伝統工芸品の海外進出にはビジネスマインドが必須|独占インタビュー

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本記事は、「日本の工芸品を海外展開させたい」という方に向けて、第一線でご活躍される「HULS GALLERY」の創業者:柴田裕介さんに独占インタビューをした記事の第2弾です。

「シンガポールでどのような方が日本の工芸品を購入しているのか?」「人気の商品は?」といったシンガポールの市場の動向は、こちらの記事で詳しくまとめているので、ぜひご覧ください。

▼海外の高級レストランで伝統工芸品の人気急増中|独占インタビュー

今回の記事では「海外展開をするにはなにをすればいいのか?」をより具体的にご紹介していきます。

ポイントは以下の3つです。

  1. 東京進出(国内市場)が不完全な場合はまずは国内
  2. 売り上げ目標を明確にする
  3. コミュニケーションの取りやすさが大切

柴田さんによると、伝統工芸品の海外市場進出には、まだまだ伸び代があるということ。

具体的になにをすべきか、ご興味がある方はぜひ参考にしてください。

■「海外 伝統工芸品」シリーズ

海外展開の前に、日本国内における販売戦略が明確になっているかが重要

海外展開したい方にはどんなアドバイスをしていますか?

 

 

日本でお土産として工芸品を買うのと、現地で生活の中で工芸品を買うのとではニーズが全く違うと思います。

海外進出したいと考える作り手さんには、まずは日本で販売する際に、海外の方に対してどんなアプローチができるかを整理してもらうことが第一歩だとお伝えしています。

かつ、日本国内における販売戦略を明確にし、ご自身の会社の特徴を理解したうえで海外展開を意識していただきたいとお伝えしています。

 

国内の戦略の可視化が必要という点、弊社がご支援する企業にも当てはまるのでとても共感します。

具体的にどのようにすれば可視化できるか、お伝えしていることはありますか?

 

「産地ならでは」「自分たち(職人・メーカー)ならでは」「自分たちの世代ならでは」のものづくりがどういったものか、ということを考えるアプローチがとても有効です。

「産地」「作り手(職人・メーカー)」「世代」の3つの点に着目して自分たちの強みを明確にすることで、自ずとオリジナリティが見えてくるからです。

自分たちのオリジナリティが明確になれば、我々のような海外市場にいるバイヤーなどとの商談の際に、自分たちの軸をしっかりと持って商談に臨めるようになります。

自分たちの軸がないまま商談会に臨んでしまうと、なんでも相手の要望に応えようとして安請け合いしてしまうこともあります。

海外市場に展開する前に、必ず時間をかけて取り組んでもらいたいですね。

海外バイヤーとの商談会の成約率は事前準備で決まる

弊社でも数々の商談会をご支援させていただく中で、自分の強みやアピールポイントを明確にして商談に臨んでいる日本企業は少ないと感じることがあります。

特に、海外市場向けの場合、実際には事前にものすごく準備した人が成果をあげているので、事前準備には時間とコストをかけた方が、結果につながる可能性が高いです。

以下の記事では、オンライン商談会に特化して、「オンライン商談会でやってはいけないこと」をまとめ、本当に成果を出すための準備の方法をお伝えしています。

工芸品を扱う海外バイヤーとの商談会にも応用できる点が多々あるので、是非参考にしてみてください。

▼オンライン商談会の落とし穴!なぜ多くの企業が成約につながらないのか

売り上げ目標の設定し、ビジネスとして戦略的に販売する意識を持つ

(海外展開に向けて、自分たちのオリジナリティを明確にできるようなほど)そこまで体制を整えることが難しい生産者は、国内で粛々とやり続けるしかないのでしょうか?

 

 

産業規模が縮小しつつあるので、たとえ国内であったとしても、業界全体として最低限の商売意識を高めていくことは必要だと思います。

例えば、これまで工芸品の業界では曖昧なままにされがちだった売上目標

これをきちんと明確にできれば、生産者が目指す規模がどれくらいなのか、私どものような現地のバイヤーが理解したうえでサポートできるようになります。

実際、売上目標をお聞きすることがあるのですが、具体的な数字が出てくる作家さんは多くありません。私どもの場合は、必ず生産者側の従業員数や生産体制をお聞きし、どれくらいの仕入数と売上があれば、彼らにとって良い結果となるのかを常にイメージしています。

たとえ細々とやっているという作家さんであったとしても、せめて「コアとなる商品は何なのか」「どんな戦略でやっていくのか」を明確にすることが、自分達が望む成果につながると思います。

工芸品の世界でも、ビジネスマインドを持って考えていく必要があるんですね。

 

 

伝統工芸の世界では、これまで国のバックアップがありすぎたがゆえに、ビジネスマインドに向き合う機会のないままここまで来てしまったという背景があります。

なので、新型コロナウイルスの蔓延が収束に向かっている今「HULS GALLERY」のように海外へ進出している我々と生産者とが、改めて一体となって展開していかないと、この先続けていくことは難しいでしょう。

工芸品とビジネスのバランスをうまく調節することが、私どもの役割だと思っています。

両者のバランスを考えることは、決して簡単なことではありませんが、だからこそ面白いですし、楽しみながらやっていきたいです。

HULS Gallery Singapore はプラナカン建築が立ち並ぶ一角にあり、現地と日本の伝統文化との架け橋として趣のある佇まいをしています。

土地に根付く風土が現れた作品を、職人と共に届けるチームとして動く

職人さんを含む生産者側とは、どのような関係性でお付き合いされているんですか?

