果たしているため、事業展開において戦略的に好条件だったからではないかと考えられます。
実際、Rizeは2024年5月に、Breakthrough Energy Ventures、Temasek、Wavemaker Impactなどの複数の投資家から、シリーズAで1,400万ドル(約160億円)の資金調達に成功しています。
設立からたった2年でこれほどの出資を受けれる事例があることが、最初から「世界市場で戦えるか?」を見据えて、スピード感をもって出資判断を受けることができるというシンガポールならではの特徴があるように感じます。
ターゲットの市場も最初からシンガポール国外を狙っていることも重要なポイントです。シンガポール単体では市場の規模は小さいので、「シンガポール進出する=東南アジア市場を狙う」という思考で最初から事業構築していないと出資を受けることは難しいでしょう。
【事例2】「シンガポールはスタートアップにとって素晴らしい場所」家畜の飼料開発 Peptobiotics
Peptobiotics(ペプトバイオティクス)は、2021年にシンガポールに設立されたばかりのスタートアップで、家畜の抗病原体防御システムを研究開発しているバイオテックのスタートアップ企業です。
従来畜産業界で使用されてきた抗生物質よりもより安全な代替品として、抗生物質が効かなくなる「抗生物質耐性」を引き起こすことなく、効果的にバクテリアを殺す「抗菌ペプチド」を開発。
バイオテクノロジーを駆使して開発した「抗菌ペプチド」の製造コストを下げ、費用対効果の高い「病原菌管理ソリューション」を提供しています。
2024年4月、シーズ・キャピタル、セヴェンチャー・パートナーズ、グレインコープ・ベンチャーズ、ファルマベースが出資するシリーズA資金調達ラウンドで620万ドルを調達しました。
創業者のJonathan Bester氏は
私たちにとってシンガポールは、スタートアップにとって素晴らしいアーリーステージの資本、政府からの支援、優秀な地元の人材、東南アジア市場へのアクセスなど、いくつかの要素が結びついた場所です
と、Channel NewsAsiaのインタビューで話したとSouth China Morning Postが報じており、シンガポールでの資金調達環境や東南アジア市場への可能性を見据えている様子が伺えます。
【事例3】シンガポール最大の魚類養殖場を運営 Barramundi group
Barramundi groupは、2008年にシンガポールに設立された、スタートアップステージがシリーズBの企業。シンガポール南部海域での独占的な養殖ライセンスを取得していて、バイオマスでシンガポール最大の魚類養殖場を運営しています。
世界的なタンパク質不足を解消する解決策として、持続可能なバラマンディ(ミナミアカメ)という魚の養殖を目指しています。味はクセがない白身の魚です。
バラマンディは動物性餌を少量しか摂取しない雑食性の魚。食物連鎖の下位の餌で成長するので、環境への負担を小さくしながら養殖ができると注目されています。
この特性を活用しながら、孵化場、養魚場、海上ケージ養殖場、加工、マーケティングまでを含む「Farm-to-Fork」のバリューチェーン全体に注力し、現在では世界中の1,600以上のレストラン、ホテル、小売店に提供しており、シンガポール、オーストラリア、ブルネイで海洋養殖場を運営し、世界中の主要都市に販売・流通ネットワークを持っています。
シンガポール食品庁と連携をとってシンガポールで海洋養殖場を運営し、2019年にはシンガポール最大の国内紙THE STRAITS TIMESで、200万ドルの出資を受けて養殖場の規模拡大をしたと発表。
しかし2024年5月には、インフラの不備による高い運営コストが原因で、シンガポールでの養殖を停止し、ブルネイでの事業に集中する方向に舵を切り、ブルネイでの事業を拡大し、シンガポールへの魚の輸出を目指しています。
食料確保の問題はシンガポール政府として喫緊の課題。政府が主導して、2030年までに国内の食料需要の30%を自給するということを目指す「30 by 30」が進められているため、養殖業への支援が強化されています。Barramundi groupの事業もシンガポール政府の支援を受けていました。
シンガポール政府が注力している分野に関連するスタートアップは出資を受けやすいので、気になる方はぜひ以下の記事を参考にしてみてください。
なぜシンガポールに世界中からスタートアップ企業が集まるのか?
【事例おまけ】生活者目線のフードテック|代替肉が日常生活でよく見られるように
代替プロテインの分野に関しては、2023年11月時点ですでにシンガポールには60以上のスタートアップ企業が存在しており、700人以上が働いているとも言われており、代替肉を使った商品も数年前から日常生活の中でよく見られるようになりました。
以下の記事では弊社のスタッフでシンガポールに流通する代替肉を食べ比べ、品質について考察してみたので気になる方はぜひ参考にしてください。
代替肉先進国シンガポールの商品を9種食べ比べ!味とコスパはどう?
死活問題だからこそ「本気」が集まるシンガポールの環境は好条件
シンガポールにいるとフードテックの事例は本当によく耳にします。国が主導で本気で進めているからこそ、世界から素晴らしいフードテック企業が集まってくるんだろうなと思います。
冒頭にご紹介したシンガポールの食料自給率を30%に引き上げる目標「30 by 30」の他にも、シンガポール政府によるサポートは充実しています。
- 農作物や魚の栄養価を高め、生産性が高く気候変動に強い農業技術の導入を促進することを目的に、農業食品研究への資金提供に総額3億900万シンガポールドル(2億2930万米ドル)を投資(2023年6月にEDBが発表した情報)
- 助成率90%近くまで上がるケースがあると言われるSFAの農業食品クラスター変革助成金(Agri-food Cluster Transformation (ACT) Fund)と、助成率最大70%のエンタープライズ・シンガポールの企業開発助成金(Enterprise Development Grant)を活用することができる
- 2024年からは「リム・チュウ・カン」と呼ばれる地域を、持続可能かつ食料生産を向上させることができるハイテク農業食品地帯にするための政策もスタート
どんなフードテック事業を行っているかで最適な補助金や助成金申請は変わってくるので、もし気になる企業様がいらしたら弊社にお問い合わせください。御社にとって最適なシンガポール進出ルートをご提案します。



