シンガポール市場に学ぶ日本工芸品の海外進出で絶対にやってはいけないこと

日本の伝統工芸品を制作しているイメージ
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日本の「モノづくり」の象徴とも言える伝統工芸品は、日本市場で伝統工芸離れが加速する一方で、訪日インバウンドの盛り上がりや円安が後押しして、海外では注目が高まっています

羽田空港のセレクトショップでも、伝統工芸品が非常に人気とのこと。今こそ視野を広げて、日本の伝統的なものづくりの素晴らしさを海外に広めるべき時代のように感じます。

ですが、その際に最も重要なのは、日本の伝統工芸品の魅力を、現地の人が分かるようにどうやって伝えるか

日本国内で実施してきた手法を海外市場で押し通そうとしても、現地の方々がどのような生活をし、嗜好性を持っているのかを理解していなければ、伝統工芸品の魅力を伝えるコミュニケーションができないからです。

たとえばシンガポールでは、日本の伝統工芸品や製品がデパートやポップアップストアで頻繁に販売されているのを見かけます。ですが、どれほど華やかな伝統工芸品でも、現地の人に真の魅力が伝わらないと購買意欲は高められません

シンガポール市場には訪日リピーターや日本文化のファンが多く、少し価格が高めの伝統工芸品にも手が出せるような購買力が高い人が多いので、これは非常にもったいないことです。

そこで今回は、シンガポールで育ち、現在も住んでいる生粋のシンガポール人であり、いち日本文化のファンとして、日本の伝統工芸品の魅力がきちんと伝わるプロモーションについて事例をもとに考察してみました。

シンガポールをはじめ、海外で伝統工芸品をプロデュースしたい方はぜひ参考にしてください。

 

事例1:現地市場で需要があるのか疑いたくなる商品が販売されている

様々な「伝統工芸品」が日本からシンガポール市場に輸入され、デパートのポップアップショップに並ぶ風景をよく見かけます。

ですが、中には「その商品、本当にシンガポールに需要あると思っているのかな?」と感じるものがあるのが正直なところです。

例えば、伝統工芸品として販売されている「箸置き」

シンガポール市場では近年では中華、日本、韓国料理の人気もあり、お箸の需要も着実に増えているのは確かです。

ですが、実はマレーやインド料理は基本的には手、もしくはスプーンとフォークを使用して食べることがほとんど。そもそも箸置きの前に、箸さえ使う人が限られているのです。

また、中華系の家庭はお箸で家庭料理を食べていると思われますが、実は家ではスプーンとフォークで食べる方が結構多かったりもします。

実際に私の周りのシンガポール人に「お箸はどう使ってる?」と聞いたところ、基本的には家族でシェアするお皿やお椀に箸を掛けて、シェアする時にだけ使うのが主流でした。この場合、箸置きは使う必要はないのです。

また、シンガポールに数多ある和食レストランでも箸置きが出るところや使っているところは、割烹のようなお店以外にはほとんどなく、割り箸か箸箱から取り出すことがほとんど。箸置きは使わないのです。

このように「箸置きは日本国内で愉しまれる文化」なので、実用性の面からシンガポール市場で需要があるのか疑いたくなります。また私個人の意見ですが、多国籍国家のシンガポールの食文化から考えると、やはり箸置きが市場に普及する可能性は低いと思います。

一方で、箸置きには商機がなかったとしても、酒器や茶器などは今後も需要があるようには見受けられます。

実際、弊社も携わっているシンガポール内最大級のライフスタイルマーケット「Boutique Fair」では、数々の酒器や茶器が販売されています。

シンガポール国内の製品やブランド以外に、日本・中国産の職人が手がけた製品も販売されていました。

「Boutique Fair」で売られていた酒器

【参考】「Boutique Fair」の様子

「箸置き」は単なるいち例なのですが、日本では通用するけれど、シンガポールの文化やシンガポール人の生活を考えた時に実用性がない商品は、はっきり言って市場に流通させるのは難しいと感じます。

シンガポールをはじめ海外進出へ本気で取り組む際には、必ず事前に自社商品が現地市場のなかで本当に需要がありそうなのか、ローカル目線で考えるようにしたり、調査をしたりしましょう。

