日本産牛乳の輸出強化をシンガポール市場で実現するには|シェフへの独占インタビュー
輸出強化品目に挙げられている「日本産牛乳」の輸出拡大には正直難しさを感じますが、シンガポール市場で日系企業の販路開拓を14年以上支援してきた弊社では、以下の2つの戦略に商機があると考えています。
- 量より質を求める卸先として、牛乳をメインで扱う商材を扱っているブランドやお店などのニッチな市場を制覇する
- マス向けの流通拡大を狙い、諸外国の商品と価格競争で勝てるバリューチェーンを、官民連携で構築する
差別化を図れる商材の場合は「認知度が低いことが第一の課題」になることが多い一方で、牛乳の場合は、たとえ味で差別化できたとしても「日本産の牛乳でなければ料理が成り立たない」というものはほとんど存在しません。
そのため、牛乳をメインで扱う商材を扱っているブランドやお店といったニッチな市場を狙う戦略がひとつの筋道として考えられます。。
また、マス向け市場を含む輸出拡大を図る場合は、特にシンガポール市場ではフランスやタイなどの世界各国から輸入される牛乳との価格競争で勝つ必要があるため、製造から輸出・販売までのバリューチェーンでコストを抑える仕組みづくりが求められます。
今回のブログでは、シンガポールに流通している牛乳を調査した内容をご紹介します。
また、シンガポールで3年連続ミシュラン一つ星を獲得しているレストランのシェフと、実際に日本産牛乳にこだわっている人気パティシエへのに独自取材をしてきたので、その内容をご紹介します。
日本産牛乳の海外販路開拓についてお考えの方にとって、この記事が参考になることを願っています。
シンガポールに流通する牛乳の価格と産地|現地流通事情
以下の表は、シンガポールでメジャーなスーパーで販売されている価格を調査し、一覧にした表です。(2023年10月現在)
日本産の商品は圧倒的に高く、オーストラリア産の商品の2倍前後であることがわかります。
| 商品名/企業 | 生産国 | 価格 | 商品写真 |
|---|---|---|---|
| 雪印(日系企業) | 日本 | $6.9 | ![]() |
| パスチャライズ牛乳 (meiji:日系企業) |
タイ | $6.4 | ![]() |
| マリーゴールド100%フレッシュ牛乳 ( オーストラリア企業) |
オーストラリア | $6.2 | ![]() |
| ファームフレッシュ (マレーシア企業) |
マレーシア | $5.7 | ![]() |
| グリーンフィールズ (インドネシア発の多国籍企業) |
インドネシア | $5.61 | ![]() |
| Arla organic (デンマーク企業) |
不明 | $5.50 | ![]() |
| pauls (オーストラリア企業) |
オーストラリア | $4.00 | ![]() |
| ファームハウス (シンガポール発の多国籍企業) |
オーストラリア | $3.60 | ![]() |
| マグノリアHLミルク (シンガポール企業) |
シンガポール | $3.53 | ![]() |
| マグノリアフレッシュミルク (シンガポール企業) |
シンガポール | $3.50 | ![]() |
| meadows (オーストラリア企業) |
オーストラリア | $2.55 | ![]() |
各国からの牛乳輸入状況
農林水産省が公表するデータを元に、農畜産業振興機構が公開している情報によると、酪農品の輸出金額は全体的にみて毎年伸びている一方で、牛乳に関しては微増減で推移しています。
【出典】独立行政法人農畜産業振興機構, 国内の需給動向【牛乳・乳製品】 畜産の情報 2022年4月号 牛乳・乳製品の輸出金額、右肩上がりで推移
また、輸出先上位は台湾、香港、ベトナムとなり、台湾向けの輸出は前年の8割以上増加の「10億5497万円」を記録しています。
シンガポールの国別輸入量は以下の通りで、日本はランクインしていません。
国名 輸入額(シェア率) ニュージーランド 2億900万ドル(50%) オーストラリア 3800万ドル(9.16%) アメリカ 2,800 万ドル(6.77%) オランダ 2,200万ドル(5.35%) アイルランド 1,820万ドル(4.4%) ドイツ 1480万ドル(3.57%) フランス 1,410 万ドル(3.42%) マレーシア 1090万ドル(2.62%) カナダ 899万ドル(2.16%) デンマーク 883万ドル(2.13%) 【出典】TrendEconomy, Annual International Trade Statistics by Country (HS), 2023-05-14
このランキングに日本が食い込めるほどの競争力が産めるかが、輸出拡大を検討する際にはとても重要なポイントとなるため、各国との価格競争で勝てる生産から販売までの体制を構築できるかは検討する必要があると考えられます。
実際に以下にご紹介する、シンガポールで活躍するシェフへの独占インタビューでも「日本産牛乳の価格は高い」というお話をされています。
「日本産牛乳」を高付加価値のブランドとして打ち出し、高単価で売る戦略も考えられるものの、牛乳がないと成り立たない商品は少ないため、最終消費者に届く際には価格競争となる可能性が非常に高いです。
政府としても、以下の表に記載のある通り、生産や輸送体制の改善の必要性を認識しており、各関係者と連携しながら改善していくことを目指しています。
【出典】農林水産省, 農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略 マーケットイン輸出への転換のために(p.27), 2022/12/5
この点について、企業ごとに対応できることに限界があるので、各種団体などと協業し、世界各国との価格競争となっても勝てるサプライチェーンを作れるかを検討していく必要があるでしょう。

ミシュラン一つ星レストランのシェフ独占インタビュー
ミシュラン一つ星を3年連続で獲得しているレストランシェフに独自でインタビューした結果、
日本産の牛乳の価格は高いが、牛乳にコストをかけるなら別の食材にしたいと感じてしまう
(牛乳がメインの料理でない限り、優先順位が低くなる)
という重要な本音を伺うことができました。
このことは、シンガポール市場で出回っている世界各国の商品と価格競争で勝つ必要性を裏付けています。
以下にはより詳細にインタビューでわかった内容をご紹介していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
牛乳を選ぶ基準は何ですか?
