シンガポール富裕層のリアル|富裕層ビジネスのプロ独占インタビュー
『クレイジー・リッチ』という映画はご存じですか?2018年に公開された、シンガポールに住む富裕層をテーマにした映画です。
この映画が公開される前から、シンガポールは富裕層が多いことで知られています。総資産1億円を超えるミリオネアが20万人以上いると言われ、そのうち約1,000名は総資産50億円を超えるとか…。
映画をみれば彼らの生活模様を想像できるものの、実は事実に即した具体的な情報はなかなか出会えません。
そこで今回は、シンガポールの富裕層の消費行動や、新型コロナウイルスによって起きているトレンドをご紹介します。
後半では、アジア各国で富裕層向けのビジネスやサービスの開発に携わるMichel Lu氏への独占インタビューを独占公開!
「一般消費者よりも富裕層をターゲットとするビジネスの方が簡単」というMichel Lu氏のコメントに、弊社ならではの現地情報を加え、より具体的にシンガポールの富裕層ビジネスについてご紹介しています。
結論として言えることは、富裕層ビジネス展開の検討段階では、「マーケティング手法より、ターゲット市場となる富裕層コミュニティの実態を熟知する方法を考えることが重要」いうことに尽きます。
いったいそれはなぜでしょうか?本編でご紹介していますので、ぜひ今後の参考にしてみてください。
在シンガポール富裕層を取り巻く変化
所得税が低く、キャピタルゲインに対する税金がかからないシンガポールは、大富豪や資産家にとって大変魅力的な国で「Tax Haven」とも呼ばれていることで有名です。
そんなシンガポールに住む富裕層は独自性のあるライフスタイルを重視する傾向にあり、一般の人とは異なるユニークなライフスタイルを選択し、他者と差別化するための「新しい体験」へのニーズがいたるところで見受けられます。
たとえば住居を例にとると、多くの富裕層は、”Good Class Bungalows(GCBs)”という高級感のある広大な住宅に住んでいます。物件の相場は、約3~70億円ほどで取引されています。
GCBsは、Orchard Road や Holland Park、Chatsworth Park などの特別な高級住宅エリアにあることが多く、ウォーターフロントのヴィラや高層マンションがある Sentosa Cove にも少し見ることができます。
GCBsをはじめ高級コンドミニアムなどを扱う不動産エージェントPropertyGuru Groupのウェブサイトに並ぶ物件は、どれも見ているだけでうっとりしてしまう大豪邸ばかりです。
出典:PropertyGuru Singapore(29th December, 2020)
2020年以降は、新型コロナウイルスによる消費行動の変化が起きています。
シンガポール国内最大手のメディアThe Straits Timesの2015年の調査によると、「High-net-worth individuals (HNWIs)」と呼ばれる、1億円以上の資産を持つ富裕層の支出は「旅行」に関連する出費が多くを占めていました。
出典:THE STRAITS TIMES – What rich Singaporeans want(NOV 24, 2015)
HNWIsを対象にしたAgility Research & Strategyの2017年の調査では、香港・中国・シンガポールのHNWIsの消費行動が比較され、香港とシンガポールでは、ほとんど経験や体験(旅行も含む)に関する消費となっていました。
出典:Agility Research & Strategy – Engaging the Asian Millionaire Traveller(5th June 2017)
これは両国とも国土が狭いため、国内旅行の需要はほとんどなく、「旅行=海外」となることに起因しています。富裕層の海外旅行といえば、当然「ファーストクラス」「5つ星ホテル」「5つ星レストラン」の最高級クラスです。支出額で「旅行費」の割合が高いことも頷けますね。
ところが、新型コロナウイルス感染症の影響で、多くのシンガポール在住富裕層は、国外への旅行が制限されてしまいました。これにより富裕層の国内消費率は格段に上がっています。
多くの中流世帯以上のシンガポール在住者も含めて、国内の高級ホテルに短期滞在する「ステイケーション」をする以外の『旅行』と言える選択肢がなくなってしまったのです。
また、高級レストランへの需要も急増しています。すでにアジアTop 50に名を連ねるレストランや、ミシュランに掲載されるお店では、予約がなかなか取れなくなっています。
最近では、一般的には行われていないユニークなアクティビティやワークショップ、さらには国内のミシュランの星付きレストランへのガストロノミックツアーを含むパッケージも増えてきています。
