オーストラリアの事例から学ぶ日本食品のシンガポール市場進出
輸出大国のオーストラリアは、シンガポールでも牛肉はもちろん、チーズ、ラム製品、乳製品などがスーパーの至る所でみられ、食品の輸出規模は日本の約4.5倍におよびます。
生産規模も輸出規模も日本とは大きく異なりますが、オーストラリアがシンガポールで販路を広めるために行う活動は、日本食材の輸出増加を考える参考になります。
なぜなら、オーストラリアは日本がまだ取り組んでいない活動をシンガポールで実施しているからです。
たとえば、オーストラリア産のラム肉は、人口の大半を占める華僑ではなくマレー・インド系の層をターゲットとしつつ、シンガポールの有名美食家を起用した番組等を通じて、ラム肉を積極的に消費していない層への啓蒙活動を積極的に展開しています。
また、個々の食材単位や地域単位ではなく、商材が何であれ「オーストラリア産」であることを示す認証マークを普及するキャンペーンを実施し、ブランドとして認識される取り組みを行っています。
オーストラリアの事例から学び、今後の取り組みの糧にしましょう。
このブログでは、10年以上日本食品のシンガポール進出を支援してきた弊社の視点から、オーストラリアの取り組みから日本が学べる4つのポイントと事例をそれぞれご紹介します。
こんなにすごい!シンガポール市場に流通するオーストラリア産食材
シンガポール市場へのオーストラリア産商品輸出規模は日本の4.5倍
オーストラリアは、総農業生産量の約70%を海外に輸出する農作物の輸出大国です。
オーストラリアにとって最大の輸出先は中国で、ついで日本、米国、韓国が重要な輸出先となっています。
シンガポール市場への輸出総額は、2020年に約9,600億円(約US$71億)、2021年に約9,000億円(約US$65億)を記録しています。
OECDの統計によると、2021年の食品関連の輸出総額は、全体の約9%となる約1,013億円(約US$7.46億)です。
【出典】TRADING ECONOMICS, Australia Exports to Singapore
食糧の70%を海外からの輸入に頼っているシンガポールにとって、オーストラリア、中国、インドネシア、マレーシア、米国は主な取引先です。
オーストラリア政府は、統計データを参照し、2016年はシンガポール市場においてオーストラリア産の商品は、牛肉、チーズ、ラム製品の市場で最大のシェアを占めていたと発表しています。
日本からシンガポールへの2015年の輸出総額は223億円となっており、年度が違うので単純な比較はできませんが、その規模は約4.5倍にもなります。
オーストラリア産の商品がスーパーで手軽に入手可能
オーストラリア産「牛肉」は9割を占有
実際にシンガポールのローカルスーパーに行ってみると、食肉コーナーに並んでいる生肉は、おおよそ9割がオーストラリア産の商品でした。
写真には12種の牛肉がありますが、そのうち11種がオーストラリア産でした。(残りの1つはアメリカ産でした。)


赤みがしっかりしているので、霜降りが美しい日本産の和牛とはやはり違いますね。
価格も200~300g程度で約1,000~1,260円(SG$11〜13)と、リーズナブルなお値段でした。
オーストラリア産「牛乳」は約3分の2を占有
スーパーで最も日用品として消費されるケースが多いオーストラリア産の食品は、なんといっても牛乳です。
以下の写真の棚のうち、約3分の2がオーストラリア産でした。左隅にある「meiji」の商品はもちろん日本産です。
オーストラリアのメーカーのものには、オーストラリアの国の形が必ずと言って入っているのが特徴です。
日本の食品の場合は、「○○県産」といった地域を打ち出している商品も多いので、なかなか日本の国の形を前面に出して日本産であることをアピールしている商品はみません。


オーストラリアから学べる4つのポイント
【1】商品ごとに現市場に根ざした戦略を取っている
「ラム肉」はマレー・インド系などの民族を中心に流通
オーストラリアの食肉の海外販路を切り拓き 輸出を促進する協議会「Meat and Livestock Australia (MLA)」によると、シンガポールへのオーストラリア産ラム肉の年間輸出量は、市場全体の87%を占める約1,1450トンとのこと。
これはなんと、牛肉の1.7倍の量に匹敵し、輸入額は牛肉と同じ規模です。
一方で、一般的に中華系シンガポール人の消費者のほとんどは、毎日の食事でラム肉を消費することはあまりありません。
そのため、オーストラリア産ラム肉を消費する主要なターゲットは、マレー系シンガポール人、インド系シンガポール人、その他の少数民族です。彼らは食生活の中でラム肉を頻繁に消費しています。
また、ミレニアル世代の男性(特に25〜40歳)は、他の層よりもラム肉を好む傾向があることがMLAの調査で報告されています。
