日本産鶏肉のシンガポール進出を徹底考察|輸出拡大に向けた市場レポート
シンガポールのソウルフードが「チキンライス」であるように、宗教的な制約のない鶏肉はシンガポールで最も消費されている食肉です。
チャイナタウン近くにあるマクスウェルフードセンター内のチキンライスの名店「天天海南鶏飯」では連日のようにローカルが大行列を作っているように、シンガポールでの鶏肉人気は不動です。
そんなシンガポール国民にとっては欠かせない食材の一つである鶏肉ですが、2022年6月よりシンガポールの鶏肉輸入量の3分の1を占めていた「マレーシア産の鶏肉」の輸出制限が始まり、シンガポール国内の鶏肉市場は大打撃を受けました。
これを受けて、シンガポール政府はインドネシア産鶏肉の輸入を承認するなど、鶏肉の調達先の多角化を一層推し進めています。
日本産鶏肉は、まだまだシンガポールにおいてはシェア数が少なく、日本産鶏肉に対する認識も消費者レベルでほとんどないというのが現状です。
国をあげて輸入国の多様化を推進している今こそ、日本産鶏肉の輸出拡大を狙えるチャンスだという可能性もあります。
このブログでは、シンガポールのリアルな鶏肉市場について現地在住者ならではの視点からご紹介しています。
日本産鶏肉のシンガポール市場進出や、アジア市場展開を検討されている方はぜひ参考にして下さい。
シンガポールの鶏肉マーケットはポテンシャルが高い
シンガポール人の鶏肉消費量は日本人の約2.5倍
2020年度のシンガポール食品庁(Singapore Food Agency:SFA)の報告書によると、シンガポール国民1人当たり年間の鶏肉消費量は約36kgとなっており、日本国民の約2.5倍の消費量となっています。
シンガポール国内出の鶏肉の消費量は、他の食肉や魚介類と比較しても圧倒的に多いのですが、単に人気というだけでなく、Readmartの調査によると、市場に出回る食肉の価格は、100g当たり「牛肉:約300円〜」「豚肉:約200円〜」「鶏肉:約150円〜」と、牛豚肉と比較して鶏肉の方が安価であることから手に取られやすいという背景もあります。
またシンガポールには、豚肉を食べることができないイスラム教徒が約15%、牛豚肉を食べられないヒンドゥー教徒が約4%いるため、唯一どの宗教の制限もない鶏肉の消費量が高くなっているということも考えられます。
実際にシンガポールのローカルスーパーに行くと、鶏肉コーナーは他の食肉コーナーと比較しても幅広く取られていることが多いです。
【出典】Singapore Food Agency, GROWING our FOOD FUTURE 2020/2021
シンガポール政府が鶏肉輸入を後押し
Singapore Food Statistics 2021によると、シンガポールの2021年の鶏肉輸入量は計21万4400トン。
主な輸入国は約50%がブラジルで、次いでマレーシア34%、米国8%となっています。
しかし、2021年に始まったマレーシアからの鶏肉の輸出規制によって、今後各国のシェア数は大幅に変わってきそうです。
シンガポール政府はインドネシアからの鶏肉輸入許可に加えて、特にタイ、オーストラリアからの輸入拡大に関しても模索しているようです。
シンガポールが輸入している鶏肉は、主に以下の3つの種類に分類されます。
- ブロイラーチキン
- 食肉用に最適な健康状態と大きさになるように品種改良された鶏です。
- スーパーマーケット等に並んでいる最も一般的なものになります。
- カンポンチキン
- マレーシアやインドネシアなどに生息する鶏の品種を指します。
- 元々は農場で放し飼いにされていましたが、現在はケージで飼われることが多いようです。
- ブロイラーよりも小型で高価なのが特徴です。
- ブラックチキン(黒鶏)
- カンポン鶏と同様に、黒鶏も小型で高級品とされ、価格も高い。
- 黒皮の鶏の多くは、タンパク質の含有量が非常に高い肉を生産しています。
- 黒鶏は、一般的に中華料理の薬膳スープの材料として使われます。
また、以下の形態で、29カ国(2021年時点)の認定国から鶏肉を輸入しています。
- 生きたまま
- 通常、マレーシアから生きたまま持ち込まれ、国内で屠殺・処理されます。
- マレーシアが2022年6月に鶏肉の輸出を禁止したことを受け、シンガポールはインドネシアからの生きた鶏の輸入を検討しています。
- 来年2024年以降に需要があれば、シンガポールに新鮮な鶏肉を供給するための新しい農場がバタム島にできる可能性があります。
- チルド(冷蔵)
- 未加工の鶏肉で、4~7℃の温度で保存・輸送されます。
- 鶏のどの部分も冷凍されていません。冷蔵庫で2日間、冷凍庫で3カ月間保存可能です。
- 冷凍
- 輸送前と輸送中に深層凍結されたものを指します。
- -18~-12℃の温度で保存・輸送され、冷蔵庫で2日間、冷凍庫で12カ月間保存可能です。
- 加工
- 部位ごとに分解され、胸肉、脚、手羽先などの貴重な部位は取り除かれ、別々に梱包された後、空輸・輸送されます。
