なぜ今、日本のウェルネス企業はシンガポールに注目すべきか

ウェルネスのイメージ
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シンガポールに暮らしていて、街の景色がはっきり変わってきたと感じます。

オフィス街でフィットネスウェアのまま歩く若い女性、予約が取れないほど人気のピックルボール、次々と増えるサウナなどのウェルネス施設。日本ではあまり見ない光景です。

調べてみるとチャンギ空港のJewelでは旅行者も参加できるピラティスイベントが開かれていたり、ランニングもAdidasのような世界的ブランドのクラブから地元有志の無料グループまで、コミュニティの層が驚くほど厚くなっています。数年前とは、街の空気の密度そのものが違います。

このような変化に伴い、今年に入って日本の食品メーカーや機能性アパレルなど複数の企業から、シンガポールのウェルネス市場進出についてのご相談が増えました。街で感じる変化と企業からのご相談の増加が重なり、改めてこのトレンドを一度きちんと整理しておくべきだと考えました。

そこで本記事では、Vivid Creationsが現地で20年近く事業を続けてきた視点と公開データをもとに、シンガポールのウェルネス市場を整理します。進出を検討される日本企業の方の判断材料になれば幸いです。

世界の中でのシンガポール:小規模でも購買力は高い市場

シンガポールのウェルネス市場は「市場規模は小さくても、一人当たりの支出額が非常に大きい」ということができます。

GWI(Global Wellness Institute)の最新データによると、シンガポールのウェルネス経済は2024年に232億USD、世界37位。2021年の150億USDから年率8.2%で成長しています。

世界37位という規模だけを見れば、世界4位の日本に遠く及ばない小さな市場です。人口約600万人の都市国家ですから、当然とも言えます。

ですが、「一人当たりの支出額」に目を移すと話が変わってきます。GWIによると、シンガポールの一人当たりウェルネス支出は3,845USDで世界12位。日本は2,117USDで世界36位です。

市場全体では日本がシンガポールの10倍以上の規模ですが、一人当たりがウェルネス商材やサービスに投じる金額では、シンガポールが日本の1.8倍にのぼります。

シンガポールと比較されることが多い香港やUAEと比べると、4カ国の市況は以下のように整理できます。

国・地域市場規模一人当たり支出
(世界順位)
一人当たりGDP
(世界順位)
シンガポール232億USD(37位)3,845USD(12位)90,674USD(4位)
日本2,624億USD(4位)2,117USD(36位)32,498USD(38位)
香港278億USD(30位)3,695USD(17位)54,034USD(19位)
UAE408億USD(26位)3,751USD(15位)48,830USD(22位)
【出典】GWI「Global Wellness Economy: Country Rankings 2019–2024」2026年1月

一人当たりで見れば、シンガポールは香港やUAEと並ぶ、世界屈指のウェルネス支出国です。背景にあるのは、一人当たりGDP世界4位(90,674USD)という突出した経済力だと言えるでしょう。

シンガポールを「人口600万人の小さな市場」と捉えると本質を見誤りかねません。プレミアムな価格帯のウェルネス商品を求める母数は、人口がものをいう市場規模ではなく、プレミアム価格を実際に払える人がどれほどいるかだからです。

この点から考えると、プレミアムな価格帯のウェルネス商品はシンガポール市場の方が日本の国内市場よりも相性がいいと言えます。

なぜ、いまシンガポールなのか

いまシンガポール市場を検討すべき理由は、周辺市場と日本市場の動向にあります。

例えばアジアの都市型ハブとして、シンガポールと長く比較されてきた香港。ウェルネス市場ではシンガポールよりも大きかったのですが、近年両者の差は縮んできています。

香港のウェルネス市場は、2019〜2024年の年平均成長率がわずか1.2%で世界でも最低水準です。一方、シンガポールは年率8.7%で成長し、一人当たり支出で香港を追い抜きました。

ウェルネス市場の総額でも香港は278億USD。対して、シンガポールは 232億USDまで詰めており、現在の成長率格差が続けば数年内に逆転する計算になります。

もう一つ、日本企業にとって見逃せないのが、日本国内の市場環境です。日本のウェルネス市場は2024年時点で2019年の90%と、主要25市場で唯一コロナ前(2019年)の水準をUSDベースで回復していません。これは日本の国内市場が縮んだわけではなく、円建てでは年率4.6%で成長しており、ドル換算で目減りしていることが原因です。

