ハラール商品の開発秘話を独占インタビュー|日系ブランドの事例紹介
世界人口の約25%がターゲットとなるハラール市場。巨大な市場でビジネスチャンスがあるのに、大手の日系企業以外ほとんど積極的に進出できていません。
その理由は、イスラム教のルールに則って作られる「ハラール商品」そのものが日本市場に馴染みがなく、そもそもよくわかっている人が少なかったり、日本でのハラール認証取得が困難であることが影響しているようです。
しかし、実はシンガポールや東南アジアなどの海外を拠点に製造販売するのであれば、ハラール商品の開発はそこまで難しくないようです。
このブログでは、実際に「日本の味のカップラーメン」をハラール食品としてシンガポールで開発し、シンガポールやマレーシア市場への展開だけでなく、日本への輸出も手がけている田中尚良さん・宮本敬太さんにインタビューをし、どうやってハラール市場向け商品をつくったのか、具体的にお話を伺いました。
シンガポールよりも大きいマレーシアのハラール市場の実態を知っているお二人のインタビューを通じて、ハラール商品開発にあたって必要なことを具体的に理解できます。私自身「ハラール」と聞くと、宗教上の規制を守ったり、ちゃんとした手順を踏まないと売るのも作るのも大変そうだと思ってましたが、インタビューをして「私にもハラール商品開発できるかも!」と思えるほどイメージが変わりました。
海外市場進出をお考えの食品メーカーの方は、ぜひ参考にしてみてください。
■「ハラール認証」シリーズ
【 インタビューさせていただいた方 】

田中良尚さん(左)
大学院卒業後、モルガン・スタンレーの不動産ファンドで経験を積む。2013年にシンガポールに移住し、2017年に独立。現在、日本国内の食の多様性の普及やフードテックによる代替乳製品の開発等の食ビジネスや、カンボジアでカシューナッツ農園の運営し、農業ビジネスに尽力している。
宮本敬太さん(右)
証券会社勤務後、米国穀物メーカーカーギル社に20年間勤務。2012年にカーギルを退職後、シンガポールにコンサルティング会社を設立し、インドネシアやシンガポールにおいて日本企業事業推進のアドバイザー業務を行う。OISIXの東南アジア小売店への営業サポート、Web3投資VCの立ち上げ、JETROの中小企業海外展開現地支援コーディネーター等、多彩な経歴をもつ。
【インタビュアー:池田 恩(Vivid Creations)】
栃木県出身。 幼少期から茶道や書道、陶芸などの日本文化に触れ、大学卒業後は飲食業界の営業・コンサルティング等に従事。その後、米国で飲食業界に勤務し、世界各国から訪問するゲスト対応を通じて宗教やアレルギー、ライフスタイルの違いによる食の多様性を学ぶ。Vivid Creationsの食関連事業では商談会・物流支援・商品の海外進出サポートを担当。
ハラール市場は巨大なのに、日本は出遅れてる
宮本さん(以下敬称略):

イスラム教の人口はキリスト教の人口とほぼ同じで、平均年齢が若いのでより多く消費活動をしやすいといわれています。
ハラール市場のターゲットは、インドネシア、中近東、バングラデッシュ、中央アジア(ウズベキスタン、カザフスタン)、アフリカのイスラム教国家(エジプトなど)、ヨーロッパの移民市場です。
インドはヒンズー教がマジョリティではありますが、イスラム教徒は14%以上と2番目に多い人口を占めています。世界的にみても巨大なマーケットなのですが、これらの市場を狙っている日本企業・日本の商材は少ないのが現状です。
イスラム教が少数派な日本国内でハラール認証を取得している加工場がそもそも少なかったり、ハラールの原材料を調達して生産することもハードルが高いのが一つの要因だと思います。ですが、私たちは「日本食のハラール商品は開発しづらい」からこそ、可能性があると考えていました。
世界中で大人気のカップラーメンのハラール化が求められている
宮本:

我々が着目したのは、世界中で大人気のカップラーメンでした。
カップラーメンを含む即席麺は世界中で年間で1,000億杯以上も消費され、世界ラーメン協会の調査によると、2020年にはコロナ禍で自炊が増えたため世界の消費量は1,166億食と過去最多を更新しています。
価格帯も高価なものではないし、若年層が多いハラール市場との相性が良い商材なので、ハラール対応すればもっとパイを増やせるはず。
そこで開発したのが、今回取材いただくきっかけになった「Freedom Ramen」でした。

マレーシア人が日本に旅行する際「食べるもの」に困っている
田中さん(以下敬称略):

