シンガポールのたまご事情|日本からの輸出拡大はこれから

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シンガポール人はたまごが大好き。年間の国内消費量は毎年増加しており、1人あたりの消費量は2011~2020年の間に12%も増加しています。

ただし、日本ほど新鮮で安全なたまごは流通していないので「生卵を食べる」文化はあまりありません。サルモネラ菌が恐いので、しっかり熱を通して食べるのが一般的です。

しかし、昨今の健康ブームや日本食ブームにより「新鮮な日本のたまごを生で食べる」という知識が徐々に広がってきました。実際、日本産たまごの輸出量は年々増えており、日本のたまご料理レストランも現地にできています。

元々たまご好きなシンガポール人なので、今後もっと一般層に生卵の食文化が広がっていけば、日本産たまごの需要は爆発的に伸びると私は思っています。

今回はシンガポールでの日本産たまごの現状や、今度の見通しについてお話します。ぜひ参考にしてみてください。

シンガポールへの日本産卵の輸出量が増えている

卵消費が多いシンガポール市場は年平均2.5%で拡大中

2019年度は、日本産鶏卵の生食をアピールしたプロモーションの効果などによって、輸出量は前年度比で約53%増加の9,974トンを記録。輸出金額は前年比で約51%増加の約25.5億を記録しました。

シンガポールへ日本産の卵製品が輸出できるようになったのは、2019年6月からと割と最近ですが、解禁となってから日本産卵の輸出量は増加傾向にあります。

国内消費量は年々増加しており、2020年には年間22億個を超えました。また、鶏卵の1人あたりの消費量は、2011~2020年の間に307個から388個に増え、12%も増加しています。

【出典】Statista 2022, Volume of hen egg consumed in Singapore from 2011 to 2020(in million pieces)

一方で、日本の国内消費は概ね安定的に推移していて、2018年度の消費量は前年度比0.9%増加(2,735,000トン)でした。シンガポールの成長率と比較すると、市場が飽和状態であると見受けられます。

沖縄産鶏卵のシンガポール輸出は前年度の12倍に急拡大

なかでも沖縄県から輸出された鶏卵は、2020年に約128トンを記録し、前年の約11トンから約12倍に拡大。この規模は、日本産卵のシンガポール向け輸出量のうち、全体の約5割を占めています。

輸出量が伸びている要因は、シンガポール国内で日本食店を展開するENホールディングスが、沖縄県産卵を使ったメニューを提供するレストラン「たまご園(Tamago-EN)」の出店を加速している点が考えられます。

沖縄にシンガポールが認定する養鶏場があるという強みを生かしつつ、シンガポール市場に根付く企業と連携を図ったことで、生産・流通・消費の川上から川下まで一気通貫した体制を構築していることが、輸出拡大につながりました。

【出典】Tamago-EN, Instagram

シンガポールへ輸出できるのは世界で「11ヶ国」のみ

シンガポールに流通している鶏卵のうち、市場全体の約27%が国内生産ですが、残りの74%は輸入に頼っています。食料自給率が低いため食の安全保証に危機感を抱くシンガポール政府の方針から、輸入が認められている国は日本を含めて以下の11か国しかありません。

  • アジア:日本、マレーシア、韓国、タイ
  • 南半球:オーストラリア、ニュー ジーランド
  • ヨーロッパ:スペイン、スウェーデン、ウクライナ
  • 北米:アメリカ

全体輸入量の約73%はマレーシアからで、次いでオーストラリア、ニュージーランドが続き、日本はトップ4のシェアを占めています。

シンガポールから認定許可をもらうのはあまり簡単なことではないので、日本がすでに認定されていることは世界的に見て優位です。

また、国単位の認定だけでなく、生産拠点もシンガポール政府からの承認を受ける必要があり、認定された食品施設で生産されているものしか輸出ができないようになっています。日本国内では2022年3月現在、青森県、 茨城県、神奈川県、愛知県、大分県、沖縄県の7カ所しかありません。

上記の地域の鶏卵産業関係者は、ぜひシンガポール市場での優位性を活かして、輸出拡大に向け検討してみてください。

香港で話題の生卵文化がシンガポールにくる?!