そのほかは、ラム肉を消費する文化圏の駐在員や、観光客などが消費する程度ですが、観光は一時的に停止していたため、ここ数年はシンガポール在住の方による消費がほとんどです。
ラム肉を消費しない理由として、2017年の調査では「どのように料理したらいいかわからない」が世界平均より高い1位を記録しています。
このことからか、シンガポールではラム肉に馴染みのない人の消費拡大を狙って、ラム料理レシピのアイデアや調理法の啓蒙などの消費者教育が近年盛んに行われています。
実際に「Lambassador」を務める食通で有名なポール・フォスターが司会するテレビ番組や、シンガポールの有名レストランのシェフがお気に入りのラム料理を紹介する番組が、2020年に放送されました。
番組ではオーストラリア産のラム肉を使った東南アジアの家庭料理のアレンジが紹介されており、全エピソードのレシピは、Webサイトでも確認できるようになっています。
【出典】True Aussie SEA – YouTube, [Lamb Me Your Recipe] Lamb Rendang Ep1 (LMYR)
【2】ブランド構築を中長期的に実施している
オーストラリアは、パッケージにオーストラリアの国の形をあしらった商品も多く、また中長期的に「オーストラリア産」ということをアピールする認証マークを商品につけている例が多々あります。
とても地道な取り組みですが、このマークにより消費者は「オーストラリア産」というブランドを確実に認識し、それに付随したイメージを持つようになります。
一方で日本では「日本産」というよりも、県単位などの地域ごとにPRしがちです。
例えば日本産の果物に関して、「日本産の果物」としてではなく、日本産の「桃」「ぶどう」「梨」のように、個々の食材ごとにPRすることが多い傾向があります。
ですが、細かい日本の地理や県ごとの特徴を知っているシンガポール人はほとんどいないので、正直「どこの県の商品か?」は絶対に伝えなくてなはならいポイントではありません。
実際にオーストラリアでは「メルボルン産」「シドニー産」などといった地域ごとに細分化されたPRは行っていません。
仮に「メルボルン産」をPRする商品があっても、日本市場に入ってきた時に、一般の日本の消費者がその情報によって購買を左右するとは考えにくいでしょう。
商品によっては地域(産地)のPRを行うことは必要かもしれませんが、オーストラリアのように「高品質で信頼できる『日本産』である」ということをわかりやすく認識できるマークを普及させることが重要です。
「オーストラリア産」の認証マークには、具体的には以下のようなものがあります。
Australian Made, Australian Grown
オーストラリアで生産された商品に貼られている原産国表示マーク。シンガポールでよく見られるマークのひとつです。
「オーストラリアン・メイド・キャンペーン」は、1999年にオーストラ
リア商工会議所(ACCI)と州・準州商工会議所ネットワークが連邦政府の協力を得て設立された非営利企業「Australian Made Campaign Limited(AMCL
)」によって運営されています。
AMCLは、ロゴの使用を企業に許可し、オーストラリア国内および海外でオーストラリア製品を宣伝することを主要な業務とする組織です。シンガポールにも事務所があります。
Meat and Livestock Australia (MLA)
日本でいう日本畜産物輸出促進協議会のような非営利団体「Meat and Livestock Australia (MLA)」が手がけるマーク。
オーストラリアの食肉の海外販路を切り拓き 輸出を促進する協議会で、オーストラリア産の牛肉、ラム肉、ヤギ肉の世界各国でのマーケティングを担当している。
True Aussie Beef & Lamb
「True Aussie」は、オーストラリアの赤身肉業界を、すべての輸出市場において単一のブランドで統一するために、2014年に立ち上げられた取り組み。
シンガポールにリージョナルオフィスを構えています。
【3】シンプルでわかりやすい英語のクリエイティブをつかう
オーストラリアが主導するキャンペーンでは、使われるデザインやキャッチコピーなどがシンプルでわかりやすい英語で構成されていることが多く、とても魅力的です。
日本の食品をPRする際にも、シンプルでわかりやすい英語のクリエイティブを使って取り組むように心がけると良いと思います。
日本の場合は母国語が英語ではないためか、あまり目を引くような英語のキャッチコピーを使って海外市場で目立っている事例が、まだまだ少ないと感じます。
たとえば、実際に海外市場で日本の商品がどう認識されているかというと、商材はなんであれ「高品質」であることや「日本」という国のイメージが先行して認知されていっているケースが多いです。
高品質な「日本食材」のイメージがより伝わるような、わかりやすい英語のクリエイティブデザインやキャッチコピーをあしらったキャンペーンをしましょう。
