海外の高級レストランで伝統工芸品の人気急増中|独占インタビュー
「日本の工芸品を海外展開させたい」というご相談をよく耳にしますが、何をどのように始めたら良いのかかわからない、という方も多いのではないでしょうか?
弊社では過去に数多くの伝統工芸品のシンガポール市場進出を支援してきましたが、なかでも、シンガポールで陶磁器や漆器、木工品など、日本各地に根ざした伝統工芸品の販売をする「HULS GALLERY」の取り組みには特筆すべきものがあります。
なぜなら、正直、彼ら以上にシンガポールで日本の伝統工芸品の販売や情報発信にコミットしている企業はないと感じるからです。
創業者の柴田裕介さんは、日本の伝統工芸品の海外進出に精通するプロフェッショナルです。
今回は第一線でご活躍される柴田さんに「日本の伝統工芸品の海外展開」の実情と可能性を独占インタビューし、2つの記事にまとめました。
ポイントはずばり、海外市場向けの伝統工芸品の販売には、まだまだ伸び代があるということ。
本記事では「シンガポールでどのような方が日本の伝統工芸品を購入しているのか?」「人気の商品は?」といったシンガポールの市場の動向をご紹介しています。
新型コロナウイルスによる変化などもお伺いしているので、ご興味がある方はぜひご覧ください。
■「海外 伝統工芸品」シリーズ
新型コロナウイルスの影響で「日本好きなローカル」の来店が9割に増加
「HULS GALLERY」にいらっしゃるお客様の客層は、どんな方々が多いですか?
パンデミック以前は旅行客が多かったのですが、パンデミック後はシンガポール国内でおしゃれなものを楽しみたいというローカルのお客様が増えました。
特に、シンガポール在住で、日本に行けない日本好きのお客様が多くいらしてださっていて、9割がローカルのお客様、1割が日本人のお客様といった感じです。
また年齢層は店舗によって大きく変わりますが、ダクストン店では40〜50代が多く、ミレニア店だと20代後半〜30代のお客様もいらっしゃいます。
幅広い層の方々に日本の伝統工芸品が求められているということですね。
店舗ごとに客層が違うということは、商品も変えているんですか?
来客層が異なるので取り揃える商品は、店舗によって変えるようにしており、特にシンガポールの高島屋では、高島屋のみでしか販売していない商品もあったりします。
男女差に大きな差はないですね。強いて言うとご夫婦で来店される方が多い印象です。
日本の伝統工芸品の魅力に直接触れられる「HULS GALLERY」
「HULS GALLERY」は2017年に1号店をオープンし、日本の工芸品の販売を専門とし、小売販売とともに、シンガポールの百貨店やファインダイニング向けの卸し販売などを展開しています。
2017年には、弊社と「シンガポールデザインウィーク」の公式パートナーイベント「Artisan – Beyond Craft」を共催させていただきました。
シンガポールデザインウィーク公式パートナーイベント「Artisan – Beyond Craft」をHULSと共催
2019年には東京赤坂に「HULS GALLERY TOKYO」をオープンし、東京とシンガポールを拠点に、日本の現代工芸品を国内外に幅広く紹介しています。
2022年には、シンガポールの高級商業施設「ミレニアウォーク」内に、シンガポールで2店舗目となる「HULS GALLERY Millenia Walk 店」をオープンしました。

