マーケティング会社が、自社マーケを人に頼んだ話

Vivid Creationsの新ウェブサイト
Share on

「御社の強みを一言で教えてください」

海外進出のご相談をいただくとき、私たちが必ずお聞きする質問です。そして、この質問にすぐ答えられる企業は、実はそれほど多くありません。

技術力に自信はある。長年培ってきたものもある。それでも、いざ言葉にしようとすると、長い説明になったりあれもこれもと複数の要素になる。そして何より「当たり前にやっていること」ほど、強みとして言葉にできないことが多いのです。

その難しさを、今回、私たち自身が思い知ることになりました。

10年以上ぶりのウェブサイトリニューアル。クライアントの言語化を生業にしてきた弊社が、自社の言語化に一番苦しみました。

本記事では、その舞台裏を通じて見えてきた「自社の強みが見えなくなる構造」と、それをどう乗り越えたのかをお伝えします。

10年走り続けて、自分たちのことは後回しにしてきた

「10年以上ぶりに、弊社のウェブサイトをリニューアルしました」

そう書くと、前向きな門出の話に聞こえるかもしれません。でも正直なところ、私はこの10年、自社のサイトにだけはなかなか手をつけられずにいました。

理由はシンプルで、自分たちのことを語るのが一番苦手だったからです。

Vivid Creationsには、自分のことより、誰かの魅力を見つけるのが得意なメンバーが多い。だからこそマーケティングエージェンシーという仕事をしているのだと思います。でも裏を返せば、自分たちのことを自分たちで発信するのは、みんなあまり得意ではないのかもしれません。

クライアントの海外展開のためなら、いくらでも言葉を尽くせます。どう伝えれば現地の受け手に刺さるか、何日でも考えていられる。ところが、その矛先を自分たちに向けた途端、言葉に詰まってしまう。

マーケティングを生業にする会社が、自社のマーケティングだけは後回しにしてきた。少し格好の悪い話ですが、これが正直なところでした。

「うまく言葉にできない」感覚と向き合う

もちろん、気づいていなかったわけではありません。マーケティングチームからも、ずっと「そろそろサイトを見直しませんか」と声をもらっていました。私自身、「今のサイトは、正直見てくださる方には伝わっていないのかもしれないな」とどこかで感じていました。それどころか、本当にやるべきことも見えていました。10年前のリニューアルのときに語っていたことは、すでに現実になっている。これからVivid Creationsが目指す世界を、次の景色を、自分たちの言葉にしなければ——と。

それでも、クライアントワークを優先し、なかなか動けませんでした。それが相当な大仕事になることも、分かっていたからです。日々クライアントの言語化に立ち会うなかで、その難しさを誰よりも痛感してきた。自分たちのことになればなおさらだと予感していて、だからこそ、つい後回しにしてしまっていたのです。

思えば、この「うまく言葉にできない」感覚には、ずっと覚えがありました。

今のサイトを作ったのは、10年以上前のこと。当時は当時なりに、自分の言葉でVivid Creationsを表現しきったつもりでいました。ですがその頃から、「その言い方だと、伝わる人と伝わらない人がいますよ」という指摘は受けてもいたのです。それでも「分かる人には分かるはず」と、自分の言葉のまま進めてしまいました。

ずっと後回しにしてきた宿題に、ようやく本気で向き合うと決めたのが今回のリニューアルでした。

▼旧サイトデザイン(何の会社なのかパッとわからない)

対面では良さが伝わるのに、Webでは伝わらない状態

リニューアルを決めて最初にぶつかったのが、「Vivid Creationsって、結局何をやっている会社なんですか?」という問いでした。

改めて言葉にしようとすると、これが驚くほど難しい。

私たちの仕事は、クライアントごとに毎回シナリオが変わります。同じパッケージを配って回るのではなく、その企業の状況に合わせて、私たちが大切にしている対話を通じてカードを一枚ずつカスタマイズして差し出していく。クライアントとの会話から、クライアントすら気づいていない気づきを見つけ出し、本質に迫っていく。私たちはそこにこそ価値があると信じてやってきました。