鶏卵を巡るシンガポール市場の動向を考える際には、香港での動きが一つの参考になります。なぜなら、これまで香港で流行ったことはシンガポールで流行っている傾向があるからです。

たとえば、日本酒、お米などは香港でまず需要が拡大し、シンガポールに波及していきました。これは、シンガポールに中華系の人が多いというのもありますが、日本の食文化の広がり(日本食スーパーの拡大、日本食への信頼度合いなど)の性質が非常に似ているからです。

しかも香港の日本産鶏卵輸出量はダントツで1位。2019年の上位3カ国の輸出量と金額を比較すると、輸出量全体の9割が香港となっています。

1位 香港  24億9,258万円(9,810トン)

2位 台湾  2,487万円(88トン)

3位 シンガポール 3,026万円(74トン)

【出典】独立行政法人農畜産業振興機構, 年報畜産 2020 【国内:鶏卵】(p.2), 2021年3月31日

日本産鶏卵輸出1位の香港で生卵の日本料理が人気

急成長している香港の日本産卵需要の要因を、ダイアモンドオンラインの記事では、香港で「卵かけご飯」などの生卵を使う日本料理への人気が高まっていることを特集しています。

【出典】DIAMOND Online, 香港で日本の「卵かけご飯」にハマる人急増の理由、鶏卵輸出の9割は香港向け, 2021.2.18

本記事からは、日本で食べられる美味しい生卵の食べ方を知らなかった香港の生活者が、SNSでの情報や香港にある日系スーパー(シンガポールにもある「DON DON DONKI」や「Tamago-En」)の売り場を通じて、慣れ親しまない「生卵を使った日本料理」を知り、その美味しさが受け入れられていっている様子が伝わってきます。

また、年に数回訪日するといった日本ファンも多くいるため、コロナ禍で日本旅行に行けず、外食もできないことから、自宅で気軽に食べれる日本料理として「卵かけご飯」が流行ったのではないかという見識が紹介されています。

シンガポールも訪日観光リピーターが多く、日本食が大変人気な市場です。生活者の身近にある日系スーパーも香港と同様の企業があり、状況が似ています。シンガポールは香港の動向に追随する傾向があるので、シンガポールにも「日本産生卵文化」が来る日も近いかもしれません。

シンガポールに流通する食用卵事情

シンガポール市場に進出中の日系企業は取り組みを強化

すでにシンガポール市場に進出している日系企業は、市場拡大を狙って積極的に活動をしている印象を受けます。

例えば、愛知県に本社を置く「三栄鶏卵株式会社」は、鶏卵生産・販売を手がける企業で、2012年からシンガポール市場への卵の輸出に積極的に取り組んでいます。

シンガポールの高級街であるオーチャード地区にある「伊勢丹スコッツ店​」​や、日本食材が豊富に取り揃っている「Jmart」などへの卸販売を展開。シンガポールの代名詞とも言えるホテル「マリーナベイサンズ」内にあるミシュランレストラン「Waku Ghin」でも取引され、2021年12月には、同社で2箇所目となるシンガポール政府による鶏卵生産の農場認定を取得しています。

2019年12月には、シンガポールのクオリティーペーパーのブラインドテストで第1位に選ばれました。中部経済新聞の報道によると「ミシュランガイド」に掲載されるシンガポール国内にある店舗との取引を、当時40店舗程度だった数を100店に増やす取り組みを本格的にはじめ、業務用販売の拡大を強化方針を発表しています。

【出典】中部経済新聞, 三栄鶏卵 高級卵、シンガポールで販売強化 現地紙で1位評価獲得 業務用拡大へアピール, 2020年1月23日

世界の鶏卵生産のトップ6にランクインしている「イセ食品」を母体とする「イセ・フーズ・ホールディングス」は、2021年9月にシンガポール食品庁と提携して、シンガポール国内に鶏卵農場を設立しました。

農場では年間3億6,000万個の鶏卵と500万羽のひよこが生産できる予定で、シンガポール国内最大の養鶏場となる見通しです。

同施設は鶏の育成から卵生産までを一括して生産・管理する最新鋭の施設となり、イセ・フーズ・ホールディングスが約80億円(1億SGD)以上を投資して、2022年に着工が始まります。

2024年から徐々に稼働予定で、施設の生産能力はシンガポール国内の卵需要の約半分を満たすことができると言われています。

【出典】一般社団法人 農協協会, 最新の鶏卵農場開発でシンガポール食品庁とMOU締結 イセ食品, 2021年9月14日

藤野屋」は、2016年7月​​からシンガポール市場に輸出を開始しています。

人気の平飼いで飼育し生産した卵となる「トレたま」「トレたまハーブ」を中心に、年間最大約3万5000パックを空輸で輸出しています​​​​。日本の代理店企業が輸入を手がけ、現地法人を通じて販売を行っているようです。