日本の伝統工芸品は「相手が喜ぶギフト」として購入される傾向がある
シンガポールではどのような日本の伝統工芸品が、どのような用途で購入されることが多いですか?
ギャラリーを立ち上げた当初は、どういう商品がシンガポールの方に買っていただけるのかが分からなかったため、シンガポールのライフスタイルに合わせた商品をデザインしたり、サイズを変えたりなど試行錯誤していました。
しかしながら、意外にもそのままのほうが買っていただけるということがだんだんと分かってきました。
現在の売れ筋は、茶器と酒器で、特に日本酒の酒器はギフトとして買っていただく機会が多く、日本人でいうとワイングラスをプレゼントする感覚に近いようで、シンガポールの方々にとって「日本酒の酒器をプレゼントする」ということはおしゃれな行為のようです。
また、単品で売るよりもセットで売るほうが手に取って頂けることも分かってきました。
「セット売り」の方が人気なのはなぜだと思いますか?
ちょっとしたパーティーやゲストを呼んで食事をする際に日本酒を楽しむ、という文化がシンガポールにはあるからだと思います。
また面白いのは、シンガポールの方々はプレゼントするお相手の趣向を理解したうえでプレゼント選びをしているということです。
相手が日本酒が好きということを知らないと、なかなか酒器をプレゼントしようとはなりませんよね。
実際ほとんどのお客様が、プレゼントするお相手が日本酒が好きだからという理由でご購入されていきます。
このようにお客様がプレゼントするお相手の趣向を理解したうえで購入に来られるというのも、ここのお客様の特徴の一つです。
ギフト用の需要が多いとのことですが、自分用に購入されるお客様は少ないのですか?
厳密に言うと五分五分ですが、ギフトとしてもらったことをきっかけに「HULS GALLERY」のことを知り、リピーターとなるお客様もいらっしゃいます。
なので、購入後の商品を入れるショッパーをおしゃれにしたり、メッセージカードをいれるなどの工夫をし、ギフトとしてもらった後に当店を認知してもらえるようにこだわっています。
現地市場の文化にあう販売方法を検討しましょう
「セット売り」が好まれる傾向は、食品なども含めていえることで、なにも伝統工芸品だけではありません。
以下の記事では、主に食品に関して、海外展開するまえに検討しておくべきパッケージの対策についてまとめており、「セット売り」をはじめとする現地の文化に合う販売方法についてご紹介しています。
参考までに是非ご覧ください。
人気商品Top3は、酒器・コーヒーマグ・茶器
「HULS GALLERY」で人気の商品TOP3は何ですか?
1番人気なのはやはり酒器ですね。2番目に人気なのはコーヒーマグです。
日本人からするとマグはどこにでも手に入れられる商品なので、日本産のマグが売れるというのは意外かもしれませんが、シンガポールでは質感の良いマグを手に入れることは難しいため、特別なものとして人気を得ています。
3番目に人気な商品は茶器で、特に「宝瓶(ほうひん)」と呼ばれる玉露や上質なお煎茶を淹れるときに使う茶器は、酒器やマグと同じくシンガポールでは手に入れにくいので人気です。

逆に、人気がでなかった商品や、お客様から指摘されたりすることはありますか?
日本と海外のサイズ感の違いは、接客していて如実に問題として感じています。
日本人にとっては普通のサイズでも、海外の人からすると小さく感じることがよくあり、実際に店舗でこれまでにお客様から「サイズが小さい」と言われることが何度もありました。
なので、弊社ではできる限り大きなマグをおすすめするなどの工夫をしています。

コース料理のみを提供する「ファインダイニング」での需要が拡大している理由
レストラン向けの販売では、どんな商品が求められることが多いですか?
お客様のほとんどが「ファインダイニング」と呼ばれる、お任せコースのみを提供する高級レストランです。
そういったレストランでは、コース料理の世界観にあった食器が求められているため、日本らしい伝統工芸品だからという理由ではなく、単純に質の良さやものの美しさが理由で商品を買っていただくことが多いです。
私たちも実際にレストランに赴き、シェフの方の世界観を理解した上で、サンプルを仕入れています。
シェフの方から依頼をいただくケースが多いですか?
あるいは、柴田さんからご提案する方が多いですか?
以前はレストラン側からご依頼を受けることが多かったのですが、最近ではこれまでの経験をもとに、私どものほうからご提案させていただく機会も増えてきました。
他のレストランとの被りを避けるご提案や、陶磁器や漆器などの使い方に関するアドバイスをさせて頂いたりしています。
作家さんが直接シンガポールのレストランにアプローチして、ご提案するケースもあるのでしょうか?
最近ではSNSを通じて、レストランと作家さん側が直接つながりを持っていることもあります。
しかしながら納期に追われている忙しい作家さんや、物流のノウハウがない作家さんもいらっしゃるため、そういった場合に我々が間に入ってサポートさせていただいています。
工芸品の器を使っているファインダイニングは、予算に余裕があるところなのでしょうか?