このように、富裕層特有の価値観や文化、市場の動向などの知識を持った上で、独自性をもち差別化されたマーケティング戦略が効果を発揮するといえます。
また、市場の需要やニーズは常に変化しているため、マーケティング戦略は常に進化していきます。変化の速いシンガポール市場においては特に、現地の動向を熟知することは成功のカギとなります。

富裕層マーケティングのプロ:Michel Lu氏への独占インタビュー
Michel Lu氏は、アジア各国で展開する飲食店・ベンチャーキャピタル・ライフスタイルビジネスのオーナーおよびプレイヤーとして20年以上活躍し、メディアではライフスタイルビジネスの第一人者とも言われています。
【インタビュイー:Michel Lu氏】
シンガポールの全国紙『The Straits Times』で公開される毎年恒例の「Power List」に掲載経験あり。「Spirit of Enterprise Award」など数多くの賞を獲得。アジア最高峰のレストランを決めるコンペティション「Asia’s 50 Best Restaurants」審査員。
富裕層をターゲットとする様々なビジネスに関わるMichel Lu氏に、シンガポールの富裕層のインサイトを探るインタビューを実施しました。
「富裕層をターゲットとしたマーケティングはマス向けより簡単」
「秘境へのツアーパッケージは古いムーブメント」
弊社独自の視点での解説を添えているので、ぜひ参考にしてみてください。
―富裕層の消費行動について、具体的な特徴はありますか?
ひと口に「富裕層は」と一般化してお伝えするのは難しいでしょう。
また、シンガポールには「UHNWI」と呼ばれる、金融資産50億円以上の「超富裕層」が数多く住んでいます。
特に新型コロナウイルスの影響により、ここ数ヶ月でUHNWの層は急速に増加しており、今後もより増加する可能性があります。そのため、シンガポールにはUHNWIの幅広い層があるため、各グループを理解するには、再度セグメント化する必要があると考えています。
「富裕層」と言われるカテゴリには、実はいくつかの種類があります。
- Emerging affluent:消費・貯蓄・投資をするに十分な資産を持っている新興富裕層
- Affluent:平均水準よりも高い収入を得ていて、総資産が最大1億円程度の富裕層
- High-net-worth individuals:総資産が1億円以上の富裕層
- Ultra high-net-worth individuals (UHNWI):金融資産50億円以上の超富裕層
一般平均家庭の水準よりはるか抜きんでて高いという点では共通ではあるものの、それぞれにニーズが異なることは確かです。
適切なセグメントごとにニーズを洗い出し、マーケティングを考えることは非常に重要です。
―シンガポールの富裕層市場をターゲットとする戦略立案や成長機会の創出を数多く手掛けられていますが、ずばりポイントは?
先程お伝えしたことと重なりますが、はっきり言えることは、富裕層のなかにある様々な「セグメント」をよく熟知しておくことです。
富裕層と言えどそれぞれです。対象となるセグメントの食の好みや興味、消費行動などの切り口別に理解を深めておくことが重要です。
たとえば、シンガポールの富裕層は、香港や東京、モスクワ、ロンドンなどの富裕層とは全く異なる特徴を持っています。ゆえに、彼ら(シンガポール在住の富裕層)が何を求めているのかを熟知しておく必要があります。
総資産1億円以上のHNWIsを対象にしたAgility Research & Strategyの2017年の調査では、国別のユニークな特徴を明らかにしています。
たとえば、「Luxury(贅沢)」という言葉の定義として、中国や香港のHNWIは経済価値や名誉を表す言葉が並ぶのに対し、シンガポールのHNWIは「Experience(体験)」「Lifestyle(ライフスタイル)」などの目に見えない価値を表す言葉が挙げらえれています。
出典:Agility Research & Strategy – Engaging the Asian Millionaire Traveller(5th June 2017)
また、「Perfect Luxury Experiences(最高の贅沢体験)」に関する調査結果では、中国では「ショッピング」が多く挙げられたのに対し、香港とシンガポールは「旅行」。
国別の特徴でもこれだけの差があるため、様々な視点(セグメント)から適切にターゲットを捉え、把握する必要があります。
出典:Agility Research & Strategy – Engaging the Asian Millionaire Traveller(5th June 2017)
―富裕層をターゲットとしたときの「難しさ」があるとすれば、それは何でしょうか?