以下、参考になるオーストラリアのPRキャンペーンをご紹介するので、ぜひご覧ください。
(1)オーストラリア産のロゴをPRする「Honestly Australian」キャンペーン
2020年の年末から、「Australian Made」のロゴとオーストラリア製品の認知度を高めるマーケティングキャンペーン「Honestly Australian」が実施されました。
日本語に訳すと「正直なところ、オーストラリア産」という形になり、もちろん「(正直なところ、オーストラリア産)がいいよね」ということを伝えるキャッチコピーになっています。
「Honestly」と「Australian」の2つの英語で十二分に伝わってくる洗練されたシンプルさが魅力です。
【出典】Australian Made Campaign Ltd, Spotlight on the Australian Made logo in Singapore, December 14, 2020
年末のクリスマス前から旧正月までの主要なショッピング期間(2020年11月~2021年2月)に焦点を当て実施されていた点も、キャンペーンの戦略性が感じられます。
紹介されているブランドにはそれぞれランディングページがあり、ロゴのPRだけでなく、個々のブランドのPRにも取り組まれていました。
その他、ソーシャルメディア広告(Instagram、Facebook、YouTube)はもちろん、インフルエンサーを起用した取り組みが行われ、Webから商品の検索・購入ができる仕組みになっていました。
【出典】Australian Made Campaign Ltd, Spotlight on the Australian Made logo in Singapore, December 14, 2020
(2)オーストラリア産ラム肉をPRする「Lambassador」
MLA(Meat & Livestock Australia)が100%所有し、「True Aussie」ブランドの一環として実施されたキャンペーン「Lambassador」。
「Lam(ラム肉)」と「Ambassador(大使)」の造語でとてもシンプルで目を引くキャッチコピーが魅力です。
「Lambassador Asia」は、2020年にシンガポールとインドネシアの両市場で展開されています。ちなみに日本でも「Lambassador Japan」が、シンガポールより早い2015年から取り組まれています。
「Lambassador」にはシンガポールのタレント、モデル、俳優などが起用され、食通で有名なポール・フォスターもそのうちの一人。シンガポールで活躍する有名レストランのシェフも含まれています。
内容はすでにご紹介しているので割愛させていただきます。
【出典】Lambassodar Asia – Singapore, About Paul Foster
【3】輸出強化品目に注力している
オーストラリアは、日本よりシンガポールとの距離が1,000kmほど近いので「食材を新鮮なままシンガポールに輸出しやすい」という優位性があります。
その条件をうまく利用して、対アジアの市場に対する輸出品目が「乳製品」「牛肉」などとわかりやすく明確で、中長期的な活動を実施し、安定的な輸出量のシェアを維持しています。
一方で、日本は一応輸出強化品目を決めていますが、オーストラリアと比較するとあれもこれもとかなり手広く進めようとしている印象があります。オーストラリアは、輸出品目ごとへの力の入れ方が、日本よりも徹底されているのです。
以下では、乳製品に関する事例を参考までにご紹介させていただきます。
強化品目の「乳製品」の販促企業がシンガポールに駐在
シンガポールの乳製品、卵、蜂蜜、食用製品のオーストラリアからの輸入は、UN Comtradeによると、2020年に約194億円(約142百万米ドル)を記録しています。
シンガポール市場でのシェアはEU、ニュージーランドに次ぐ3位です。
乳製品に特化した専用のウェブサイトがあり、オーストラリア産の乳製品を買うべき理由などがかなり詳しく情報発信されています。
このような活動を支えるオーストラリア産の乳製品に特化したセールス&マーケティング会社「Pure Daily」。
オーストラリアで製造された乳製品の販売・マーケティングを専門としており、オーストラリア、米国、メキシコに拠点があり、2020年にシンガポールにも拠点を設立しました。
拠点を設立することで、シンガポールのような変化が激しい輸出市場の動向を把握したり、ネットワークを構築しやすくなるので、シンガポール市場に対する本気度が窺い知れます。
【おまけ】オーストラリアと日本は類似組織が多いので活動が参考になる
シンガポール市場での競争優位性が似ている
オーストラリアと日本のシンガポール市場における競争優位性は、以下のような類似点があります。