 

 

通常のショップでは、購入先の情報を職人さんに伝えることはあまりないかと思いますが、私たちはお客様の購入後のフィードバックをできるだけ職人さんにも伝えるようにしています。

フィードバックを職人さんにも共有することで、喜ぶときは一緒になって喜び、クレームは一緒になって悩む、という関係ですね。

こういったことも、はじめはスタッフの理解を得ることができない時期もありましたが、ポリシーとして何度も繰り返し説明して、今では定着してきました。

 

作家さんを選ぶ際に、現地に行って情報収集をしてから仕入れていると聞きましたが、その理由は何ですか?

 

 

ものを扱う責任上、納得したものを仕入れたいという思いがあります。

特に、工芸品はお客様にストーリーを伝えないといけないので、どういう作家さんが、どんな思いで作品を作っているかを私たち自身が理解したうえで販売したいと思っています。

また、私たちは作品がどこで作られているかを重要視しています。

海を見ながら作られているものなのか、山の中で作られているものなのかによって必ずその世界観が違いますし、そうした土地の世界観が映し出されているのが工芸品だと考えているからです。「それを知らずに販売はできない」というポリシーを持っています。

作家さんもまた、工芸にこだわりがある方であればあるほど、土地に対するこだわりを持っていたり、アイデンティティを感じていることが多いです。

したがって私たちも、誰が作っているか以上に、どこで作っているかを理解することを大事にしています。

 

商品を仕入れる際に見極めていらっしゃるポイントなどはありますか?

 

 

先ほどの産地の話と重なりますが、私たちの仕入れの定義は、その土地でしか作れない工芸品しか扱わないようにしています。

例えば「〇〇焼き」と言いつつも、まったく違う産地で作られているようなケースも、実際にはあります。なので、作り手の思いと土地が、作品を通じて見えない場合は仕入れていません

 

そのようなポリシーはどのようにして学びましたか?

 

 

別事業を通して「Made in Japan」と言いつつも、違う国で作られている商品がある現状を目の当たりにしました。

この経験後、改めて実際に産地に赴く中で、その土地の素材を生かして作られた商品には、他人がコピーできないオリジナリティがあるということを学びました。

このポリシーに基づいて商品の仕入れ先を選定することによって、それぞれの土地の多様性を尊重することにも繋がるのではないかと考えています。

 

この感覚を理解するのは、日本人でも少しむずかしいんじゃないかとも感じるのですが、海外の方に伝えることは大切だとお考えなのですね。

 

 

必要なことだと思います。

伝統工芸品は「日本には様々な風土がある」という面白さを海外に伝える良い手段になりうると感じているので、良い武器になると思います。

海外進出時の課題となるのは、現地規制の把握と安全に輸送する仕組み

実際に日本から商品を輸入して販売する際に、課題になることはなんですか?

 

 

シンガポールへの輸入は知見があるのでそれほど困っていませんが、シンガポール以外の国に商品を出荷する際に、それぞれの国の輸入や関税に関する必要な書類や知識が、すぐに手に入らないことは課題のひとつだと感じてます。

特に、陶磁器や木工製品などは、輸入に規制がある国も多いため、しっかりと確認することが重要です。例えば、インドネシアでは受け手が輸入のライセンスを保持していないと、商品を届けることができません。

もうひとつの課題は、商品の梱包や割れてしまった際の補償ですね。私たちだけではなく業界全体で話し合い、改善していく必要があると感じています。

大切な商品を海外発送するときに気をつけるべきポイント

弊社でご支援させていただく中でも、商談会で利用したり、催事で販売する商品を輸送する際のトラブルが多々発生しています。

せっかくの商品をお金をかけて輸送して、販売できないなんて勿体無いですよね。

以下の記事では、海外発送で失敗しないコツを9つ具体的にご紹介しているので、ぜひ確認してみてください。

▼大事な商品を無事に届けよう!海外発送で失敗しないコツ9選

海外の顧客は品質に対して厳しいので、生産者側の意識が問われる

もうひとつ大切なポイントだと思うのは、作家さんを含む生産者側の意識です。

悲しいことに、生産者のなかには「工芸品だからこの程度のクオリティでいいや」と、品質面で精査が甘かったり、こだわりが弱かったりする方もいらっしゃいます。

ですが、海外では日本製品への期待値が高いため、品質に関して厳しいのが現状です。作り手がこだわって高品質なものを届けるという意識で、海外進出に取り組むことが必要不可欠です。

実際に私たちも生産者側とコミュニケーションをとり、しっかりと検品してもらえるように心がけていますが、自動車や電子部品産業など大量生産型ビジネスにおける品質管理方法を参考にするのも、ひとつの問題解決の糸口になるのではと感じています。

 

やはり、伝統工芸品を手がけていたら誰でも海外進出できる訳ではありませんね。

 

 

はい。良いものをただ仕入れるのではなく、不具合が生じたときにきちんとコミュニケーションを取れる作家さんであることが、私たちの取引における前提条件なので、作家さんとコミュニケーションが取りやすいかどうかは重要視しています。

 

 

HULS GALLERY」では、これからも取引する商品・作家さんは増やしていく予定ですか?