シンガポール料理のイメージ

【参考】シンガポール料理のイメージ、フォークやスプーンが多い

事例2:商品の魅力が相手にきちんと伝わっていない

とあるデパートで、素敵な漆の「ぐい呑」などの酒器が販売されていたのですが、説明文や各商品のPOPも、説明する販売スタッフも無し。商品のみが展示されていた状態でした。

伝統工芸の既存の知識がないシンガポール人が手に取っても、この状態では漆器を作る難しさや商品のこだわりなど「ぐい呑」の魅力がまったく伝わらず、ただ「金額が高い和風なコップ」にしか見えません

国家としての歴史が浅いシンガポール人の感覚としては、日本人のように伝統工芸や文化に触れあう機会が生まれつき少なく、各伝統工芸の細かい種類(例えば、はさみ焼き、薩摩焼き、有田焼き)などの違いが分かりません

ですが、シンガポール人は知りたがり屋で教えたがり屋な人が多いので、このような新しい知識や新たな情報を知ると「周りに教えたい」と感じる人もたくさんいる文化です。

そうした文化的背景を加味しても、せっかくわざわざ日本から持ってきた商品なのに、何の説明もなく置いておくことは機会損失だと言えます。

商品の説明は絶対にできるように工夫しましょう。例えば最低限商品の説明が入ったPOPや、以下のような工芸品の魅力を説明する際に必要な情報は明記しておいて損はありません。

商品名の英名版

先ほど例に挙げた「ぐい呑」は、ローマ字で「Guinomi」と書いても相手には「何の器なのか」が伝わりづらいので、より目的が一目でわかりやすい「Sake cup」として説明をつけて販売するとより魅力が伝わるのではと感じました。

他にも例えば

「江戸切子」→「Edo Kiriko cut glass」

「輪島塗」→「Wajima lacquerware」

と言ったように、主軸となる場所や地域の名前は残しつつ、意味がわかる言葉を付け足すのもおすすめです。

ちなみに「金継ぎ」などの世界的にも認知度が高い工芸技は、シンガポールでも「Kintsugi」というローマ字表記でも認知できる人が多い場合もあります。

どんな言葉があると相手に伝わりやすいのかは、進出させたい商品の市場の概況をきちんと調査して検討してみてください。

あしらわれている特別な技法についての説明

いくら手の込んだ製造過程で生み出された伝統工芸品だとしても、製造過程がよくわからない状態のまま展示されていると、お店で手にとってもその商品が「なぜ特別で、他とはどう違うのか?」という理由を知りたい気持ちにはなりにくいものです。

実際に、伝統工芸品をまったく知らないシンガポール人の場合は、手作りだということすらもわからないまま「おしゃれだけど、ただのコップにしては値段が高過ぎる」と思われても仕方がありません。

そんな場合こそ、シンガポール人の知りたがり屋な性格を逆手にとって、商品のストーリーを伝えるチャンスです!

以下のようなポイントについてはきちんと伝えられるように準備をしておきましょう。

購入後の取り扱い方法

これは実際に私が伝統工芸品の店頭販売に関わった際にあった出来事なのですが、販売されていた食器に対して「この商品は冷水も熱湯どちらも大丈夫か?」という質問を何度も聞かれました。

職人技で大切に作られ、一般の大量生産された食器より値段がお高い工芸品はデリケートに見えるので、購入後の商品の取り扱いに関する注意点などがある場合は、絶対にPOP等に記載しましょう。

展示する資料作成時の注意点

事前準備のポイントというよりは、事前準備をする際に気をつけていただきたい点があります。それは、英語の翻訳をAIに任せっきりにすることです。

最近では簡単な日本語はAIで瞬時に英語翻訳ができるようになりましたが、AIで翻訳した文章をそのまま使用する場合、日本語の独特なニュアンスが伝わらない場合があります

AI翻訳にすべて任せるのではなく、可能であれば現地の方に目を通してもらうようにしましょう。この一手間を入れるだけで、PRしたい商品の本来の魅力をより一層適切にお客様へ伝えられるようになります。

事例3:購入欲が湧かない価格設定

伝統工芸品のような職人の手で作られたものは、大量生産された品物に比べて価格が高いのは当然のことです。

ですが、お客様の立場からすると、その商品の製造過程の物語や価値が伝わらないと、大量生産型の商品ではなくてこの伝統工芸品を買うべき理由は見出せません

必ず「なぜこの値段なのか?」をきちんと説明できるようにして、価格に対して納得してもらい、購買意欲につながるようにしましょう。

たとえばこれは以前、実際に伝統工芸品のコップを販売した際のことなのですが、販売価格は平均以上の値段で1つ$130(約1万5,000円)でした。同じようなサイズ感の木のコップは、相場では$60〜80ほどの価格帯なので、平均的な金額よりおよそ倍ほどの値段でした。