たしかに高額なものが多いので、昔は「割れてしまうリスクを考えると手が出ない」というレストランがほとんどでした。
ですが、「割れるリスクを負ってでも、良い器を使ってみたい」と言ってくださったレストランと共に、先駆者としてファインダイニングにおける器のクオリティを引き上げようと取り組んできたこともあり、おかげで最近では多くのレストランが追従するようになりました。
さらに、最近では食事の写真を撮ってSNSに投稿するお客様が増えて、「器」がPRの一部を担うようになったことから、マーケティングの一環として「質の良い器」を使うレストランが増えてきたのも追い風になっています。
一度良い器を使うと繰り返し使っていただくことが多いですね。
お客様の目も肥えてきたため、シンガポールのファインダイニングにおける器のレベルは年々上がってきていると感じています。
ファインダイニングとは、どのような関係性で取引されていますか?
ただのサプライヤーではなく「より良いレストランを一緒になって作り上げるパートナー」としての意識を強く持っています。
レストラン側も、ただ器を買いに来るのではなく、私やスタッフとのコミュニケーションを通して、一緒になってアイデアを考えるという関係性を築いています。
現地のプレイヤーのニーズを把握しよう
器や調理器具などの日本食と相性がいい伝統工芸品の海外進出をご検討されている場合は、現地の日本食関連のプレイヤーのニーズを把握しましょう。
なぜなら、現地のレストランにいるシェフやスタッフは、生活者に直接魅力を伝えることができる最強のパートナーとなるからです。
彼らの様々なニーズに、販売を検討している日本の伝統工芸品が答えられるのであれば、必ずそこには海外市場展開のカギがあると考えられます。
以下の記事では、日本食関連について【対レストラン】【対業界関係者】【対メディア】【対コミュニティ】別に、具体的にどのような働きかけができるかをまとめています。
気になる方は是非ご覧ください。
▼日本食の海外進出を狙うなら「現地とのコラボ」は絶対におさえよう
工芸品の魅力を現地生活者に理解してもらうための接客と情報発信を意識
シンガポールでは日本の伝統工芸品は「アート」として捉えられていますか?
あるいは「生活雑貨」として捉えられていますか?
「工芸品はディスプレイするもの」という認識のお客様もいらっしゃる一方で、使っていく中で工芸品を育てることや、侘び寂びに興味・関心があるお客様も多いです。
「HULS GALLEY」では、工芸品はアートとは違って、使ってもらうことが一番の目的でつくられている、ということを必ずお客様に伝えています。
実際に当店では、すべての商品にガラスケースを設けず、お客様が商品に手で触れられるようにディスプレイし、日常で使っているシーンをイメージしていただけるようにしています。
正直、はじめは「不揃いであること」が工芸品の魅力の一つであるということをお客様に伝えるのに時間がかかりました。「形がそろっていない」とクレームがあったほどです。
ですが、店舗で対面した接客の場で、何度も繰り返し説明を行うことで、少しずつ「不揃いであるからこそ美しい」と感じてくださるお客様が増えてきたと思います。
お客様の価値観を変え、そのことによってその方がより豊かになるなんて、素敵なお仕事ですね。
ありがたいことですね。
(運営しているオンラインメディア)「KOGEI STANDARD 」では、店舗での接客だけでは伝わりきらない、繊細な感覚を言葉で発信することで、より多くの人に日本の伝統工芸品の良さを伝えています。
また、(シンガポールで最も使用されるチャットアプリ)Whatsappを使い、作家さんの情報を配信したり、アフターケアに対応したりと、購入後もお客様ひとり一人と連絡を取り続けることのできる体制を整えています。
「また『HULS GALLEY』で買いたい」と思ってくださるお客様が増えたらいいな、という思いで取り組んでいます。
海外アーティスト向けから現地の一般生活者へ、デジタル上での情報発信を強化
「KOGEI STANDARD」を運営するうえで心がけていることはありますか?
当初「KOGEI STANDARD」は、工芸メーカーさんと海外のデザイナーさんをつなげるプラットフォームとして立ち上げましたが、最近では一般の方からのニーズも増えてきたため、一般向けにも情報を発信しています。
例えば、工芸の展示会に関する情報など、日本のことが好きな海外の方が面白いと思うような記事を掲載することを意識しています。
さらに、店頭に来てくださるお客様が購入前後にどんな情報を求めているかを想像しながら、コンテンツを考えています。

さいごに(HULSが仕入れる伝統工芸品とは?)
以上、シンガポールで日本の伝統工芸品の魅力を発信している「HULS GALLEY」より、創業者の柴田裕介さんをお招きしたインタビューをお届けしました。
本記事の内容をまとめると、以下のようなポイントが伺えました。
- パンデミック後はシンガポール国内でおしゃれなものを楽しみたいというローカルのお客様が増えた
- 9割がローカルのお客様、1割が日本人のお客様で、20〜50代まで幅広い方に購入いただいている
- ギフトとして購入されることが多く、セット売りで売るほうが手に取っていただける
- シンガポールで人気なのは「酒器」「コーヒーマグ」「茶器(特に宝瓶)」
- お客様から「サイズが小さい」と言われることがあるので、大きめのものをおすすめしている
- お任せコースのみを提供する高級レストラン(ファインダイニング)は、質の良さやものの美しさが理由で購入いただくことが多い
- 食事の写真を撮ってSNSに投稿するお客様が増え、「器」がPRの一部を担うようになったことから、マーケティングの一環として「質の良い器」を使うレストランが増えてきた
- 伝統工芸品をアートとしてではなく、使っていく中で作品を育てることや、侘び寂びに興味・関心があるお客様も多い
- 「不揃いであるからこそ美しい」ということが少しずつ理解されてきた
- 「KOGEI STANDARD 」を通じて、店舗での接客だけでは伝わりきらない、繊細な感覚を言葉で発信することを強化している
第2弾では、より具体的に「海外進出するために必要なこと」をご紹介していきます!
ぜひ参考にしていただき、今後の活動にお役立ていただけたら嬉しいです。
■「海外 伝統工芸品」シリーズ