- 強いブランド認知度地位(「クリーン&グリーン」な評判と高い食品安全基準)
- 最終消費者(エンドユーザー)がもっている高い親近感
- シンガポールとの時差がほとんどない(時差1時間)
- 季節が違う(オーストラリアは季節が逆になる。日本はシンガポールにはない四季がある)
- シンガポールを結ぶ海・空の強力なコネクティビティ
日本とすごく似てるので、オーストラリアがシンガポールで取り組んでいることは、日本食品のシンガポール市場戦略を考える上で参考になると思います。
海外市場進出に関連する組織や認証が似ている
日本の「JETRO」のようなオーストラリアからの輸出を支える機関がいくつかあり、日本ととても似ているため、参考までにご紹介します。
| 機関名 | 内容 | 日本の組織 |
|
Food Standards Australia New Zealand (FSANZ)
|
オーストラリアとニュージーランドの食品規格を策定しています。 | 厚生労働省 |
| Australian Trade and Investment Commission | シンガポールにも事務所があり、以下のような取り組みを実施しています。
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JETRO |
| Department of Agriculture, Water and the Environment (DAWE)
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オーストラリアの農産物が、輸入要件を満たしていることを貿易相手国に保証する機関です。 効率的に輸出規制を行うことで、貿易国にオーストラリアが信頼できる農産物の輸出先として高く評価されるために取り組んでいます。 また、オーストラリアの天然資源を保護し、強力な農業産業の発展を支援しています。 |
農林水産省 |
| Department of Agriculture, Water and the Environment, Australian Bureau of Agricultural and Resource Economics and Sciences (ABARES) | 農業関連産業輸出の持続可能な成長と回復力の達成を支援する政府組織。主に以下の取り組みを実施しています。
|
農林水産省 商工会議所 |
Dairy Australia![]() オーストラリアの酪農産業のための国家サービス機関 |
オーストラリアの酪農は、130億ドル規模に達する重要な産業。Dairy Australiaは、酪農家と政府による研究開発費で運営されており、酪農の収益性と持続可能性を支援しています。酪農家の生産性向上とオーストラリア酪農産業の国際競争力強化に注力しています。 | JA |
| Meat and Livestock Australia (MLA)
オーストラリアの食肉の海外販路を切り拓き 輸出を促進する協議会 |
オーストラリア産の牛肉、ラム肉、ヤギ肉に関する世界各国でのマーケティング事業を担当しています。 | 日本畜産物輸出促進協議会のような非営利団体 |
|
野菜の生産者のための業界代表団体。 |
農産物マーケティング協会(PMA)オーストラリア・ニュージーランドとともに、毎年Hort Connections会議を主催し、オーストラリア園芸業界最大のイベントで、全セクターが学び、ネットワークを構築しています | 日本乳業協会 |
さいごに
シンガポール市場進出を検討する際に、シンガポール市場に関するリサーチをする人はいても、他国がどのような戦略で実際に何をしているのかを事前に調査している人は少ないかもしれません。
その理由は、主に以下の2つにまとめられるように感じます。
- ひとつは日本語で情報収集ができないから。
- 英語を駆使し、断片的な他国の情報をつなぎあわせ、他国のシンガポール市場展開を浮き彫りにする作業は手間がかかるから。
ふたつ目の点は、言い換えれば「どの国を参考にするべきなのか、現地に在住する生活者でないと見当がつかないから」とも言えます。
さまざまな国のシンガポール市場展開を情報として調べることができても、生活者の中に体感として「認知度が数年前より格段にあがっている」「流行っている」などの実感は感じ取ることができません。
現地在住者の視点でとらえなければ、どの国を参考にして調査すべきなのか、はじめの一歩を踏み出すことさえも難しいのが現状です。
弊社では、創立から10年以上日本の商材の海外進出をご支援させていただいており、シンガポール在住の知見を生かした情報発信に、ブログを通じて取り組んでいます。
このブログでご紹介した内容が、日本産食品の輸出拡大にむけた参考になればうれしいです。
さいごまでご覧いただきありがとうございました。









オーストラリア政府保健局の法定機関