- 燻製や熟成、化学的な防腐剤の添加などによって保存された肉も加工肉に分類されます。
- 加工工場で調理されたり、ナゲットやパテなどの製品にされることもあります。
現時点で日本産鶏肉のシンガポール輸出は許可されている
日本産鶏肉の輸出可能国・地域は限られており、現在はアジアの5カ国、EU、ヨーロッパ4カ国のみとなっています。
現在は、中国などと輸出解禁のための協議が行われています。
シンガポールにおいては、2019年5月31日に鶏肉を含む日本産畜産物の輸出が解禁されましたが、鶏肉輸出施設についてはシンガポール政府の査察・認定を受ける必要があります。
シンガポールにおける日本産鶏肉の輸入条件としては、チルドは禁止、冷凍および加工鶏肉の輸入はOKとなっています。
ただし高病原性鳥インフルエンザの発生により一部道県で生産および処理された鶏肉の輸入制限がかかっているので、詳細はこちらのリンクよりご確認下さい。
おまけ:日本産鶏肉の輸出量推移
日本産鶏肉の海外への輸出先は、香港が最大となっています。
シンガポールへの輸出量はまだまだ少ないですが、シンガポール政府は鶏肉輸入先の多様化推進を行っているので輸出量拡大の追い風となる可能性があります。
10年以上ブラジルとマレーシアによってほぼ独占されていたシンガポールの鶏肉市場ですが、これを期にゲームチェンジが起きようとしています。
シンガポール人の日本食を含む日本への関心・信頼度の高さを考えると、日本産鶏肉が今後シェア数を伸ばしていくことは可能であると考えられます。
【出典】独立行政法人農畜産業振興機構, 国内の需給動向【最近の食肉の輸出動向について】 畜産の情報 2020年11月号
おまけ:日本産鶏肉とシンガポール市場に関する動向
シェア数はまだまだ少ない日本産鶏肉ですが、農林水産省は日本国産鶏肉のシンガポールへの輸出額を、2025年には2億円とすることを目標に掲げています。
また、生産者・食鳥処理施設・輸出事業者が連携し、生産から輸出まで一 貫して輸出促進を図る「コンソーシアム」の構築や、現地プロモーション、BtoB商談会の実施等の方策を打ち出しています。
シンガポールにおいては、特に鶏肉の衛生管理が特に重要となるので、高度な衛生水準に対応でき、価格競争力のある認定施設を増やしていくことを目指しています。
現時点で、シンガポール政府によって認定されている日本産鶏肉の輸出業者は、宮崎県(宮崎くみあいチキンフーズ 株式会社都城食品工場)の工場1箇所のみです。
認定施設となるにはシンガポール食品庁の厳しい管理基準を満たさなければならず、特に輸送ルートにおいてコールドチェーンを途切れなく維持させることなどが重要となってきます。
シンガポールでの鶏肉の販売状況は?
シンガポール国内のローカルスーパー・日系スーパーでの販売状況
日本よりも全体的に販売価格が高い印象です。
また、日本では鶏ムネ肉の方が鶏もも肉より圧倒的に安いですが、シンガポールでは鶏ムネ肉と鶏もも肉の値段差はほとんどありません。
| ブラジル産もも肉 | SG$1.6/100g
SG$14.5/1kg |
| マレーシア産ささみ肉
マレーシア産ムネ肉 マレーシア産もも肉 マレーシア産骨付きもも肉 マレーシア産カンポンチキン |
SG$2.0/100g
SG$21.80/1kg SG$13.7/1kg SG$1.3/100g SG$14.8/1kg SG$12.2/1羽 |
| タイ産チキンドラムスティック
タイ産ムネ肉 |
SG$1.4/100g
SG$1.35/100g |
| 中国産ムネ肉 | SG$16.7/1kg |
シンガポール国内の大手ECサイトでの販売状況
シンガポールのECサイトでは、日本ではあまり好まれない鶏の足や鶏皮など少し変わった部位が売られています。
スーパーにも売られていることがありますが、ムネ肉やもも肉以外の部位はECサイトの方が豊富な印象でした。
| ブラジル産冷凍ムネ肉
ブラジル産もも肉の味噌焼き(加工シンガポール) |
SG$7.98/1kg
SG$3.18/100g |
| マレーシア産ムネ肉
マレーシア産もも肉 マレーシア産チキンホール マレーシア産チキンホールぶつ切り マレーシア産鶏の足 マレーシア産鶏レバー マレーシア産鶏皮 |
SG$1.8/100g
SG$1.44/100g SG$8.32/1羽(1200g) SG$7.27/1050g SG$0.61/100g SG$0.9/100g SG$1.2/100g |
シンガポールではローカルスーパーおよびECサイトの他にウェットマートと呼ばれる朝市があります。シンガポール人は他と比べて安価に生鮮食品が手に入るウェットマートを利用することも多いです。
日本産鶏肉ってどう思う?|シンガポール在住生活者インタビュー
シンガポールの現地友人6名に簡単なヒアリングを実施しました。
ヒアリング内容を少しまとめると、日本産の鶏肉の知名度はまだまだですが、焼き鳥や唐揚げなどの日本料理は人気でした。
質問項目は下記3点です。
- 日本産鶏肉に対する印象は?
