シンガポールからの宿泊客を2倍以上に増やした高知県の新たなインバウンド戦略
コロナ禍で渡航が制限される直前まで、シンガポール市場からの訪日インバウンド客の延べ宿泊者数を、順調に増加させてきた高知県。
その理由はシンガポール市場に「観光レップ」を設立し、現地代理店への営業活動を積極的に展開していたからでした。
現在は新型コロナウイルスによる渡航制限の影響で、高知県への訪日観光誘客はできていませんが、現地での営業活動はオンラインでの新たな取り組みも展開されています。
シンガポールの観光レップとしてご支援させていただく弊社より、今回は特別に高知県観光コンベンション協会さまにインタビューさせていただきました。
観光レップ事業開始に至るまでの背景から今後の課題まで、海外市場への「観光レップ」設立をご検討されている方のご参考となれば幸いです。
まず観光レップとは何か?について先に知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
「観光レップ」とは?海外にレップを置いて訪日旅行者数を増加させよう
高知県への訪日シンガポール人の宿泊数が「2.7倍」に
経緯などをご紹介する前に、まずはシンガポールでの営業活動をはじめた2015年からの推移を見てみましょう。
以下のグラフのように、高知県への観光者数(宿泊数)は2016年から年々増加しました。(表1)
観光レップによる現地旅行代理店への継続的な関係性構築・営業活動を実施したことが、この成果につながったと感じています。
(表1:日本政府観光局「訪日旅行データハンドブック2020年」を基に弊社作成)
2019年には東京オリンピックにむけたシンガポール人選手の合宿が高知県で実施され、前年比「2.7倍」という驚異的な観光客数の増加を実現。
これからというときに、新型コロナウィルスの影響で渡航・ツアーの実施ができなくなってしまったのは非常に残念ですが、観光レップによる現地旅行代理店へのフォローは非常に重要だと考えています。
渡航制限が解除されるアフターコロナ時代に向けて今後も継続していく予定です。
なぜシンガポールを重点市場に?
シンガポールの訪日旅行者のニーズと主要観光地ではない「高知」は、相性がいいと感じた
シンガポール市場がターゲット市場になったのは、恐らく2015年以前とかなり前の事です。
高知県庁がターゲット市場を選定し、高知県観光コンベンション協会も一緒にシンガポール市場から高知への誘客を進めてきました。
シンガポール市場をターゲットとした決め手は、シンガポールは東南アジアの中でも訪日旅行者及びリピーター層が多いという点でした。
リピーター層は、ありきたりな観光地ではなく、より認知度が低くて素敵な場所、つまり地方部への期待やニーズを持つ人が多い。
そのように考えると、高知へ誘客できる可能性は多いにある、と。
ちなみに2019年には「訪日シンガポール人の75%以上がリピーター層」という結果が出ています。
(表2:日本政府観光局「訪日旅行データハンドブック2020年」を基に弊社作成)
訪日シンガポール人の観光客数の推移も、2019年まで右肩上がり、50万人を越えようという規模でした。
残念ながら渡航が大幅に制限された2020年以降は極端に減少していますが、そのようななかでも日本への興味、特に日本のローカル(メジャーではない地域)に興味がある層は潜在的に多い市場だと考えています。
(表3:日本政府観光局「訪日旅行データハンドブック2020年」を基に弊社作成)
全国44位からの巻き返しを狙う重点市場として、シンガポール進出を決定
しかしながら実際はというと、シンガポールからの高知県への旅行者数は、2015年の時点で「440人泊」、全国47都道府県中44位。
一方で、高知県から比較的近い位置にある広島県は「10,510人泊」で全国12位。
同じエリアなのに、桁が2つも違ったんですね。
広島に誘客できている訪日シンガポール人を、同エリア内で異なる文化が体験できる高知に誘客することはできないのだろうか。
高知にはやるべきことがまだまだ沢山あるんじゃないか。
そう思わざるを得ないデータでした。
また、シンガポールには「高知県シンガポール事務所」という県内企業の販路拡大を支援する拠点が、1996年から設立されていました。
シンガポールに観光レップを置くことで、高知県シンガポール事務所とも連携を図れる可能性もある。
そのような経緯でシンガポールを重点市場とすることに決めました。