価格だけ切り取ると一見すれば「お高いコップ」。ですが、木材を器用に削り作り上げた匠の技によって作られているからこそこのような価格になっているということや、ひとつの商品にかかる材料費についてお客様に説明すると、ご購入いただけました。

このように「高いのは当然」ではあるものの、説明がきちんとされなかったり、完全に手の届かない値段だとお客様の購買意欲は掻き立てられません。

また、商品を販売する場所によっても来訪するお客様のお財布事情が異なるので、販売する場所も価格を決める要素として重要です。

例えば、シンガポールの大手日系デパートの場合は、顧客層が富裕層のケースが多く、彼らは価格よりも唯一無二の価値やストーリー、品質を求める傾向が高いので、多少お高めな値段感でも販売できる可能性があります。

このように販売する場所やイベントを考慮した上で「少し高いけど、手が届きそう」というスイートスポットな金額設定をすることが重要です。

とはいえ、シンガポール市場を把握していないと判断しずらい場合がほとんどなので、弊社が関わらせていただく案件に関してはよく金額設定のアドバイスをさせていただくことがあります。

Otsumami Experienceのブース

価格以外で購入欲を湧かせる方法は「お得感」が重要です。

これは伝統工芸品に限った話ではなく、食品や衣服などのカテゴリーにおいても言えることなのですが、シンガポール人は「お得感」が大好きです。

だからといってすべてを安売りするのではなく、注目の商品のみに「お得感」が演出できる割引などの工夫を入れることがおすすめです。

具体的なテクニックとして例を挙げると、例えば「$10ドル割引します!」というような工夫よりも「Buy 1 get 1 free(1つ買ったら、1つ無料)」などのプロモーションの方が、シンガポール人にとっては馴染みがあって受けがいいと考えられます。

売り手としても「Buy 1 get 1 free」の方が1人のお客さんに対してより多くの数を買うとお得であることを伝えられるので、接客効率もよくなるはずです。

また、2つ以上のものを組み合わせた「セット価格」で販売するのも大いにお得感が演出できるのでおすすめです。

例えば、焼き物のお皿を販売する場合、2枚色別でセットとして販売すると「恋人と使える」「友達夫婦へのプレゼントとしてピッタリ」というようなセールストークもできるので接客しやすくなるでしょう。

Otsumami Experienceのブース

さいごに

まとめると、本格的に伝統工芸品の海外市場展開を検討する際に重要なのは

  1. 現地の生活者の需要の有無を検討すること
  2. 伝統工芸品の魅力を分かりやすく伝える準備をすること
  3. 現地人の性質に応じて販売方法を工夫すること

この3つの点が非常に重要です。これらを理解して実践することができれば、海外進出への第一歩はより確実なものになるでしょう。

これらの準備が整えられると判断できた方は、ぜひ進出したい国の市場でテストマーケティングを実施することをおすすめします。

試験販売を通じて、実際に海外の潜在顧客層と触れ合い、事業の方針や内容をさらに洗練させることができるようになるからです。

例えばシンガポールには、日本の伝統工芸品を好みそうで、購買力が高い方々が集まる場が多数あるので、テストマーケティングを行う最適な場所だと思ます。

先日ご紹介したブティックフェアもそのひとつなので、気になる方はぜひ参考にしてみてください。

雑貨・ライフスタイル商品でシンガポール市場進出するなら「Singapore Boutique Fair」に出店しよう

Singapore Boutique Fairの様子

さまざまな国の文化をミックスする「ごちゃ混ぜ文化」が当たり前なシンガポールで育った私にとって、100年以上受け継がれた技術を使用して丁寧に作られた日本の伝統工芸品は、日本の文化的財産だと心から感じています。

歴代の職人さんが魂をかけて作り上げた製品が、もっと世に広まればいいなという願いを込めて、今回はこのブログを執筆させていただきました。

衰退気味な伝統産業とは言われていますが、訪日インバウンド観光客向けへのアプローチ以外でも、海外のマーケットを本格的に視野に入れることで、少しでも業界の復興に繋がればと願ってます。