ガストロノミーツーリズムでシンガポールからの訪日客を増やそう
ここ数年で「ガストロノミーツーリズム」という言葉がよく聴かれるようになりました。
観光庁の定義によると「その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、その土地の食文化に触れることを目的としたツーリズム」を意味します。
その国・土地の料理や食文化を楽しむために旅行をする「ガストロノミーツーリズム」は、地方ごとにユニークな食文化をもつ日本にとって、どの地方でも訪日旅行者に向けてPRできる切り口です。
なかでも、食事を娯楽の一部と捉え、日頃から出費する傾向が強いシンガポールは、日本の「ガストロノミーツーリズム」を打ち出す市場として非常に相性が良くおすすめです。
この記事では、なぜシンガポールがガストロノミーツーリズムと相性の良い市場なのか、他の国の観光局や団体がシンガポールでどのようなプロモーションをしているかについて、現地にいる訪日インバウンド専門スタッフがご紹介します。
シンガポール市場とガストロノミーツーリズムの相性が良い理由
日本政府観光局(JNTO)の調査結果によると、世界を旅する旅行者の旅行目的上位は「ガストロミー・美食」でした。
東アジア・東南アジアでは、訪日理由の1位に「ガストロノミー・美食」が挙げられており、欧米豪・インド・中東市場では2位にランクインしています。
中でも特にガストロノミー・美食が訪日旅行の最大の理由になっている国が、シンガポールです。
シンガポールの人たちは、美味しい料理を求めて旅をすることで知られています。
Hotels.comが実施した調査によると、シンガポールのミレニアル世代の87%が、行き先を決める際に「食事が最大の決め手となる」とし、観光名所(60%)やショッピング(40%)を訪れるよりも、その土地での食べ歩き(78%)にほとんどの時間を費やすと回答しています。

なぜシンガポールの人たちはこれほどまでに食にこだわるのか、その理由を下記に挙げました。
外食することが娯楽の一部となっているから
シンガポール人の生活費で最も大きな支出は食事です。
シンガポール人が自宅で食事をするより外食を好む傾向が高く、ある調査では回答者の95%以上が1日1回以上外食しています。
その理由は、シンガポールは国土が東京23区程度なので国内旅行という娯楽が基本的にはなく、日常的に楽しめる「食事」が娯楽の一部になっていて楽しむ人が多いからです。
東京に住んでいる方であれば、週末に近隣の都市や、北海道や沖縄などのリゾートに行けますが、シンガポールの人たちは国内の旅行がありません。
その分、シンガポールの人たちにとって、国内では様々なレストランで食事を楽しむことが主な余暇の過ごし方になっています。
最近では、アフリカ料理やスリランカ料理専門の料理もオープンしており、注目を集めています。
国内で様々な国の食事をたのしめるようになっているから
シンガポールは、中国、マレー、インド、西洋など、さまざまな文化が混ざり合った多文化都市です。
シンガポールは「アジアの食の都」とも呼ばれており、ユニークで多様な食文化が生まれ、さまざまなおいしい料理が楽しめます。
このシンガポールでは、新しいレストランや飲食店が次々と誕生しています。
2022年には「ミシュランガイドシンガポール2022」に52店舗のシンガポールにあるレストランが選出され、ミシュランの星を獲得しました。
このうち3つ星を獲得したレストランは3店舗あり、全てヨーロッパ料理を提供しています。
2つ星、1つ星のレストランのジャンルは、中華料理、日本料理、インド料理、フランス料理、イタリア料理、バスク料理など多岐に渡り様々です。
【出典】Foodies Asia,「ミシュランガイド シンガポール 2022」星獲得レストラン全52店一覧, 2022.07.15
舌が肥えていて「本物」を求める人が多いから
シンガポール人の舌は肥えており、上質な食材や調理法への理解が高いことで知られてます。
多くのシンガポール人は、質が高く、美味しい料理にはお金を惜しみません。
例えば、日本食レストランでは「おまかせ」メニューが大人気で、予約をしないと店内に入れないほどです。
「おまかせ」メニューは通常ひとり20,000円以上(約200ドル)し、お酒を追加すると30,000円以上(約300ドル)します。
富裕層だけではなく一般の方にも大人気なので、シンガポール人は美味しい食事を体験するための出費は惜しまないだけでなく、質の高い本物の味を求める傾向があると言えます。
シンガポールで人気の「Sushi Kimura」はお寿司のおまかせメニューを提供しています。
また、弊社が独自で実施した、日本を愛してやまない「訪日経験10回以上」のシンガポール人(30〜50代)3人へのインタビューでは、日本食が大好きなので「現地(日本)で食べたいから訪日する」という回答がありました。
その具体的な理由は、
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シンガポールでも食べることができが、同じ食べ物であっても日本で食べる体験そのものが比較にならないほど別格で特別なものだと感じるから
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旅館や食堂で食べるご飯は家族が作ってくれたようなあたたかさを感じるので、何度でも訪れたくなるから