円安は国外輸出には追い風になります。購買力の高いシンガポールの消費者に対して日本製のプレミアム商品を、より手の届く価格で届けられる環境だとも言えます。

ここまでを整理すると、シンガポールは成長を続ける都市型ハブであり、円安が後押しし、購買力の高い層が集まる市場だと言えます。

同じく購買力の高い層が集まる都市型ハブとしてはUAEも似た構造で、成長率は年率14.3%とシンガポールよりもさらに高い水準です。

ただし、シンガポール市場は規模が小さく多様な民族が暮らす環境なので、UAEのような市場に最初から進出を検討する前に、まずは「シンガポールで売れた」という実績が作れます。その後のASEANや中国、中東への展開に向けて優位に運べる可能性があるので、シンガポール市場進出は、海外展開全体の足がかりにもなりえます。

お金はどこに流れているか

シンガポールのウェルネス市場は、特定の分野に偏っていません。セクター別の市場規模を追うと多様さや幅広さが見えてきます。

最も規模が大きいのは、化粧品やスキンケアを中心とするパーソナルケア&ビューティー。ですが、近年際立った伸びを見せているのが「ウェルネス不動産」です。GWIの調査では、住まいやオフィスに健康・ウェルネスの要素を組み込むこの分野は、2019〜2024年に年率28%で成長し、市場規模は38.4億USD、世界順位では14位に達しているとのこと。

実際にシンガポールの街を歩くと、ウェルネスが多様な「場」として広がっているのが分かります。

施設名特徴料金
The Longevity Suite
The Longevity Suite
ミラノ発の医師主導型ロングエビティクリニック。診断・メンタルパフォーマンス・運動・栄養・リカバリーをワンストップで提供。欧州35拠点のネットワークを持つ。クライオセラピー、高圧酸素、コントラストセラピー、赤色光、低酸素トレーニングなど。会員制プライベートクラブ「Madison House」(Fort Canning)内に2026年開業予定で、現在はMETT Singaporeにショールームを先行オープン。会員制のため料金は非公開。無料の45分プライベートプレビュー予約は可能。※オープン前
House Longevity
house longevity
リカバリー系ウェルネス施設。高圧酸素療法、レッドライト(赤色光)療法、95℃のドライサウナ、コールドプランジ、温水マグネシウムプールを備える。シンガポール初の認定アウフグース(ドイツ・オーストリア発祥のサウナ儀式)も提供。Women’s Weekly Spa & Wellness Awards 2026「Best Red Light Therapy Experience」受賞。高圧酸素療法 1回$150(パックで1回$62.50〜)/レッドライト療法 1回$88(パックで$14.98〜)/サウナ 2時間 $55(1回$25〜)/お試しセット「Try Everything」$108/Recovery Week Pass(1週間パス)$158(いずれもSGD)
NOWHERE
NOWHERE
温浴施設。水着を着用し、性別を問わず同じ空間で楽しめる。温浴プール2種(エプソムソルト浴・ナノバブル浴)、ドライサウナ、スチームルーム、休憩ラウンジ(軽食あり)を備える。月曜は女性限定、水曜夜は私語禁止の「Hush Hour」を実施。2時間パス 平日$55(10月1日より週末・祝日は$65)/月曜の女性限定・水曜のHush Hourは1時間$40〜(いずれもSGD)
The Ice Bath Club
The Ice Bath Club
シンガポールに4拠点(East Coast、River Valley、Duxton、Alexandra)を展開するアイスバス中心のソーシャルクラブ。香港・タイにも展開。共用のアイスバス、温マグネシウム塩風呂、ソーシャルサウナ、カフェを併設。予約不要でドロップイン可、タオル・水着も貸与。ドロップイン $55、20回パック $750($38/回・最も人気)、月額制「The Daily」(無制限・グローバルアクセス)$377/月 など多様なプランがある(いずれもSGD)
Yunomori Onsen & Spa
(シンガポール店)
Yunomori Onsen & Spa
東南アジア初の本格的なスーパー銭湯スタイルの日本式温浴施設。男女別の浴場(女性5種・男性6種の湯船)で、ソーダ風呂、絹の湯、ジェットバス、バブルバス、水風呂、スチームルーム、サウナ(男性のみ)などを備える。タオル・浴衣付き。和食カフェを併設し、タイ式マッサージなどのスパメニューも充実。デイパス 大人$49.05/子供・シニア$38.15。マッサージはヘッド&ショルダー30分$52.32〜、温泉+マッサージのセットは$155〜$270(いずれも税込・SGD)