マレーシアはイスラム教徒が人口の60%以上を占める国です。ハラール対応は当たり前で、国が認証する仕組みもあります。マレーシアで行われる展示会の会場は、基本的にハラール対応で、逆に「ノン・ハラールコーナー」があるほどです。
ハラール市場に可能性を感じたのは、2014年に不動産会社に勤務中、マレーシアでアウトレットモールの開発を任されて、飲食店の誘致リーシングを担当していたときでした。現地の飲食店オーナーからハラールについていろいろと教えてもらい、驚きました。
また、マレーシアの友人が日本旅行に行く際に「カップラーメンを持っていく」という話を耳にして、なぜかと聞くと「日本ではハラール対応をしている商品が少ないので、旅行中に食べるものに困るから」とのこと。
イスラム教徒の訪日インバウンド市場に対して、日本のホテルが「ハラール対応可能です」と謳うために必要な商材(特に食品)を提供すれば、需要があるんじゃないかと。今回開発した「Freedom Ramen」を考えるきっかけになりました。
そのような経緯で宮本さんにご相談したら、シンガポールでハラール認証を取得している工場を持っている現地の方をご紹介いただけることになり、開発を進めることになりました。

ハラール商品開発するなら、日本国内にこだわらず海外製造をおすすめ
現在「Freedom Ramen」は、東京オリンピックが終わっても、なかなかハラール対応が現場へ浸透していない日本のホテル業界などに向け、シンガポールから輸出されています。
国内で製造し日本の市場へ届けるのではなく、あえて海外で製造しているのは、日本国内でのハラール商品の製造が極めて難しいからでした。
田中:

日本の市場にハラール製品を届けるには、日本で作るか、海外で作って日本に届けるかの2択しかありません。
前者の日本でハラール商品を生産する場合は、実はかなり大変です。ハラール認証の取得には、食材や原料、生産する加工場に対して厳格な審査基準が定められているため、国内にそもそもハラール認証を受けている加工場の数が少ないからです。また、ハラール認証を受けた原材料を日本国内で調達することも、かなりハードルが高い。
一方で、シンガポールなどの国外でハラール認証をすでに取得している加工場を拠点に、現地で調達したハラール食材を使って商品を開発するのは、そこまで難しくありません。
ハラール認証を取得している加工場を管理している現地パートナーをみつけ、協力体制が得られたら、あとは通常の商品開発とほとんど変わりません。「Freedom Ramen」の製造もこの手法をとっています。
余談ですが、最初に日本へ輸出しようとしたハラール食品は、ハラール認証を取得した加工場で製造したものではなく、マレーシアの5つ星ホテルが自社のホテルで提供するために作った冷凍食品でした。具体的には、ハラールのカレーや牛肉の煮込みといった、実際にホテルで提供しているアジア料理の商品です。
マレーシアではラマダン期間中などに原材料費や人件費が上がるため、ホテルがコスト管理のために開発したものでした。この冷凍食品を「日本のマーケットに展開してみよう」ということで、日本市場向けに風味を調整して製造し、日本への輸出を試みました。
結果はというと、日本市場には馴染みのないハラール食品であること、冷凍食品であることや牛肉や鶏肉など食肉を使った加工品であったために、日本側の動物検疫にて非常に細かく指摘が入り、思っていた以上に大変でした。
実際に、半年以上に渡りやりとりをしましたが許可が出ず。最終的に、当初使っていた食肉や肉エキスを全て抜いて、植物性のソースのみを輸入することで輸入許可が下りました。
なので、これからハラール食品を開発してみたいという方は、協力してくれる現地パートナーを探してハラール認証を取得した加工場を拠点に、ハラール認証を受けた原材料で製造するのがおすすめです。

商品開発のコストと原料調達の利便性を検討するべき
日本でハラールのルールに乗っ取って屠殺できる工場は、以下のようなところがあります。
■ゼンカイミート:https://zenkaimeat.jp/
■キッチン楽:https://curetex.jp/info_halal/2096/
魚介類の加工も可能で、長崎県・天草には地鶏のハラール屠殺できる工場。シンガポールのハラール認証「MUIS」を取得している。インタビューした田中さんがハラール事業に参画されており、主にマレー料理と和食のレシピを開発・販売している。
他にも徳島や京都にもいくつかあるようですが、日本国内でハラール認証を受けた工場はたくさんありません。加工場へのハラール認証を申請するには、施設に常駐するムスリムの方がいなければならないケースがあり、ハードルが高いのです。
宮本:

