日本の介護ロボットがシンガポールで人気なわけ

日本のロボットイメージ
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ご縁あって介護製品のシンガポール進出や実証実験をお手伝いしてきた私たちですが、世界的にみても日本の介護ロボットへの人気はすごいです。

東南アジアのハブといわれるシンガポールには世界各国から介護関連の商品やサービスが日々入ってきています。

なかでも特に日本の介護ロボット特有の「情緒に訴える(エモい)UI/UX」がシンガポール市場に刺さっている感覚があります。介護現場やシンガポール大学の研究者などの反応を直接見て、その強さを感じています。

介護ロボットの日本国内市場は、導入先の多くが頭打ちとなり、規制や運用面でのハードルが高く、拡大が難しいと言われています。

ですがシンガポールでは、実証段階が多いとはいえ、国家主導で支援と投資が加速中なので、日本を含む外資系プレイヤーにも門戸が開かれています。

そこで今回はシンガポールの介護ロボット市場についてご紹介します。ぜひ参考になるとうれしいです。

 

 

 

シンガポールで日本の介護ロボットが話題に

シンガポールの介護関係者の間では、すでに日本の介護ロボットへの関心が高まっています

例えば、シンガポール最大の国内紙「The Straits Times」では、日本の高齢者施設で活用される「Pepper」や「PARO」などの介護ロボットが繰り返し報道されており、実際にこれらはシンガポール国内でも試験導入が進んでいます。

【出典】THE STRAIT TIMES, In Pictures: Ageing Japan turns to robots for healthcare, Nov 11 2024

実際、日本のコミュニケーションロボット「LOVOT」はすでにシンガポールで人気を博しています。介護現場にいくつか導入されているのはもちろん、シンガポールの介護業界のエキスパートとして知られるKelvin氏が世界中のあらゆる現場に連れて行くほど気に入ってくれています。

弊社もKelvin氏と一緒に介護現場に伺うことがあるのですが、介護施設でもスタッフが「かわいい!」と声をあげて抱きしめるなど他国の介護製品とは群を抜いて反応が良いです。

日本のロボットのUI/UXは、世界的にみてやっぱりすごい

ちょっと見てみてください。こちらはシンガポールの介護ロボットの例です。
シンガポール政府とNgee Ann Polytechnicが共同で開発した「RoboCoach」というもので、高齢者向けの運動指導ロボット。高齢者が椅子に座って行う上半身のエクササイズを音楽に合わせて指示したり実演したりできます。

Xuanの写真

【出典】CNBC, Tech Robot shakes things up for Singapore seniors, Dec 27 2015

写真は「Xuan」というプロトタイプなのである程度途中段階なのですが、あまりにも見た目が無機質すぎる…。それに比べて日本製のロボットには、操作性や性能だけでなく、人の情緒をそっとくすぐるようなUIやUXが自然に組み込まれているように感じます。

私たちは15年以上シンガポールに拠点を置き、日系企業のマーケティング支援や市場進出の現場に携わってきました。

そうした中で日々実感しているのは、日本のものづくりには海外の企業が真似できない独自の素晴らしい感性があるということです。特に介護ロボットのような、人と接する領域ではその違いが如実に現れます。

こちらはシンガポールのロボット博覧会「RoboSG! 2025」の写真です。ヒューマノイド、看護ロボット、遠隔操作フォークリフトなど、 合計で75体の様々な種類のロボットが、65のブースで紹介されました。

RoboSG!に展示されたdConstruct Robotics

【出典】The Strait Times, Humanoids, nurse bots, remote forklifts showcased at robot expo in Punggol Digital District, March 15 2025

このロボットが並んだ写真を見ても、やはり「可愛い」という感情が湧き出てこない…。日常的にめでたくなるような「エモさ」を醸し出せるのが日本産のロボットの強みなような気がしてなりません。

言葉にしなくても伝わる間やぬくもり、仕草の丁寧さ…。こうした繊細な要素をものづくりに落とし込む力は、「言葉なしで通じ合う、察する、思いやり」といった日本文化らしさがなせる技だと思います。

なぜシンガポール進出が魅力的なのか?

急速に進む高齢化に向けて、市場に伸び代がある

シンガポールでは現在、急速な高齢化と介護人材の不足が懸念されています。

2030年には国民の4人に1人に当たる24.1%が65歳以上になると予測されており、介護の担い手をどう確保するかは死活問題。そのため、コミュニケーション支援や見守り、高齢者の移動支援などを担う介護ロボットへの注目と期待が高まっています。

実際、シンガポール国内における障がい者および高齢者向けの支援機器市場は、2023年時点で約1,060億円(約7億720万米ドル)と推定され、2030年にはおよそ2.7倍となる約2,901億円(約19億3,460万米ドル)に拡大すると予測されています。この中には介護ロボットも含まれており、着実な市場拡大が見込まれます。