 

 

もちろん、お客様からのニーズに対応できるように、取り扱う商品・お取引させていただく作家さんは増やしていく予定です。

実は、定期的に新商品を出す工芸品の生産者は1割程度しかおらず、ほとんどの生産者はそれぞれのタイミングで新商品をリリースします。

なので、顧客のニーズに合う商品を常に探している状況なので、新しい作家さんとは常に出会う必要があります。

 

どのようにして新たな作家さんと出会うことが多いですか?

 

 

SNS、あるいは展示会で出会うことが多いです。

しかしながら、そもそも東京の厳しい市場で生き残らないことには海外展開も難しいため、どんなにSNS上で人気だとしても、まずは東京での取り扱いや販売経験があることを重視するようにしています。

さらには、パッケージや大量生産した際の品質保持などの課題が未解決のまま海外に進出しようとする作家さんもいるため、そういった場合はきちんと見極めるように心がけています。

シンガポールから全世界へ日本の工芸品の魅力を届けるために取り組むこと

今後の展望は何ですか?

 

 

香港でもオンラインショップを始めたので、日本とシンガポール以外での展開も充実させたいと考えています。

また、ファインダイニングでの需要はシンガポールだけでなく、他国にも可能性があると感じています。

実際にシンガポールでポップアップレストランを開催したことをきっかけに、フランスにあるワールドクラスの高級レストランにも商品を納品させていただきました。

他にもアメリカ、台湾、ベトナムにも市場を広げつつあります。都市の経済、ファインダイニング文化、日本食浸透度をもとにマーケットを分析しながら、進めて行くことになると思いますが、ある程度日本食が認知されている都市での展開に力を入れたいなと。

 

総じて、日本の伝統工芸品は、海外市場にチャンスがまだあると感じられていますか?

 

 

まだまだ可能性があると思います。伝統工芸品に限らず、日本文化自体が海外でユニークなものとして捉えられているのは間違いないですからね。

 

 

今後の目標は何ですか?

 

 

HULS GALLERY」のような日本の侘び寂びや不完全であることの美しさに触れることのできるギャラリーを、世界中の各都市に1か所だけでも作りたいです。

それによって、その都市の人々が日本に根付く様々な風土や文化に触れられる環境を提供し、工芸品の世界に貢献していけたらいいなと。

そのためには、生産面や品質の問題をひとつひとつ解決していかないといけないなと感じます。

 

今後の課題は何ですか?

 

 

SNSが発展し、作家さんと購入者が直接連絡を取りあえてしまう時代なので「HULS GALLERY」のようなギャラリーやショップの存在意義や価値が揺らいでいるという一面もあります。

だからこそ、自分たちのブランディングや発信を続けていくことが欠かせないので、情報発信は常に課題となります。

一方で、情報空間だけに囚われて、ギャラリーというリアルな空間をおろそかにしてしまったら、伝統工芸品の価値は失われていくと思います。

SNSだけでは体験できない、実際に見たり触れたりしながら日本の伝統工芸品を楽しんでもらうという機会を「HULS GALLERY」という空間で提供し、私たちならではの価値を提供し続けたいです。

さいごに(まとめ)

以上、シンガポールで日本の伝統工芸品の魅力を発信している「HULS GALLERYより、創業者の柴田裕介さんをお招きしたインタビューを、2つの記事に分けてお届けしました。

本記事の内容をまとめると、以下のようなポイントが伺えました。

  • まずは日本で販売する際に、海外の方に対してどんなアプローチができるかを整理する
  • 日本国内における販売戦略を明確にし、自分達の特徴を理解したうえで海外展開を考える
  • 「産地」「作り手(職人・メーカー)」「世代」の3つの点に着目して自分たちの強みを明確にする
  • 売上目標やコアとなる商品、販売戦略などの最低限の商売意識を持つ
  • その土地の素材を生かして作られた商品には、他人がコピーできないオリジナリティがあるので、どういう作家さんが、どんな思いで作品をつくり、それがどこで作られているかを重要視している
  • 伝統工芸品は「日本には様々な風土がある」という面白さを海外に伝える良い手段になりうる
  • それぞれの国の輸入や関税に関する必要な書類や知識が、すぐに手に入らないことは課題のひとつ
  • 陶磁器や木工製品などは、輸入に規制がある国も多いため、しっかりと確認する
  • 商品の梱包や割れてしまった際の補償を考えておく
  • 海外では日本製品への期待値が高いため、生産者側の意識が問われる
  • 不具合が生じたときにきちんとコミュニケーションを取れる作家さんであることが求められている

ぜひ参考にしていただき、今後の活動にお役立ていただけたら嬉しいです。

■「海外 伝統工芸品」シリーズ