「Freedom Ramen」の場合は、すでにカップラーメンのレシピがあり、ハラール認証を受けた食材と加工場さえ調達できれば、商品開発を進められる状態でした。
そこで「日本で作るよりもシンガポールの加工場を使った方が時間的コストがかからない」と判断し、製造販売に至ってます。
どこの国の工場で作るべきかを検討する際は、原材料を調達しやすい国を選ぶといいと思います。
東南アジアを拠点とした場合には、タイ、マレーシア、インドネシア、シンガポールなどからハラール認証を取得している原材料が簡単に手に入るルートが揃っているので楽に調達できます。
「Freedom Ramen」は、ちょうどシンガポールを拠点にした方が調達しやすかったんですよね。物によっては、インドネシアやタイ、マレーシアを拠点にする方が、シンガポールで生産するより2割ほどコストが下げれる場合もあるかもしれません。
田中:

生産時のコストが安くなったとしても、日本市場への輸出を視野に入れている場合は、マレーシア発より、シンガポール発の方がブランディングなどの側面で良いケースもあります。
宮本:

もしくは、自社商品としてではなく、OEMで生産した方が開発から生産までの時間が短縮できる可能性もあります。
もちろん、OEM商品の利益率や、生産ロット数の調整などが現地の工場と必要になりますが、開発前にさまざまな可能性を模索することは大切だと思うので、事前に検討してもらえたらいいですね。

「Freedom Ramen」はシンガポールのハラール認証をオンラインで取得
宮本:

「Freedom Ramen」はシンガポールで認定されているハラール認証を取得しました。手続きは「License1」というWebサイトからオンラインででき、取得までにかかった時間は1ヶ月程度でした。
日本で認証を取得する場合は、コンサルティング企業などに依頼すると認証を取るだけでかなりのコストがかかります。
加えて、ハラール認証を取得している原材料を日本国内で調達するのもハードルが高いことなので、さらにコストがかかるでしょう。
認証取得の手間を考えても、海外拠点での製造加工が可能なのであれば、現地パートナーを探して開発できるようにする道をお勧めします。
ちなみにシンガポールではハラール認証を毎年申請する必要があり、「Freedom Ramen」は3種類の味があるので、それぞれに更新料として2万円弱(数百SGドル)がかかります。
他の国の認証制度を取得する場合も、申請に際してかかるコストだけでなく、更新料がどれくらいかかるのかは事前に確認しておくといいと思います。
さいごに
ハラール市場のビジネスチャンスを肌で感じていたお二人は、「日本にいて海外向けの商品開発をしようと思っていたら、ハラール市場がチャンスだということにも気づけなかったかもしれない」と仰っていました。
ハラール商品を開発すれば、全世界人口の約25%にも及ぶ巨大なハラール市場に進出できるようになります。
またシンガポールでは、ハラール認証が付いている商品は厳格な審査を通った安心で安全な商品というイメージを持つ生活者もいるため、イスラム教徒以外の方にも手に取ってもらいやすくなります。
今回のインタビューを通じて、ゼロから日本国内でハラール商品を開発するのは大変ですが、ハラール認証を取得している海外の加工場や現地パートナーを見つければ、開発しやすいということがわかりました。
ハラール商品を製造したとしても、イスラム教徒以外もターゲットとして狙えるので、海外進出する際にはハラール対応するだけで狙えるパイが広がります。
ハラール商材の開発を考える方の中には、日本国内の訪日インバウンド市場だけを考えるケースもあるようですが、それはあまりにももったいないです。
実際にすばやく海外市場の動きを感じて行動している企業もあるので、我こそはと思う方はハラール市場に参入し、どんどん海外でチャレンジしてもらえたらと願っています。
■「ハラール認証」シリーズ
開発されたハラールカップラーメン「Freedom Ramen」を食べてみた
宮本さん・田中さんが手がけた「Freedom Ramen」は、シンガポールで製造されたハラールのカップラーメンです。
シーフード、辛味噌味、日式カレーの3種類あり、ハラール認証を受けた海外産のものを使用して日本の味を実現することで、ハラール商品の開発に成功しました。
日本以外の国で生産された原材料を使っている、ハラール認証の商品とあって「日本で食べてたようなカップラーメンの味がするのかな?」と思い、試しに食べてみました。

食べてみた結果、「味が薄い」とか「何かが物足りない」ということもなく、日本人が昔から慣れ親しんでいる日本の味のカップラーメンでした!
また、日本のカレーは本場インドを含む他国のカレーと全く異なる味なので、海外では日本食のひとつとして認識されています。ハラール対応された「Freedom Ramen」のカレー味は、日本食ファンのイスラム教徒の方にとってかなりうれしい商品だろうなと思います。
「Freedom Ramen」は、マレーシアの日系スーパー「Don Don Donki」で販売されており、訪日インバウンド市場向けに日本への輸出も展開しています。