ところが、その「毎回違う」という強みが、初めましてのお客さまには「で、何をしてくれる会社なの?」という分かりにくさになって返ってきてしまう。この矛盾を、私はずっと抱えていました。

おもしろいのは、一度でも私たちと対話した方にはちゃんと伝わっている、ということです。実際、Vivid Creationsの仕事は、既存のクライアントやパートナーからのご紹介で成り立っている部分が大きい。一度やりとりをした方が「あそこはいいよ」と別の方に薦めてくださって、次の仕事につながる。そうやって続いてきました。つまり伝わっていないのは、まだ会っていない人に対して。とりわけWebサイト上で、だったのです。

ただ、「分かっている」ことと、「それを形にできる」ことは、まったく別でした。ではどうやってWebサイトという形にアウトプットすればいいのか。そこがどうしても分からず、正直に言えば、長いあいだゴネていたのだと思います。

一度、CMOの宮川と「いくつかのサービスをパッケージにして、営業資料のような形で配ってはどうか」という案を検討したこともありました。でも、私はどうしてもピンとこなかった。私たちの仕事は対話を通じてその都度カードを組み立てていくもので、あらかじめ用意したパッケージを渡す仕事とは、どこか違う気がしていたのです。強みだと思っている部分ほど、定型に落とし込もうとすると、こぼれ落ちてしまう。そのジレンマが、話を前に進めることを難しくしていました。

社外パートナーと共にWebサイトリニューアルを決意

この堂々巡りに、外からの視点で切り込んでくれたのが、長年Vivid Creationsの発信を支えてくれている社外パートナーのWebマーケターの方でした。内側の事情を分かった上で、それでも客観的に見てくれる人です。

彼女がしてくれたのは、私たちの「言いたいこと」を並べる手伝いではありませんでした。むしろ逆で、Vivid Creationsのサイトを訪れる人が何を知りたいのか、どんな言葉を求めていて、何に不安を感じているのか。訪問者の側の目線から期待値を整理し、それを伝わる順番やレイアウト、一つひとつの言葉に落とし込んでいく。

これは私にとって、少し耳の痛いことでもありました。多くの人がそうだと思いますが、どうしても「自分たちが言いたいこと」から書き始めてしまう。でも、読む人が本当に知りたいのは、たいていそこではないのです。「自分の言いたいことばかりではダメ」とクライアントには散々お伝えしてきたことを、自社のサイトづくりを通じて、改めて自分に突きつけられました。

「Vivid Creationsはもっともっと素晴らしいのに、今のWebサイトでは全然表現できていません。届けるべき人にちゃんと届けましょう」

そう言ってもらえたことで、私はようやく、逃げ続けてきた問いに、正面から向き合う覚悟ができたのです。

問いを重ねて辿り着いた『海外事業推進力』という言葉

社外のWebマーケターとのやりとりで、「伝わっていない」という問題はようやく輪郭を持ち始めました。でも、それを「Vividらしい言葉」に変えていく作業は、また別の話でした。

その作業を一緒にやってくれたのが、長年弊社のコンテンツ制作を支えてくれている社外パートナーのライターです。私が日本に一時帰国している際に対面で数日間、ふたりでとことん話し込んで、今の弊社が大事にしたい指針を言語化することに取り組みました。

  • 誰の力になりたいのか
  • どんな瞬間に仕事をしていてよかったと思うか
  • クライアントから一番感謝されたのはどんな場面だったか
  • 自分たちらしい仕事ができた!と感じる時はどういう時か?そんな時にどんなことを気にして/大事にして仕事をしていたか?
  • Vividはどんな人たちの集まりか?