これらの施設に共通する客層はありません。遊びを兼ねてトレーニングする層や、身体のデータに重きをおいて自己管理する層、日常の習慣として通う層、本格的に鍛える層といった具合に、まったく異なる客層に向けた施設が並存しているのが、現在のシンガポールのウェルネス市場の特徴です。

裏を返せば、日本企業が入り込む余地も一つではありません。自社の商品やサービスが、どの層の、どんなウェルネス市場に合うか。その見極めが重要になります。

ウェルネス市場の中でも食品・栄養の分野については、最近シンガポールで注目が高まっている「腸活」に特化して、以下の記事で解説しています。あわせてご覧ください。

シンガポール人にとっての「ウェルビーイング」の中身

シンガポール市場を考えるとき見落とされがちなのが「現地の人はウェルネスに何を求めているのか」という視点です。
現地で行われた複数のインタビュー調査によると、シンガポール人が「良い一日」と感じる活動は、大きく3つに分かれます。

  • 自分を肯定するセルフケア(運動、休息など)
  • 達成を実感できる活動(目標の達成、成果の手応え)
  • つながり・成長・支え合い(家族、友人、地域、仕事を通じた関わり)

つまり彼らがウェルネスに求めるのは、漠然とした「健康」ではなく、日々をきちんと前に進んでいる実感だと言えます。

その背景にあるのが、シンガポールでの生活に根ざしたストレスです。Cignaの2025年の調査では、回答者の79%がストレスを感じており、要因の上位は生活費(53%)、将来への不確実性(47%)、個人の財務(43%)でした。

美容や健康そのものより、まず生活費や将来への不安が大きい。だからこそ、暮らしを支える実用的な効果が求められます。

求めるものの中身は世代によっても変わります。

対象重視すること興味を持つきっかけ障壁
若年層
(18〜29歳)
ストレス、睡眠、自信、見た目、つながりSNS、友人、見た目の変化費用、情報の多さ
働く世代エネルギー、睡眠、疲労回復、手軽な栄養疲労、健康診断、体重の変化長時間労働、時間のなさ
中年層
(40代中心)
家族、予防、経済的安定医療費、親や子のニーズ家計負担、時間
アクティブシニア
(50歳〜)
体を動かせること、自立、目的退職、健康の変化費用、複雑さ
【参考】AIA Live Better Study(2025年)ほか複数の調査をもとにVivid Creations作成。傾向を示すものであり、公式な市場区分ではありません。

これらにはもちろん個人差がありますが、20代と40代では同じ「健康」でも求めるものが違います。「シンガポール人」とひとくくりにせず、「誰のどんなニーズに応えるのか」を定めることが、この市場での出発点になります。

最後に(シンガポールは参入しやすい市場ではない)

シンガポールのウェルネス市場は、規模こそ小さいものの、一人当たりの支出額は世界トップクラス。購買力の高い層が集まり、円安も日本のプレミアム商品には追い風です。

ただし、その好条件は日本企業だけのものではありません。世界中のプレミアムブランドが同じ理由でこの市場に集まっています。シンガポールは決して「参入しやすい市場」ではないのです。

だからこそこの市場では「どの客層に狙いを定めるか」が成否を分けます。特にシンガポールではプレミアムな価格を払える人が日本市場より多いので、

  • 価格に見合い、市場に刺さる価値を明確に打ち出すこと
  • 購買力の高い層に「これが欲しい」と思わせる戦略を練ること
  • 狙うべき客層を絞り込み「誰の、どんな悩みや願いに応えるのか」を定めること

このような「狙いをどこに定めるか」という設計が重要な出発点になります。

そしてこの市場で選ばれるブランドを築ければ、目の肥えたシンガポールの消費者に認められたという事実が、ASEANや中東といった次の市場への強力な後押しになります。

私たちVivid Creationsは、シンガポール現地で20年近く、日本企業の海外展開に伴走してきました。「自社の商品は、この市場のどの層に届くのか」「どう位置づければ勝てるのか」をご一緒に考えます。

シンガポールでのウェルネス展開を検討されている方は、ぜひお気軽にご相談ください。