海外マーケティングに9割の企業が思い通りに行かない理由

シンガポールの夜景
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私たちはシンガポールを拠点に年間100社以上の海外進出をお手伝いしているのですが、正直なところすべての依頼を受けるわけではありません。

その理由は 「これは海外では十中八九うまくいかないだろうな」と思うプロジェクトが正直言ってあるからです。

実際にご相談いただいて、むしろ「国内事業でこうなさったほうが成果がでるのではないですか?」とお話することもあります。

海外進出は簡単な投資ではありません。失敗したらたくさんのリスクが伴います。また国内市場よりも収益化に時間がかかる長丁場が予想されます。

それだけ時間とお金を投資したのに、それ以上のリターンが得られていない企業をこれ以上増やしたくないという思いでこの記事を書きます。これから海外市場への販路開拓事業を実施しようと思われている方はぜひ参考にしてください。

 

 

「日本の加工品をとにかくプロモーションして」の無茶振り

私たちは自治体様から県産品のプロモーションのご相談も多いのですが、よく「スーパーにおいてもらいたい」「日本の商品は人気なんでしょ」と言われます。

はっきりいいますが、メイドインジャパンの商品だからといって爆発的に売れることはありません。10年前まではそうだったかもしれないですが、「日本」というブランドだけで売れる時代は終わったと言っても過言ではありません。

それくらい世界マーケットはものすごいスピードで変化しています。

シンガポールのスーパーの様子(イメージ)

モノが飽和している現代、消費者たちにはたくさんの選択肢があります。特にシンガポールは9割以上輸入で成り立っているため、世界中の商品が流通しています。

日本の高級菓子セットは、現地の高級菓子セットが競合とは限りません。「おもたせ」を主な用途としたら、おいしいタイのフレッシュフルーツセットかもしれませんし、はたまたバリ島旅行券が競合になり得ます。

もちろんメイドインジャパンのクオリティーは本当に素晴らしいですが、消費者がそこまでの質を求めていなかったら終了です。土俵にすらあげてもらえません。

  • 自社の商品を喜んでくれる相手が誰なのか?
  • その人たちは何を考えているのか?
  • 求めているのか?

このようなことを考えたことがありますか?「どうやらシンガポールには富裕層がいて、日本のものが売れるらしい」といううわべだけの情報を信じて、それだけで海外進出を夢見ていないでしょうか?

私はそこにずっと違和感を感じています。

今も農水省が「日本の加工品を海外にもっと売り出そう!」と言っていますが、加工品といってもいろんな種類があり、消費者の用途も異なります。一緒くたにして売れるなんて、正直無理があると思いませんか?

がんばって営業して現地のスーパーに置いてもらっても、結局売れずに撤退していった企業を何社も見てきました。あの楽天でさえも4年でシンガポールから撤退したんですよ。

海外進出が失敗するイメージ

 

海外というよりニーズ違いな土俵で自然に売れる仕組みを作る

マーケティングを成功させたいなら、現地で自然と売れる仕組みから作る必要があります。またそれが中長期的に続くことが前提になります。商談会やスーパーに置いて終わりでは続きません。

まずは、現地の生活者のニーズを知りそこにどう入り込むかを考えることが重要です。ここからはもう少し具体的にお伝えしたいと思います。

Sake Matsuriの来場者の様子

例えば、上記の「加工品をプロモーションしてほしい」というご相談を実際にいただき頭を悩ませたことがあります。なんとか解を見つけようと、現地での聞き取りやリサーチを経て、ひとつの案が生まれました。

それは、託された加工品の中から日本酒のあてに合いそうなものを選び、「おつまみ」として売り出すということ。

私たちが根付くシンガポールでは日本酒人気が年々高まっています。とはいっても、いきなりおつまみとしてスーパーで売ることはリスクがあります。「おつまみです!」とスーパーの棚に置いてあるだけで、誰が自然と手を伸ばすでしょうか?