課題が残った出張営業と代理店委託
出張ベースの活動をやめて民間委託するも、「市場向けの商品造成」に課題が残った
営業活動を始めた2015年は、高知県観光コンベンション協会がシンガポールへ出張ベースで営業活動を実施していました。
ですが、シンガポールの旅行代理店を訪問しても、「高知」を知っている旅行代理店は日系の旅行代理店くらいで、ほとんどの旅行代理店スタッフは高知を全く知らないという状況…。
出張ベースでは単発的な営業活動しかできず、現地の旅行代理店との継続的な関係性をつくることに苦労していました。
そこで、このまま継続するのは難しいと判断し、高知県として2017年からは日本の民間企業への委託を開始しました。
海外向け高知県ツアーの商品造成と、現地の旅行会社への営業活動を依頼し、ツアー商品の造成ができて戦略的に展開できたように見えました。
ですが、我々も委託会社も日本が拠点だったので、現地の市場のニーズに踏み込むような「シンガポール市場向けの商品造成」にはもう一歩という課題を感じていました。
同時に、現地の旅行代理店への営業活動には、現地でのネットワークが重要だということがよくわかりました。

参考:旅行代理店へのセールスコール
現地拠点があるVivid Creationsと連携し、観光レップ設置へ
自分たちでやるのは限界で、国内の代理店に依頼するのも課題を感じた結果、残る選択肢は「シンガポールをよく知る現地企業に依頼する」ことでした。
実際は、高知県内部にノウハウを蓄積するためにも、理想としては高知県側で直接海外の旅行代理店に営業できる方が良いと思います。
ですが、どうしても物理的にも高頻度で海外の旅行代理店にアプローチをすることは難しかったので、シンガポールの現地に信頼できる「観光レップ」が必要だと判断しました。
そして2018年からは、シンガポールを拠点とする Vivid Creations へ観光レップ事業の委託を開始しました。

参考:旅行代理店とトラベルフェアに出展
「観光レップ」設立のメリットとVivid Creationsを選んだ理由
「観光レップ」設立の主なメリットは以下の4つのポイントだと感じています。
- 現地の旅行代理店と高い頻度でコミュニケーションがとれる
- 現地側で旅行会社をサポートすることで親密な関係性を築ける
- 親密な関係を築くことで、より確度の高い最新情報を得られる
- 現地の最新情報から旅行者や旅行会社のニーズを捉え、高知県の旅行商品の造成・送客を実現できる
依頼先としてVivid Creationsを選んでよかったと思う点は、シンガポール現地で10年以上の実績を持つ日系マーケティング会社で、全国の地方自治体との実績も豊富にあったことでした。
Vivid Creationsは、過去にも旅行代理店への営業活動や共同販促事業、ファムトリップ、旅行博への出展などのさまざまな実績があり、実際にシンガポール現地でのコーディネーションは何でも対応ができたのでとても助かりました。
また、シンガポールの旅行代理店出身の方も在籍しており、シンガポールの旅行代理店事情をよく理解していることも非常に心強いです。
そのほかにも、シンガポールの日本政府観光局や鉄道会社、自治体事務所等との繋がりも強く、観光事業者とのネットワークを持っていたことから、安心して任せることができました。

「観光レップ」で得られた3つの成果
現地に観光レップを置いたことで、実際に得られた成果は主に3つあると感じています。
1.旅行代理店との信頼関係づくり
高知県が最初に現地(シンガポール)へ営業に行った時には、高知県を知らない旅行代理店が多く、単発の挨拶で終わってしまうことが多かったのですが、Vivid Creationsと観光レップ事業を始めて、着々と旅行代理店との信頼関係が作れています。
関係性が作れてきたので、旅行代理店とのアポイントメントの確度も高まり、商品の造成や販促に関して賛同してくれる旅行代理店が増えてきました。
他国の台湾などは、高知県に自然ときてくれる旅行者もいるのですが、シンガポールにはそのような旅行者がまだ少ないため働きかけが必要です。
大規模な広告ができれば集客ができるかもしれませんが予算も限られているため、高知県では旅行代理店を起点とした商品造成と販促活動、そして認知度の向上を目指しています。
シンガポールは観光レップを置くことで、上記の方法が軌道に乗ってきました。
現在、新型コロナウィルスの関係で高知県への実際の送客ができなくなってしまったため、結果が可視化しにくいところが残念ですが、地盤はできてきたので時機を見て送客を目指したいです。