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海鮮料理、肉料理、果物は、シンガポールに比べると価格が安くて鮮度が良いから
などが挙げられました。
詳しくは以下のブログにまとめているので、参考にしてみてください。
なぜ10回以上来日するのか?訪日外国人リピーターの情報収集術と理由を独自インタビュー
【おまけ】シンガポールならではの「フュージョン料理」も人気
さまざまな食文化を融合させた「フュージョン料理」を提供するレストランが多いこともシンガポールの特徴です。
「モダンシンガポール料理」とも呼ばれますが、文化が共存するシンガポールでは、例えば日本料理とシンガポポール料理が融合したモダンな料理も提供されています。
例えばミシュラン1つ星のレストラン「Labyrinth」では、たこ焼きの中に牡蠣を入れ、その上にウニとキャビアをトッピングした料理を提供しています。
シンガポールの文化や国民に関してもっと知りたい方は、以下の記事にまとめているのでぜひ参考にしてみてください。
ガストロノミーツーリズムをPRする施策【他国の事例】
シンガポールからの訪日観光客のうち、約70%がすでに訪日旅行をしたことがあるリピーターで、日本に10回以上旅行したことがある人は、全体の10%以上を占めています。
日本好きなリピーターの訪日観光客は、日々日本国内の中で「新しい旅行先」を探し、特にまだあまりメジャーになっていないような地域に目を向けています。
特に美味しいグルメ情報は、旅行先を決定する要因にもなっており、日本以外の国の観光局も、ガストトロノミーを軸に置いた観光情報の発信に力を入れています。
この章では、シンガポール市場向けにガストロノミーツーリズムをPRする具体的な施策について、日本以外の他国の事例をもとにご紹介していきます。
食と観光に特化したメディアへの露出を「シンガポールで有名なシェフ」を起用して行う
シンガポールのメディアでは上記にあるような国民性から、「食」と「旅」に関する情報を好んで取り上げることが多く、ほとんどの場合食と旅は同一のもの(娯楽)として捉えられています。
例えば、シンガポールのラグジュアリーメディア「Peak(ピーク)」では、記事のカテゴリーに「GOURMET & TRAVEL(グルメ&トラベル)」という両者がまとめられたものがあります。
【出典】The Peak Webサイト
「Peak」の最近の記事では、ガストロノミーツーリズムをテーマにした旅がいくつも紹介されています。
例えば、ミシュランの星3つ獲得したシンガポールのレストランのシェフが、パリとランスにあるご自身のお気に入りのミシュランレストランを紹介する記事など
また、新型コロナウイルスの影響が長く続いた香港に関する記事では、ダイニングシーンが移り変わっていることや、最新のトレンド・現地レストランが紹介されていました。
日本や地方がメディアと組むなら、以下のような取り組みが検討できます。
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シンガポールで著名な日本人シェフとタイアップして、日本や地方の食と観光を紹介してもらう。
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シンガポールで著名な日本人シェフとメディアを一緒にファムトリップに招待し、地元の食を基点とした記事コンテンツや動画を作る。
プライベート会員専用のクラブに「シンガポールで有名なシェフ」を招いたイベントを行う
シンガポールには富裕層が多いことで知られています。
これからシンガポールはさらに裕福になるという予測があり、例えばミリオネアの数は2021年と2026年で比較すると151.4%増加するとされています。
そんなシンガポールでは、会員制のプライベートクラブが流行しています。
例えば、シンガポールで最も注目を浴びているプライベートクラブ「Mandala Club(マンダラクラブ)」は、シンガポールの起業家や投資家、セレブリティなどもメンバーにいる会員オンリーのプライベートクラブです。
日頃から会員向けにさまざまなイベントを企画しており、先日、ミシュラン2つ星を獲得している東京のレストラン「NARISAWA」のシェフを招待し、Mandala Clubで5週間にわたるポップアップストアを開催。
シンガポールでも非常に話題になり、会場には会員やメディアが集まりました。
訪日旅行観光のガストロノミーツーリズムをPRするためには、このような有名なシェフを招待したイベントを通じて、情報発信することが非常に効果的だと考えられます。
なぜなら、著名シェフがおすすめる日本の観光情報は、食通のシンガポール人にとって信頼度が高く、貴重な情報となるからです。
特にラグジュアリーな旅行者は、口コミ情報をとても重要視しているので「誰のおすすめなのか」は非常に重要なポイントとされています。
例えば、以下のようなポイントで、様々な情報発信の切り口やテーマが考えられます。
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シェフに自身の料理に使用している素材の産地に紹介してもらう
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シェフが影響を受けた日本食や地域を紹介してもらう
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シェフの出身地について話してもらう