様々な角度から投げられる問いに答えていくうちに、自分でも気づいていなかった言葉が出てきました。そして自然と浮かび上がってきたのが、弊社がシンガポールで16年以上向き合ってきた現実でした。

「海外展開をしなければ」と思いながらも、具体論に入った途端に止まってしまう企業が多く、担当者をアサインできても、社内のサポートがなければその人は孤立してしまう。成果が出るまでに時間がかかるのに「成果を出せ」と言われ、肩身が狭い思いをし歯痒さを感じている。そんな場面に、何度も立ち会ってきました。

うまくいかなかったのではなく、途中で「諦めてしまった」ケースがいかに多いか。そして、それを防ぐために本当に必要な素養とは何か。多様性を尊重し、対話を重ね、正解のない状況でも動き続けてきた経験から辿り着いたのが、以下の4つの力です。

  • 世界の違いに向き合う力
  • 相手の前提を読み解く力
  • 正解のない状況のなかで推進する力
  • 事業を進める実行力

これらを「海外事業推進力」と呼ぶことにしました。弊社が大切にしているクライアントの「海外事業推進室」のような存在として伴走したい、という想いを、はじめて自社の知見を活かして定義づけた言葉にできた瞬間でした。

「私の言語」を手放した先に答えがあった

このアウトプットをCMOの宮川に見せたとき「違和感ないです。素敵にまとまってますね」と即答してくれました。社内に問いかけずに進めた不安が消え、社内のスタッフみんなで共有できる言葉がようやく生まれたと安心することができました。

ただ、ここまでの道のりは一筋縄ではいきませんでした。創業社長として我が子のように接してきた弊社に対して、私には「私の言語」があり、10年以上かけて積み上げてきた表現への思い入れもありました。ですが、そんな言語で出てきた表現に対して、何度も丁寧に「それだと伝わりにくいかもしれません」と言い続けてくれました。そのたびに私は自分のこだわりを手放すことを選びました。

自分がどう言いたいか、ではなく、相手にどう伝わるか。これはご支援させていただくクライアントにもよくお伝えしていることであり、頭では分かっていました。ですが、自社に対してそれを実際にやることは、思っていた以上に難しいことでした。海外マーケティングに向き合う経営者の皆さんも、同じ感覚をお持ちなのではないかと、身をもって痛感しました。

言い続けてきた言葉が、自分たちに返ってきた

完成したウェブサイトを初めて通しで見たとき、最初に出てきた言葉は「新しい弊社が始まる」というような門出の感覚ではなく、どちらかというと「やっと整えることができた」というような安心感でした。

今まで積み上げてきたこと、大切にしてきたこと、なかなか外に向けてうまく伝えられていなかったこと。それがやっと、弊社のメンバー全員が腑に落ちる形で可視化できたように感じたのです。新しい何かが加わったのではなく、ずっとそこにあったものが、ちゃんと見えるようになった。「これが今のVividだ」と、素直に思えました。

形にしていくプロセスの中で一番大変だった作業は、やはり自社のことを伝えることを目的とした「言語化」でした。私たちはクライアントの海外展開を支援するとき、「現地の受け手に刺さる言葉で、自社の魅力を届けること」の大切さをいつもお伝えしてきました。ブログや発信物を通じて、また対面での打ち合わせを通じて、「日本では当たり前のことが海外では伝わらない」「受け手の前提に合わせて、届け方を変えることが必要だ」と、何度も何度も言い続けてきました。

ですが、いざ自分たちのこととなると、長年当たり前にやってきたこと、自分たちの前提になっていることは、空気のように「見えなく」なっていて、自分たちだけではどれだけ議論を重ねても堂々巡りをしているような難しさを感じました。

これは弊社に限った話ではないはずです。どの会社でも、内側にいる人間は自社の強みを「当たり前」として見失いがちです。今回、長年寄り添ってもらっている外部のパートナーに「それって、当たり前じゃないですよ」と言われた瞬間、はっとしました。クライアントに向けて言い続けてきた言葉が、そっくりそのまま自分たちに返ってきた瞬間でした。「現地の受け手に合わせて届け方を変えることが必要だ」とお伝えしてきた言葉の重さが、自分ごとになって骨身に沁みました。

言葉になっていないものを、本人より先に見つける

同時に、この感覚を知っているからこそ、私たちはクライアントに寄り添える、ということも強く感じました。例えるならば、お寿司屋さんを想像してみてください。カウンター8席の、腕のいい板前がいる店。「今日はアジが食べたくて」とお客さんが言っていたとしても、一流の板前はそのお客さんの期待を上回る提案をしてくれるはずです。