「おつまみ」という文化は日本独特で、シンガポールでその文化が受け入れられるかどうかをまずリサーチしなければなりません。また、それを受け入れてくれるのは誰なのか?も検討しなければ、どんなに優れた商品もまったく売れることはないでしょう。

そこで、現地で最大級の日本酒イベント「Sake Matsuri」で、おつまみブースを設けテストマーケティングをすることを考えました。

Sake Matsuri会場の様子

 

熱心な日本酒好きのオーディエンスが「おつまみ文化」をもっと受け入れてくれる存在だと考えたからです。それに、彼らのライフスタイルをより豊かにする提案がしたいと強く思ったというのもあります。彼らはとても感度が高く、アーリーアダプターです。

しかし、日本酒好きのシンガポール人が過去数年やっているイベントで、今までおつまみ販売はやっていません。新たに企画を作り主催者へプレゼン、運営まで自分たちで行うことにしました。

主催者も、彼らのイベントで日本酒は充実するようになってきたが、それ以外の日本酒の周辺になるライフスタイルを提案するのは、顧客も喜ぶはずなので大賛成だとのことでした。

結果、プレゼンもうまくいき、無事におつまみブースでのテストマーケティングは実現することになりました。

Otsumami Experienceのブース

 

テストマーケティングも闇雲にやればいいわけではない

こういったテストマーケティングもただやればいいというわけではありません。やり方を間違えると、不利益を生み出す結果になることも容易に想像できます。

適切なオーディエンスの集まるところで、彼らの刺さるメッセージとプレゼン手法で伝えていくことが大事です。そうでないとせっかくやっても必要な情報や結果が得られません。

そこでいうと「Sake Matsuri」はそれだけ感度の高い人たちの集まり。日本酒に対する知識も高く、日本人の私よりも日本酒に詳しい人ばかりが集まります。好奇心が強く、文化やライフスタイルに関しての関心が高い人たちと言えます。

ターゲットがはっきりしているその環境でおつまみのテストマーケティングをしてポテンシャル顧客の生の反応を知れる最高の機会です。

さらに対面イベントなので、スタッフが積極的にお客さんとコミュニケーションを取り、おつまみを進めると、いろんな質問が飛び交い、納得して買ってくれる環境をつくることができます。

また、私たちは直接潜在顧客と対話することで、彼らから生のフィードバックを獲得することができます。それをある程度の数の意見を集めることで良質なデータを集め、マーケットリサーチができるというわけです。

それはテストマーケティングの重要な目的でもあります。自分が立てた仮説を分析し、答え合わせをする機会となります。そこから新しいマーケティング戦略が生まれます。

こういったことをやらずに、日本国内から遠隔で市場を知ることができるでしょうか?

商品を棚に置いてあるだけではダメ。やはりライフスタイルを消費者に提案できないとダメなんです。海外という新しい場所で新しい文化をつくる。とても簡単なことではありません。

Otsumami Experienceのブース

 

良質なデータを集めるために創意工夫する

海外でのテストマーケティングを実施するにあたって、次の問題が立ちはだかります。来場者とのコミュニケーションです。

的確な質問の設定と良質な答えを現場で回収しないと、テストマーケティングの良質なデータは集まりません。仮説がなく、どういった情報を集めたいか事前に整理をしないと、ありきたりな質問を並べたペラペラのアンケートに答えてもらって終わりでは、はっきり言って活用価値のない無意味なデータしか集まりません

そこで、当日きちんと的を得た質問やコミュニケーションができるように、事前にシンガポールにおける「おつまみ」の浸透度をリサーチし、シンガポールの人ってどれくらい「Otsumami」って言葉を知っているか、周りのシンガポール人にヒアリングを行いました。

すると、意外に「Otsumami」を知っている人はいたのですが、中華系の方は食事が終わってからアルコールを飲む人が多いことがわかり、食中酒の文化がなく、食後酒の文化を意識する必要性が判明。

食後酒の文化に「おつまみ」は通用するのか?普段飲んでいるアルコール(ビールやワイン)ではなく、今回日本酒のイベントなので、「日本では日本酒にはおつまみを嗜むときには」という文化を説明すれば興味を持ってくれるのではないか、という仮説を考えて、当日のコミュニケーションに活かすことにしました。

Otsumami Experienceのブース

 