プライベート会員専用のクラブとの共催イベントはターゲットも絞られて効果的に実施できるので、ぜひご検討ください。
フード系インフルエンサーを起用したSNSでの情報発信を徹底的に行う
食に特化した美食家のインフルエンサーが多いシンガポールでは、メディアと同等の影響力を持っています。
なぜならシンガポールはそもそも国土が狭く、インターネットユーザーが多いので、SNS上での拡散により、一気に市場を席巻するという起きやすいからです。
そのためどのような分野でもシンガポール市場で著名なインフルエンサーを起用したPRは必須の施策となっています。
たとえば2023年2月には、台湾観光局がシンガポールのフード系インフルエンサーを台湾に招待し、PRを実施していました。
台湾の料理といえば、泡茶、牛肉麺、牡蠣オムレツ、臭豆腐などの有名な料理で知られています。
今回実施された台湾観光局のプロモーションでは、シンガポールの人気インフルエンサーが台湾の夜市を訪れて、屋台料理を紹介していました。
シンガポールにはフード系インフルエンサーが、他のメディアカテゴリーよりも多く人気です。
日本や地方がメディアと組むなら、以下のような取り組みができます。
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地方に宿泊を促すのであれば、夜や早朝に楽しめる飲食店や料理をフードインフルエンサーに紹介してもらう(例:屋台料理や居酒屋、夜にしか空いていない飲食店、港にある朝市など)
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個人旅行者向けに、外国人でも入りやすい地元の飲食店を紹介してもらう
シンガポールで開催されるイベントで地域の「ガストロノミーツーリズム」を売り込む
シンガポールでは毎週さまざまなイベントが開催されていますが、現地でのリアルなイベントを通じて実際に食事を体験してもらうことも、ツーリズムに繋がります。
例えば、台湾は2022年11月に、シンガポールのショッピングモール内で「Taiwan Food Tour」という台湾のグルメを楽しめるイベントを開催されました。
イベント会場には台湾のフードブースが立ち並び、台湾の料理をシンガポールで楽しめるイベントです。食を通じて旅行意欲が高まるきっかけになっています。
【出典】SethLui.com, Taiwan Food Tour to be held in Suntec City from 4 to 6 November 2022, October 30, 2022
2020年には台湾の夜市「士林夜市」をモチーフにした食のイベントが開催され、話題となりました。
士林夜市は、台湾で最も大きく、最も有名な夜市と言われており、シンガポールの旅行者が必ず訪れる場所です。
この夜市には、500以上の屋台が立ち並びました。
【出典】 Invade, Shilin Night Market in Singapore
タイで最も人気のマーケット「チャトチャックマーケット」をモチーフにしたグルメイベントもシンガポールで開催されました。
タイ料理といえば、トムヤムスープ、グリーンカレー、パッタイ、マンゴースティッキーライスなど、スパイシーで風味豊かな料理で有名で、シンガポールでもタイ料理専門のレストランがたくさんあります。
このイベントは、2023年は2月7日〜4月2日にかけて、シンガポール国内で開催され、会場には180以上のお店が並び、タイ料理やタイ旅行を国内で体験しようと多くの人が訪れました。
【出典】TimeOut, Guide to Chatuchak Night Market Singapore 2023: what to eat and drink, 14 February 2023
シンガポールではグルメイベントや日本イベントも数多く開催されているため、このようなイベントに出展して、食と観光をPRする機会として活用することもできます。
例えば、シンガポールで日本酒のイベント「Sake Matsuri」などは、日本酒の産地となっている地域の方には非常におすすめです。
「Sake Matsuri」は、日本に何度も旅行に行っているような日本酒・日本食好きな方が、およそ2,000名ほど集まるイベントで、、1本1万円以上するような高単価の日本酒がよく売れています。

シンガポールの日本酒好きコミュニティに向けて、日本酒と地元のグルメを紹介することで、ガストロノミーツーリズムのPRとなり、酒蔵ツアーや田植え体験なども派生して提案できます。
ちなみにシンガポール最大級の旅行博「NATAS」では会場でツアーを申し込めるようになっていて非常に人気なので「Sake Matsuri」でしか申し込めないプレミアムなガストロノミーツーリズムツアーの販売などを行うのも、シンガポール市場のニーズに合うと考えられます。
シンガポールで大人気の旅行博「NATAS」でどのような取り組みが行われているのかは、以下の記事に詳しくまとめているので参考にしてみてください。
シンガポール最大級の旅行博「NATAS」とは?現地訪問レポート
さいごに
シンガポールはグルメ好きの国民性があり、これからガストロノミーツーリズムで打ち出していくにはぴったりの市場です。
ガストロノミーを基点として訪日インバウンドに注力されているなら、シンガポール市場向けにも情報発信をはじめてみてはいかがでしょうか。
本記事が、ガストロノミーツーリズムにご興味がある方にとって参考になる内容となりましたら幸いです。