アジア太平洋全体の医療ロボット市場は、2024年に約2,940億円(約19億6,000万米ドル)となっており、2029年にはおよそ2.8倍の約8,385億円(55億9,000万米ドル)規模となる見通しも出ています。シンガポール市場はアジアのハブとなっているので、シンガポールを中心にアジア市場へ展開する可能性も十分に考えられます。

一方で、現状は多くの介護ロボットは展示会でのショーケースや実証実験段階にとどまっており、商用レベルで介護現場に本格導入されているケースはまだ少数派です。

裏を返せば、いまは本格的にシンガポール市場で介護ロボットが導入される夜明け前のような時期ともいえるタイミングなので、シンガポール市場進出を検討している企業にとっては参入しやすい可能性があります。

市場の現状は追い風に!支援を利用すれば、市場進出は難しくない

シンガポール政府の制度面での特徴も、日本企業の市場進出を後押ししてくれます。

シンガポール政府は「Smart Nation」や「Healthy Ageing」などの国家戦略のもと、医療・介護分野でのテクノロジー導入を積極的に進めているので、補助金や実証実験の支援制度が整っていて、海外企業が現地パートナーと共同で進めやすい環境があるのです。

実際、弊社ではこれまで日本製の介護ロボットの現地実証を大学や施設と共に支援・実施しており、このようにスモールスタートに挑戦できるのはシンガポール市場ならではの魅力だと感じています。

また、英語圏であり、政府の方針やイニシアチブに透明性とスピード感があるので、海外での事業展開において安心感あるので取り組みやすいというのも、シンガポール市場の特徴だと感じています。

特に、シンガポールでの現地展開を踏まえたパートナーとの関係性の構築は、他の国の市場よりもスムーズで早い可能性が高いと感じます。

実際に2022年秋に弊社が共催となって実施したカンファレンスイベント「Age Well Japan 2022」を機に、翌年3月にはシンガポール社会科学大学が実施する「Nunchi Marine Age Well Programme」の下で行われている学生プロジェクト「Social Gifting」が、日本で高齢者向けの場づくりを展開する「BABA Lab」と提携した事例がありました。

高齢者が有意義な工芸品を作り、健康的なライフスタイルを促進し人生を豊かにする交流プログラムを実施しました。。

交流イベントの様子

以下の記事では、より詳しくシンガポール政府の取り組みやシニア市場についてご紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

シンガポールの高齢化ガイド|日本とは異なる文化や最新事情とは?

シンガポール政府発表の高齢化アクションプラン2023を日本語で解説

シンガポールの高齢者・店番中の様子

【事例】日本の介護ロボットがシンガポールで人気

実際にシンガポールで導入されている日本の介護ロボットをご紹介します。

愛らしいUIで群を抜いて支持されている「LOVOT」

LOVOTの様子

【出典】LOVOT Webサイト

日本製のコミュニケーションロボット「LOVOT」。

シンガポール社会科学大学院(SUSS)では介護施設に導入し、一人暮らしの高齢者への影響を検証しています。クリスマスなど季節の行事を一緒に祝ったりと活躍しており、利用者からは大変好評で「孤独感が緩和された」という声もあるそうです。

上目使いで見てくる可愛い瞳、思わず抱きしめたくなる可愛い仕草、ボディの温かみ、あえて言葉を話さないことで通じ合えてしまう感覚…。

弊社が「日本のものづくりの感性でしか表現できないロボットには、海外市場に商機がある」と確信する事例の一つです。

ロボット・セラピーとしてアメリカの認証を受けている「PARO」

ロボット・セラピーとしてアメリカの認証を受けている「PARO」のイメージ

【出典】The Strait Times, In Pictures: Ageing Japan turns to robots for healthcare, Nov 11 2024

アザラシ型のセラピーロボット「PARO」。家庭での「ペット代替」としての役割と、医療福祉施設や学校などでのアニマル・セラピーの代わりとなる「ロボット・セラピー」を提供するものとして展開されています。

臨床実験や治験が行われており、不安、うつ、痛み、認知症の緩和・抑制といった効果が確認されていて、非薬物療法として効果を出しています。

アメリカのFDA(Food and Drug Administration・食品医薬品局)では「神経学的セラピー用医療機器」として認められています。

シンガポールでは、政府機関とアルツハイマー病協会による臨床評価で良い成果が得られたため、高齢者施設での介護の質と生産性の向上を目的として、介護サービス提供者に対して購入費用の85%の補助金が出されるようになりました。

実際には様々な介護現場に出向いているのですがそこまで普及しているようには感じていませんが、これから益々このようなロボットの需要は増える見込みなので、これからの動向が気になっています。

高齢者介護のグループ活動の現場で活躍する「Pepper」

Pepperが活躍する様子

【出典】SingHealth, Robot helpers who talk to patients, deliver medicines and give massages, 6 July 2022