リサーチの次は、来場者とのコミュニケーションが円滑になるように、わかりやすいブースのネーミングとキャッチコピー、そしてブースのロゴを、日本人スタッフとローカルスタッフが徹底的に議論し合いながら考えました。

ターゲットペルソナは、20代から40代の熱心な日本酒ファンで、日本酒の知識は豊富だが、食事とのペアリングについてはまだ初心者が多い人や、日本酒に関して知識はあるが、さらに楽しむ方法を知りたいと思っている層に設定しました。これは「Sake Matsuri」の来場者を意識してのことです。

キャッチコピーは、ローカルスタッフとコンセプトや今回のプロジェクトの目的や背景などを踏まえて議論し、現地のローカルの生活者をイメージしながら考えました。日本人だけで考えないことや、日本語を起点に考えたり、日本語の感覚で考えたものを翻訳しないようにすることを意識して制作しました。

< 検討したキャッチコピー >

“Find your perfect Sake companion”

DISCOVER YOUR SAKE COMPANION-
Marking its beginning in the 9th century Heian period, Otsumami refers to simple snacks or dishes served alongside alcoholic beverages.

OTSUMAMI EXPERIENCE was made to introduce authentic Japanese experience to local sake enthusiasts through the pairing of Otsumami and Sake.

Otsumami Experienceのキャッチコピー

またもうひとつ、現場での来場者とのコミュニケーションを円滑にする工夫として制作したものがあります。

それはお酒のタイプを4種類に分け、それらのカテゴリ別にペアリングとしておすすめな「おつまみ」がわかる独自の表示です。

お客さんが「Sake Matsuri」の会場で購入したお酒に合うおつまみを提案できると考えて制作しました。

こういったちょっとしたナレッジの伝達方法や情報提供に対する工夫が、来場者との接点とコミュニケーションのきっかけになるので、販促施策のアイディアとして参考にしてもらえたら嬉しいです。

Otsumami Experienceで分類した表

想定されるQAをまとめた資料も事前に作成しました。

想定した仮説を検証するため、事前に話し合って今回のテストマーケティングで集めたい情報を洗い出し、お客様に投げかける質問を全スタッフが頭に入れた状態でブースを運営し、チーム一丸となって意識的に情報収集をしました。

Otsumami Experienceのブース

 

また、今回は「日本酒」がテーマなので専門性が高いため、利き酒師とも連携しながら知識を蓄えていきました。

弊社では日本酒関連のプロジェクトをご支援させていただく機会も多いので、日頃から勉強していますが、利き酒師と連携することでより質の高い接客ができるようになりました。

具体的に今回、事前の質問として決めていた内容は以下の通りです。

  • おつまみを知っていますか?
  • おつまみの価格帯:高いと思うか、安いと思うか
  • どんなシチュエーションで食べたいと思うか?(家で一人で!?友達とパーティーで!?)
  • 試食で売れるか?
  • 一人当たりの単価
  • どの商品が一番売れるか?早く売れるか?
  • 購買した人の属性(年齢、性別など)
  • どんなお酒を普段購入しているか?どんなお酒が好きか?

これらを現場対応するスタッフと納得するまで議論し、イベントの準備をしました。単なるイベント運営のスタッフではなく、この取り組みをマーケッター目線で考えて成功させることが狙いでした。

Otsumami Experienceのブース

 

ここまで読んでいただいて、私たちがいかに泥臭いことを地道にやっているかが伝わったかと思います。海外でのマーケティングは、文化醸成と啓蒙活動。本当に大きなことを地道にコツコツ積み上げていかないと成果は出ません。

結果、今回の取り組みでは、3日間で58種類の商品を1,800個販売し、見事完売

単価が日本円で数百円〜数千円程度の商品ばかりだったにも関わらず、100万円以上の売り上げを達成し、「おつまみ」としての加工食品輸出の可能性を感じることができましたが、本当に地道な事前準備やコツコツ積み上げることが重要だと痛感しています。

以下の記事でより詳しくご紹介しているのでぜひ参考にしてみてください。

ミッション:日本の加工食品を「おつまみ」として海外で売れ!私たちがシンガポールでやったこと

Otsumami Experienceのブース

 