- 鶏肉の一番好きな部位
- 一番好きな鶏肉料理
それぞれの項目に対して寄せられたリアルな声をそのまままとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。
1. 日本産鶏肉に対する印象は?
【Aさん】
特別な印象はない。良くもないし悪くもない印象。日本は鶏肉で有名な印象はなく、日本産鶏肉に関するプロモーションも少ないので特に情報がない。なんとなくオーガニックな鶏肉を生産している印象がある。
【Bさん】
なんの印象もない。産地によって鶏肉の味が変わるとは思わない。
【Cさん】
チキンカツサンド、チキン唐揚げを思い出す。ジューシーでおいしい印象。
【Dさん】
鶏唐揚げに使われているイメージ。
【Eさん】
鶏唐揚げの印象。
【Fさん】
Tori-Q(シンガポールで人気の焼き鳥チェーン)などシンガポールで日本のチキンが食べられるかどうかはわからない。日本の鶏料理といえば、親子丼とか鶏のから揚げとかの印象。
2. 鶏肉の一番好きな部位はどこ?
【Aさん】
ムネ肉かもも肉。内臓系も好きだが、中華料理に限られる。
【Bさん】
鶏のもも肉、レバー、皮、手羽先が好き。胸肉はパサパサしているので好きではないが、健康な人は胸肉が好きだと思う。以前は鶏の足が好きだったが、食べにくいので好きではなくなった。
【Cさん】
もも肉が好き。
【Dさん】
もも肉をよく食べる。
【Eさん】
ムネ肉ともも肉が好き。
【Fさん】
ムネ肉が好き。
3. 一番好きな鶏肉料理はなに?
【Aさん】
インドネシアングリルチキン。内臓系であればシンガポール料理のKway Chapが好き。
【Bさん】
チキンライス。海南チキンライスが好きな理由は、チキンがとても柔らかく調理されているから。フライドチキン(KFCなど)やバーベキューチキン(シンガポールスタイルのバーベキューチキンウィング)も大好き。日本食であれば焼き鳥、特にぼんじりが好き。
【Cさん】
海南チキンライスが好き。
【Dさん】
日本の鶏カツが好き。
【Eさん】
チキンライスとチキンカツが好き。
【Fさん】
スープレストランのサムスイチキンが好き。
インタビューでわかったこと
- シンガポールでは日本産鶏肉に対する印象は特にない
- 鶏肉を選ぶ際に産地を気にしている人も多くはない
- 内臓系や鶏の足など日本人にはあまり馴染みのない部位を好む人も
- 鶏肉料理はシンガポールの国民食である「海南チキンライス」が人気でしたが、日本の焼き鳥、唐揚げ、チキンカツなども人気
このことから、すでにシンガポール市場では日本食も鶏肉を使った日本料理も知名度が高いので、「日本産鶏肉」のブランドを市場に啓蒙し、日本産鶏肉の価値を高めることができれば、流通量拡大をの可能性が高まると考えられます。

シンガポール市場でどう日本産鶏肉を売る?具体的な戦略を練ってみました
価格設定、衛生管理、基準を満たした輸出ルートの確保等、まだまだ日本産鶏肉の輸出におけるハードルはいくつかあります。
一方で、未開拓市場だからこそたくさんのチャンスがあるとも考えられます。
以下では、シンガポールで創業し15年以上の日本産商品のプロモーションに携わってきた弊社の視点で、シンガポール市場での日本産鶏肉のシェア拡大に向けた施策のアイデアを、調査内容を元に3つまとめてみました。
事例も合わせてご紹介していますので、参考にしてみてください。
施策案1:日本産鶏肉のブランド化
ヒアリングを通してわかったのですが、鶏肉はシンガポール国内で最も消費される食肉であることからシンガポール人はより安価なものを購入する傾向にあり、原産地を気にして購入する人は少なそうです。
ただ、中には鶏肉の品質にこだわり、積極的に抗生物質を使用していないオーガニック鶏肉を購入している人もいました。
その方はKee Songという会社が出しているSakura Chickenという鶏肉を購入されているようですが、パッケージをよく見るとJapanese Farming Technologyと書いてあります。