参考:旅行代理店と開催した高知県のオンラインイベント
2.スピーディな対応と信頼できる情報の提供
現地にいるVivid Creationsとは、日常のコミュニケーションはチャットツールのLINEで連絡を取り、月次報告会を設定していました。
連絡がとてもスピーディであったので、連携がしにくいといった不満は一切ありませんでした。
現場で旅行代理店とコミュニケーションをしているため、現地の感覚を持って信頼できる生の情報を提供してくれたところが、とても頼りになりました。
例えば、コロナ期間中は、現地で何が起こっているのか、どうしても想像がつきにくかったのですが、現地の旅行代理店がどのような課題を抱えているのか、どのようなサポートを求めているのかなど、現地にいるからこそ把握ができることも多かったです。
その結果、旅行ができない中でも、旅行代理店と連携した情報発信や、今だからこそできる旅行代理店へのセミナーなどを開催ができました。
また、代理店との間で積み重ねてきた関係性から生まれた事例として、旅行代理店の店頭で、高知県の物産品が販売された事例も誕生しました。

参考:旅行代理店の店頭で販売された高知県の物産品
3.新型コロナとオンライン化への対応
新型コロナウィルスによって、観光レップとしての営業方法や、営業先の旅行代理店側の状況(在宅勤務が実施されるなど)が一変しました。
その中で現地代理店への営業活動は全てオンラインツールを使って継続し、これにより現地の旅行代理店とのオンラインツアーの実施に発展させることができました。
オンラインツアーでは、これまでリーチできなかった新しいターゲット層にも直接高知県の魅力を届けることができ、とても良い取り組みとなりました。
また、新型コロナウィルス以前には、ショッピングモールなどでイベントをしたことがありましたが、オンラインでイベントを実施したことで結果が数値化できたことも新しい成果となりました。

参考:旅行代理店と実施した高知県のオンラインツアー
現在の課題と今後の展望
シンガポール市場での「高知県」の認知度はまだまだ低いです。
過去に旅行代理店で高知県のツアー商品を造成しても、売れていなかったこともありました。
2021年度は新型コロナウィルスの影響で送客が難しいのは仕方がないですが、高知県の認知度の向上には課題として引き続き取り組みたいです。
認知度を上げるためには、より積極的に旅行代理店と継続的に情報発信をしていきたいと考えています。
現地の旅行代理店と協働することで、情報発信の後に商品購入までの導線も期待できるので、まずは高知県の露出を増やしたいです。
また、他県との差別化も今後の課題です。

参考:旅行代理店とシンガポールで開催された高知フェア
高知県は、飛び抜けて突き刺さるようなインパクトがある魅力な素材について考える余地がまだまだあると実感しています。
シンガポール市場向けには、当然「シンガポールでは体験できないもの」が好まれます。
それは、具体的には「食」「自然」「季節」などであり、「食」で考えれば、高知県には地産地消の食品の豊富さや、独特のお酒文化があります。
「自然」であれば、海・山・川があり、季節と合わせてシンガポールでは体験できないアトラクションがあります。
このような高知県ならではの魅力をどのように訴求していくか、現地の旅行代理店と旅行者の話を聞きながら精度を高めていきたいです。
他にも、シンガポールの富裕層には注目しています。
シンガポール市場に存在する「時間とお金をかけられる方(富裕層)」は、欧米からの旅行者の趣味趣向やニーズと合致する点があります。
欧米からの旅行者には、四国独特の「お遍路」や、地場産業・文化に関連する観光コンテンツが好まれる傾向があります。
シンガポール市場向けにも、このような観光コンテンツを盛り込んで、知的好奇心をそそるようなツアー商品の造成にも取り組みたいと考えています。
高知県および高知県観光コンベンション協会の目標は、シンガポールからの宿泊数を増やすことです。
その方法として、今後も継続して旅行代理店と連携をはかり、認知度の向上と旅行者数の増加を目指します。
最終的には、高知県が営業をしなくても、旅行代理店の方から高知県と組みたい、と声をかけていただけるまでにしたいです。
高知県にはシンガポールからの直行便はありませんし、交通アクセスも他県と比べて不便ですが、逆に「不便」であることを魅力と捉えなおし、「都市から高知県に誘客する方法」を検討・計画しています。
今後もターゲットに合わせてテーマを設定し、ツアー商品の開発からプロモーションまで積極的に実施していきたいです。