海外市場のテストマーケティングで絶対に心得ておくべきこと

  • 日本人だけで考えるという罠に気をつける
  • ターゲットにあう場所でないと適正な情報が得られないと心得る
  • ある程度事前にリサーチをした上で仮説を立てる
  • 現地の生活者とのリアルなタッチポイントで生の情報を引き出す

上記のことを踏まえて企画を詰めて行ったのですが、最後に各項目について具体的に解説したいと思います。これから海外市場で販路開拓への取り組みを予定されている方はぜひ参考にしてください。

 

日本人だけで考えるという罠に気をつける

私たちがまず伝えたいのは、日本人だけで考えるのをやめること。海外のことを、日本国内で日本企業で日本人だけで考えても、素晴らしい案が浮かぶはずがありません。

現地を深く知り、生活まで入り込んだ存在を味方にしないと、勝てるシナリオは見つかるはずがありません。

以下の記事では海外進出の際に現地に赴いてどのような情報をもとに深掘りし、意思決定をしていくべきなのかを詳しくまとめたので参考にしてみてください。

海外進出の目的をここまではっきりさせないと90%失敗で終わります

シンガポールのお店の中の様子

 

ターゲットにあう場所でないと適正な情報が得られないと心得る

私たちがシンガポール展開を目論む企業さんと話していると、シンガポールの誰をターゲットに販売を考えているか、全く想像していない、考えてない、ということが多いです。

その商品を気に入って購買してくれるターゲットがきちんと検討できていれば、マーケティングの手法や戦略を見つけやすく、ピンポイントな相手に訴求して、購買率がぐっと上がります。

相手が見えないのに、やみくもに誰でもいいから売るというのが得策なのでしょうか?

そこをお手伝いするのがマーケティング会社の弊社の役目だと思っています。

 

ある程度事前にリサーチをした上で仮説を立てる

こうしたこうなるのではないか?という仮説の精度が高いほど、的確なテストマーケティング手法を策定することができ、またより高い効果が期待でき、費用対効果も良いです。

また仮説をベースにしたマーケティングの仕掛け、顧客への質問内容をブラッシュアップすることができます。

「日本にいながらどのようにリサーチをしたらいいのかわからない」という方は、以下の記事で日本からでもできるデスクリサーチの例をご紹介しているのでぜひ参考にしてみてください。

海外の競合を日本から調査する限界|現地に行かないとわからないこと

デスクリサーチのイメージ

 

現地の生活者とのリアルなタッチポイントで生の情報を引き出す

私たちはスタッフ全員で現場に立ち、顧客対応を行いました。これはイベント運営の人員という観点ではなく、マーケッターとしての経験やトレーニングの意味もあります。

私たちの経験上、現場から学べることは多く、デスクサーチのレポートなど文章やチャートから読み取れる情報とは違い、その場でお客様の表情や声のトーンなども含めてフィードバックを聞くことができ、仮説をひっくり返すような重要且つ最新情報を得られることもあります。

「現地・現場」という一期一会で良質な情報収集ができる場を大切にすることを意識して、その機会の価値を最大化できるように準備することは非常に重要です。

Sake Matsuriの会場の様子

 

さいごに

ひとことで「加工品」といっても千差万別で一筋縄では行かないように、海外進出は簡単な投資ではありません。失敗したらたくさんのリスクが伴いますし、国内市場よりも収益化に時間がかかる長丁場な戦いとなることは間違いないでしょう。

たとえ運良く商談会でバイヤーと成約し、流通販路を得たとしても、商品を棚に置いてあるだけではダメ。現地の生活者に対してその商品があると叶えられる魅力的なライフスタイルを提案できないと継続的な購入・輸出拡大にはつながりません。

海外進出とは、海外という新しい場所で新しい文化をつくるということなのです。とても簡単なことではありません。

それだけ時間とお金の投資が必要なのに、十分な覚悟や準備がないまま挑戦して撤退してしまう日系企業をこれ以上増やしたくないという思いで、この記事を書かせていただきました。

これから海外市場への販路開拓事業に挑戦しようと思われている方の参考になることを心から願っています。