ホームページで詳細を見てみると、飼料に乳酸菌を使用していたり、モーツァルトを聞かせて育てるなど、ジューシーで美味しい鶏肉を生産するために様々な取り組みがされているようでした。
日本産鶏肉にとっては当たり前であるホルモン剤の不使用や、抗生物質の使用制限などはこういった品質をこだわる層にとっては響きやすいポイントかもしれません。
和牛の生産へのこだわりが世界中で認知されるようになったように、日本産鶏肉も地道にそういった生産者のこだわりの発信を続けていくことが大事でしょう。
鶏肉ではありませんが、弊社では日本酒のプロモーションを現地の非日本食レストランとコラボレーションして実施し、過去には70種類以上の日本酒のペアリングメニューを誕生させたプロジェクトを実施していますので、是非参考にしてみてください。
シンガポール市場での日本酒PR事例|日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)
施策案2:日本料理を中心としたプロモーション
焼き鳥や親子丼、からあげ、チキンカツ等の鶏肉を使用した日本料理はシンガポール人からとても人気です。
シンガポールにおいて日本食はブームを通り越して、日常的に食べられるものとして幅広い層に定着しています。
日本食料理屋が飽和状態となっているシンガポールにおいて、他店舗との差別化を図る方策の一つとしては食材へのこだわりが挙げられます。
日本産の地鶏を使用した焼き鳥等は、本場の日本食を求めるグルメなシンガポール人には魅力的に映る可能性が高いです。
これらの特徴を踏まえて、日本食料理店などとともに、食にこだわりのある層を狙ってプロモーションを行い、その後一般に向けて販路を開拓していくのが良いでしょう。
さらに、ヒアリングには輸入が基本のシンガポールにおいてほとんどのシンガポール人は冷凍鶏肉を購入することに抵抗がないということもわかりました。
そのため、あらかじめ串に刺さった状態の日本産鶏肉を使用した焼き鳥の冷凍販売や、唐揚げのミールキット販売などは家庭で料理をあまりしないシンガポール人に受け入れられやすい可能性があります。
このように商品開発も含めて検討していくのもシンガポール展開においては必要かもしれません。
弊社では2021年に、日本から姿を消したトキと、新潟・佐渡の里地里山を保全するために始まった『朱鷺と暮らす郷づくり認証制度』のもとで育てられたブランド米「朱鷺と暮らす郷」をPRする事業で、シンガポールの飲食業界関連の事業者とともに、以下の取り組みを実施しました。
- 日本食レストラン3店舗で限定メニュー提供
- レストランや輸入会社とオンライン商談
- 日本食レストラン25店舗への調査
- EC販売・料理教室でのイベント開催
詳細は以下の記事にまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。
シンガポールで拡販を目指す日本米「朱鷺と暮らす郷」の取り組み
施策案2:日本での不人気部位の輸出
日本ではあまり食べられない鶏の足や内臓は、実はシンガポールでは貴重な食糧となっています。
こうした日本国内で不人気部位を、シンガポールに向けて安価で生産することも輸出量拡大の一手となり得ると考えられます。
ちなみに、不人気部位を使用したシンガポール料理の一部を、下記にご紹介しますので参考にしてみてください。
Braised Chicken Feet
鶏の足を使った煮込み料理
Chicken Gizzard
砂肝を使った料理(右上)
【出典】SETHLUI.com, 10 Awfully Delicious Offal (Innards) Dishes In Singapore You Need To Try, February 1, 2017
さいごに
シンガポール食品庁(SFA)の鶏肉輸入に対する規制は厳しく、日本産鶏肉のシェア数を伸ばしていくにはまだまだ時間がかかりそうです。
日本とはちょっと違ったシンガポールの鶏肉文化について理解し、地道に市場にアプローチしていく必要があると考えられます。
本ブログ記事の情報が、少しでも日本産鶏肉の輸出拡大や、シンガポール市場への進出を検討する際にお役立ちましたら幸いです。