今日はどんな方とご一緒なのか、この会食ではどんなことが目的なのかを考えつつ「光り物がお好きなんですか?」「お酒は何がお好みですか?」といった、世間話のような問いかけを重ねる。その質問ひとつひとつが、今日の相手の状態や好み、まだ言葉になっていない心の奥にあるニーズを読み解くための大切な情報収集です。お客さんが何気なく答えていくうちに、板前の中では像が結ばれていき、この人が「これだ」と感じるポイントを照らし合わせていくはずです。

そうした情報を複合的に掛け合わせた上で、はじめて「実は今日、こういうものが入っていまして。きっとお気に召すと思います。少し召し上がってみませんか?」という提案ができる。そうして出てきたものを口にしたとき、お客さんの顔が変わります。

「何これ?!すごく好きです!こういうのが食べたかった!」

そう言ってもらえる瞬間がたまらない。私の仕事の醍醐味は、ずっとこのような瞬間にあるといっていいと感じています。クライアントが言葉にしてくださったことの奥にあるものを探し、問いを重ねながら、会社の強みと可能性を、時には本人より先に見えるくらいまで深く理解しようとする。そして「実はこういうことだと思うんですが」と伝えたとき、顔色が変わる瞬間を作ること。その瞬間に、私は全力を注いできました。

そう言ってもらえるようなベストな提案ができることが本物の「提案」だと思うのです。私個人の趣向性になるのかもしれませんが、文化と文化を横断する弊社での仕事の醍醐味は、創業以来ずっとこのような点にあると感じています。

今回のウェブリニューアルでは自分たちがお客さんの側に立ち、自分では気づけなかった「当たり前」を外から見えていた人たちの力を借りて言語化するという一大プロジェクトでした。その経験が、弊社がこれからクライアントの海外展開に伴走するうえでの、確かな糧になったと感じています。

弊社で実施した店舗へのヒアリングの様子

信頼できる社外パートナーと組むということ

今回のリニューアルがうまくいったのは、たまたまではありませんでした。

実は、支えてくれた社外パートナーの2人はどちらも、10年以上前まだ駆け出しだったVividに、インターンとして関わってくれた仲間です。当時いっしょに汗をかいた人たちがそれぞれ独立して活躍するようになった今も、こうしてまたVivid Creationsの発信を支え続けてくれている。このご縁そのものを、私は心からありがたいと思っています。

だからこそ、ふつうなら制作会社に「うちはこういう会社で」と一から説明するところから始まるリニューアルも、今回はその工程がほとんど要りませんでした。2人は、Vivid Creationsの「今」も「これまで」も知っていてくれる。現地のリサーチはVividのスタッフが担い、それを戦略と、人に伝わる文章へと昇華してくれるのがこの2人です。ありがたいことに「おもしろい」と言っていただくブログも、その裏側にはこうした立役者がいます。

そして今回いちばん実感したのは、「任せる」には覚悟が要る、ということでした。自分の言葉を人に委ねるのは、頭で分かっていても勇気が要ります。それでも信じて任せられたのは、私の頭の中を透視しているのかと思うほど、深く信頼できるパートナーだったから。長い時間をかけて築いてきたご縁があったからこそ、安心して自分のこだわりを手放すことができました。

多くの経営者は、自社を誰よりも分かっているつもりで、実はいちばん見えなくなっているものだと思います。外から客観的に見てくれる存在を持てるか、そしてその相手を信じて委ねられるか。そこに案外、大きな差が生まれる。自分がクライアントの側に立ってみて、そう強く感じました。

社外からずっと弊社を応援してきてくれた2人、そして宮川をはじめとする弊社のメンバー。それぞれの視点と力が重なって、ひとつのウェブサイトができあがりました。チームでものをつくるということの、難しさと喜びを、あらためて感じています。本当にありがとうございました。

生まれ変わった私たちのWebサイトを、ぜひご覧ください。