日系のデパート「伊勢丹」とスーパー「明治屋」で店頭販売を行うほか、シンガポール国内の高級料理店や日本料理店、ホテルなど約30店舗に展開してい​​ます。

現地スーパーやレストランで見かける日本産卵は高級品

現地での販売価格は日本での販売価格の約10倍にもなる商品があるほど、高級な商品になっています。

例えば、日本の食品に特化したスーパー「明治屋」では、6個入りのたまごが平均で約1,000円(10.5ドル)で販売されていました。


【出典】MEIDI-YA, 愛知県産 三栄鶏卵プレミアムたまご(白)(生食可能)


【出典】MEIDI-YA, 大分県産 トレたま プレミアム卵(生食可能)

日本の食品を数多く販売する「DONDON DONKI」と「MEIDIYA Singapore」では、日本産卵は三栄鶏卵株式会社の「三栄たまご」、藤野屋の「トレたま」「トレたまハーブ」の3つが取り扱われ、価格は約820円〜1,000円。

シンガポール産の卵は通常どのお店でも、30個入りで520円程度で販売されているので、比べると思わず手が伸びにくくなります。

一方で、シンガポール在住の日本人としては、やはり日本の卵はシンガポール産のものよりも品質が良くて美味しいので、高額でも手に入るのは大変貴重です。

もっと日本産卵の美味しい食べ方や品質の良さがシンガポール市場に広まり、日本産卵の価値が支持されるようになってほしいなと願っています。

さまざまな特徴がある卵が流通する現地のスーパー

シンガポールのローカルスーパーの卵売り場の様子を見てみると、日本とかなり違います。

まずはとにかくスペースが広いです。以下の写真はシンガポールの一般的なスーパーの様子ですが、棚一面ズラ〜っと卵のパックが並んでいます。

最も手頃な値段で売られていたのは、マレーシア産の卵で30個入りで約522円程です。

シンガポール国内で平飼いで飼育・生産された卵は6個入りで約272円と少し割高ですが、商品数は数年前と比べるとかなり増えています。

オーストラリアやニュージーランド産のものは、オーガニックや平飼い飼育で生産されているものが多く、12個入りで約850円と比較的高い値段で売られています。

そのほかにも、「デザイナー卵」という鶏の餌に特定の栄養を加え、栄養素を強化した卵も販売されています。オメガ3が入っているものや、ビタミン入りのものなど種類が大変豊富です。

シンガポールで国内生産している鶏卵は、2022年3月現在ではChew’s AgricultureN&N AgricultureSeng Choon Farmの3箇所のみです。

スーパーの中には「ローカルの卵をサポートしよう!」というPOPもありました。

在シンガポール日本人向けの生食できる卵が発売開始に

シンガポールでは日本とは違って卵を生で食べる文化があまりないため、生食用の卵そのものをスーパーで目にする機会はほとんどありません

また、シンガポールは年間平均気温が約27度と温暖な気候にもかかわらず、市場やローカルなスーパーでは、鶏卵はそのまま常夏の常温空間内に陳列されているケースがほとんどです。

日本では通常市場に流通する前にきちんと鶏卵そのものを洗浄し、徹底的な品質管理や衛生管理のもと流通していますが、シンガポールでは基本的にそのような仕組みになっていません。

そのため、一般的にも「卵を生で食べると食中毒を起こす」という概念が根付いており、家庭消費でも加熱して食べる場合がほとんどで、パックから取り出したら必ず殻ごと流水で洗い流し、殻に付いている菌を口にしないように注意して使用することが常識になっています。

一方で、シンガポールでも日本と同じように低加熱処理できる設備ができたため、シンガポール在住の日本人の生卵需要を狙って、生食できる卵が流通しはじめています。

N&N Agricultureが製造する「生食たまご」

【出典】N&N Agriculture, Egg story Twitter

さいごに(まとめ)

シンガポール市場への日本産鶏卵の輸出拡大の可能性は大いにあります。また、鶏卵は日本政府の輸入強化品目になっているため、政府の支援などの情報収集を行って、シンガポール市場進出をご検討してみてはいかがでしょうか。

日本政府は2021年12月 に「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」​​を発表し、2019年23億円だった輸出額を、2025年までに63億円に拡大するという目標が定められています。

【出典】農林水産省, 農林水産物・食品の輸出拡大のための 輸入国規制への対応等に関する関係閣僚会議, 2021年12月21日 

また、シンガポール市場に対しては、2019年の0.2億円だった輸出金額を、2025年までに5億円まで拡大させることを目標とし、香港・台湾に次ぐ市場として強化を図ろうとしています。

【出典】農林水産省, 農林水産物・食品の輸出拡大のための 輸入国規制への対応等に関する関係閣僚会議, 2021年12月21日 

鶏卵のシンガポール市場進出は今まさに始まろうという段階なので、このブログの情報がお役に立てたら嬉しいです。