複数の牛乳の選択肢から選んだ。決め手は「味」と「価格」だが、選択肢として選んだブランドの商品を飲み比べても、たいして価格差がなかった。
日本産の牛乳は、味においてヨーロッパの商品と大差がない印象で、チーズやバターと比べて、牛乳の段階では負けていないと思う。実際は好みの違いによるところが大きい。
日本産の牛乳を使わない理由はなんですか?
日本は価格が高いイメージがあり、業者向けではないと感じるから。
牛乳にコストかけるなら、他の主となる材料にお金をかけたいと思ってしまう。
食材に使えるコストは決まっているので、どこに比重を置くかによって基準がお店ごとに変わるはずだが、私のお店に関しては牛乳がメインの料理でない限り、牛乳への優先順位は低くなる。
フランス産の牛乳は、1L $2前後で手に入っていて、日本産牛乳の半額ぐらいで手に入る。
何が改善されたら日本産の使用を検討しますか?
政府が価格を抑えられるなら広がる可能性はあるが、政府がずっとサポートするのは無理で、サポートがなくなり、価格が戻った時に倍の価格になるなら買わない。
ヨーロッパの製品と同じ価格帯になるなら、日本ブランド、特に北海道が好きなシンガポール人が多いので、買う人は増えると思う。
実際に「ニセコで飲んだ牛乳が美味しかった」という声もシンガポール人から聞こえる。
どんなお店なら日本産牛乳を買うと思う?

ドリンクがメインで、日本を打ち出しているお店であれば「北海道産牛乳」などは響きがいいので、日本産の牛乳にこだわって購入する可能性はあると思う。
同じ理由で、日本しかないウニなどの魚介系、日本酒、和牛は、どの国も日本には勝てない商品。
「オーストラリア和牛」もあるが、明らかに日本産の和牛とは味が全然違う。
一方で、牛乳はオーストラリア、ニュージーランド、フランスでも作られているので、最終的な価格がさほど変わらずないのであれば「北海道産牛乳」を打ち出したいお店であれば、日本産牛乳を買うケースは多いと思う。
人気急上昇中のパティシエは日本産牛乳にこだわっている
実際に北海道産の「よつ葉特選北海道牛乳」を使用しているという、シンガポールで人気急上昇中のお店のパティシエにもお話を伺ったところ、
日本産の牛乳は他の牛乳に比べて、味や香りが濃厚で、 特に牛乳をメインにする商品には必ず日本産の牛乳を使っている
との意見もありました。
よつ葉乳業はシンガポール市場に更に力を入れており、すでにシンガポールで人気のローカルスーパー「FairPrice」や「ColdStorage」などで販売されています。
シンガポールで絶大な人気がある「Hokkaido」ブランドが分かり易く伝わるデザイン、かつ、味が美味しいので、私自身も愛飲しています。
【出典】日本経済新聞, 牛乳、アジア輸出に活路 雪印2割増、タイ向け開始 よつ葉はシンガポールに重点, 2023年7月18日
世界各国の商品との価格競争で負けない「生産から販売までの体制構築」が必要な一方で、高級スイーツのパティシエなどは、価格はもちろん考えつつも、品質を重視する可能性があります。
特に牛乳がメインの商材を扱っているお店では、日本産牛乳の需要は他の市場と比べてかなり高いと想定されます。
そうした市場は大変ニッチですが、「質」を重視する卸先向けに特化した販路開拓は、今後の輸出拡大において必須となるでしょう。
また、海外の販路開拓においては「現地のネットワークがある企業と協働で開拓する」ことが1番の近道となります。
なぜなら文化が違うと商流や商習慣も異なるため、現地に根ざした企業の知見を借りた方が、コミュニケーションコストなどを筆頭に、結果的にコストが低くなる可能性が非常に高いからです。
弊社には、日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)様との事業で、シンガポールで有名なハイエンドなレストランとのコラボレーションの数を2019~2021年度の3年間で2.5倍に拡大させるなど、シンガポール市場の飲食業界で現地に根ざした強力なネットワークがあります。
詳しくは以下の記事でも取り組みの内容をご紹介していますので、気になる方はぜひご覧ください。
シンガポール市場での日本酒PR事例|日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)
さいごに(まとめ)
競合が強く、一筋縄ではいかないシンガポールの乳製品市場の開拓。
特に牛乳においては、当面は質を重視する牛乳をメインにした商材を扱うブランドやレストランといったニッチ市場での販売に注力することが必要不可欠だと感じます。
また、ブランド力を高めつつ、同時に国、自治体、関連団体と協業して、製造から輸出・販売までのバリューチェーンでコストを抑える仕組みづくりを行い、世界中から輸入される商品との価格競争力をつけることが重要です。
シンガポールの飲食業界で強力なネットワークを持つ弊社からは、より具体的なご相談にお答えすることができるので、ご質問などがある場合はぜひお気軽に以下のお問い合わせフォームよりご連絡ください。
本記事が日本産牛乳の輸出拡大の一助となることを微力ながら願っています。