正直に言うと、「富裕層」とターゲットを明確にすることで、マス向けのマーケティングよりも難易度は低くなると感じています。なぜならマス向けよりもかなり限定されているので、ターゲット像が考えやすくなるからです。
一方で、逆に言えば、彼らの心を確実に掴めるレベルの体験型プロモーションを創り出したり、彼らにとって「新しい」と感じてもらえる価値を提供しなければなりません。マーケティングでの難しさより、サービスそのものの開発への配慮が必要でしょう。それに伴って、十分な予算の確保が必要となりますが。
また、中国や香港、インド、ロシアやそのほか有数の国からシンガポールへやってくるUHNWI(金融資産50億円以上の超富裕層)が日に日に増えています。この中に様々な趣味趣向・ライフスタイルをもつセグメントが存在しているため、状況はかなり多様ですが、ほとんどの方が新しい体験を求めていたり、これまでとは違う消費行動をしようとしていることも考慮すべきでしょう。
ここで2019年に実施された、シンガポール在住の富裕層をターゲットとした「日本酒」のPRキャンペーン事例をご紹介します。
シンガポールでは比較的簡単に日本酒が手に入るようになってきており、日本酒ファンも増加傾向にあるのですが、富裕層が自宅でたしなむほどのレベルには至っていません。
そこで「これまでにない新しい日本酒体験」を提供すべく、身近な料理と日本酒の相性の良さを『新しい体験』として楽しんでいただく企画が、日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)により実施されました。
その内容は、国内屈指の和食以外のレストラン12ブランドとタイアップし、日本酒とシーフードのペアリングメニューを2ヶ月間提供する、というものです。
「メニュー開発」もさることながら、日本酒の独自性と品質の高さをきちんと理解し、伝えることができる「レストランスタッフの育成」もまた、体験価値の品質にも影響するため大変重要なポイントとなりました。
本企画では、ターゲットとなる日本酒にあまり馴染みがない富裕層に確かなサービス提供が行えるよう、日本酒ソムリエによるレストランスタッフへの講習があわせて実施されました。
出典:Tatler SINGAPORE: Seafood Loves Sake Event: Singapore’s Top Chefs Whip Up Menus, To Be Perfectly Paired With Japanese Sake(October 01, 2019)
顧客の満足度を高めるためには、扱う商材への配慮だけでなく、価値提供する関係者の教育も求められます。高級レストランに行きなれた富裕層がターゲットとなれば、感動を与えるほどの食体験が求められるケースもあるはずです。
多様なニーズを踏まえたうえで、「どんな高額な対価を払ってでも受けたい!」と思われるような洗練されたサービスそのものを考えることと、サービスの提供の仕方を考えることは、切っても切り離せないポイントです。
新興富裕層の成長著しいアジア市場での富裕層ビジネスをご検討中の方は、前者だけでなく後者も十分踏まえたうえで実行されることをおすすめします。
―シンガポールの富裕層人口はこれからも増え続けるということは、富裕層向けのサービスや商品への需要は今後も高まる?
シンガポール国内の富裕層の人口比率は上がっています。渡航規制がある現在でさえ、国外からの富裕層の流入が増えているので、新型コロナウイルスが落ち着いたらより一層増加するでしょう。
急増している要因は様々な背景があってのことですが、感染予防対策やビジネス・政治に関わる各国政府の対応によってもたらされた社会的変化だと考えられます。
シンガポール国内で老舗の不動産Knight Frank Singaporeの調査によると、2019年に新たに誕生したUHNWIは3万人を越えました。
また、2019~2024年の5年間の予測として、アジア全体のUHNWIの人口増加率は「+44%」になると言われています。現在世界第1位の人口比率を占める北米は「+22%」なので、2倍の成長スピードです。
この数値をけん引しているのは、成長著しいインドと中国・インドネシアで、インドに至っては「+73%」と驚異的な増加率が予想されています。
シンガポールでの人口増加率は、「+29%」の見込み。インドにに比べると少ない増加率に聞こえますが、国土と市場規模が限られているシンガポールにとって、この5年間での新興富裕層の増加は、様々な産業に大きな影響を与えると考えられます。
新興富裕層の成長著しいアジアのハブともいわれるシンガポールで、今後5年間のあいだに富裕層ビジネスのプロトタイプが続々と生まれることも容易に想像ができます。今後も富裕層ビジネスを開拓するにはかなり魅力的な市場となるでしょう。
出典: Knight Frank Singapore, The Wealth Report 2020
―企業はどのように「富裕層向けデジタルマーケティング」を実施すべきでしょうか?