日本でもお馴染みの人型コミュニケーションロボット。

2019年にChangi General Hospital(以下、CGH)で初めて試用され、その後CGHの病棟やGCH内にあるGeriatric Day Hospitalで使用されています。2022年の時点ですでに病棟と外来で200人以上の患者がペッパーと関わっていると報道されています。

導入にあたってはCGHの看護師とプログラマーが協力して、患者に適した身体活動と認知活動ができるようにPepperを開発したとのこと。高いコミュニケーション能力と多言語対応(英語、中国語など)が可能なので、多文化社会であるシンガポール市場のニーズにマッチしやすいという強みを生かして現場で活躍しています。

CGHでの導入事例として、具体的には主に機能低下・認知症・せん妄など症状を持つ高齢患者3〜8名を対象に実施されているグループ活動で活躍しており、1日に何度もグループ活動を提供できることから、現場の負担軽減につながっているようです。

患者からは「カンティック(マレー語で美しい)」「キュート」といった評判が相次いでいて、自分用のロボット・コンパニオンはどこで買えるのかと尋ねる家族もいるそう。やはりここでも日本のものづくりが強みとする人間の感性をくすぐるUI・UXの提供が支持されていることが伺えます。

最大の壁は「導入後のメンテナンス体制」

シンガポール市場は魅力的なフィールドである一方で、日本と同じ感覚で導入・運用しようとするとギャップに直面します。特に現地でロボットを市場で安定的に供給・普及させるには、製品力以上の要素が問われます。

なかでも私たちが現地で感じている最大の壁は、サポート体制とアフターサービスです。

介護ロボットは一度納品して終わりの製品ではありません。日々の運用で小さな不具合が起きたり、スタッフからの使い方の問い合わせが発生したりするなかで、「すぐに対応できるか」「継続的に安心して使えるか」が重要になっていきます。

日本から遠隔対応で済ませようとすると、言語の壁、時差、レスポンススピードの問題などが積み重なり、ユーザー側に不安が残ってしまう可能性があります。

特にコミュニケーションスピードが早い気質のあるシンガポール市場では、不具合への対応でブランド評価が決まると言っても過言ではありません。

実際にメンテナンス体制を作って、タイムリーに対応できるようにできるのがベストですが、メンテナンス施設を作った上で、営業して需要確保をするべきか、需要確保をしてからメンテナンスを整えるか…。鶏が先か卵が先かの議論になりがちで、そこでみなさん悩まれています。

また、シンガポールがどれだけ先進的でも、マーケットサイズ、スケーラビリティを考えるとシンガポールを市場にすべきか悩む企業も多いです。

そのため、シンガポール市場で本格的に展開するのであれば、現地の代理店との技術連携体制の構築や、オンサイトでの対応が可能なパートナー企業との協業を考えることがほぼ必須になります。サポート要員の教育、部品の供給体制、アップデートの運用設計まで含めた仕組み作りが導入の成功を左右します。

もちろん、UIのローカライズや多言語での対応、輸出規制や現地の認証制度への対応なども重要ですが、これは多くの場合、専門のコンサルタントや現地パートナーとの連携で乗り越えられます。

継続的に事業を安定させていくには、市場のニーズに合う製品力と、それをメンテナンスできる体制がセットであることが必須です。製品がどれだけ優れていても、トラブル時に「すぐ来てくれる」「話が通じる」体制がなければ、長期的な導入・展開にはつながりません。

シンガポール市場での成功は、ハードウェアのスペックだけでなく、どれだけ現地に寄り添えるかにかかっています。シンガポール市場への進出を本格的に検討したいと感じられた方は、ぜひ次のステップとして「現地企業との協業」を含めたアフターケアの体制作りについて考えてみてください。

インタビュー中のイメージ

さいごに

介護業界は単に人材不足が解消されればいいというものではなく、人材不足な中でいかに「ケアの質」を担保して高めていくかという視点も必要です。

介護ロボットの導入にはそのような人材不足の解消と提供するサービスの品質向上の両面での期待がかけられています。

だからこそ海外にはない日本のものづくりで表現できる感性や、人の情緒に寄り添うUIが、シンガポール市場での強みになると、現場を見てきた私たちは考えています。

一方で、日本の介護ロボットがシンガポール市場に進出するためには、以下のようなことも当然必要です。

  • 現地の高齢化ニーズ調査
  • 政府支援策の情報収集と活用
  • 現地パートナーシップの構築
  • 多言語対応
  • 製品およびマーケティング面での適応
  • メンテナンス対応の体制づくり

特にアフターケア(メンテナンス)を誰がどのように行うのかは、導入後のブランドへの信頼に拘らう重要な点なので、進出前から事前に検討しておくことが必須となります。

弊社ではこれまでの知見や現地でのネットワークを活かし、具体的にご相談に乗ることも可能です。ぜひ以下のフォームからお問い合わせいただけますと幸いです。

本記事を通じて、日本の介護ロボットが海外市場に羽ばたく足がかりをご提供できていたら幸いです。