デジタルマーケティングは、富裕層以外のどの人々にも影響を与えられるため、当然、ターゲットにあわせて適切に情報が受け取ってもらえるよう、工夫が必要です。
たとえば、UHNW(金融資産50億円以上の超富裕層)には、PRしたいモノがたとえ彼らに見合う高級品であったとしても、デジタルマーケティングのみで完結しようとしても、うまくいかないでしょう。デジタルマーケティングのみではなく複合的に考える必要があります。
総資産1億円以上のHNWIsを対象にしたAgility Research & Strategyの調査では、ホテルや旅行などに関してどのようなメディアやSNSの影響を受けているかを調査しています。
出典:Agility Research & Strategy – Engaging the Asian Millionaire Traveller(5th June 2017)
SNSの影響力は絶大ではありながら、家族や友人などの口コミも挙げられていました。国によってSNSの種類も異なる点も要チェック。さまざまなチャネルでのアプローチや戦略が必要です。
一方で、高級ファッションブランドのボッテガ・ヴェネタは2021年に入り、何の前触れもなくSNSを突然閉鎖したというニュースが飛び込んできました。
富裕層向けブランドやサービスのマーケティングは、チャネルが広がった分、従来以上に各界で模索が続いていると言えます。
(本文抜粋)
さらに、ボッテガ・ヴェネタのような高級ブランドの商品を購入できる人たちは、それらのブランドがSNSに何を投稿しているかについて、それほど注意を払っていないとも考えられる。
こうした人たちは、高級ブランドが自分を理解し、尊重してくれること、インタラクションのすべてを個人的なものにしてくれることを期待する。高級ブランドがSNSに大量の的外れな投稿をしても、それでこうした期待に沿えるわけではない。
出典:Forbes JAPAN「ボッテガ・ヴェネタのSNS閉鎖、高級ブランドのトレンドを予兆か」(2021年1月19日)
―「北極へのツアーパッケージ」などのエッジのきいたサービスが人気を集めていました。現在はどのようなサービスが流行しているのでしょうか?
北極などの秘境へのツアーパッケージなどは、新型コロナウイルスが世界に蔓延する以前の古いムーブメントです。新型コロナウイルスの影響で、海外旅行への規制が強化されている現在においては、これまで依然と同じようなツアーパッケージは流行らないでしょう。
また、UHNW(金融資産50億円以上の超富裕層)のニーズや期待値は、明らかに一般大衆とは違います。厳選された独自の体験を得ることが彼らの日常スタイルなので、食事、旅行、買い物などあらゆる面でより高い期待を持っていることを考慮する必要があります。
総資産1億円以上のHNWIsを対象にしたAgility Research & Strategyの調査では、購買意欲を掻き立てられる商品の特徴として「Exclusivity(特別なもの・他に類のないもの)」が香港・中国・シンガポールの3国すべてで挙げられています。
特別な独自の体験や商品価値を提供することができるかどうか、戦略と合わせて事前に考えるべきです。
出典:Agility Research & Strategy – Engaging the Asian Millionaire Traveller(5th June 2017)
さいごに
シンガポールの富裕層について、いかがでしたでしょうか?
富裕層ビジネスを展開する際には、マーケティングの手法を考える前に、まずはターゲットとする富裕層コミュニティの実態を熟知する方法を考えるべきです。1にも2にもリサーチであり、コロナ禍において海外への現地視察ができない中、どこまでどうやってリサーチをするのかが重要です。
本記事でもお伝えしたように、富裕層のコミュニティといっても、所得の幅や消費力、国による特徴など非常に多様な状況があります。そのため、セグメントごとにニーズが大きく異なるばかりでなく、国ごとでも重きを置く価値観やニーズが異なります。
また、ターゲットのニーズや価値観は常に変化するため、マーケティング戦略も絶えず変化していく必要があります。
このような変化をいかに把握し、先を読み、対応できるかは、繰り返しになりますが現地の動向を熟知することは成功への第一歩と言えるほど重要です。
また、実際にビジネスを考えるには、扱う商材や商流などについてより具体的に検証・丁寧に実施する必要があります。
富裕層ビジネスに関してより具体的なご相談は個別にお受けしておりますので、ご検討中の方は是非お気軽にご相談ください。
本記事がご検討中の皆様にとって参考になれば幸いです。
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【インタビュイー:Michel Lu氏】









